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番外編⑥:改心した女の、その後
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その女性が、再び神社を訪れたのは、
呪いを思いとどまってから、
半年ほど経った頃だった。
空は高く、
境内には、
秋の匂いが漂っている。
五寸釘零子は、
拝殿の前を掃きながら、
その足音に気づいた。
(……あ)
(この人は、
来ると思ってましたぁ)
◆
女性は、
以前よりも、
少しだけ痩せていた。
だが、
背筋は伸び、
足取りは迷っていない。
零子が顔を上げると、
女性は、
深く頭を下げた。
「……こんにちは」
「はいぃ」
零子は、
いつも通りの声で返す。
「今日は…」
女性は、
少しだけ言葉を探した。
「……お願いじゃ、
ありません」
(……ええ)
(そうでしょうねぇ)
女性は、
賽銭箱に小銭を入れ、
手を合わせた。
願い事を、
しているようには見えない。
◆
参拝を終えたあと、
女性は、
社務所の前で立ち止まった。
「……少し、
お話、
いいですか」
「どうぞぉ」
二人は、
縁側に腰を下ろした。
「……あのとき」
女性は、
ぽつりと話し始めた。
「ここで、
止めてもらって……」
「正直、
腹が立ちました」
零子は、
否定しない。
「……何で、
止めるんだって」
「ここまで来たのに、
って」
女性は、
苦笑した。
「……でも」
「帰り道で、
気づいたんです」
「私……」
「呪いを、
したかったんじゃない」
零子は、
静かに頷いた。
「……逃げたかったんです」
「どうしていいか、
分からない場所から」
女性は、
空を見上げた。
「……結局」
「何も、
すぐには変わりませんでした」
「はいぃ」
零子は、
即答する。
「……仕事も、
辞めてないです」
「相手も、
謝ってくれたわけじゃない」
「……それでも」
女性は、
零子を見た。
「……あの日、
ここで、
何もしなかったこと」
「それだけは、
よかったって、
思ってます」
零子は、
目を伏せた。
(……よかった)
(ちゃんと、
生きてますねぇ)
「……今日は」
女性は、
少し照れたように言った。
「その……
お礼、
というか」
紙袋を差し出す。
中身は、
素朴な焼き菓子。
「……呪い、
しなかった人が」
「また、
来ても……」
言葉が、
そこで途切れる。
「はいぃ」
零子は、
笑った。
「大歓迎です」
女性の目が、
少し潤んだ。
「……私」
「強くなった、
わけじゃありません」
「はいぃ」
「でも……」
「前より、
弱いまま、
立ててます」
零子は、
その言葉を、
とても大切なものとして、
胸にしまった。
「……それで、
十分ですぅ」
◆
しばらく、
二人は、
何も話さなかった。
風が、
境内を抜ける。
やがて、
女性は立ち上がった。
「……また、
来てもいいですか」
「はいぃ」
「でも……」
一拍。
「呪いは、
受け付けません」
女性は、
笑った。
「……分かってます」
鳥居をくぐる背中は、
以前よりも、
ずっと軽かった。
◆
夕方。
零子は、
藁人形の森の前に立った。
新しい藁人形は、
増えていない。
(……今日も、
打たずに、
済みましたぁ)
それは、
仕事をしなかった、
ということではない。
むしろ。
一番、
うまくいった日だった。
五寸釘零子は、
静かに、
森に背を向けた。
呪いを思いとどまってから、
半年ほど経った頃だった。
空は高く、
境内には、
秋の匂いが漂っている。
五寸釘零子は、
拝殿の前を掃きながら、
その足音に気づいた。
(……あ)
(この人は、
来ると思ってましたぁ)
◆
女性は、
以前よりも、
少しだけ痩せていた。
だが、
背筋は伸び、
足取りは迷っていない。
零子が顔を上げると、
女性は、
深く頭を下げた。
「……こんにちは」
「はいぃ」
零子は、
いつも通りの声で返す。
「今日は…」
女性は、
少しだけ言葉を探した。
「……お願いじゃ、
ありません」
(……ええ)
(そうでしょうねぇ)
女性は、
賽銭箱に小銭を入れ、
手を合わせた。
願い事を、
しているようには見えない。
◆
参拝を終えたあと、
女性は、
社務所の前で立ち止まった。
「……少し、
お話、
いいですか」
「どうぞぉ」
二人は、
縁側に腰を下ろした。
「……あのとき」
女性は、
ぽつりと話し始めた。
「ここで、
止めてもらって……」
「正直、
腹が立ちました」
零子は、
否定しない。
「……何で、
止めるんだって」
「ここまで来たのに、
って」
女性は、
苦笑した。
「……でも」
「帰り道で、
気づいたんです」
「私……」
「呪いを、
したかったんじゃない」
零子は、
静かに頷いた。
「……逃げたかったんです」
「どうしていいか、
分からない場所から」
女性は、
空を見上げた。
「……結局」
「何も、
すぐには変わりませんでした」
「はいぃ」
零子は、
即答する。
「……仕事も、
辞めてないです」
「相手も、
謝ってくれたわけじゃない」
「……それでも」
女性は、
零子を見た。
「……あの日、
ここで、
何もしなかったこと」
「それだけは、
よかったって、
思ってます」
零子は、
目を伏せた。
(……よかった)
(ちゃんと、
生きてますねぇ)
「……今日は」
女性は、
少し照れたように言った。
「その……
お礼、
というか」
紙袋を差し出す。
中身は、
素朴な焼き菓子。
「……呪い、
しなかった人が」
「また、
来ても……」
言葉が、
そこで途切れる。
「はいぃ」
零子は、
笑った。
「大歓迎です」
女性の目が、
少し潤んだ。
「……私」
「強くなった、
わけじゃありません」
「はいぃ」
「でも……」
「前より、
弱いまま、
立ててます」
零子は、
その言葉を、
とても大切なものとして、
胸にしまった。
「……それで、
十分ですぅ」
◆
しばらく、
二人は、
何も話さなかった。
風が、
境内を抜ける。
やがて、
女性は立ち上がった。
「……また、
来てもいいですか」
「はいぃ」
「でも……」
一拍。
「呪いは、
受け付けません」
女性は、
笑った。
「……分かってます」
鳥居をくぐる背中は、
以前よりも、
ずっと軽かった。
◆
夕方。
零子は、
藁人形の森の前に立った。
新しい藁人形は、
増えていない。
(……今日も、
打たずに、
済みましたぁ)
それは、
仕事をしなかった、
ということではない。
むしろ。
一番、
うまくいった日だった。
五寸釘零子は、
静かに、
森に背を向けた。
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