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本編

契約魔法

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「そもそも! この周辺の村を襲った魔獣だかドラゴンだかが、なんで1人を生贄にしただけで納得すると思うんだよ!」
「そういう契約魔法があるんだよ!」
「いーや! 絶対おかしい! 潰された村から人だけでなくモノまで消えてんのはもっとおかしい!」
「火で焼き払われてんだぞ!? 魔獣やドラゴンの種類によっては、火を吹いて全部消すのは簡単なことだ! 下手したら森ごと消える!」
「森ごと消せるなら森ごと消すだろ! 村だけ綺麗に消すかよ!」
「2人とも、落ち着きなさい」

 耳がキンキンするほど怒鳴り合う俺たちの袖を、村長が緩く引っ張った。
 俺たちは、肩で息をしながら揃って村長の方を向く。

 声の出し過ぎで喉が痛い。
 クラスメイトと馬鹿笑いしてむせた時より、喉がガラガラする。

 クロは興奮で顔を真っ赤にしていた。
 俺も顔が熱いから、同じような顔をしているんだろう。

 村長は穏やかな表情で俺を見上げ、握りしめた俺の手をシワシワの両手で握ってきた。

「君はアユムくん、と言ったね?」
「はい」
「私たちとしても、生け贄を出すのは本意ではない。だがあまりにも被害が甚大でなぁ......生け贄の契約魔法に頼るしかもう道は無いんじゃ」

 元々下がっている村長の眉毛が、悲しそうに更に下がった。
 どうしようもなくなって最後の手段なんだって、その表情が物語っている。

 生け贄って聞いた時、俺は迷信だって決めつけてたけど。
 さっきからクロや村長が言っている言葉が気になった。

「……生け贄の契約魔法って、何」
「ぎゃーぎゃー言ってるくせに知らねぇのかよ」

  溜息をついてくるクロに、俺はすねたように唇を尖らせた。

「だから聞いてるんだろ?」
「簡単に言うと、『この体を食べる代わりにもう悪さしない』って魔法を生け贄に掛けるんだよ。そうしたら、ドラゴンも魔獣も大人しくなるっつーわけだ」
「うーん」

 俺は、なんだかんだできちんと説明してくれるクロの話を聞いて、唸るしかなかった。
 腕を組んで目を閉じる。

 想像してたより、効果がありそうな生け贄だ。
 命を対価にして発動する魔法ってすごく効きそう。

 でも、だからって納得できるわけじゃない。
 こういうのって、他に方法があるはずだ。
 そもそも、村を襲っているのが本当にドラゴンや魔獣なのかが怪しい。
 そこをちゃんと調べないと、クロの命が無駄になってしまう。

 俺は村長の手を、逆に両手で握り返した。

「じゃあ俺が代わるよ」
「ええ!?」

 クロと村長の声が重なる。
 2人とも、目がまん丸になった。
 グッと唾を飲み込んで、俺は2人の顔を交互に見る。

「俺がクロの代わりに生け贄の契約魔法を受けてやる」
「ふざけんなよテメェ!」

 村長よりも先に我に返ったクロが、乱暴に肩を掴んできた。

「その代わり!」

体が傾きそうになるのを堪えて、俺は言葉を続ける。

「ちょっとお願いがあるんだけど!」

 必死な俺の声に顔を見合わせたクロと村長。

 耳を傾けてくれそうになった二人を、俺はどう説得しようかと頭を巡らせた。
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