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本編

守ってもらってた

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 確かに、生け贄と言えば若くてきれいな女の人ってイメージがあるかも。

 獣人は16歳が成人で、この村の若い女の人たちはみんな結婚している。
 村の子どもの中では13歳のハンナが一番年上だっていってたから、生け贄の条件にピッタリ当てはまるんだ。
 フィーバの言葉に、ハンナは目を潤ませた。
 
「でも、クロドゥルフが『魔法式の効果があるなら誰でも一緒だ』って……」

 俺は、そう言って生け贄を買って出るクロを想像した。
 きっと、何でもないことのようにサラっとかっこつけたんだろう。
 見てもないのに鮮明に頭に浮かんだ。

「そうやっていつも1人でなんとかしようとするの……っ、私もみんなも、止めきれなくて」

 話を続けたハンナは、唇も声も震えている。
 大きな黒い目からポロリと涙が零れ落ちた。
 辛かったに違いない。

 俺は最初は「生け贄の儀式をするなんて、なんてひどい人たちなんだ」って思った。
 でもこうして村にいさせてもらって、皆がすごく親切で良い人たちだって伝わってくる。

 だからこそクロは、命を捨てても守りたいって思ったんだ。

 なんて声を掛けるべきか迷いつつ、ハンナに笑顔を向ける。

「もしハンナが生け贄の祭壇に行っても、クロは無理矢理ついてきたと思うし……うまく言えないけど、あんまり自分を責めないで」

 クロは一度言い出したら聞かないと思う。
 俺と同じタイプだ。

「何はともあれ助かったんだから、ひたすら喜べば良いと思う!」

 なんとか気持ちを軽くして欲しくて、とにかく明るい声を出す。
 噛み締められていたハンナの口元が、ふわっと緩んだ。

「2人とも、ありがとう」
「いや、俺は何もしてないどころかクロに守ってもらってたけど」

 情けないと思いつつ訂正する。
 そこでハッとした。

(もしかして、それで帰れないのかな?)

 勇者に使命があるとしたら、俺の使命は「クロを守ること」だろう。
 クロの命は助かったけど、勇者としてのミッションを果たせてないのかも。
 でもそんなこと言われたら帰るタイミングがなさそうだ。

 内心で打ちひしがれていると、ハンナが首を振った。
 涙がまだ残る目が、じっと俺を見つめる。

「初めて会うクロドゥルフのために命を掛けてくれたわ」
「う、うんまぁ……」

 絶対、魔獣なんて来ないと確信してたなんて言えない。

 歯切れの悪い返事になっても、ハンナは嬉しそうに言葉を続けてくれる。

「それにクロドゥルフ、アユムが来てからなんだかずっと楽しそうだもの」
「そう、かな?」

 意外な言葉だった。
 だってクロは俺といるときは、いつも呆れてるか怒ってる。

「僕もすごく仲良しだって感じてたよ。もっと小さい時から一緒に居ると思ったくらいだ」

 命を助けてくれたフィーバがいうと、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。

(クロが、楽しそうなのか)

 もしそうなら、嬉しいな。
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