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クロドゥルフ目線のお話

王都の図書館

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『俺が、絶対にアユを元の世界に返してやる』
 
 そう言い切った言葉に嘘はなかったけど。
 オレは今、正直言って頭を抱えている。

「そりゃ、な」

 壁一面の本。
 あっちにも本。
 こっちにも本。
 まるで本の森だった。
 
 分かっていたつもりだったが、目の当たりにすると挫けそうだ。
 尻尾と耳が情けなく垂れているのをどうすることも出来なかった。
 
 ここは王都の図書館。
 国中の様々な書物が集まって来る場所だ。

 木でできた濃い茶色の本棚は床から天井までの高さがある。
 いくつかの本棚は宙にふわふわと魔法で浮いていた。
 
 オレは勇者として召喚したアユが、元の世界に帰る方法を探しにやってきた。

 まさか本当に召喚できてしまうなんて。
 そして帰る方法が村長にも分からないなんて。
 あのじいさんならなんでも知っていると勝手に思ってたオレは絶望した。

 底抜けにお人好しのアユは、

「クロのせいじゃない」

 と言い切っていたが、どう考えてもオレのせいだ。
 でもどう言ってもあいつはオレのせいだと言わないし、本当に思ってもないんだろう。
 逆にどんな神経してんだよ。
 
 どこへ行けばいいのか分からずウロウロしていたオレは、図書館の案内図を見つけて足を止めた。
 古びた紙にインクで描かれた案内図をじっと見つめる。
 どの本棚の島にどの分野の本があるかってのがすぐに分かるようになっていた。

 紙に指をつけて「勇者」と書く動作をすると、さまざまなところに赤い点が浮かび上がる。
 そこに、「勇者」に関係する本がある。

「……とりあえず、歴史の分野から調べるか……」

 あまりにも色んな分野の島に赤い点があって心が折れそうになった。
 
(アユにも来てもらえたらな……って、甘えんな!)
 
 オレは胸に沸いた気持ちを、首を振って取っ払う。
 きっと1人よりも2人の方が、効率よく探せる。

 しかもアユなら、とにかく色んなものに目を輝かせて楽しむだろうな。
 例えばさっきの案内図にしたって、

「すっげぇ! これも魔法道具か!? 便利だなー!」

 なんて大喜びしたに違いない。
 想像したら笑いそうになって唇を噛み締めた。
 
 だが、村からここまでは少し遠い。
 別の世界から来たけど基本的に普通の人間のアユの足に合わせていたら、どうしても時間がかかる。
 ここで調べる時間はほとんど無くなっちまう。

 本人はすごくついてきたがったけど、こればっかり
はどうしようもねぇ。

「まずはここでの生活に慣れろ」

 と伝えたけど、

「調べるのをクロにばっかり押し付けたくない」

 と反論された。
 その時の不貞腐れた顔を思い出しながら、オレは歴史の本の中からそれっぽい題名のものを持てるだけ引っ張り出していく。
 
 図書館の中にいくつも置いてある長机は、ほぼ満員状態だった。
 なんとか空いているところを見つけてドスンッと本を置いた時。

「君、勇者に興味があるのかい?」

 と、隣の席に座っていたヤツから声を掛けられた。
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