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魔人衝突編
1824②
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レドは廊下の曲がり角を曲がり、人気のない行き止まりの方を目指して歩いていた。
「……!」
「…!」
誰かが会話をするのが聴こえる。どうやら男女のようだ。電子音らしき音が辺りに響いている。レドは声のする方へと向かう。
「…何をしてるんですか?」
そこで繰り広げられていたのは、紛れもなくテレビゲームだった。電子音の正体はこれか。
「あ!やばいバレた!煙玉ぁ!」
「まて!煙玉はもう切らした!」
「こうなったら自爆しか…あれ?君は…」
そこにいたのは、紛れもなくヴェルサスとクレアだった。
「まあ…座りなよ。」
クレアは銃を片手に笑顔で手招きする。
「消すつもりですよね?」
「いやいやそんなわけ無いよ!」
「じゃあ銃を下ろしてください。」
「私の国では銃を下ろすのが文化でねえ。」
「おかしーなーあなたはこの国生まれなのになー。少なくとも他人に銃を向ける文化とか聞いた事ないのになー…」
「え?!知らないの?!1000年続く文化だよ?!」
「魔装銃が初めて作られたのは1300年頃です。」
「…くそ…自爆しか…」
「すぐ自爆したがるのなんなんですか?ばくだんいわかなんかですか?」
「いやー…何て言うか…やっぱり息抜きってしたくなるじゃ無い?…まあ全然楽しくないけど。」
「…なんですかこれ。」
「ホラ…T.Tって映画のゲーム。だいぶ前に出たゲームなんだけどねー…まあ結構なクソゲーなの!砂漠にゲームが埋めたれられまくったとかなんだとか。」
「配管工のアクションゲームやってれば良いじゃ無いですか。」
「それだとダメなんだ!普通のものじゃ物足りない!って言うかここのクレアは小根ひん曲がってるからクリア直前でテレビビンタしてデータリセットさせてくるんだ。」
「あっ…」
「ガチの軽蔑の目やめてくれない?」
「……まあ別に誰にも言いませんよ。」
「よっしゃあ神!神すぎる!」
「…ところで、なんで分かったんだい?」
「メモ帳をヴェルサスさんが切った時、切り方が不自然だったんですよ。普通切り離してから折るじゃないですか。なのに折ってから切り離してた。…まあ後者のような行動をする人も少なくは無いのでそれだけじゃ根拠にならないですが、明らかにメモ帳の向きが地面に対して垂直すぎる。これは周りに部下が居たからメモの内容を知られたくなかったが故の行動なんじゃ無いかと思いまして。……ところで貴方の『本体』は?」
「…俺の魔能力見破ったのか?」
「総括とあらうお方がこの状況で息抜きなど出来ないでしょうに。」
「……………。やってみるかい?」
「いや良いですって…ホントに…」
「やってみた前よ…虚無すぎて泣くぞ?」
「…やっぱりやらない方が良い気がしてきた。」
魔能力の参考になるかもしれない、とレドはテレビの前に座り込んだ。
「あー…成程。大体わかりました。」
レドは熟練者宛らの操作でステージを進んでいく。
「あれ…?僕ここ結構迷ったのに…」
「まあ作業は得意なので。」
「作業って言っちゃったよ!ゲームを作業って言っちゃったよこの人!」
「……何をしてるんだろう…僕は…」
レドは自身の取った行動が無意味に等しいことに気がつき、目を細めてそう呟いた。
「しっかしこの敵全然当たらないねえ…こう一気に吹き飛ばせるのとかないのかな…」
吹き飛ばすの…。ヴェルサスの言葉を聞き、突如レドは操作を止め、脳を巡らせる。
ーーーーー
本部の屋上、ジークとケインは互いに煙草を咥えながら会話をしていた。
「…んで、あれからどうよ?」
「どうよって…まあ金は無いっすけどぼちぼち…」
「あー…いやそうじゃない。お前自身についてだよ。」
「………上手くはいかないですけど…前よりは幾分かマシになった気が…しないでも無いです。」
「そうかい…新入りが入ったんだってな?それも久々に期待できそうなのが。」
「ああ…レドっすね。まああいつには色々助けられてますよ…。ホントにね。」
「ははっ!お前ちょっと明るくなったよ!そいつが男だったからか?女ばっかに囲まれて窮屈だったろうからな!……それとも別か?」
「まあ多少……俺と重ねてるとこもあるんでしょうよ。……本質はいつも通りでしょうけど。」
「はあ…相変わらず無気力だなあテメエは。所長以上に虚無ってやがる。」
「そうっすかね…。なるべくそんな感じ見せない様にしてるんですけど…。」
「バレバレだっつーの。まあもうちょい頑張れよ。……訓練場で暇でも潰すけどよ、一緒に行くか?」
「まあ俺も暇ですし。」
ケインは自身の過去を頭に掠めながら歩いた。
『お母さん…なんで…なんで帰って来ないの…?』
アパートの汚れた部屋の中、蝿が当たりを飛び回り、辺りに立ち込める腐乱臭に何も感じない。感じているのは孤独だけ。それでも母は帰ってこない。父親の顔は思い出せない。置いて行かれたと気づいたのは、家の食料が尽きて一週間後のことだった。母への愛情が憎しみへと変わるのは、最早時間の問題だったのだろう。年齢としては大体7、8歳だった。…ああ、やめようこんな事を考えるのは。虫唾が走るだけだ。ケインは思考を停止しようと目を瞑る。
ーーー
「…おいケイン。ボーッとしてんぞ。」
「あ、ああすいません。」
俺は1人じゃ無いんだ。そう何度も思おうとした。だけどそんな事は幻想に過ぎなかったんだ。ケインはまるで自分でも責め立てるかのように、心の中で言葉を綴った。
「おい…訓練場にいるあの女…お前んとこの…」
「へ?」
ケインが訓練場の観戦席から見た姿は、相手を竹刀で殴り倒していく花織の姿だった。
「何やってんだあいつは…」
「なあそこの人…状況は?」
ジークは観戦席に座る隊員に恐る恐る話しかけた。
「え?なんか誰でも良いから試合しようとか言い出して…『女1人束になっても勝てぬウジだらけかー』みたいな挑発して…それでこうなった。」
金髪の隊員は楽観的な口調で返した。妙に落ち着いたその
「おいおいおいおい…もう終わりじゃあ無いだろうな?!仮にも貴様らは政府の犬だろうに!血統書付きの犬が補償を証明できずして何になる!…待てよ?私は国公に数ヶ月間在籍したが…強者らしい血気盛んさが無かったな。……なるほど平和ボケか。無知性魔族で満足しているか、或いはそもそも戦った経験もなくシュミレーションで生きがっている駄犬だらけと言うわけ…」
「はーい…聞こえるー?」
スピーカー越しに女性の声が響く。スピーカーに声を当てていたのは、先程話を聞いた隊員だった。
「えっと…知性魔族と戦っててシュミレーションで満足してなきゃ良いんでしょ?じゃあアタシが入るよ!」
友人と会話でもしているような明るい口調で隊員はそう言った。
「…サリサ.メルゼビスタ…!魔族白兵部隊第二部隊の隊長か!敵にとって不足なしとはこの事ぉ!」
彼女の名を聞いた周囲のざわめきが一気に加速する。
「さっき犬って言ったけどさあ…アタシが勝ったらそれ取り消してよ。」
「いいだろう。…ああ、私からの要求は無しだ。さっさと戦ろう!やってしまおう!」
花織は腰の真剣を構え、瞬時に、ステージに降りたサリサの首元に迫る。しかし、その頭身は空を切っていた。
「うわっ…!危ないなあもう…。早い早いって聞いてたけどほんとに早いんだねーそれ!」
花織は咄嗟に後ろに下がり、間合いを取った。
「貴方の魔能力って…うーん…ワープって訳でも無いよねえ…感知してる分だと魔力の痕跡が散乱し過ぎてるし…でも高速移動ってわけでもないし…」
「流石の余裕というものだ…。ああ…思わず斬っても文句は言うまい!」
「斬れるものなら…とでも返せば良い?」
花織が繰り出した居合を、サリサは背中をひねってかわし、彼女の伸びた腕に両手を伸ばして絡みつき、腕を覆うと膝を彼女の腕と垂直に向ける。
花織はサリさの背中を掴んで投げ飛ばし、それを回避した。
「おおー…すっごいねーホントに!」
「なんなんだ…全く見えない…」
周囲からはそんな声が聞こえる。
「…ギリギリ目で追えるレベルだなこれ。」
「俺なんか数発交わすのがやっとなのに…かわすどころか反撃までしてる…」
ケインは観戦しながら、愚痴をこぼすように言った。
「お前戦った事あんのか?」
「…しょっちゅうありますよ。」
「おー…随分やり合ってんなあ…どうでも良いけど。…浴衣の奴は随分な美人だなあ…どうでも良いけど。」
隣の席に座っていた、髪の乱れた男がそう呟く。
「……」
ケインは目を細める。
「おい何だその目は。」
「『あっ…この人そう言う病気の…』って思って思春期思い出して心がキュってなって…」
「まるで俺が大人になれなかったでっかい子供みてえに言うな!」
「じゃあ幾つなんです?」
「22。」
「…そっちの歳は?」
「俺は23です!」
「…年上?……」
「年下にしかイキれない…あっ…」
「ヤメロー!ヤメテクレー!」
「なんつーか…誰もが一度は通る中.高二病ルートを延々と辿ってる感じだな…」
ジークの言葉がトドメを刺したようで、男はついに動かなくなった。
「班長!大丈夫っすかー!班長ー!」
「また変なのが来た…」
200cmはあるであろう長身の男が、フロア中に響き渡るであろう声量で、コップを両手に持ちながら駆け寄ってきた。
「えっと…この人の部下ですか?」
「はい!自分はアズラ.エルニカ2等兵であります!年齢は19歳、今期に支援部隊第二部隊に入隊し…」
「うるせーなーてめえはよお…。」
「はい!隊長!申し訳ございません!」
「ああああ腹たつ!」
男は床に顔を擦り付けながら叫んだ。
「隊長?」
「はい!此方は支援部隊第一部隊第一班班長、セシル.ドルフネーゼ軍曹です!」
「……よろしく。」
「あ、露骨にちょっとドヤ顔になった。」
「うるせえ!」
セシルは猫が威嚇をするが如く、ケインを強く睨んだ。
すると、突如辺りがざわつき始める。
「ん?なんだ?」
「マジかよ…『紫電』に傷が…」
魔道士達のそんな会話をケインは聞き取る。
「あのサリサって人はそんなに強いのか?」
「あー…あいつな。あいつはつえーぞ。何せ知性魔族狩りとさえ呼ばれてる白兵部隊でも実力は3本の指だからなあ…。知性魔族と直接戦える頻度が一番多いのは必然的にあの部隊だから…それだけに上げてる戦果はでけえ。実際去年の討伐数は一位だぜ。…確か18とか。」
「18?…知性魔族って年に数回なんじゃ…」
「ああ…あれは第一危険区域に侵入した場合をカウントしてるだけで、戦ってる数はもっといるぜ。無知性魔族に関しちゃ人間領域内にも沸くからそれ含めると100以上は行くだろうな。……ってかお前習ったろ。まさか無免許か?」
「ありますよ!……まあそこんとこ忘れてるのは…申し訳ないというか。」
ケインは免許を取り出してセシルに見せると、拗ねたような表情で彼から目線を逸らした。
サリサの打撃を左腕で受け止めると、空中から着地するより先に、花織は刀を振り上げる。サリサは横にかわし、再び距離を取る。
「ははははは!強いなあ!強いなあ貴様は!…まあ反撃が思いのほかこないのは少々不服だが。」
「へー…じゃああったまってきたしそろそろ魔能力使って良いかな?」
「……しかし念のため聞いておくが…貴様男だろう?」
花織の投げかけた質問に、サリサは一瞬固まる。
「あー…まあ…うん。」
「…うむ。モヤモヤが解けた。先程の違和感はそのためか。…まあそれだけだが。」
「…良かった。」
花織は刀の先を前に向けて脇を占め、刀を握ったまま後ろへ腕を引き、前のめりになる。
「そろそろお互い手の内を見せ合おうじゃないか。」
「突き技かあ…。しんどいなあもぉ…」
「では行くぞ?玄式流ー」
突如アナウンスがその場の一同の耳に入る。
『緊急会議、緊急会議、各隊長は直ちに会議室に集合してください。』
「…うん、時間だね。」
サリサはホッとしたような表情で彼女に背中を向ける。
「チッ…これを知った上でか。……道理で周りに隊長が集まっている訳だ。……良い勝負でした。」
花織は一転して表情が柔らかくなった。
「…多重人格って奴?」
「いいえ?普通に記憶も自立も私そのものです。」
「ああ…そう。」
サリサは苦笑しながら訓練所を後にした。
「……」
ケインの元へと花織は近づいてくる。
「やらんぞ俺は。」
「良いから!」
「ちょ…おい…誰かー!誰かー!ジークさ…」
「ヒューヒューヒュー…」
ジークは口笛を吹いて階段を登っていった。
「またこれかよおおおおおお!」
「ふへへへへ…悪いようにはしないさ…」
「普通逆だろ!それを言うのは男が女襲う時の…ぎゃあああああ!」
ケインの叫び声が辺りに響き渡った。
「……!」
「…!」
誰かが会話をするのが聴こえる。どうやら男女のようだ。電子音らしき音が辺りに響いている。レドは声のする方へと向かう。
「…何をしてるんですか?」
そこで繰り広げられていたのは、紛れもなくテレビゲームだった。電子音の正体はこれか。
「あ!やばいバレた!煙玉ぁ!」
「まて!煙玉はもう切らした!」
「こうなったら自爆しか…あれ?君は…」
そこにいたのは、紛れもなくヴェルサスとクレアだった。
「まあ…座りなよ。」
クレアは銃を片手に笑顔で手招きする。
「消すつもりですよね?」
「いやいやそんなわけ無いよ!」
「じゃあ銃を下ろしてください。」
「私の国では銃を下ろすのが文化でねえ。」
「おかしーなーあなたはこの国生まれなのになー。少なくとも他人に銃を向ける文化とか聞いた事ないのになー…」
「え?!知らないの?!1000年続く文化だよ?!」
「魔装銃が初めて作られたのは1300年頃です。」
「…くそ…自爆しか…」
「すぐ自爆したがるのなんなんですか?ばくだんいわかなんかですか?」
「いやー…何て言うか…やっぱり息抜きってしたくなるじゃ無い?…まあ全然楽しくないけど。」
「…なんですかこれ。」
「ホラ…T.Tって映画のゲーム。だいぶ前に出たゲームなんだけどねー…まあ結構なクソゲーなの!砂漠にゲームが埋めたれられまくったとかなんだとか。」
「配管工のアクションゲームやってれば良いじゃ無いですか。」
「それだとダメなんだ!普通のものじゃ物足りない!って言うかここのクレアは小根ひん曲がってるからクリア直前でテレビビンタしてデータリセットさせてくるんだ。」
「あっ…」
「ガチの軽蔑の目やめてくれない?」
「……まあ別に誰にも言いませんよ。」
「よっしゃあ神!神すぎる!」
「…ところで、なんで分かったんだい?」
「メモ帳をヴェルサスさんが切った時、切り方が不自然だったんですよ。普通切り離してから折るじゃないですか。なのに折ってから切り離してた。…まあ後者のような行動をする人も少なくは無いのでそれだけじゃ根拠にならないですが、明らかにメモ帳の向きが地面に対して垂直すぎる。これは周りに部下が居たからメモの内容を知られたくなかったが故の行動なんじゃ無いかと思いまして。……ところで貴方の『本体』は?」
「…俺の魔能力見破ったのか?」
「総括とあらうお方がこの状況で息抜きなど出来ないでしょうに。」
「……………。やってみるかい?」
「いや良いですって…ホントに…」
「やってみた前よ…虚無すぎて泣くぞ?」
「…やっぱりやらない方が良い気がしてきた。」
魔能力の参考になるかもしれない、とレドはテレビの前に座り込んだ。
「あー…成程。大体わかりました。」
レドは熟練者宛らの操作でステージを進んでいく。
「あれ…?僕ここ結構迷ったのに…」
「まあ作業は得意なので。」
「作業って言っちゃったよ!ゲームを作業って言っちゃったよこの人!」
「……何をしてるんだろう…僕は…」
レドは自身の取った行動が無意味に等しいことに気がつき、目を細めてそう呟いた。
「しっかしこの敵全然当たらないねえ…こう一気に吹き飛ばせるのとかないのかな…」
吹き飛ばすの…。ヴェルサスの言葉を聞き、突如レドは操作を止め、脳を巡らせる。
ーーーーー
本部の屋上、ジークとケインは互いに煙草を咥えながら会話をしていた。
「…んで、あれからどうよ?」
「どうよって…まあ金は無いっすけどぼちぼち…」
「あー…いやそうじゃない。お前自身についてだよ。」
「………上手くはいかないですけど…前よりは幾分かマシになった気が…しないでも無いです。」
「そうかい…新入りが入ったんだってな?それも久々に期待できそうなのが。」
「ああ…レドっすね。まああいつには色々助けられてますよ…。ホントにね。」
「ははっ!お前ちょっと明るくなったよ!そいつが男だったからか?女ばっかに囲まれて窮屈だったろうからな!……それとも別か?」
「まあ多少……俺と重ねてるとこもあるんでしょうよ。……本質はいつも通りでしょうけど。」
「はあ…相変わらず無気力だなあテメエは。所長以上に虚無ってやがる。」
「そうっすかね…。なるべくそんな感じ見せない様にしてるんですけど…。」
「バレバレだっつーの。まあもうちょい頑張れよ。……訓練場で暇でも潰すけどよ、一緒に行くか?」
「まあ俺も暇ですし。」
ケインは自身の過去を頭に掠めながら歩いた。
『お母さん…なんで…なんで帰って来ないの…?』
アパートの汚れた部屋の中、蝿が当たりを飛び回り、辺りに立ち込める腐乱臭に何も感じない。感じているのは孤独だけ。それでも母は帰ってこない。父親の顔は思い出せない。置いて行かれたと気づいたのは、家の食料が尽きて一週間後のことだった。母への愛情が憎しみへと変わるのは、最早時間の問題だったのだろう。年齢としては大体7、8歳だった。…ああ、やめようこんな事を考えるのは。虫唾が走るだけだ。ケインは思考を停止しようと目を瞑る。
ーーー
「…おいケイン。ボーッとしてんぞ。」
「あ、ああすいません。」
俺は1人じゃ無いんだ。そう何度も思おうとした。だけどそんな事は幻想に過ぎなかったんだ。ケインはまるで自分でも責め立てるかのように、心の中で言葉を綴った。
「おい…訓練場にいるあの女…お前んとこの…」
「へ?」
ケインが訓練場の観戦席から見た姿は、相手を竹刀で殴り倒していく花織の姿だった。
「何やってんだあいつは…」
「なあそこの人…状況は?」
ジークは観戦席に座る隊員に恐る恐る話しかけた。
「え?なんか誰でも良いから試合しようとか言い出して…『女1人束になっても勝てぬウジだらけかー』みたいな挑発して…それでこうなった。」
金髪の隊員は楽観的な口調で返した。妙に落ち着いたその
「おいおいおいおい…もう終わりじゃあ無いだろうな?!仮にも貴様らは政府の犬だろうに!血統書付きの犬が補償を証明できずして何になる!…待てよ?私は国公に数ヶ月間在籍したが…強者らしい血気盛んさが無かったな。……なるほど平和ボケか。無知性魔族で満足しているか、或いはそもそも戦った経験もなくシュミレーションで生きがっている駄犬だらけと言うわけ…」
「はーい…聞こえるー?」
スピーカー越しに女性の声が響く。スピーカーに声を当てていたのは、先程話を聞いた隊員だった。
「えっと…知性魔族と戦っててシュミレーションで満足してなきゃ良いんでしょ?じゃあアタシが入るよ!」
友人と会話でもしているような明るい口調で隊員はそう言った。
「…サリサ.メルゼビスタ…!魔族白兵部隊第二部隊の隊長か!敵にとって不足なしとはこの事ぉ!」
彼女の名を聞いた周囲のざわめきが一気に加速する。
「さっき犬って言ったけどさあ…アタシが勝ったらそれ取り消してよ。」
「いいだろう。…ああ、私からの要求は無しだ。さっさと戦ろう!やってしまおう!」
花織は腰の真剣を構え、瞬時に、ステージに降りたサリサの首元に迫る。しかし、その頭身は空を切っていた。
「うわっ…!危ないなあもう…。早い早いって聞いてたけどほんとに早いんだねーそれ!」
花織は咄嗟に後ろに下がり、間合いを取った。
「貴方の魔能力って…うーん…ワープって訳でも無いよねえ…感知してる分だと魔力の痕跡が散乱し過ぎてるし…でも高速移動ってわけでもないし…」
「流石の余裕というものだ…。ああ…思わず斬っても文句は言うまい!」
「斬れるものなら…とでも返せば良い?」
花織が繰り出した居合を、サリサは背中をひねってかわし、彼女の伸びた腕に両手を伸ばして絡みつき、腕を覆うと膝を彼女の腕と垂直に向ける。
花織はサリさの背中を掴んで投げ飛ばし、それを回避した。
「おおー…すっごいねーホントに!」
「なんなんだ…全く見えない…」
周囲からはそんな声が聞こえる。
「…ギリギリ目で追えるレベルだなこれ。」
「俺なんか数発交わすのがやっとなのに…かわすどころか反撃までしてる…」
ケインは観戦しながら、愚痴をこぼすように言った。
「お前戦った事あんのか?」
「…しょっちゅうありますよ。」
「おー…随分やり合ってんなあ…どうでも良いけど。…浴衣の奴は随分な美人だなあ…どうでも良いけど。」
隣の席に座っていた、髪の乱れた男がそう呟く。
「……」
ケインは目を細める。
「おい何だその目は。」
「『あっ…この人そう言う病気の…』って思って思春期思い出して心がキュってなって…」
「まるで俺が大人になれなかったでっかい子供みてえに言うな!」
「じゃあ幾つなんです?」
「22。」
「…そっちの歳は?」
「俺は23です!」
「…年上?……」
「年下にしかイキれない…あっ…」
「ヤメロー!ヤメテクレー!」
「なんつーか…誰もが一度は通る中.高二病ルートを延々と辿ってる感じだな…」
ジークの言葉がトドメを刺したようで、男はついに動かなくなった。
「班長!大丈夫っすかー!班長ー!」
「また変なのが来た…」
200cmはあるであろう長身の男が、フロア中に響き渡るであろう声量で、コップを両手に持ちながら駆け寄ってきた。
「えっと…この人の部下ですか?」
「はい!自分はアズラ.エルニカ2等兵であります!年齢は19歳、今期に支援部隊第二部隊に入隊し…」
「うるせーなーてめえはよお…。」
「はい!隊長!申し訳ございません!」
「ああああ腹たつ!」
男は床に顔を擦り付けながら叫んだ。
「隊長?」
「はい!此方は支援部隊第一部隊第一班班長、セシル.ドルフネーゼ軍曹です!」
「……よろしく。」
「あ、露骨にちょっとドヤ顔になった。」
「うるせえ!」
セシルは猫が威嚇をするが如く、ケインを強く睨んだ。
すると、突如辺りがざわつき始める。
「ん?なんだ?」
「マジかよ…『紫電』に傷が…」
魔道士達のそんな会話をケインは聞き取る。
「あのサリサって人はそんなに強いのか?」
「あー…あいつな。あいつはつえーぞ。何せ知性魔族狩りとさえ呼ばれてる白兵部隊でも実力は3本の指だからなあ…。知性魔族と直接戦える頻度が一番多いのは必然的にあの部隊だから…それだけに上げてる戦果はでけえ。実際去年の討伐数は一位だぜ。…確か18とか。」
「18?…知性魔族って年に数回なんじゃ…」
「ああ…あれは第一危険区域に侵入した場合をカウントしてるだけで、戦ってる数はもっといるぜ。無知性魔族に関しちゃ人間領域内にも沸くからそれ含めると100以上は行くだろうな。……ってかお前習ったろ。まさか無免許か?」
「ありますよ!……まあそこんとこ忘れてるのは…申し訳ないというか。」
ケインは免許を取り出してセシルに見せると、拗ねたような表情で彼から目線を逸らした。
サリサの打撃を左腕で受け止めると、空中から着地するより先に、花織は刀を振り上げる。サリサは横にかわし、再び距離を取る。
「ははははは!強いなあ!強いなあ貴様は!…まあ反撃が思いのほかこないのは少々不服だが。」
「へー…じゃああったまってきたしそろそろ魔能力使って良いかな?」
「……しかし念のため聞いておくが…貴様男だろう?」
花織の投げかけた質問に、サリサは一瞬固まる。
「あー…まあ…うん。」
「…うむ。モヤモヤが解けた。先程の違和感はそのためか。…まあそれだけだが。」
「…良かった。」
花織は刀の先を前に向けて脇を占め、刀を握ったまま後ろへ腕を引き、前のめりになる。
「そろそろお互い手の内を見せ合おうじゃないか。」
「突き技かあ…。しんどいなあもぉ…」
「では行くぞ?玄式流ー」
突如アナウンスがその場の一同の耳に入る。
『緊急会議、緊急会議、各隊長は直ちに会議室に集合してください。』
「…うん、時間だね。」
サリサはホッとしたような表情で彼女に背中を向ける。
「チッ…これを知った上でか。……道理で周りに隊長が集まっている訳だ。……良い勝負でした。」
花織は一転して表情が柔らかくなった。
「…多重人格って奴?」
「いいえ?普通に記憶も自立も私そのものです。」
「ああ…そう。」
サリサは苦笑しながら訓練所を後にした。
「……」
ケインの元へと花織は近づいてくる。
「やらんぞ俺は。」
「良いから!」
「ちょ…おい…誰かー!誰かー!ジークさ…」
「ヒューヒューヒュー…」
ジークは口笛を吹いて階段を登っていった。
「またこれかよおおおおおお!」
「ふへへへへ…悪いようにはしないさ…」
「普通逆だろ!それを言うのは男が女襲う時の…ぎゃあああああ!」
ケインの叫び声が辺りに響き渡った。
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「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
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信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
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様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
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【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
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たしかに私は王妃になった。
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夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
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