Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

ちょっとの幸せとちょっとの不幸②

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「おいケイン、交代だ!」
エディがケインを譲る。岩陰に即席で作った寝床である。寝心地が悪い上に交代制でロクに眠れるはずがなかった。
『あー…やべえ…ぼーっとしてんな』
あれほどの数の魔族を相手に圧勝できたと言う事実を、ケインはまるで他人事のように捉えていた。Stage5を殲滅できる程の能力を備えているのがこの部隊なのだ、と言う事は理解している。だがやはり自身の認識と別方向に進んだが故、実感など湧くはずもなかった。交代が来るまで自分は見張り役だ、ボーッとしてはいけない。ケインは顔を擦った。
「劉龍……だっけ?」
ケインは震える人影の隣に座ると、出来るだけ親しみを持てそうな口調で話しかけた。
「あ……はい。」
「……やっぱり怖かったか?あそこが。」
「そりゃそうですよ。……死ぬのが怖いのもあります。でもそれだけじゃない。……自分がこのままで死ぬのが怖い。このまま変われずに死ぬのが。臆病な自分のままで、ましてやなんの大義も秩序もなく死ぬのが。」
「…変わらなくても良いんじゃないの?俺はそうしてるよ。それが一番楽ってワケじゃないと思うけどさあ…それでもやっぱり幸せになりたいだろ?楽なことと幸せな事は違う。幸せって言うのは少しの苦労と苦痛で成り立ってるんだ。楽なだけだとむしろそれがとてつもない苦痛になる。…人間は皆んな今よりちょっとだけ幸せになりたいだけなんだ。故に俺は時々辛い思いをするくらいの方向を選んだ。君もそうすれば?」
「……」
劉龍は答えなかった。答えられなかった、と言うだけの話ではない事は、ケインは容易に想像できた。
「あー…これあげるよ。」
「これ…なんですか?」
「タバコ。」
「ええ?!僕未成年ですよ?!19ですけど。」
「いーのいーの吸わなくて。人からの貰い物があればそれを大事にしようとするでしょ?結果としてそれが生きがいにも変わる。だからまあ…そのタバコから生きがいにしたら?」
「……」
「あー嘘嘘。」
ケインはタバコを受け取ろうと、劉龍の手からタバコを取ろうとする。しかし、劉龍の手は彼から逃げるように引っ込んだ。
「やるだけやってみます。」
「ははは!ありがとね。…ちなみにそれウチの所長の。」
「え?!」
「別に貴重な物でもないけどねー。俺も足りなかったから貰っただけだし。」
「……!来る!」
劉龍の顔色が突如強張る。
「来る…?まさか!」
「アルスくん!起きて!」
サリサは隣に寝ていたアルスをゆする。
「うー…あー…」
「あーもー…スイッチ切れるといつもこうじゃん…準備して!アレはStage6…それも1体や2体じゃ…」
サリサは言葉を止め、喉を枯らす勢いで叫ぶ。
「下がって!」
彼女が叫んだ次の瞬間、ケインの目に写っていたのは、その場で戦闘態勢を取ろうと立ちあがった隊員の血肉が辺りに転がる光景だった。
「……!」
一瞬襲う恐怖を振り切り、ケインは物干し竿を取り出す。
「あ…ああ…あああああ…」
後ろから声がする。恐らく劉龍だろう。
「…来る!」
ケインは体を捻ってかわすと、目視不可能な攻撃を回避する。車の屋根は上下に切り裂かれた。
「これは…」
「大丈夫……集中すれば見切れる。そこ!射撃部隊に連絡!準備してる暇はない!構えて!」
サリサは斧を振るうと、突如右方向からの刺客の攻撃を受け止める。
「ほお…ほおほおほお…止めちまうのかいこれを…」
青い鱗、膨大な魔力、間違いなくStage6だった。
「しっかし華奢な体で巨大な斧たあね…コイツァ随分Wildワイルドだ!」
「せめて来るなら日登ってからにしないかなあ…まだ午後4時だっつーの!」
サリサは魔族の体を掴むと車の外へと放り投げる。
「アルス君!副隊長の君に指揮を任せる!アレはアタシじゃないと太刀打ちできない!」
「……了解しました。」
アルスは閉じていた目を開け、静かに返答する。サリサはそれと同時に車を飛び出した。
「サリサさん!」
「ケイン!前だ!」
アルスの声により、ケインの意識は前方向へと移る。
「くっ…!」
不可視の攻撃を咄嗟に物干し竿で受け止める。
「どうやって対処すれば…」
「ケインよ…貴様は見えん奴をやれ…私はあそこの奴らをやる…それで良いだろう?アルスよ。」
「ああ…君の力の見せ所だ。」
花織は意気揚々と車を飛び出していく。
「クッソ…アレをやれってのか…?!俺に…」
「僕らは襲ってくる奴らの対処に忙しい!ましてや他の隊への連絡も遅れる!君しかいないんだ!この状況は!」
「どうするどうする…見えない奴を狙うなんてのは俺には…」
ケインは刀を強く握った。

「ははははははは!楽しいなあ楽しいなあ!Stage5のclassAか?!6相当が3体とは!相手にとって不足なしと言うもの!」
花織は森を駆け回り、刀を片手に魔族を探す。
「そこかぁ!」
花織は気を蹴ると、対象に向けて刃を振るった。
「見つかっちまったよこん畜生が…あークソ!ゲラゲラゲラゲラ頭ん中かき乱しやがって…心底イライラしてならねえなあ!」
魔族は怒号をあげると、自身の両肩の空洞から衝撃波を放つ。花織は横に飛ぶようにかわす。
「おっと…危ない危ない…何年ぶりだろうなあ…命の掛け合いとやらは!そう思うだろう?何某。」
花織は後ろから襲いくる魔族2体の方を見ると、不適な笑みを浮かべ、そう問いかける。
「知らないわよクソ何某。」
「俺と似た匂いがするなああいつ…俺にぶった斬らせろ!」
下の長い魔族は、我慢ならないとでも言うように飛び出していく。花織は魔族の剣を受け止めると、森の奥へと後退していく。
「ヒャハハハハハハハ!良いねえそれえ!人の肉の切り心地ってさあ…どんなんなんだあ?!」
「生憎答えられんよ…私の世界じゃ犯罪だからね!」
「別にいいぜ?自分で確かめるからよお!俺はベンジャミン.ストロガノフ。」
「風儀式花織だ。奇しくも風儀式だ。」
両者は互いに構えると、ほぼ同時に距離を積める。
絶傷切断ギロチンカッター!」
ベンジャミンは刀を鞭のようにしならせ、花織へと振り上げる。が、彼女はそれら全てを弾き返し、彼の懐へと潜り込んだ。
「やるじゃねえの!だがよお…俺の魔能力を忘れてねえか?!八速歩行アルターエゴ!」
ベンジャミンの体は分身し、花織を囲い込む。
「ふう…お前は勘違いしているよ。……私はただの一度も魔能力を使っていない。」
「何?馬鹿抜かせ!魔能力無しでここまでやってきたってのかい!」
「ああそうさ。何故ならね…私の魔能力は手の内がバレたら一瞬で不利になる、いわば最強の初見殺しだからな。」
「へえ…じゃあやってみ…」
ベンジャミンが言葉を言い切る前に、彼の後ろに花織は立っていた。まるで元から背後に居たかのように。まるでさっきまで山でも徘徊していたかのように。静かに、そして淡麗にそこに立っていた。歩行を一瞬止めたかのようにそこにいた。
「玄式流-『鏡花一対.華散昇きょうかいっつい.かざんしょう
まるで華が散るように、ベンジャミンの体はバラバラになった。
「増えたところで如何だというのだ。皆等しく斬ればいい。生きとし生けるものは全て、いずれは散りゆく定めなのだから。ただ散る時が違うのみ。」
「ベンジャミンが…やばいわよアイツ!」
「みりゃあ分かんよ!あークソ…あのクソ人間…俺の頭を掻き乱しやがって…」
「どうするヒュージ?」
「俺はあの人間を狙撃する。ノグバ、お前は引きつけろ。」
「…分かった。しくじんじゃないわよ!」
「ははは!来たか!腹の底を決めたか?!それとも諦めたか?!」
「諦めながら立ち向かう奴なんかこの世に1人も居ねえよ!立ち向かうのはいつだって生きるためだ!」
「ははは!ごもっともと言うほかあるまい!」
ノグバは両腕から蛇の頭を生やすと、花織の方向へと射出する。花織はそれら全てを斬り落とすと、一瞬にしてノグバと距離を詰め、彼女の腹部へ刀を突き刺した。
「捕まえた!」
ノグバは刀が刺さった状態のまま、蛇で花織を縛り付ける。
「行け!ヒュージ!」
「地の蠢き.揺らすは心象.駆逐せよ-響鳴命撃ノイズアクト.ストライク!」
ヒュージは両肩と魔法陣から音波を発射する。音波は空中で混ざり合い、地面と接触する。その瞬間、それらは爆発する様に周囲へと広がり、上空の雲が吹き飛ばされる。
「はあ…はあ…クソっ!ノイズばかりだ…ノイズばかりだ俺には…」
ヒュージは力が抜けたかのようにその場に座り込む。
「ノグバ…あいつは…死んだろうなあ…」
そう呟いた直後、彼の核は背後からの刀に貫かれていた。
「な…!」
「安心しろ、お前が燃やすより前に奴は私が殺しておいた。
「お前の魔能力は…一体…!」
「教えてやろう。私の魔法は『行動にかかる過程を全て飛ばす』と言うものだ。まあ元々は単に見た技を再現できると言うだけの貧弱な定着型魔能力だったんだが…私は自身の脳内で構築した動きを身体に定着させ、念動型魔力による二層で現実にそれらを具現化させる事に成功した。私のそれは高速移動でもなければ瞬間移動でもない。その中間だ。あくまで行動の過程と時間を飛ばしているだけにすぎないのだからな。…故に正面に刀を振る動きをしたとしても、その方向に向かってガードをされれば普通にガードが通る。…いわば『最強の初見殺し』なのさ。」
「何故…あのタイミングでかわせた!魔法を発動する暇すらなかったハズ…」
「手の内がバレれば不利になると私が自覚しているからね、『その場の思考で対処不可能な攻撃が来る』と事前に予測でもしていれば如何とでもなるように訓練してある。」
「くっ…!こんな奴がこんな戦場に…!知らせなくては…」
「やれるのか?時期に死ぬその体で。…少なくとも貴様には興味はない。戦闘不能なのだからな。」
花織は、核を破壊され、消失していくヒュージに背を向けると、鼻歌を歌いながら去っていく。
「待て…おい…待て…待てええええええ!」
「ノイズが気に入らないのだろう…?良かったじゃないか、これで静かになる。」
刀をしまった頃には、既に叫び声は消えていた。
「……?なんだ?辺りの魔力がどんどんと膨れ上がっている。」
花織は刀を構え、遠方を見渡した。途端、彼女の体は一瞬萎縮した。山に思えたそれが、生物の群そのものだったのだから。
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