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地獄編
またもや彼らは家族という鎖の中で②
しおりを挟む「まあ今の全体の状況はこうだ。」
アンドレアは地図を机一面に広げる。
「これは……?」
「これは俺の魔能力だ。俺の魔能力は『等価交換』。物の価値に付随した魔法を使用できる。当然現金でもありだ。」
アンドレアはそう言うと、札束を空中に放り投げた。
すると、地図から地上の風景がホログラムで映し出される。
「なるほど…便利なようで不便ですね。」
「お前らはここを伝ってやって来た訳だな。」
「避難できるルートは知ってますか?」
「いや……無いな、残念ながら。あるんだったらそこの国公にとっくに知らされてるだろ。だからその為には何処かを突破するほかない。…つーか目的はそれじゃねーだろ?」
「あ、いえ。彼は一般人なもので。避難できる場所が必要かと。」
「ああ、そう言うことね。じゃあ本題だが…これからどうする?」
「シャーロットさん…つまりはうちの所長の場所を割り出す必要がある。彼女が死ぬことはまずあり得ないですからね。」
「……なるほど、あるとすりゃあここから離れていて、かつあの化け物じみた魔力を誤魔化せる場所……だろうな。
どんな魔能力であろうと、放たれる魔力を完全に断つことはできんからな。遮断装置の効かないシャーロットなら尚更だろうよ。……まあ言いてえ事は分かる。仮に魔力感知を完全に隠せるようなとんでもねえ魔能力があるなら話は別だろうさ。
だがそんな物があるなら、隠す以外に有効活用した方が良いだろう?少なくともシャーロットを何かしらの方法で拘束できている訳だしな。」
「………隠す?」
何か違和感を感じる。思えば数ヶ月前から少しずつ感じてはいた。まるで何かを隠蔽されているような……。
「……なんだ?何かあるのか?」
「いえ…これは僕の思い込みの可能性が高いのですが……まるで何者かが都合の悪いものを隠しているかのような……。そうだ、そもそもどうしてあれほどの戦略をどうやって今の今まで隠していたんだ?」
「………!」
一同は絶句した。そうだ。どうして気づかなかった。まさか本当にあると言うのか?
「認識にすらも干渉するのか……とんでもないな。」
「そうだ…段々思い出してきた。…花織さんが来た日、彼女は魔族と戦ってきたと言った。だが危険区域でも無いのに魔族が来るのはおかしい。そしてゾンビを操る魔族の一件。あれの記憶も完全に消失していた。」
「………となれば確定だな。消されたそいつらは例の組織のメンバーだった、と。」
「厄介とかそう言う次元じゃ無いよそれ……既にそいつがアタシたちを追跡してて、今この場にいるとしたら終わりだよ。」
アンの言葉に周囲が凍りついた。
「いや、恐らくかなりの制限があるかと。まずそうポンポンと発動できるなら、都合の悪いもの全部を好きな数とタイミングで消して好き勝手できる。だけどそれをしなかった。一度消してからもう一度消すまでに長いインターバルがあるのか、そもそも一回きりなのかのどちらかでしょうね。」
「それと、消したままだと現実に干渉できないんだろうね。そうじゃなきゃ隠密プレイでぶっ殺して終了だろうし。」
「まあ……わかった所でどうしようもないですね、これは。優先すべきはどのルートを辿って行くかについてです。」
「そうだな…まあさっき言ったように安全なルートは無理だ。何処かしらの突破が必要になる。」
アンドレアは地図をマーカーでなぞり始めた。
「バツ印のとこは突破困難。倒壊したビルが折り重なってやがるし、そこに傭兵が加わるとなりゃ無理だ。となると絞られるのはこの3つのルートなわけだが……」
「分かれて行動するのも無しじゃないですが…やっぱり無しですね。3つのうちどれかに絞らなきゃ。」
次の瞬間、激しい揺れが起き、地図上のホログラムが乱れ始めた。
軋むような音が鼓膜を揺らす。魔力の擦れ合いが今起きているんだ。
「……?!」
「おいおい…俺あこんな死に方嫌だぜ?!」
そして数分ほど経った後、揺れは徐々に治まっていった。
「ねえ…これ…」
皆が周囲を見渡す中、デボラが1人、地図を指刺した。
「なんじゃあこりゃ……!」
先程は無かった4つの塔が、そこに出現していた。
内3つは先ほどなぞっていたルートの近隣に、残りの1つは10kmほど離れた場所に建っている。
「最悪だ……よりにもよって3つのルートの近くに…」
「いや…コレに関しちゃもはやルートも関係ねえな。大量の魔力が放出されてやがる。圏内に入ったら速攻で餌食だろうよ。」
「コレを突破しようってのは流石に厳しいんじゃ無いの?」
「俺はやるぜ?こう言う死に方は悪くねえ。」
デボラの発言に対し、ジハイドは不適な笑みを浮かべ、そういった。
「アタシもやるよ。国公としての義務は果たす。後で少将に連絡もできるし。」
アンも続けて彼に同意した。
「俺もだ。一度組んだ相手だからな。やれるだけの事はやるぜ。」
アンドレアはそう言いつつ、レドの方を向く。
「やりますよ。誰がいくら死のうと、やってみせる。」
その返答に、アンドレアは満足げな表情を浮かべる。
「うん、それが聞きたかった。じゃ、話を続けるぜ?」
4本の塔の中……
ミラーボールがクラブを照らす中、傭兵たちは流れる音楽に合わせて飛び跳ねていた。
「クックック……こー言うどんちゃん騒ぎは何年ぶりだろうなあ?」
生肖は、グラスを片手にその様子を傍観していた。
「はあ…はあ…死ぬかと思った……」
彼の隣の椅子に、デニングが倒れるように座り込んだ。
「おっ、生きてたのかお前。」
「あー…ホントにムカつく…あの白髪女…僕の手で殺してやる。」
「で…どうやって助かった?」
「知らないよ。なんか急に。すごい衝撃が来てさ。……なんか僕と同じくらいな身長の人間がチラっと見えたけど……」
「チビな人間が国公の基地を襲った…ははあん?例の魔導士か。」
「例の?」
「ああ、俺と同じ国の出身だったんでな、少し気になってたんだよ。何でもそいつ、一般人の虐殺をしたとか。」
「……マジ?なんで同族同士で殺し合うのさ?理解できないよ。相当なサイコ野郎じゃないのそれ?」
「あのなぁ…そう言う魔族的な考えはやめときな。そんなんじゃここに馴染めねえぜ?」
「いや…でもなあ……一緒に暮らしてるなら分け合うとかしないの?」
「お前にとっちゃ当たり前だろうがな、俺たち人間ってのは同族を嫌い合わなきゃスッキリできない生き物なのさ。」
「やっぱり人間ってキモいなあ。」
「はははは!まあ言いてえ事はわかるぜ。否定するつもりはねえ、そこはお前の価値観だ。……奢るぜ、一杯。やらかした奴に奢る酒が1番気分が良い。」
「どーも……でもあんまりここの酒は合わないな、僕には。……好きじゃ無いものは好きじゃないと言いたいから。ごめんね。」
「いいや、良いぜ?で、どうだった?クソ野郎に上を向かせた気分は。」
「うん、悪くなかったね。本当に。」
「そりゃ良かった。………おい。」
生肖は突然右手から銃を取り出すと、クラブの傍にいる傭兵に向けて引き金を引いた。
傭兵の頭は撃ち抜かれ、壁に血液が飛び散る。
途端に室内は静まり返り、注目は彼らに集まった。
「言ったはずだ。俺のいる場所でヤクは吸うなと。煙草まではまだ許そう。だがそりゃ違うだろ?クソガキども。」
生肖に撃ち抜かれた傭兵の右手に握られていたのは、魔香煙だった。
「俺はお前らの上司じゃねえし、お前らも俺の部下じゃあねえ。だがファミリーだ。率いているのも俺だ。そこを忘れるな?お前らのためなら頭も下げるが、ファミリーの為ならお前らを殺す。」
その後、クラブが先ほどのように活気付くことはなく、彼への恐怖のみがその場に残り続けていた。
塔の一室、金髪の女がシャワーを浴びていた。
「………」
リリッシュは自身の痩せ細った体を眺める。
そこには一才の肉は無く、皮を貫通しようと言う程に骨の形が顕になっていた。
彼女は、どうして自分を否定しなかったんだ?まるでこれから友人になろうと言うような態度で接してきた。
資料に書かれていた名前はアン.ナーサリー、と言ったか。もし、また会うようなことがあれば………
リリッシュの手足が小刻みに震え出す。
快楽に満ち満ちていた筈の彼女はもはや何処にもいない。
風呂から上がり、白衣を着る。
殺さなきゃ。もっと、もっと殺さなきゃ。
「状況は?」
リリッシュは、屋上で様子を伺っているグレゴリオの隣に立つ。
「『アレ』の投下をそろそろしようと思う。避難所を襲ってそこで終わりさ。ただ……私の妹が少々厄介だね。まだ半日はここに来られないだろうが、それでも戦略は押され気味だ。目的を達成できなくなる可能性は十分…」
「じゃあ追加しますね。」
リリッシュはグレゴリオの言葉に割って入るように答えると、その場に捉えていた国公魔導士の捕虜の方を向く。
「おいリリッシュくん、心なしだが少々焦り…」
リリッシュはメスを横方向に一筋、空中で描いた。
魔導士全ての首が吹き飛んだ直後、それら全ての体が組み変わり、異形の怪物へと姿を変える。
「ああ…ああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
しかし彼女の手は止まない。本来ならばそこで完結するはずの行為を、発狂しながら一度、二度、三度と繰り返した。
元々歪だった怪物の姿は、メスに切られる度に吐瀉物のようにドロドロと溶けていく。
「おい…おい!やめたまえ。貴重な戦力を削るつもりかね。」
静止したグレゴリオの手を振り払い、リリッシュは続けてメスを振った。
数十体いた怪物は一つになり、全長30mの巨人へと変貌した。
「あー…やめろと言ったのに…ずいぶん不安定なものが生まれたものだ。」
巨人は塔から落下し、地面に激突すると、体から体液を漏らしながら進んでいった。
「君が要の一つだからね、死んでもらっては困る。良いね?」
「分かってます…………分かってますから…後もうちょっとだけ狂わせてほしい。」
「好きにすると良いさ。狂いたいのは私も同じだからね。」
グレゴリオは胸ポケットから写真を取り出し、眺めながら屋上を後にした。
「……オェッ!」
リリッシュは誰もいなくなった屋上で、少量の吐瀉物を吐き出した。
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