Heavens Gate

酸性元素

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地獄編

二重反転③

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「何とかいきましたね、ノーマンさん。この塔を介してレナさんに正確な位置情報を送ります。これで貴方たちも接続できる筈です。」
『了解……だがどうも妙だ。例の隠す魔能力の持ち主がいない。』
「魔能力を使って隠れた…とするなら、それ本体に対しての僕たちそのものの記憶が消えるはず。…もしや自分自身は消せないのか?それとも自分は例外?」
『………そこか!』
ノーマンは天井に刀を突き刺す。空いた穴から、その場を横切る人影らしきものが移る。
「血痕……?そうか、奴はかなりのケガを負っている!レド!塔全体のマップを送る。奴は3Fにある医療室を目指している。恐らく怪我のせいで魔力のコントロールが乱れているんだろう。奴が怪我を治療したら形成が再び傾くぞ!」
「了解しました……ただ、どうやらこちらとしても突破は難しいかと。」
レドは壁の穴から覗いた景色に広がる光景を眺めながら言った。半透明な人型の何者か。それが数百にも及ぶ数、部屋に敷き詰められていた。
『まだ気づいていない……だが分かる。魔力感知が苦手な僕でもわかるこの魔力網量……気づかれたら終わる。階段をいちいち登っていたら間に合わない…それに他に道もない。進むしかあるまい。』
天井の隙間に入ると、レドは匍匐前進で進み始める。
「……!」
キィ、と金属音が部屋に響き渡る。
半透明なソレらは動きを止める。
『気づくな…気づくな……。』
そして暫くすると、再び動き始めた。
『危ない…。
操縦室は最上階……そして天井を渡ったとなれば、このマップによれば2つのルートしかない。第二モニタリングルームとクラブ。分岐点はそこだ。ここを経由して医療室に行く必要が出てくる。
いち早く医療室に行ければ良いが、生憎こちらとしても早く動けるわけじゃない。第一鉢合わせになった所で、医療キットを使われて回復されたら一貫の終わりだ。
だから進むべきはモニタリングルームとクラブ。だから……
突如、金属類が地面に落ちたかのような音が辺りに響いた。
まさか、まさか今朝アイスを買いに行った時の金が。
細かい金しかなかった事をレドは後悔した。
「クソっ!走るか!」
レドは音を立てるのも気にせず、出来うる限りの最速の動きで、その場から離れる。
だか、すでに気づかれていた。
半透明の人型はレドを細くすると、ジー…と電子音を鳴らしながら高速で接近する。
「やばいやばいやばい…本当にシャレにならないぞこれ!」
レドは天井から這い出ると、腰についたフックガンを射出し、天井にぶら下がった。
その直後、這い出た穴から大量の半透明の人型が飛び出し、レドの足を掴んだ。
「っ……!」
魔力を振り絞り、鎧を纏う。そしてそのまま振り払ったその手は、彼の足から離れていった。
「待て…量が増えてないか?いや、確実に増えてる。…ノーマンさん。」
『何だ…?!こっちは医療室に向かってる!』
「ヤバいものを解き放ってしまいました……。もう下には戻れないです。何者かは分からないですが、人ではない何かが増殖を続けている。このまま医療室で待機して奴を仕留められたとしても、それに飲み込まれたらどっちみち終わります。」
『マジかよ……最悪だな。お前は何処に行く?』
「……僕はクラブに行きます。」
レドは再び天井の隙間に潜り込み、匍匐前進を再開した。
そしてやがて分岐点の前に行きつき、ライトでそこを照らす。
「やっぱりか……ノーマンさん、居ました。血痕がある。」
「そうか……じゃあそこに俺たちも向かう。」
「はい、わかりました。」
よし、これで……そう確信し、クラブの床に着地した。
だが、そこにいたのは、なんの特徴もない傭兵だった。
「……?傭兵に紛れて……いや、違う。これは……!ノーマンさん、戻って。奴に回復される。」
『は?!』
「血は罠だった。奴は部下を刺して前進させることで、あたかも自分がここまで進んできたかのように見せかけたんだ。クソ…見落としていた…血なんて何かで止めれば垂れないじゃないか。」
「じゃあ……」
「奴が経由したのはクラブじゃなかった。モニタリングルーム。してやられ……」
レドの言葉が止まる。
「いや……僕は一体なにを探していたんだ……?」
「さあにゃ。知る必要はないにゃ。」
レドの首が切り裂かれ、血煙が噴射する。幸い急所は外れたようだ。
「………!思い出した、そうか。姿と一緒に存在も消せるのは本当という事か。……姿を現し、干渉した瞬間元に戻る……』
「そ、これがミーの魔能力。自分だけは例外でにゃ、何度でも消せる。」
「ここまで一瞬で移動できるあたり身体能力も……」
再びレドの言葉は止まった。
先程まで何かがいた気がする。そのような感覚に囚われ、その場に硬直した。
そして再び目にも止まらぬ攻撃を腹部に浴び、そのままの勢いで塔を落下した。
「にゃははは!まずは多い方から処理するにゃ!」
ジャニスは目にも止まらぬ速度で塔を駆け上ると、ノーマン達を眼前に捉え、攻撃を仕掛ける。
ノーマンの腹部に傷がついた。
「……!やばい!攻撃が…」
攻撃されるたびにジャニスが消え、そのたび一同は存在を忘れる。故に反撃の手が繰り出されることはない。
「……?何の音?」
微かな電子音が、下の階層から反射し、一堂の耳に届いていた。
「まさか…あれか?レドのいってた…」
「しょーもねえモブどもに殺されるのはいいがリンチはNGだぜ?」
一同はまるで先ほどの攻撃が無かったかのように会話を続ける。
「シャア!」
オーガスタスの腹部に蹴りが入る。
「オーガスタス!」
ジハイドは即座に反撃するが、その右足は空を切った。
「何蹴ったんだお前…ってかあいついつのまにか吹っ飛ばされて……」
下には蠢き、増殖を続ける何者かが。
そして反撃不可能の存在。
さらには傭兵100人以上が塔内には潜んでいる。
当の本人達は詰んでいる事にすら気づかない。
状況は終わりかに見えた。

レドはフックで塔にぶら下がっていた。何故こんな状況に陥っているのか、どうすれば良いのか、今の彼には全てが不明だった。
「はあ…はあ…やばい……!何かが上がってくる…」
レドの足元20cm、に、蠢く何者かがいた。
15cm、10cm…と近づき、それはついに、レドの足を掴んだ。
「くそ…まだ…まだ終わるわけには……!」
必死にレドはもがくが、当然意味をなさない。それらにどんどん飲み込まれていく。
仕方がない、あれをやるか。レドは目を瞑り、そう呟いた。
「……今です、指定した場所に。」
レドはそう一言、レナに支持を送る。
塔内に、突如2発の弾丸が撃ち込まれた。
「……?!」
下の階層、上の階層それぞれに穴が開く。
『もし僕が何かを忘れたと感じたなら、忘れたのか、と聴いてください。お願いしますね。』
レナに相手の詳細をあえて教えなかった理由、それはこうした事態を予測してのことであった。
そして弾丸の正体は…
「何だ……?!あれは…狼?!」
ヴェルサス.ドライハート。かつて魔人戦争にて猛威を払った英雄の1人。
天井から落下したヴェルサスは、攻撃を仕掛けようとしていたジャニスに飛びつくと、壁にそのままの勢いで叩きつけた。
「が…あ…!」
「はあ?!ヴェルサス総括?!なんでここに……」
アンは突然の展開に言葉を失う。
「アンナに送ってもらったんだよ。こいつは僕が。君たちはレドくんがここを通過するサポートに。アンドレア…だっけ?君はレドくんの元に。それとジハイド!」
「何で俺だけ呼び捨て?!」
「君は傭兵の殲滅だ。」
「……はあ、もう良いわ、それで。」
ジハイドは力無く同意する。
「り、了解!」
ノーマンとアンは反射的に敬礼をし、上へと上がっていった。
レドは1人の男によって引き上げられ、クラブ室に倒れ込んだ。
「さて……ジークさん、久しぶりですね。」
弾丸と共に現れたジークに、レドは落ち着いた口調で挨拶する。
「言っても1ヶ月ぶりだろーが。で、あの下の奴らを処理すれば良いんだな?」
「ええ、そうです。…僕はアンドレアさんと洞窟に向かいます。」
「了解!」
ジークは勢いよく走り出すと、下に飛び降りていった。
「……大丈夫だろうか。」
「おい!レド!どうなってる?!」
「この事態を予測してましたので。あらかじめ布石を打っておきました。要はメリッサさんに連絡してたんですよ。それで現状出せる戦略のギリギリを、と。」
「…なるほどな。このまま俺らは分かれるぞ。」
「はい。」
アンドレアは札束を放り投げ、車を生成した。
「乗り込め!」
発進した車は、塔の壁を勢いよく突き破ると、ほぼ落下に近い形で道路に着地した。
「…もうちょっと安全運転で…」
「あれを見た上で同じことが言えると?」
先ほどまでいた塔とは別の2つの塔から、人影がこちらを見下ろしている。
「まさか…」
「さーてさてさて…狙い撃ちますか。」
生肖はスティンガーで車に狙いを定める。
「オーバーキルだが…まあこういうのも悪くねえ。」
頼昌は車の先にある道路に向かって矢を引いた。
が、それを放つより前に、何者かによってそれは阻まれた。

突如振るわれた刃に、生肖は思わず後ろに下がる。
「ははぁ!てめぇさては強くなったな?」
「褒めていただき光栄ですよこの野郎。」
ノーマンは刀を握り、生肖に向かって振り翳した。
「まさか弓矢に弓矢でかえされるとはな。」
「じゃんけんじゃあいこは面倒だけど……アンタとアタシはどうだろうね?」
そう言うと、アンは頼昌に向けて矢を放った。

「オラァ!おら!おらぁぁぁ!ああくそ!こんな役やりたかねえ!せめてもっと強いやつとやらせろよこんちくしょう!」
ひたすらに襲いくる敵を処理しながら、ジークはぼやき続けていた。

「よし…このまま突っ走るぞレド。」
「はい。」
車は洞窟に一直線に向かっていった。

「……どうする?逃げるか?いや、逃げられない。この男からは。そんな予感がする!ならここで仕留めるしか…」
ジャニスは固唾を飲んだ。この世界にいるなら誰もが知るこの男。いったいどれほどの強さなのだ?恐怖と同時に興味が彼女の中にあった。
「……さて、どうぞ。かかってこいよ。」
ヴェルサスが取った行動は、変身の解除だった。全長5mはあった巨体をわざわざ捨てたのである。
「舐めやがって……こいつ!大胆不敵な泥棒猫シュレディンガー.シャンク.シャドウ!」
ジャニスは姿を消し、ヴェルサスの後ろに回り込むと、壁を蹴った勢いに任せて蹴りを叩き込んだ。
わずか0.1秒のみ、魔能力を解く。当然感知など不可能なはず。
だった。
その0.1秒の間に、ヴェルサスはいとも簡単に攻撃をよけ、ジャニスの顔面に拳を叩き込むと、そのまま地面へと叩きつけたのである。
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