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剣豪編
無力と孤独②
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子供時代、私には兄がいた。
優しい兄だった。常日頃、私を気にかけてくれて、屋敷内の誰からも愛されていた。
だけど残念なことに、兄には才能がなかった。
魔導士と呼べるだけの才能が。
「兄様、あのね。」
「ああ、少し待ってくれ、花織。」
段々と、兄と接する時間が減っていった。そしてそれと時を同じくして、私に対しての稽古が激しさを増していった。
ようするに、才能のある私の方が、才能のない兄より優先されたのだ。それでも、変わらず兄が私の日々の心の支えだった。常に優しい兄は、私にとっての生き甲斐だった。
次第に、兄のように優しくなろうと思うようになった。
常に誰かの幸せを願い、常に人のために生きる。
だけど、それは突然終わりを告げることとなる。
突如、兄がいなくなったのだ。
「貴方が変わらなければこの家は終わりですよ父さん!母さんの時もそうやって…」
「うるさい!出ていけ!お前など息子でもなんでもない!」
「……わかりました。」
身支度を整え、出ていく兄の姿を見てしまった。その寂しそうな背中を、私はいまだに忘れることができない。
そしてそれと反比例するように、私への稽古は激しさを増していった。身体中には傷がつき、意識を失うのは日常茶飯事。結局、あの事件があってもこの家は何も変わらなかったのだ。そして、心の支えを失った私に、とある異変が起こるようになる。人格が乖離し始めたのだ。普段のおとなしい私とは別の、狂乱した人格。分裂しているわけではない。だが、別人のような自分自身がいることを自覚していたのは事実だった。
そうするうちに、学校では孤立し、家のものも私を避けるようになった。どこか、誰か。救いはないのか。
そう求めるうちに、とある話が私の耳に入った。
「くそ!例の隠し子は何処だ?!」
父と従者との会話だった。どうやらまだ見つかっていないらしい。聞くにその隠し子は男だと言うじゃないか。
もし、才能があれば。代わりにこの苦痛を彼が味わう事になる。それだけは避けたかった。
もっと、もっとやらなければ。もっと強くなれば良い。隠し子が見つかったときに、自分がこれを引き受け続けられるように。
そして、ついにその時は来た。
分家の崩壊だった。政界にまだギリギリ力を持っていた私たち玄式家は、それによって突然に没落を始めた。分家が隠し子を作り、更には家のものに奴隷に近い労働をさせていた、と言った内容。アレほど大きかった屋敷は二回り小さくなり、屋敷の従者は半分いなくなった。
「クソ!ドラゴンクロウに目をつけられたか…」
「しかし…花織様ならば大丈夫でしょう。跡を継ぐのに既に十分な…」
「今はそれどころではない!」
父と従者との言い争いが日夜続いた。だが、それで良かった。私が居たから、彼らはウチの家の手から逃れられたのだから。
そうして私は成長し、魔道士になった。
だけど、何年にもわたって積み重なった私の努力の結晶は弊害をもたらす事となった。もう一つの人格が暴走を始めたのである。行く先々で問題を起こし、最後には海外に渡される事にまでなってしまった。
私の生きてきた証、やってきた意味はなんだったのだろう。
「……」
それは、1人夕飯を買いに出掛けていた時だった。
その日放心していた私はカバンをひったくられてしまった。
すると、その先にいた1人の男によってひったくりは止められたのだ。
その顔を見たとき、私は膝から崩れ落ちた。
「あ、貴方の…名前は…」
「黒式…ケインっすけど…」
「うっ…ううう…ああああ!」
思わず泣き出してしまった。よかった、自分のやってきた事に意味はあったんだ。私が居たから彼ら生きていられるんだ。
そして私は国公魔導士を辞め、ドラゴンクロウに入った。
彼らといる時間は楽しかった。自分と似た境遇の人間ばかりで、通じ合える仲間に初めて出会えた気分だった。
ドラゴンクロウの盾があってか、既に没落した家は手出ししてこなかった。
そして今から半年前、私は家に帰った。
「お前には、天叢雲剣を生成する上での犠牲になってもらう。それまでの半年、自由にすることを許そう。」
死への恐怖はなかった。ただひたすら、悲しかった。彼らに会えないことに。そして、父親がこんなにも冷酷な人間であることに。
だから必死で刀を握った。刀を振るった。せめて最後に、彼らに貢献できるように。
だが、結果は散々。魔人決戦では魔族に両足を斬られ、デウス.エクス.マキナのアイラアドラには出し抜かれた。
最早私の存在意義などどこにも残っていなかった。
だから、どうか。ここで終わらせて欲しい。この泥まみれの、血塗られた人生を終わらせて欲しい。
花織は牢屋内のベットに横たわると、ゆっくり目を閉じた。
優しい兄だった。常日頃、私を気にかけてくれて、屋敷内の誰からも愛されていた。
だけど残念なことに、兄には才能がなかった。
魔導士と呼べるだけの才能が。
「兄様、あのね。」
「ああ、少し待ってくれ、花織。」
段々と、兄と接する時間が減っていった。そしてそれと時を同じくして、私に対しての稽古が激しさを増していった。
ようするに、才能のある私の方が、才能のない兄より優先されたのだ。それでも、変わらず兄が私の日々の心の支えだった。常に優しい兄は、私にとっての生き甲斐だった。
次第に、兄のように優しくなろうと思うようになった。
常に誰かの幸せを願い、常に人のために生きる。
だけど、それは突然終わりを告げることとなる。
突如、兄がいなくなったのだ。
「貴方が変わらなければこの家は終わりですよ父さん!母さんの時もそうやって…」
「うるさい!出ていけ!お前など息子でもなんでもない!」
「……わかりました。」
身支度を整え、出ていく兄の姿を見てしまった。その寂しそうな背中を、私はいまだに忘れることができない。
そしてそれと反比例するように、私への稽古は激しさを増していった。身体中には傷がつき、意識を失うのは日常茶飯事。結局、あの事件があってもこの家は何も変わらなかったのだ。そして、心の支えを失った私に、とある異変が起こるようになる。人格が乖離し始めたのだ。普段のおとなしい私とは別の、狂乱した人格。分裂しているわけではない。だが、別人のような自分自身がいることを自覚していたのは事実だった。
そうするうちに、学校では孤立し、家のものも私を避けるようになった。どこか、誰か。救いはないのか。
そう求めるうちに、とある話が私の耳に入った。
「くそ!例の隠し子は何処だ?!」
父と従者との会話だった。どうやらまだ見つかっていないらしい。聞くにその隠し子は男だと言うじゃないか。
もし、才能があれば。代わりにこの苦痛を彼が味わう事になる。それだけは避けたかった。
もっと、もっとやらなければ。もっと強くなれば良い。隠し子が見つかったときに、自分がこれを引き受け続けられるように。
そして、ついにその時は来た。
分家の崩壊だった。政界にまだギリギリ力を持っていた私たち玄式家は、それによって突然に没落を始めた。分家が隠し子を作り、更には家のものに奴隷に近い労働をさせていた、と言った内容。アレほど大きかった屋敷は二回り小さくなり、屋敷の従者は半分いなくなった。
「クソ!ドラゴンクロウに目をつけられたか…」
「しかし…花織様ならば大丈夫でしょう。跡を継ぐのに既に十分な…」
「今はそれどころではない!」
父と従者との言い争いが日夜続いた。だが、それで良かった。私が居たから、彼らはウチの家の手から逃れられたのだから。
そうして私は成長し、魔道士になった。
だけど、何年にもわたって積み重なった私の努力の結晶は弊害をもたらす事となった。もう一つの人格が暴走を始めたのである。行く先々で問題を起こし、最後には海外に渡される事にまでなってしまった。
私の生きてきた証、やってきた意味はなんだったのだろう。
「……」
それは、1人夕飯を買いに出掛けていた時だった。
その日放心していた私はカバンをひったくられてしまった。
すると、その先にいた1人の男によってひったくりは止められたのだ。
その顔を見たとき、私は膝から崩れ落ちた。
「あ、貴方の…名前は…」
「黒式…ケインっすけど…」
「うっ…ううう…ああああ!」
思わず泣き出してしまった。よかった、自分のやってきた事に意味はあったんだ。私が居たから彼ら生きていられるんだ。
そして私は国公魔導士を辞め、ドラゴンクロウに入った。
彼らといる時間は楽しかった。自分と似た境遇の人間ばかりで、通じ合える仲間に初めて出会えた気分だった。
ドラゴンクロウの盾があってか、既に没落した家は手出ししてこなかった。
そして今から半年前、私は家に帰った。
「お前には、天叢雲剣を生成する上での犠牲になってもらう。それまでの半年、自由にすることを許そう。」
死への恐怖はなかった。ただひたすら、悲しかった。彼らに会えないことに。そして、父親がこんなにも冷酷な人間であることに。
だから必死で刀を握った。刀を振るった。せめて最後に、彼らに貢献できるように。
だが、結果は散々。魔人決戦では魔族に両足を斬られ、デウス.エクス.マキナのアイラアドラには出し抜かれた。
最早私の存在意義などどこにも残っていなかった。
だから、どうか。ここで終わらせて欲しい。この泥まみれの、血塗られた人生を終わらせて欲しい。
花織は牢屋内のベットに横たわると、ゆっくり目を閉じた。
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