Heavens Gate

酸性元素

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終末編

亀裂

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「フリーク司令官、本作戦…失敗致しました。」
フリーク.マクドレアは、一瞬黙り込んだ後、口を開いた。
「…被害は?」
「アースラム.アレキサンダー准尉が殉職いたしました。
……どのように致しましょう?」
「食料は?」
「底をつきかけています。国民たちの不満も次第に激しさを…」
「分かっている!そんな事は!……まだ備蓄があるだろう。それを配給しろ。」
「で、ですがそれでは軍への補給が…」
「口答えする気か!早くやれ!」
フリークは怒号をあげる。
「……はい。そのようにいたします。」
部下は部屋から出ていった。
分かっている。自分が無能であることなど。
「クソ……メリッサ少将…どうして私なぞに……!」
コンコン、と戸が叩かれる。
「入れ。」
彼が許可すると同時に、扉が開かれた。
「……ケイン.クロシキか。」
「情勢は混乱している。アンタの苦しみは分かるよ…だけど、前回の作戦で民間人が何十人も…」
「うるさい!ではどうすれば良かったと言うのだ!全員守れるのか?!ああそうだろうな!貴様の力を持ってすれば、全員守る事も可能だろうさ!だが……だが…!それは目につく範囲だけだ!手元に収まらぬ範囲の者まで守れとでも言うのか?!」
またもやフリークの怒号が飛ぶ。
被害は増すばかりだった。毎日数百人が死んでいく。食料は殆ど尽きかけている。住民は、その責任がフリークにあるとし、反政府運動まで起こり始めていた。
「大統領も死んだ。今政府と言えるのはここだけなんだ。…アンタ1人で抱えちゃいけない。協力できる事があれば…」
「黙れ!そう言って貴様も私を裏切ろうとしてるのだろう?」
「それは違う。ただやり方を…」
「出て行け!政治も指揮もわからん犬め!」
フリークは机を叩く。
「俺は信じてるからな、アンタの事。」
ケインは部屋を後にした。

「フリーク指揮官は一体何を考えているんだ…?」
「ドラゴンクロウの方がよっぽど…」
「打倒されて改革でも起きた方がいいだろう。」
陰口が周囲から聞こえる。
ケインは何も言わずに、ひび割れた廃墟を右に曲がった。
「クソ!」
ドン、と壁を殴りつける。
「……帰るか。」
ケインは自身の住居へと戻った。

「あ、お帰りなさい先輩。」
レドが入り口で彼を出迎える。
「………」
ケインは何も言わずに、ワシワシと彼の頭を掴んで撫でた。
「え…ちょっ…何してるんですか。」
「いや、何もねえわ。」
彼は部屋の奥に進む。
「よーし、ガキども。飯だ飯。」
カンカンカン、と鍋を叩きながら、シャーロットは子供達に呼びかけた。
「シャーロットおばさん!」
嬉しそうな表情で、子どもたちは彼女に駆け寄った。
「おばさんじゃねえお姉さんだガキども!」
子供達の世話は主にシャーロットが担っている。長く生きてきた為か、そう言った扱いには長けている様だった。
「さーてさてさて…よし、出来た。超ウルトラスーパーハイスピード炊き上げ鍋!」
クレアは、天高々に鍋を持ち上げる。
「……今度は大丈夫なんだろうな?」
恐る恐るケインは質問する。
「ああ!大丈夫さ!ただし目安の時間を3秒過ぎたら料理が爆発するがね!」
「はい、却下。」
彼はクレアから鍋を取り上げた。
「ああ!超ウルトラスーパーハイスピード炊き上げ鍋ー!」
「それいちいち言うの疲れない?」
ケインは床にあぐらをかくと、運ばれて来た食事を口にする。
「うん…美味い。」
彼はレドに親指を立てた。
「どうも。」
「皆さんには助かっております。…本当にありがとうございます。」
この住居の大人達。彼らはケインに頭を下げた。
「ああ…いや。好きでやってるんで、俺らも。」
「これっぽっち…?」
花織はしょんぼりとした表情を浮かべ、お椀を見つめていた。
「お前は食いすぎ!」
一同は一斉に言い放った。

夜になり、ケインは空を眺めていた。
「やあ、ケイン氏。」
「ああ、クレアか。……監視の交代はまだだぞ?」
「いや…私個人の質問がしたくて、ね。
この先、どんどん人が死んでいくだろう。それでも、君は進み続けるのかい?仮に仲間が死んだとしても。」
「ああ…進むさ。俺は何としても進む。
……俺は思うんだ。きっと魔族も分かり合えるってな。」
「…夢を語るのはいい事だ。」
「馬鹿言え、夢なもんか。ノーマンさんが魔族の区域に遠征してる。それでどうなるか、だな。そういや…所長はもう行ったのか?」
「ああ…シャーロット氏は遠方への救助にね。
この状況で長期活動できるのは彼女だけだ。……まだ生き残っている人間がいるかも知れない。」
「そうだよな……なんとかみんなで助かって…そんでもって…」

突如、大きな揺れが起こった。
「なんだ?!」
『魔族の大群が接近!直ちに避難してください!』
アラートが辺りに鳴り響く。
「クソ…!来たか!」
ケインは遠くを見る。
「なんだ…あの量………!」
それは、地平線を覆いつくさんばかりの量の無知性魔族だった。
「くそっ…!どうすれば…!」
下手にここで魔力を消費すれば、民間人を巻き込んでしまう。
そう迷っている間に、魔族たちから光線が発射された。
まるで何かを捉える網のように、急速に周囲に広がっていく。
「畜生…畜生おおお!」
ケインは黒い穴を空中に広げ、それら全てを吸収した。
「ケイン氏!そこで止めてくれ!これ以上は民間に被害が出る!」
「分かってる…!」
ケインは黒い穴を消すと、両手から刀を取り出す。
「先輩…!」
「レド、お前は避難の誘導を!花織!クレア!行くぞ!」
「おう!」
「分かってるさ!」
4人は一斉に散らばっていく。
「おおおおおおおおお!はあ…はあ…おおおおおおおおお!」
無我夢中、一心に魔族を斬っていく。
血液以外視界に入らない。
内臓以外頭に入らない。
ひたすらに、魔族を殺す。それだけ。
それだけだった。
それだけ?…俺はこのまま、戦って死ぬのか?もしや1人で…
いや、それで良い。それが俺のやりたい事なんだから。俺が決めた事なんだ。だから…だから…
グシャ、と何かが壁に叩きつけられた。
その姿は、紛れもなく、クレアの姿をしていた。
「……クレア!畜生…畜生…返せ……返せえええええええええええ!」
1、10、100、1000………最早何体斬ったかも分からない。怒号を上げながら、敵を斬って行った。
「はあ…はあ…はあ…うおおおおおおおお!」
「ケインさん…それ以上は!」
花織が彼にしがみつき、引き留めた。
「もう…全滅しました…しましたから…」
そうだ、もう俺はここまでの強さを手にしたんだ。手にしたのに……目の前の相手すら守れないんだ。
「クレア……」
クレアの亡骸を抱え、住居に戻る。
あいつは、誰にも看取られずに死んだ。俺にとって最悪の死に方をしてしまった。
『この先、どんどん人が死んでいくだろう。それでも、君は進み続けるのかい?仮に仲間が死んだとしても。』
彼女の言葉を思い出す。進み続けられる、のだろうか。
先ほど豪語した言葉に、既に彼は自信を失いつつあった。

「先輩……」
レドが駆け寄る。
彼の後ろには、逃げ遅れた住民の死体が転がっていた。
「うう…返して…返してよお…!」
息子を失った母親が泣いている。
「もう嫌だ…もう嫌だあ!」
自殺しようとした男を、ケインは必死で引き留める。
「待ってくれ…!死ぬな!」
「ここで死ぬ!どうせ…どうせ奴らに殺されるのが運命なんだ!」
「違う……そんなのは…間違ってる…!死に方なんぞ決めつけんな!違う……!」
ケインはその場に蹲った。
涙で声を出す事ができない。
この先の未来に、希望などあるのだろうか。
「ったくケインテメエ、随分つまらねー奴になったな。」
後ろから、何者かが話しかける。
「お前……ジハイド。」
「と、オーガスタスだ。」
「あー!」
2人は、彼に近づくと、同時に頬を殴りつけた。
「よし、目え覚ましたか?…来な、良いところがある。」
ジハイドは彼らを手招きした。



「うっ……!」
朝の日差しに、アダムは起こされた。
「……」
子供達に視線を運ぶ。どうやら1人も欠けてはいない様だ。
「ん…?」
何かが、遠くに倒れていた。彼はそこに駆け寄る。
「おい、大丈夫…か…」
言葉が途切れる。
それは、人間の子供だった。
「クソ…!一体どうやってここまで…ここで殺して…」
アダムは魔能力を構える。
だが、殺す事はできなかった。
自身の子供時代が、不意にチラついてしまったのだ。
「ちくしょう…!何やってんだ俺は…!」
アダムは少女を担ぎ上げると、坂を登っていった。
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