Heavens Gate

酸性元素

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終末編

灰と蝋

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アダムは周囲の瓦礫を引き寄せ、龍に浴びせる。
だが、彼はその場から動く事なく全てを粉々にした。
「!」
アダムが動揺する隙に、龍は彼の背後へと回り込み、彼の後頭部に蹴りを叩き込んだ。アダムは勢いよく壁に叩きつけられ、その場にうずくまる。
「くそ…!」
未だ空中にいる龍に、ノーマンの刀が振り下ろされる。が、龍の両手に取り出された魔道具によってそれは防がれ、逆にそれを弾かれた衝撃により、ノーマンは後退した。
龍は斧を取り出すと、勢いよく振り下ろした。
雷撃の斧ケラウノス。」
振り下ろされた斧により、雷の柱が降り注いだ。その衝撃は大地に揺れを起こし、凄まじい突風を巻き起こしていく。
「くっ…!なんて威力…!」
ヘルガは倒れた車で避難民をガードする。
ノーマンは電撃の網の間を避けていく。1発当たれば、死。それが肌で感じ取れる。
「ここだ!」
彼は自身の拳を叩き込む。しかし、その場にいたはずの龍は、彼の目の前から突如姿を消した。否、瞬間移動したのだ。彼の背後に回り込んでいたのだから。
「…?!」
ノーマンは咄嗟に刀を背後に回し、襲い来る攻撃を防御する。しかし、振り下ろされた斧による一撃は、刀をあっさり砕いてしまった。
「がっ……!」
その衝撃により、彼の右肩が削り取られ、血が噴出する。
「この……!」
アダムは上に飛び上がると、龍に魔能力を浴びせる。
彼の攻撃によって吹き飛ばされた龍は、建物の奥へと弾き飛ばされる。アダムはそれを追いかけ、未だ止まる事のできない龍の上に覆い被さると、下へと龍を叩きつける。
だが、彼は即座にアダムに反撃を繰り出す。その場から瞬間移動すると、剣を取り出し、アダムに向けて振り下ろした。
「マジかよ…!」
剣から放たれた衝撃を、アダムは吹き飛ばす。が、その間彼の背後に移動した龍が、刀を下から振り上げた。
「三日月宗近。」
咄嗟にアダムは左へと移動するが、完全に回避する事はできない。その斬撃は、彼の右半身を切り落とした。
「がっ…!」
しまった、再生が間に合わない。このままでは…死ぬ。
彼の頭に、子供達の姿が流れる。殺したのは俺だ、生かさなきゃいけないのも俺だ。このまま、死ねるか。
「おおおおおお!」
アダムの瞳に灯りが灯る。
「魔殲…!」
龍は咄嗟に後ろに下がり、盾を展開する。
アダムは前方に魔法陣を展開させる。1、2、3、4、5……5つの輪がおり重なり、回転する。そして、魔法は解き放たれた。
天縛螺旋ジ.アンサー!」
彼の魔法が吹き飛ばすものは、最早物体に限らない。魔力、気体……あらゆる物を無へと返す、シャーロットにまで通ずる一撃。
「……仕方ない、ここで使うか。」
龍はそれに応えるように、魔殲を発動する。
10、20、30………無数の魔道具が空中に出現する。
魔道具は一度に収縮し、一つの武器へと変わる。
アダムの魔法が彼にぶつかるその寸前で、それは振り下ろされた。魔殲と魔殲、魔力同士のぶつかり合いは、凄まじい竜巻を巻き起こした。どちらが勝るのか、その結末は…即ち、相殺だった。互いの魔力は塵へと変わり、空中に霧散する。
だが、立っていたのはただ1人。龍のみだった。
アダムの瞳には、既に灯る炎はない。
魔殲に目覚めて間もない彼には、龍に叶うだけの力量は無かったのだ。
龍の魔殲の能力は、ただ一つ。単純な能力の強化。全ての能力が約20倍にまだ跳ね上がる。その代わり、持続時間は群を抜いて多く、50分間にも及ぶ。
「さて……君には死んでもらうよ。……ここで魔族と人が結託でもされたら困るからね。」
「く…そ……!」
ヨロヨロと、アダムは立ち上がる。なんとか、なんとか倒さなければ…
「おおおお!」
龍の背後からノーマンが飛びかかった。
だが、右腕の機能を失い、左腕のみとなった彼の剣戟では、龍に傷一つつける事はできない。あっさりとそれは弾かれ、ノーマンはその場に転がった。
「2人ともども……僕がちゃんと殺しますから…ね?」
優しい笑顔だった。純粋な笑顔で、龍は彼らに一歩、一歩と距離を詰めていく。
「龍……俺は……!」
ノーマンはギリ、と左拳を握る。一体、何処でこんな事になったんだ。俺はどうして、こんな風になってしまったんだ……。

「ノーマン、お前のツノは外に出してはいかん。削りなさい。」
そう言って、父は俺のツノを削った。
それにはなんとも思わなかった。ただ、ひたすらに俺は、他人に興味がなかったんだ。親に愛されていたのも分かっていたし、決して孤立していた訳でもない。だが、ただひたすらに空虚だった。人と魔族。その両方の力を併せ持つからだろうか、おおよそ人らしい感情が、俺には無かったのだ。
そうしている内に、俺は不良となっていた。どこからきたかもわからない銃を常に携帯していたが、全く使う事はなかった。そもそも俺に銃は効かなかったし、使わない方が強かったからだ。次第に、周囲の人間が俺を慕うようになっていた。強いから、ついていく。怖いから、ついていく。
なんて降らない生き物なんだ、と絶望するほか無かった。こんな社会で俺は生きていかねば行けないのか?と。
だが、とある人との出会いが、俺を変える事になる。
「あの!今度の行事参加して欲しいんですけど!」
彼女は、俺にクラス行事の張り紙を叩きつけた。学級委員長だった。学年関係なく参加する、学校の合同行事だった。
俺は行事など殆ど参加する事なく、不良仲間と屯する毎日だった上、それについて言及する人もいなかった。だから、彼女に対して、最初は嫌悪感を示した。
「ああ?なんだお前。」
「だから!貴方いつもサボってるんでしょ?!参加してくださいよ!」
「あーはいはい、考えとく考えとく。」
適当に俺は張り紙を奪い取り、その場を後にする。
「へ、ヘルガすごいね……」
「あの人やばいって話だよ…」
俺の後ろで、そんな声が聞こえる。
だが、彼女だけは違った。
「そんな事ないですよ、たぶん良い人ですし、あの人。」
思わず、振り返ってしまった。
「…何してんだ、俺。」
そう呟いて、俺は再び前を向いた。

「………」
路地裏で、俺は1人張り紙を見ていた。学生感の否めない、チープなデザインである。こんなものに時間を費やすやつの気が知れない、と思いつつ、煙草の煙を蒸した。
「こら!煙草はダメですよ!」
突如俺の後ろの窓からハルガが顔を出し、俺の煙草を奪い取った。
「……おいこら、返せ。」
「答えてくれたら返します。」
「答える?何をだよ。」
「参加するかどうか、です。」
「あー……するする。するからするから。」
「本当に?約束ですよ!」
そう言うと、ヘルガはその場を後にした。
「煙草返せよ……」
はあ、とため息をつき、俺は2本目の煙草に火をつけた。
「ヘルガ、ねえ……」
段々と、彼女に対する印象が変わりつつあった。
結局その日、俺は行事の練習に参加する事はなかった。
それが不味かったのだろう、やはり彼女は次の日も来た。
「あー!いた!来てくださいよ!」
路地裏で屯していた俺の元に、彼女は駆けつけた。
「……ちょっと行ってくるわ。」
面倒臭い、と思いつつ、俺は立ち上がる。彼女は俺の手を引き、練習に連れて行った。行事の内容は至ってシンプル。課題曲を歌うと言うもの。だが、歌詞も何もわからぬ俺は、結局上手く周りに馴染めなかった。それどころか、寧ろ周りが恐怖し、練習は上手くいかなかった。
「いきなり来て何?」
「しっ!殴られるって!」
ヒソヒソとそんな声が聞こえる。
「…めんどくさ。」
俺はその場を後にする。
だが、何者かの手が、そんな俺を引き留めた。
「待ってください……!明日も来ますよね?」
「来ねーよ、もう。」
俺は、彼女に背を向け、そのまま帰ってしまった。
くそ、なんでこんなにあいつの顔がチラつく。今までこんな事なかったのに。その日は、何故か眠る事が出来なかった。
次の日、俺の家の前に彼女が立っていた。
「お前……なんで。」
「ごめんなさい…私、分かってませんでした。」
彼女は俺に深々と頭を下げる。
「ああ……いや、良いんだよそんなの。俺の家の事情とか、知っちゃった訳?」
「ええ……」
「お前さ……ぶっちゃけ怖いだろ?俺の事。無理してやらなくても…」
「怖くないですよ、貴方は良い人です。」
あっさりと、彼女は言い放った。
「良い人って…どこが…」
「なんとなくです。」
真っ直ぐなその瞳に、思わず俺は笑ってしまった。
「ははは…!なんだそれ…馬鹿じゃねえの…?」
クズな俺を、人ではない俺を、彼女は人として認めてくれた気がした。
それから、彼女に呼ばれて練習に参加するのが日課になった。次第に周囲とも馴染んでいき、人間付き合いと言うものが分かるようになった。
だが、それを良く思わないものがいるのも確かだった。
「君さあ……ちょっとウザいよ。」
俺の不良仲間だったもの達が、彼女を取り囲んでいたのだ。
「やめて…やめて…」
俺が駆けつけた頃には、彼女には何発も殴られた跡があった。
「何…やってんだ!」
俺はその場にいた者たちを何度も殴りつけていた。無我夢中に、無心に。ひたすらに、ひたすらに。
「ごめん…なさい…」
「痛え…痛え…」
やってしまった、と気づいた頃には、通報されていた。必死でその場から逃げ出し、家に帰った。
その日は、恐怖で布団に包まり続けていた。
『お前の角は外に出してはいかん、削りなさい。』
父の言葉が頭に響く。俺は、関わるものを全て不幸にする。
何を自惚れていたんだ。俺は人間なんかじゃないんだ。
数日間、家から出る事ができなかった。むしろこのまま、引きこもってしまおうとさえ思えた。そんな時だった。
コンコン、と部屋の扉が叩かれ、俺が答えるより前に開けられた。
「え……ちょっ……!」
見ると、ヘルガだった。身体中には包帯が巻かれている。
「ほら、行きましょう?」
いつもと変わらない顔で、俺に手を差し伸べたのだ。
「ダメだよ…俺は………俺、さ。」
恐る恐る、布団から顔を出す。暫く削っていなかった角。それを彼女に見せる。
「魔族……なんだ。だから……俺は人間じゃないし……俺は…」
「だからなんですか?」
「え?」
「あなたは良い人だ。だから、私は手を差し伸べます。」
気づけば、涙が流れていた。何があっても、俺の事を見捨てなかった彼女。それが恋だと気づくには、そう時間はかからなかった。
だけど、結局どこまで行っても俺は人ではない。他人と表面上で接する事が出来るようになっただけ。その結果がこれだ。俺が、俺のせいで龍はこうなった。

「おおおお!」
ノーマンは龍に向かって走る。負けると分かっていても、それでも…それでも立ち向かわなくちゃいけないんだ。
その時だった。上空から何者かが降り注ぎ、ノーマンの前進を引き止めた。
「遠方より派遣された、ギルゼウス.ハーツクロウ。今戦いにおいて参加願おう!」
ギルゼウスは、天高々に言い放った。
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