Heavens Gate

酸性元素

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終末編

塵芥へと

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「……」
上空から降り立ったギルゼウスを、龍はじっと睨みつける。
「さて……ピンチ、という奴だな。面倒だが、さっさと始めよう。」
コキコキと首を鳴らしながら、ギルゼウスは構える。
「始めるも何も……ここは戦いの最中なんだよ!」
龍は斧を振り下ろす。だが、完全に振り切るその直前で、下から伸びた大量の骨の触手の大群により、彼の体は吹き飛ばされた。
「ぐっ…!なんて魔力の量……!」
龍は壁を蹴ると、大量の武器を取り出す。
「あー……なるほどそういうパターンか。おい、お前ら手伝え。流石に俺でもキツい。」
ギルゼウスは一歩下がると、全身から触手を生やし、後ろにいた2人を前に投げた。
「な…?!」
一瞬動揺する龍の隙を付き、2人はそれぞれの攻撃を浴びせる。
ノーマンの刀は建物を両断し、龍を落下させ、その落下する体を、アダムは地面にに叩きつけた。
「ここが狙い時…かな?」
ギルゼウスは触手を龍に向かって放つ。
雨の如き勢いで上空から降り注ぐその大群を、寝転がった姿勢のまま、龍は切り刻んでいく。
「!」
そんな彼に、アダムは追撃を許さない。背中から砲撃を構えると、魔能力を纏い、一斉に解き放った。
龍は右手を構え、それを上へと弾く。しかし、砲撃で埋められた視界の中を掻き分けたノーマンが、彼に刀を振り下ろした。
「ぐっ……!」
咄嗟に右に避ける。が、完全にかわす事はできず、彼の左腕に傷が走った。
「ふむ……手こずる訳だ。本当に人間とは思えん。」
ギルゼウスは、腕を組んで考え込むような姿勢を取る。
「よし……一斉に行くぞ。3…2…1…!」
アダムのカウントと同時に、4人の攻撃は再開された。
前に出るノーマン、攻撃を弾き飛ばすアダム、そして周囲を触手で囲い込むギルゼウス。
その攻撃を、龍は凄まじい速度で捌いていく。ノーマンの剣戟は悉くいなされ、アダムの魔法は全て回避。ギルゼウスの触手は、溶け落ちるように回避されてしまった。
ノーマンは砲撃を構え、龍に向けて射出する。この程度、最早不意打ちとすら呼べない。本来ならば。
龍が砲撃を弾いたと思ったその瞬間、彼の体が後ろによろめいたのである。アダムの魔能力は魔力にでさえも作用する。それは、他者であっても例外ではない。
「……?!」
龍の動揺は隙として現れた。その一瞬を突き、ギルゼウスは触手で彼を囲い込んだ。今更回避する事などできず、その攻撃を龍は一心に喰らってしまった。
「ぐっ……このおおおお!」
魔道具を一点に収縮させた一撃。それを、もう一度。
「よし、お前が決めろ。ノーマン.ヘンドリックス。」
ギルゼウスはノーマンや刀に骨の触手を纏わり付かせる。
ノーマンは前へと走る。回避なんて出来るはずがない。ならば正面から、受けて立つ。持ちうる限りの最大限、魔道具を刀に纏わせる。彼の前進が、急加速する。アダムの魔能力が、彼の足の推進力となっていたのである。
「おおおおおおお!」
「おおおおおおお!」
そして、剣は振り下ろされた。ギルゼウスの骨の触手が砕かれる。これが作り出した効果は、時間にして小数点程度だろう。だが、それでも……
それでも意味はあると信じて、刀を振る。
「おおおおおおおおらァ!」
その一撃は、龍の右腕を切り落とした。
「がっ……あああ…」
彼の右腕から血煙が上がる。
「まだ……終わっては……いな…い……」
それでも、尚も前進を続ける。
「龍……もう良いだろう。もう……」
「まだ終わってないんだよ!!僕は…僕は…!」
どれだけやっても、魔族も人も自ら破滅を選ぶ。
こんな汚れた生き方じゃ、滅びてしまう。
あの人と約束したんだ、僕はやり遂げると。あの人のできなかったことをやるんだ。龍は尚も魔道具を取り出す。
「まだ……終わっちゃいないんだあああ!」
剣を振り下ろしたその瞬間、彼の全身から血が噴出した。
「あ……が……!」
「龍……お前…!」
「当然だな、どう考えてもそいつの使用する魔力はそいつの限界を超えてる。何らかのドーピングでも行ったんだろう。それも寿命を前借りするような類の、な。」
ギルゼウスは、悲しそうな表情で言う。
「虚しいな……正義走った人間はこうもなるのか。……それは魔族も同じか。」
アダムは、どこか遠くを見つめながら呟いた。
「あ…ああああああ……はあ…はあ…はあ……!」
その場で悶え苦しむ龍と共鳴するように、周囲の建物が崩れ始める。
「まずい……!逃げるぞ、ノーマン。」
「え…待ってくれ、龍は…」
「諦めろ、そいつはもう助からない。」
「でも…」
龍の前に、大量の瓦礫が降り注いだ。
「…………!畜生!」
ノーマンは、地面を強く叩くと、その場を後にする。
『ああ……結局僕は……何も守れず仕舞いだったな。』

「早く……この車を押さないと……!」
倒れた車を、ヘルガは必死で押す。
「て、手伝います!」
シーラとニッシュは車を必死で押し、起き上がらせる。
「早く…次に行かないと……!」 
「早く!アンタ達も手伝えよ!」
ニッシュは魔族達に呼びかけるが、一切彼らの手は動かなかった。
「なんで人間なんぞに肩入れするのか……」
「なんで……だと…?!ふざけんな!この野郎!」
ニッシュが彼らに詰め寄ったその瞬間、何かが上から降り注いだ衝撃により、彼の体は後ろによろめいた。
「がっ……くっ……なんだ…これ…」
見るとそこにいたのは、半透明な怪物。人造人間だった。
「くっこのおおおお!」
逃げ惑う魔族達の前にヘルガは立ち、銃を乱射した。
だが、もはやそんなものは玩具に等しく、まるで効いた様子を見せなかった。
「はあ…はあ……!キャア!」
走っていたシーラは、足につまずき、勢いよく転ぶ。そんな彼女を、容赦なく人造人間は襲った。
「シーラぁぁぁぁぁ!」
ニッシュが彼女の前に立つ。そんな彼の体は、人造人間によって貫かれた。
「あ…あ…あああああ!いや…死なないで……」
ニッシュの体を彼女は抱える。
「生き…ろ……。生きろ、シーラ。君は僕らの希望だ。人と魔族を繋ぐ、希望だ。」
そう言って、彼は息を引き取った。
「この……!」
ヘルガは、人造人間の体を破壊する。
彼の亡骸を抱え、シーラは立ち上がった。
「聞いて!このままじゃ死ぬ!みんな!彼を見て!私を庇って死んだ!こうなりたい?!みんなこうなって死にたい?!
私は絶対に嫌!だから、だからみんな生きて!協力して、生き残って!」
「………!」
魔族達はニッシュの死体を見る。あの光景を見ていた。見てしまった。魔族と人が繋がりあったあの光景を。そうなってしまえば……
「………協力する。」
「俺も、だ。」
魔族達は車を持ち上げると、エンジンを入れる。
「ヘルガちゃん!」
ノーマン達が到着し、続々と車は発信していく。
「………」
ノーマンは後ろを向く。もう、会えないのか。結局、治す事もできなかったな。
「あれ……何?」
シーラは前を指差す。アダムは目を細めて前を見た。
そこにいたのは、人造人間の大群だった。
「やばい……!おい、運転できるか?」
「や、やってみる!」
ノーマンは隣の魔族に運転を譲ると、前に飛び出した。
「くそ!この……!」
ヘルガ、ノーマン、ギルゼウス、アダムは、人造人間を殺していく。
「人と魔族……か。」
魔族達は、その光景に見入っていた。もしかしたら本当に、人と魔族は歩んでいけるかもしれない、と。
「あ……!」
ヘルガは人造人間に捕まり、体を強く締め上げられる。
「ヘルガぁぁぁぁぁ!」
ノーマンは人造人間を斬る。
「……!」
着地した彼女の右方向から、またしても人造人間が襲う。
「しまっ……」
もう、間に合わない。どうすれば、どうすれば………
ああ、なんだ。簡単じゃないか。
ノーマンは、ヘルガを突き飛ばした。魔族の砲撃の光が彼を包んだ。
「好きだよ、ヘルガ。君が好きだ。さようなら。」
こうやって死ねるなら、中々悪くない人生だったんじゃないか。満足して彼は死………
その瞬間だった。人造人間の体が、跡形もなく霧散した。
「へ……?」
見ると、ヘルガが魔能力を発動していた。
「………馬鹿野郎!ふざけんな……!ふざけんじゃねえ……!変な事言い残して死のうとすんな!私の前で…死のうとなんか……すんな……!」
ノーマンの胸をドンドンと叩きながら、ヘルガはそこに顔を埋める。
「ごめん………ごめん、間違ってた、俺が。俺の…間違いだった。」
ノーマンは、ギュッと彼女を抱きしめた。
「おい、いちゃついてる暇ねえぞ。乗れ!」
アダムがノーマンの腕を掴み、車に乗せる。
「………本当に、2度としませんか?」
「ああ……しないよ。ほんとだ。」
「その口調……ようやく私の前でやってくれたんですね。」
「あ……そうか。うっかり。」
「なんでですか?なんで隠してたんですか?」
「俺なんか……こんな俺なんか見てくれないと思ったから。」
「言ったじゃないですか!そんなの関係ないって!」
「………ごめん、ほんと。」
「とにかく……あの、その。話は、後でしますからね!」
「あ…うん。」
2人は赤面する。
そんな2人の後ろに、人造人間たちは迫っていた。感知機にも反応しない特殊個体達。それが車に手を伸ばす………
その時だった。その手は、何者かによって切り裂かれた。
「………これで、僕も守れたかなあ。」
感知器にも感知できぬほど、彼の魔力は低下していた。加えて衰弱し切った体。もはや足止めさえできるか怪しい。それでも、彼は刃を振るった。いつか戦った彼女のように。
誰にも、聞こえないように。
この戦いは、誰にも見られる事はないだろう。それでも、確かに人を救えた。彼にとっては、それで良かった。
「………?」
ノーマンは後ろを向く。
「先輩?どうしたんですか?」
「いや……なんでも。」
切なげな顔で、彼は再び前を向いた。
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