INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh

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第4章 燔祭

魂を持つもの 1

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「<アマテラス>、現在、諏訪盆地、地底余剰空間へ侵入!断層構造線にほぼ一致した航路をとって進行しています。時空間相対誤差、プラマイ1.4」「構造線か。<アマテラス>、断層の重力場干渉に注意して進め!次元深度LV4でも、ハマったら抜けるのは困難だ。船を損壊する恐れもある」

現象界に比定した<アマテラス>の進行マップを睨みながら、東は田中の報告に重ねて注意を促す。

「わかってるさ!」ティムは、口を尖らせながら、それでいて慎重に船を進めている。

東に言われるまでもなく、異なる次元に存在する龍脈のあちこちに、エネルギースポットともいうべき空間情報場が観測されている。

次元を超えて、現象界の断層の動きと影響し合っている事はインナーノーツにも察しがつく。

「……二時方向、エネルギースポット大……十時ヘ避けて……3秒加速……」サニも、PSI-Linkシステムヘダイレクト接続し、アムネリアと直人が掴んだ空間情報を航行データに"翻訳"している。結局、三人がかりで何とか航路を見い出す形となっていた。

『……逃れる……許さぬ……逃れ……ては……ならぬ……』

昨晩の地震を生んだ荒狂う龍脈の中で、あの声が絶えず聴こえていた。次第にその声が、明瞭に、確かな威圧感を持って<アマテラス>にのしかかってくる。

『……くそっ!何なんだ、お前は!!姿を見せろ!!』

アムネリアのフォログラムは、直人の意志に応えるかのように、瞳を閉じて、能力(ちから)を集中させていった。彼女の導きによって、より深い次元へと直人の意識が拡大していく。

ブリッジのモニターが呼応して、光の渦の中の闇を鮮明に炙り出す。まるで、巣穴から引きずり出される蛇のような雲状の存在が、立ち込めたかと思うと、振り上げられた鞭の如きしなりをみせ、次に勢いよく伸び切り、そのまま<アマテラス>上空を襲う。

「チッ!!」ティムは回避を試みるが間に合わない。

「任せて!」直人は叫びながら、意識を<アマテラス>の前方に集中する。アムネリアは、直人の意図を読み、完璧に能力を追従させていた。

<アマテラス>上空に、シールドのエネルギーが集中し、傘のように広がる分厚い遮断膜を形成する。

見事に全身をその膜に打ちつけた"鞭"の雲は闇色のオーブを撒き散らしながら、後退する。その間、幾分、波動収束フィールドの干渉が、その存在の身体を描き出した。

蛇体だ。やはり奴奈川姫を取り込んでいた『蛇神』の一部である事はすぐに察しはつく。

「見て!」後退していく蛇体を指差し叫ぶカミラ。

「頭が……無い?」ティムは、生理的な嫌悪感のまま、声を漏らす。

蛇体らしきその存在は、頭となる部位を欠き、もぎり取られたような断面を形作っていた。その断面では、多くの人の手足のようなものが、無き頭を宙空に探し求めているかのように蠢いていた。

『ナギワ姫を失ったからだ。姫はヤツの頭にされていたんだ』直人は、『レギオン』に取り込まれていたときに、その構造のイメージを朧げに受け取っていた。

「見てくれ!」アランが、周辺時空間の解析図を示す。

首無しの蛇体を示す模式図、そして蛇体が蠢くたびに発せられる衝撃波が、次元を超越して、一定量が現象化していく様子が描き出されていた。

「これは!?」「そうだ!やはり、コイツの動きが作り出した衝撃波が、今朝の地震の正体だったんだ!」

「っつーことは、コイツを何とかしない限り……」「うむ、第二、第三の地震……いやそれ以上の災害が起こってもおかしくはない」

ティムの呟きを受け、藤川が見解を示す。

そうしている間に蛇体の雲は、どんどんと後退していく。導かれるように<アマテラス>は追跡を続ける。

藤川は、<イワクラ>オペレーションブリッジの中央パネルを睨む。中部地方の地図に、レスキューやドローンなどの情報から可視化した、地震被害状況と、PSI現象化予測反応の度合いを示す円形プロットが示され、その間を縫うように<アマテラス>の時空間測定座標を現象界に変換した光点が、点滅しながら移動している。その光点が、今、諏訪湖の北側湖岸に差し掛かろうとしていた。

諏訪湖は、周辺からエネルギーを掻き集めるように、その中央へ向かうほどPSI現象化予測反応が高まっている。噴火を待つ火口の如きエネルギー坩堝が<アマテラス>の目前に待ち構えているのだ。

「気を付けろ!そこが最大の警戒ポイント、諏訪湖の余剰空間だ!!」

藤川の言葉と同時に、龍脈のトンネルが急激に拡大し、光と共に視界が開ける。

遥か頭上に、陽の光らしき光源が作る、揺らめく幾重もの水影が織りなす陰影が、その空間の様相を朧げに描き出す。現象界の湖底とよく似ているが、数多の時空が折り重っているのであろう、景色は常に揺らぎを見せ、さながら異様な妖気にすら見えてくる。おそらく<アマテラス>の現次元よりも高次元の空間なのか、影の様なものが揺れ動くばかりで何も見えない。

<アマテラス>が追跡していた蛇体の雲も、この空間に溶け込んでしまったのようだ。

「停船よ!!サニ、状況は!?」カミラの呼び掛けに、サニの精神は、PSI-Linkの情報の海から肉体へと呼び戻された。

「……は、はい……ええ……と……」

肉体が精神の活動に馴染まないもどかしさのまま、サニは作業に取り掛かるが、ダイレクト接続解放からすぐに動けるはずもなかった。

カミラもその事に気づき、彼女の作業を待つ。

「チッ、どこいったんだ、あいつは……何も居ないのか、ここは?」船を止めたティムは、口を尖らせて呟く。

『いや……いる……オレたちの目の前に……』

直人とアムネリアは、感じ取っていた。その空間に蠢く悍(おぞ)ましいほどの気配を……

『……お見せしましょう……』

フォログラムのアムネリアが、そっと腕を持ち上げ、モニターに向けて手をかざす。すると、炙り出し絵のように影は、明瞭な形を描き始めた。

「な……なんだぁ!!?」

ティムは、思わず仰け反りながら声を上げていた。

驚愕していたのはインナーノーツだけではない。戦慄は、<イワクラ>とIMCにも等しく走る。

「しょ……所長……これは!?」

「ううむ……」

<アマテラス>から送られる映像を瞬きもなく、藤川は睨め付ける。

「カミラ。探索はここまでだ。例の多元量子マーカーを投下して直ちに帰還せよ」「……了解しました……」カミラも、目の前の光景に、<アマテラス>の現状では、これ以上の活動は不可能であることを理解していた。

「東くん……事態は思った以上に深刻やもしれん……」藤川は、手にした補助杖を固く握りしめていた。
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