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4章 美咲
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ヴィーナスリング 4章 美咲
4-2
黒竜はどんどん巨大になり、黒い炎も吐きながら世界を壊していく。僕はただそれを眺めていることしかできなかった。
「み、美咲止めろ......こんなことしてどうするんだよ? 美咲は一人じゃないよ。みんなが待ってる世界へ帰ろう? 誰もいなくなった世界でお......まえどうする......」
僕は薄れゆく意識の中で懸命に美咲を呼びつづけたが、ついに意識を失ってしまった。
「冬弥、あなたはそれでいいのですか? 美咲を守らなくていいの? 」
っ!! どこからともなく聞こえたやさしい声で意識を取り戻した僕は、美咲が僕を見下ろし、無表情のまま大粒の涙を流しているのに気づいた。そうか、そうだよな。美咲が本当に世界の終わりを求めているはずがない。
「冬弥、これで終わりにするね。もう何もいらない。こんな世界なくなってもいい! 」
「ばかを言うなぁぁぁぁぁぁ! 」
黒くて重い空気に押しつぶされていた体中の筋肉を奮い立たせると、天空を我が物顔で飛び回る黒竜を睨みつけた。そして、好きだった世界が壊されていく様を無表情に見つめる少女へ駈け出した。
「美咲! これがお前がしたかったことなのか? だったらなんで泣いてんだよ! 」
「来ないでよ、冬弥、もう、こないでぇぇぇぇ! 」
僕に向けて銃が数発打たれたが走り続けた。十秒かからない距離なのに、全身が鉛のように重く、マラソンでもしてるかのように長く感じたが、力なく立っている美咲をギュッと抱きしめることができた。
「美咲は一人じゃない。みんな美咲が大好きだよ。だから、ね、帰ってきてよ」
「ぅぅぅ、冬弥、ごめんね。ごめんなさい」
しゃがみこみ、僕の胸の中で泣いている美咲はいつもの美咲に戻っていた。
美咲が自分を取り戻すと黒竜は遠くに飛び去り、黒く変色した世界は一気に明るくなった。そして、平原だった空間は湖のほとりに変わっていた。
「ここは? 」
「お兄ちゃんとよく出かけた場所......そう、ここでお兄ちゃんが......」
「美咲! 」
美咲は意識を失っていた。僕が懸命に美咲を起こそうとしているといつの間にか僕らの前に人が立っていた。
「大丈夫だ。冬弥」
「達夫さん! 」
「よっ! ひさしぶりだな。相変わらず弱そうだなあ、トレーニングサボってると美咲を押し倒せないぞ! 」
「こんな時に何を!」言うんだって言おうと思ったけど、達夫さんは美咲に近づくと何やら呪文のような事を言いながら美咲の頭を撫でていた。
「ふう。もう大丈夫だ。美咲の精神は落ち着いたし、リアルでももうすぐ起きるだろ」
「よかった......でも、達夫さんどうしてここに? ここは簡単に入れないらしいけど? それに、その女性(かた)は? 」
「ま、いろいろな。で、この女性はヴィン子さんだ」
「ヴィン子? 」
「達夫、また、そんな呼び方をして、怒りますよ? 」
ヴィン子と呼ばれた女性は白い修道服を着ており、沙織や小町くらいの身長165cm程度、修道服は大きめで体のラインは分からないが、スラっとした面長の美人さんだった。
この声、どこかで......そうか、僕が力を初めて使った時の......いや、待て、もっと以前に......美咲が倒れていたあの時か。
「そう、冬弥、この姿では初めましてですね。でも、これまでも何度かあなたとはお話をしています。今みたいにね」
「え、どうして僕の心の声を? もしかして、思ったことが口にでてしまってる? 」
「いえ、貴方が話さなくても、ここ、ランド内では私はすべての声、心の声までも聴くことができるのです」
「すごい......ん? その力ってもしかして、僕の力といっしょ? 」
「いや、ちょと違うな。冬弥の力はあくまでも対象を限定して見るだけだろ? 彼女の力は文字通りランド内すべてを把握できるから」
「そんな力が......じゃあ、貴方もランクSSなんですか? 」
「ははは、そうか、ランクで図るか、相変わらず、あほ、だな、冬弥」
「た、達夫さんが教えてくれないからじゃないですか! それに、ひさびさにあったのにバカにして! 」
「怒るな冬弥。そうだな。ま、いいだろ。ホントのことを教えてやる。彼女はヴィーナス。すべてのエンジェルの母親であり、ランドの管理者でもある。いわば、神だな」
僕は言葉を失った。ヴィーナスは確かに神とも言える存在だけど、ランドの管理プログラムの愛称だとばかり思っていた。噂ではヴィーナスにも人格があるとか、ランド内にたまに出現して人々を驚かせるとか。でも、まさか本当に居たなんて。
「まあ、そんなに驚くな、ヴィン子は普通の人間やエンジェルには認識できないから。たまにミスって姿を見せちゃうおちゃめさんだけどな、ハハハ」
「達夫、貴方って人は。もう! 私はそんなに馬鹿な女じゃありません。
さて、冬弥。私は普段からあなた達を見ていました。美咲が力を怖がって暴走させてしまった時も。貴方が初めて力を使った時もね。でも、私は基本的にあなた達を見ているだけの存在なのです。だから、今回シェルムロイバーが悪事を働いていても手を出しませんでした。納得がいかないと思うのだけど、私に与えられた責務は人類とエンジェルたちがどの方向に向かうのか見定めるだけなのです。 」
「ま、なんだ、ヴィン子は性格が悪いからいいことも悪いことも見ているだけののぞき魔ってことだ。ま、空気みたいなもんだから気にすんな」
「たーつーおー! 」
一瞬光ったかと思ったら、達夫さんが頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「ヴィン子、止めろ、わかった、悪かった、だから、電撃はやめろ、ほんと死んじまう」
「まったく、貴方って人は私をなんだと思ってるんです? いつもいってるでしょ? 見てるだけというのはほんとにつらいものだって」
ヴィーナスはそう言うと悲しい顔をして背を向けてしまった。達夫さんはすぐにヴィーナスを抱きしめると耳元でなにやら伝えるとヴィーナスは頷き、機嫌が治ったようだった。
そうだ、達夫さんは昔から、なんていうか、女性の扱いがすごい。うらやましいような、真似てはいけないような......
「冬弥、私の存在は口外無用です。知っているのは創矢様、弥生さん、達夫、そして貴方です。いろいろ噂はあるようですが、対応はお任せします。
ただ、存在を知っていることが分かれば危険が生じてしまうでしょう。知らないで通しなさい。いいですね? 」
「はい。分かりました。えーと、一つ聞いていいですか? 創矢様って? 」
「ふふふ。なるほど。そうですね。あなたのお祖父様の創矢様は私の初期バージョンの製作者です。人工知能による人格形成、自己の書き換え、あらゆるメディア、データベースからの情報取得によって私はどんどん進歩してきました。でも、私だけでは情報が足りない。そこでエンジェルたちの学習データも取得して人間というものを理解しようとこれまでやってきています。ただ、その過程で私は一つの疑問を持ってしまったのです」
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黒竜はどんどん巨大になり、黒い炎も吐きながら世界を壊していく。僕はただそれを眺めていることしかできなかった。
「み、美咲止めろ......こんなことしてどうするんだよ? 美咲は一人じゃないよ。みんなが待ってる世界へ帰ろう? 誰もいなくなった世界でお......まえどうする......」
僕は薄れゆく意識の中で懸命に美咲を呼びつづけたが、ついに意識を失ってしまった。
「冬弥、あなたはそれでいいのですか? 美咲を守らなくていいの? 」
っ!! どこからともなく聞こえたやさしい声で意識を取り戻した僕は、美咲が僕を見下ろし、無表情のまま大粒の涙を流しているのに気づいた。そうか、そうだよな。美咲が本当に世界の終わりを求めているはずがない。
「冬弥、これで終わりにするね。もう何もいらない。こんな世界なくなってもいい! 」
「ばかを言うなぁぁぁぁぁぁ! 」
黒くて重い空気に押しつぶされていた体中の筋肉を奮い立たせると、天空を我が物顔で飛び回る黒竜を睨みつけた。そして、好きだった世界が壊されていく様を無表情に見つめる少女へ駈け出した。
「美咲! これがお前がしたかったことなのか? だったらなんで泣いてんだよ! 」
「来ないでよ、冬弥、もう、こないでぇぇぇぇ! 」
僕に向けて銃が数発打たれたが走り続けた。十秒かからない距離なのに、全身が鉛のように重く、マラソンでもしてるかのように長く感じたが、力なく立っている美咲をギュッと抱きしめることができた。
「美咲は一人じゃない。みんな美咲が大好きだよ。だから、ね、帰ってきてよ」
「ぅぅぅ、冬弥、ごめんね。ごめんなさい」
しゃがみこみ、僕の胸の中で泣いている美咲はいつもの美咲に戻っていた。
美咲が自分を取り戻すと黒竜は遠くに飛び去り、黒く変色した世界は一気に明るくなった。そして、平原だった空間は湖のほとりに変わっていた。
「ここは? 」
「お兄ちゃんとよく出かけた場所......そう、ここでお兄ちゃんが......」
「美咲! 」
美咲は意識を失っていた。僕が懸命に美咲を起こそうとしているといつの間にか僕らの前に人が立っていた。
「大丈夫だ。冬弥」
「達夫さん! 」
「よっ! ひさしぶりだな。相変わらず弱そうだなあ、トレーニングサボってると美咲を押し倒せないぞ! 」
「こんな時に何を!」言うんだって言おうと思ったけど、達夫さんは美咲に近づくと何やら呪文のような事を言いながら美咲の頭を撫でていた。
「ふう。もう大丈夫だ。美咲の精神は落ち着いたし、リアルでももうすぐ起きるだろ」
「よかった......でも、達夫さんどうしてここに? ここは簡単に入れないらしいけど? それに、その女性(かた)は? 」
「ま、いろいろな。で、この女性はヴィン子さんだ」
「ヴィン子? 」
「達夫、また、そんな呼び方をして、怒りますよ? 」
ヴィン子と呼ばれた女性は白い修道服を着ており、沙織や小町くらいの身長165cm程度、修道服は大きめで体のラインは分からないが、スラっとした面長の美人さんだった。
この声、どこかで......そうか、僕が力を初めて使った時の......いや、待て、もっと以前に......美咲が倒れていたあの時か。
「そう、冬弥、この姿では初めましてですね。でも、これまでも何度かあなたとはお話をしています。今みたいにね」
「え、どうして僕の心の声を? もしかして、思ったことが口にでてしまってる? 」
「いえ、貴方が話さなくても、ここ、ランド内では私はすべての声、心の声までも聴くことができるのです」
「すごい......ん? その力ってもしかして、僕の力といっしょ? 」
「いや、ちょと違うな。冬弥の力はあくまでも対象を限定して見るだけだろ? 彼女の力は文字通りランド内すべてを把握できるから」
「そんな力が......じゃあ、貴方もランクSSなんですか? 」
「ははは、そうか、ランクで図るか、相変わらず、あほ、だな、冬弥」
「た、達夫さんが教えてくれないからじゃないですか! それに、ひさびさにあったのにバカにして! 」
「怒るな冬弥。そうだな。ま、いいだろ。ホントのことを教えてやる。彼女はヴィーナス。すべてのエンジェルの母親であり、ランドの管理者でもある。いわば、神だな」
僕は言葉を失った。ヴィーナスは確かに神とも言える存在だけど、ランドの管理プログラムの愛称だとばかり思っていた。噂ではヴィーナスにも人格があるとか、ランド内にたまに出現して人々を驚かせるとか。でも、まさか本当に居たなんて。
「まあ、そんなに驚くな、ヴィン子は普通の人間やエンジェルには認識できないから。たまにミスって姿を見せちゃうおちゃめさんだけどな、ハハハ」
「達夫、貴方って人は。もう! 私はそんなに馬鹿な女じゃありません。
さて、冬弥。私は普段からあなた達を見ていました。美咲が力を怖がって暴走させてしまった時も。貴方が初めて力を使った時もね。でも、私は基本的にあなた達を見ているだけの存在なのです。だから、今回シェルムロイバーが悪事を働いていても手を出しませんでした。納得がいかないと思うのだけど、私に与えられた責務は人類とエンジェルたちがどの方向に向かうのか見定めるだけなのです。 」
「ま、なんだ、ヴィン子は性格が悪いからいいことも悪いことも見ているだけののぞき魔ってことだ。ま、空気みたいなもんだから気にすんな」
「たーつーおー! 」
一瞬光ったかと思ったら、達夫さんが頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「ヴィン子、止めろ、わかった、悪かった、だから、電撃はやめろ、ほんと死んじまう」
「まったく、貴方って人は私をなんだと思ってるんです? いつもいってるでしょ? 見てるだけというのはほんとにつらいものだって」
ヴィーナスはそう言うと悲しい顔をして背を向けてしまった。達夫さんはすぐにヴィーナスを抱きしめると耳元でなにやら伝えるとヴィーナスは頷き、機嫌が治ったようだった。
そうだ、達夫さんは昔から、なんていうか、女性の扱いがすごい。うらやましいような、真似てはいけないような......
「冬弥、私の存在は口外無用です。知っているのは創矢様、弥生さん、達夫、そして貴方です。いろいろ噂はあるようですが、対応はお任せします。
ただ、存在を知っていることが分かれば危険が生じてしまうでしょう。知らないで通しなさい。いいですね? 」
「はい。分かりました。えーと、一つ聞いていいですか? 創矢様って? 」
「ふふふ。なるほど。そうですね。あなたのお祖父様の創矢様は私の初期バージョンの製作者です。人工知能による人格形成、自己の書き換え、あらゆるメディア、データベースからの情報取得によって私はどんどん進歩してきました。でも、私だけでは情報が足りない。そこでエンジェルたちの学習データも取得して人間というものを理解しようとこれまでやってきています。ただ、その過程で私は一つの疑問を持ってしまったのです」
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