ヴィーナスリング

ノドカ

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4章 美咲

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 「ここが美咲の世界。でも、今日は明るいな。清々しい雰囲気だ」
 「そうですね、美咲がいつも思っている世界なのでしょう」 
 「冬弥殿、美咲殿」

 囚人服からスーツに戻っていたヤンが僕らの前に現れると一礼した。
 「さすがですね、あの防衛プログラムさえ破られるとは......私ももう少し頑張らないといけません。しかし、冬弥、あなたの力は今後も大きくなっていくでしょう。そしてついには美咲とぶつかってしまうかもしれません。その時、あなたはどうしますか? 」
 「なんだよ、急に。別にどうもしないさ。美咲と戦う気はまったくない。でも、美咲が力に負けそうになってたら......全力で止めるよ」
 「そうですか。もちろん、私もサポートを全力でします。ですが、美咲の力はすべてを無にする力。私ではたぶん守れません。ライラ殿でもね。でも、冬弥殿あなたなら、力に乗っ取られた美咲であっても引き戻せるはずです。その時には私の力もすべてあなたに預けます。心置きなく使ってください」
 「まいったな、みんな買いかぶり過ぎなんだよ。僕はやれることをするだけだよ。美咲を守るためにね。でも、ヤン、君がタクのように居なくなったら美咲は悲しむと思う。だから自己犠牲は止めよう。自分を守って美咲も守る。約束して」
 「ありがとうございます。冬弥殿。ライラ殿、ほんとうによいマスターに出会えましたな? 」
 「そうでしょ。ふふふ。でも、ヤン、一つ間違ってるわよ? 冬弥は私が育てたんだからね! これからさらにいいと男に育て上げるの! 」
 「ら、ライラ、お前ってやつは! 」

 僕はヤンに別れを言うと力を収めた。戻ってくるとそこはリアルのベッドであり、美咲や母さんが心配そうに見ていた。
 「冬弥! 目が覚めた? ここが分かる? 」
 「美咲? 母さん? そうか、僕、力を使いすぎたんだね。まったく、ライラにそそのかされてひどい目にあったなあ」
 「いえ、それは違うわよ。ライラちゃんには私から頼んだの。あなたの力を知るいい機会だったしね。それでどう?防衛モードを突破した感想は? 」
 「感想も何も別になにもないよ。美咲の中はきれいな世界だったし、とても気持ちのよい感じだった」
 「お、そうすると、美咲の裸も見られたんだな? このすけべが! 」
 「達夫さん、そうじゃないって! み、美咲? 違うぞ、裸は見てないし、世界がだな、そう、きれいな空間が広がってただけだから! 」

 美咲はまくらに穴が開きそうなほどのパンチを繰り出すとそのまま僕に抱きついて泣いていた。
 「もう、心配ばっかりかけて! 急に意識がなくなるし、声をかけても反応がないし、おば様は心配ないっていうけど、すごく心配したんだから! 」
 「わわわ、ごめんな美咲、もうしないから。なっ! 」
 「美咲、ごめんなさい、弥生様からの指示とはいえ、力の解放が過ぎました」
 「ま、無事だったからいいじゃないか。で、冬弥、いくらまで上げたんだ? 」
 「ライラが言うには8割ってところかな? 」
 「な! まじでか。冬弥すごいじゃないか。弥生さん、これはまじでおお化けするかもしれないね。ヴィン子が会いに来るわけだ」
 「達夫くん、このことは内密にね。あの上司にもよ? いい? 」
 「分かっていますよ。それにしても、美咲といい、冬弥といい、ランクSSが二人も揃うなんてこれからが楽しみだな」

 ヤンが強化されたことで美咲の強化トレーニングメニューからヤンのトレーニングが外され、明日からは僕と美咲の力のコントロールを中心に行なうことになった。
 「今日はここまでにしましょうか。ヤン、これからも美咲ちゃんをよろしく頼むわね。美咲ちゃんは一人でなんでもこなす子だから問題ないと思うけど、力の制御がうまくできない可能性はあるから注意してね」
 「分かりました。弥生様。美咲様、改めてよろしくお願いいたします」
 「こちらこそよろしく、ヤン。私のことは美咲でいいわよ。さぁてお腹もすいたし、ひさびさに達夫兄さんの手料理が食べたいなあ? 」
 「しかたねえな。家に戻るのもひさびさだし、今日はたくさん作ってやるよ。弥生さん、冬弥もどうだ? ひさびさに一緒に食べないか? 」
 「そうね、お言葉に甘えようかしら、冬弥もいいわね? 」

 達夫さんの手料理は1年ぶりくらいだろうか。筋肉質な体に似合わず繊細な料理を作るから毎回好評なんだけど、僕はいい思いでがあまりない。

 達夫さんらしいというか、料理の中で必ずわざと外した料理をいれてるんだよね。みんなで食べてるのに、決まってそれを僕が食べてしまうのは何故なのか.......あまりに外した料理ばかり食べるものだから、かわいそうになった美咲に分けてもらって食べた記憶しかない。今日こそはまともな料理を食べられますように。

 
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