ヴィーナスリング

ノドカ

文字の大きさ
上 下
43 / 45
5章 新型パペット

5-6

しおりを挟む
5-6

  相良隊長は創矢おじいちゃんと雑談を始め、僕には達夫さんと赤城さんがついて説明をしてくれた。
 「つまり、こういうことですか? おじいちゃんが作っていた分離型パペットを僕が実験台として利用する。成果は自衛隊の新型装備の参考になると? 」
 「お、冬弥、理解が早くていいぞ、少しは大人になったってことだな。うんうん。俺はうれしいぞ! 」
 「ちょっとまってよ。いろいろ突っ込みたくてしかたないけど、一番の疑問はパペット戦で分離型はいい結果を残していないし、第一、重量制限があるから、分離型は武装が弱くなって試合に勝てないよ」
 「そりゃ、お前、探索用にしか使ってない、そして、1人で2つの機体を効率的に操作できなかったからだろ? エンジェルすら乗っていない、無人操縦タイプなら人間相手じゃ勝てないよな。でも、創矢さんのシステムは両機ともエンジェルが操縦する。そうだ、ライラが操縦できる。お前は2機のパペットに指示を出す、指揮官タイプならもってこいのパペットだろうが? 」
 「いやいや、2機に分かれて数は増えても戦闘力が2分の1じゃなくて、もっと下がっちゃうよ。今でも攻撃力が足りなくて個人戦やばそうなのに......」
 「なんだおまえ個人戦がんばるのか? おまえ指揮官タイプだろ? もともと個人戦だめだろうが? なに!? 美咲を倒すためにがんばってるってこと? それなら早く言え、みっちり格闘技叩き込んでやるぞ? 」
 「違うって、もう! 話がおかしな方にいったよ? 美咲は関係なくて、僕のように個人技が弱いタイプは武装に頼らないとだめだろ? ってことだよ! 今から重武装型へ転換しようと思ってたのに、真逆のパペット使えって言われても分からないよ」

 
 僕の訴えは達夫さんには右から左へスルーされたが、赤城さんは理解を示してくれた。赤城さんも僕と同じで個人技が弱く、パペットはあまり動かさずに敵を引きつけて倒す、もしくはステルス戦に特化させているらしい。達夫さんと赤城さんはそれぞれアドバイスをくれたのだけど、そのまま僕へのアドバイスという名の言い争いに展開しそうなところで、相良隊長が助け舟を出してくれた。
 「冬弥くん、大事なのは目的を果たすことじゃないのかな? 今の君の目的は工科学校に入ることだろ? そして目の前の関門はパペット戦の地区戦。我々の新型システムを使って戦ってみることが最短ルートだと思うがどうだろうか? 重武装、ステルスともまた使ったことが無いシステムだと聞いているよ? ほんとうに君がしたい戦いかな? それは? 」
 「それは......」
 相良隊長は威圧するでもなく、どちらかと言えばやさしく諭すように分離型を薦めてくれた。僕も分離型は考えていた。ただ、ライラとのコンビネーションがうまく取れない、というよりも僕の操縦するパペットが足を引っ張るので戦闘にならないのだ。僕はパペット戦のセンスが無い。


 僕がぶつぶつ言いながら、考えにふけていると皆が心配して集まっていた。
 「い、いや、す、すいません。僕のわがままでしょうね。ほんとすいません。僕もよくわからなくなっているんです」
 「まったく、冬弥はほんとに心配症だな。うじうじ野郎は美咲に嫌われるぞ? まったく、自分の特性は自分だけが知っていると思わないことだよ。お前をずっと見てきた俺らを信じろ、な! 」
 「ずっと見てきた? もしかして、ストーカー? 」
 「違う! はあ、お前の小さいころから見てるんだよ。俺ら自衛隊、そしてビーナスが」
 「やっぱりストーカー? 」
 「お前は、どこまで天然なんだ! 」
 達夫さんにこづかれてようやく理解した。これはビーナスからのプレゼントでもあるんだと。おじいちゃんが作ってビーナスが認める。もしくは逆かもしれない。

 「分かった。使ってみるよ。ただ、これから操縦訓練して間に合うかな? 」 
 「大会にか? 問題無いじゃろ? ライラ、パターンMを実行、自己分析せよ」
 おじいちゃんが「パターンM」と呼ぶマニュアル、想定される戦闘パターンファイル群はライラによって解析されると、パペットは操縦できる状態になった。もちろん、ライラだけじゃなくて後で僕も読まなくちゃいけない。読む前から嫌な予感がしたけど、ライラが電子マニュアルを本の形で僕の目の前に積んだのを見せてくれて確信した。僕の身長よりも高く積まれるマニュアルなんて読めない!

 ただ、実際にはライラから必要に応じて情報がもらえるし、練習モードでパペットの慣らしをしながら覚えていけばいい。でも、ちょっと頭がくらくらするね。


 「相良隊長、民間人の協力が受けられました。このまま新型分離型機構についてブリーフィングを行いたいのですがよろしいでしょうか? 」
 「ああ、達夫くん、よろしく頼むよ。ただ、技術的な詳細は省く方向で頼む、特に冬弥くんには分かりやすくな? 」
 「了解しております、では、新型の機構についてご説明しますので、HMDをお願いします」
 パチン! 達夫さんが指を鳴らすと僕らはプライベートランドのガレージ内に移動していた。以前事故があったガレージは綺麗に片付けられ、見慣れないパペットも数台あったが、ガレージの奥に一際目立つ、1機の蒼いパペットがたっていた。初めて見る機体なのに、ずっと一緒に戦っているかのような懐かしさを感じていた。
 「これが新型実証機、蒼龍1号機です、現在は合体しているので1機ですが、2機に分離できます」
 達夫さんがアイコンタクトをするとロザリーがなにやら操作をし、「分離開始」と掛け声をかけると蒼龍の胸から腰にかけて蓋のようなものが開き、中から小型のパペットが現れた。
 「ま、マトリョーシカ! 」
 「違う! 」

 達夫さんのツッコミが入ったけど、どうみてもおみやげで貰いそうな人形。正直、がっかりした。てっきり、腕とかがロボットに変形すると思ったから。
 「あのな、冬弥、いくらモーターとバッテリーが小型化されたといっても変形は大変なんだぞ? まったく。アニメの見過ぎだ。ごほん、説明を続けます。

 蒼龍は親機となる機体と中に子機である小型パペットを搭載する機体です。現在は内蔵できる機体が1機ですが、将来的にはさらなる小型機を搭載することも検討されています。蒼龍は第2次大戦期に航空母艦として竣工していますが、現代においてもパペット母艦として活躍が期待されております。

 母艦である蒼龍に搭載する小型パペットは、小型汎用パペット零式を利用します。通称ゼロ。装甲は一般的なパペットの3分の1ですが、機体の軽さと高出力モーターでさまざまなミッションが可能です。また、母艦である蒼龍の装備を利用することも可能となっていますが、重量がかなりあるので機動性などは落ちることもあります。
 母艦蒼龍についてはゼロのモーターが利用可能で機動性は充分ですが、ゼロ分離後は機動性が著しく落ちます。しかし、汎用プロテクタを利用できますので戦闘継続は可能です。が、個人的には戦闘は基本ステルスモードをオススメします。
 蒼龍、小型汎用パペット零式については以上です。」


 達夫さんの説明が終わるとロザリーは「合体!」と号令をかけ、ゼロを蒼龍に合体させていた。合体直後に蒼龍の目が光るのはたぶん製作者の趣味だろうな。
 「どうだ、冬弥、かっこいいだろ、この機体! 分離、合体は男の夢だ! すげえだろ? もちろん、パペット戦に使えるようにカスタマイズしてある、重量、装備オプションともだ。すぐにでも公式戦に出られるぞ? 」
 「出られるぞ! じゃない! どうみても戦闘スタイルに汎用性がないじゃないか! ステルス以外ありえないでしょう? 格闘はまだしも、力技で重火力で来られたらひとたまりもない。装甲が圧倒的に足りないよ? 」
 「さすが創矢殿のお孫さんですな。すでにパラメータはチェック積みか。そうだね。装甲、攻撃オプション数など一般的なパペットの半分以下だ。そりゃ心もとない。だが、冬弥くん、今君は1人で戦うことを想定しすぎているんじゃないだろうか? 

 蒼龍、ゼロ両方を使いこなせたら、一撃必殺からじわじわ削る戦いまで自由自在じゃないか? 必要なことは与えられた武装で何ができるか? 最大限機械の能力を引き出してやったか? ではないかな。
 冬弥、ライラ組にしかできない戦闘スタイルを作るには絶好の機体だと思うよ」
 相良隊長は優しく、興奮して周りが見えていなかった僕を諭してくれた。隊長というよりも先生という感じかもしれない。
 「分かりました。使ってみます。ただ、正直、この機体を今は好きになれません。すいません」
 「それでいいんだよ。使ってもらえるだけで我々は充分だ」

 相良隊長と握手をすると僕とライラは蒼龍、ゼロに乗り込んだ。



しおりを挟む

処理中です...