ヴィーナスリング

ノドカ

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5章 新型パペット

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 研究所は相変わらず不気味で怪しさ満点だったが、ただ一つ違いがあるとすれば、入り口に「ご用の方はこちら」という看板と古めかしいディスプレイがあることだった。
 「おっ! あの爺さんちょっとは社交的になったってことかなあ? どれどれ......ん? これを押せばいいのか? 」
 達夫さんが怪しいディスプレイにタッチすると「少し下がってください」と表示され、建物全体が震え始めた。
 「な、なんですか? ん? なにか来ます! 」

 赤城さんが達夫さんの後ろで身構えると、ディスプレイが床に収納され、ディスプレイの後ろの壁が開き「がしゃがしゃ」と音を立てながら何かがやってきたのは、派手な装飾をし、電飾がピカピカ激しく点滅するロボットがぎこちない足取りでやってきたのだった。
 「お、お客様、どういった御用でしょうか? 」
 「しゃべった! 」

 その場に居る人間の注目を一心に集めたそのロボットは、極端に頭を上下させながらぐるぐるとその場で回り始めると突然動きが止まってしまった。
 「え、えーと。止まっちゃいましたね。隊長、どうしましょう......? 」
 「そうだな、止まったな。ただ、先方からはここに来るようにとの指示だったんだろ? 」
 「はい。そうなんですが」
 赤城さんはそういいながらロボットを棒でつついていたが、反応が無いと分かると後ろから蹴り飛ばしていた。
 「まあ、まあ、赤城、落ち着け。創矢さん! 見てんだろ? 今日は隊長もいるんだ、素直に案内してくれないかなあ」
 達夫さんの呼びかけに応じるかのように、動かなくなっていたロボットはすくっと立ち上がると、胸から小型の液晶ディスプレイが現れ、創矢を映しだした。
 「なんじゃ、わしの気遣いが気にいらなかったのか? まったく、最近の若者は。おっと、今日はきれいなお姉さんもご一緒なのか、早く言わんかい、達夫! ロザリー! 急いで皆さんを応接間にお通しして。そうそう、きれいなお姉さんには特に失礼のないようにな」
 「了解しました」

 ロボットはガチャガチャと動きながら「お車でこの奥へどうぞ」と車一台分が通れるかの小道を指さしていた。僕らが通った道とは違う。本来はこちらが正しいのかもしれない。

 
 研究所に着くと、僕らが以前通された客間に通された。前とはちょと雰囲気が変わっている。調度品がより豪華になったというか、以前なかった有名画家が描いたであろう絵画まで飾られている。なんだろ? お金でも儲かったのかな? 
 「いやあ、すまんすまん。今日お誘いしていたのにすっかり忘れておった。初めまして、相良さん、そして赤城さん、私が当研究所の高木創矢です。遠いところはるばるご苦労様でした」
 「お、さすがに、スポンサーだとまじめに答えるんだね。創矢さん」
 「ま、そうとも言うかの。じゃない! お金よりもわしの研究をしっかり見てくださったことに敬意を払うのは当然じゃろう? まったく、お前は10年くらい口にチャックでもしておれ」

 スポンサー? 研究の成果? なんだか僕がいてはいけない雰囲気なのだけど.....ただ、隊長さん含めこの場にいる人間の誰一人として、僕を部外者とは思っていないようだ。

 「さっそくですが、創矢さん、例の研究の件ですが、進捗はいかがでしょうか? 」

 さっきまで優しそうな顔をした相良隊長初め、赤城さんも真面目な顔になった。やはり僕は此処にいてはいけないと判断した。

 「あ、あの、僕、関係ないと思うんで、外で待ってましょうか? 」
 「ああ、ごめんごめん、冬弥もいてくれ、隊長よろしいですよね? 」
 「もちろんだとも、冬弥くん、ご両親の許可も取ってあるし、君にも期待しているよ」
 うーん。まったく、意味がわからん。おじいちゃんは僕を見てニヤニヤしているし、嫌な予感しかしない。
 「すいません。相良さん。僕は何が何やら、さっぱりわかりません。両親からも何も聞いていないのですが? 」
 「お、それはすまないことをした。達夫くん、彼に説明をしていないのかい? 」
 「あれ? その件なら弥生さんから説明すると聞いていたんですが......やられましたね、しかたない。相良隊長、創矢さん、数分もらっていいですか? 彼に経緯を説明したいのですが」



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