1 / 9
噂のシスター その1
しおりを挟む
草原の草木が風に揺れる丘の上の小さな教会に一人のシスターがいました。
腰まで伸びた銀色の髪に、銀色の瞳の峰麗しい少女のシスターは、街に出れば困っている人を助けてくれるそんな素敵なシスターだと、街で噂されてました。
「ティナ、早く教会の掃除しな」
「わかってるよ、めんどくさいなー」
修道服を着た少女は、銀色の髪を揺らしながら、掃除用のモップとバケツを持ち、めんどくさそうな表情を浮かべながら歩いてくる。
「クソババー毎回こき使いやがって」
高齢のシスターは、笑顔でティナを見た。
「何か言ったかい、ティナ」
「何も言ってません、シスターアンジュ」
ティナは目を逸らしながら、濡れたモップを勢いよく床に擦り付け、逃げるように教会の掃除を始めた。
ティナが掃除をしていると、女性の声と共に教会の正面扉が開いた。
「ただいま、食材買ってきたよ」
そこには、短い黒髪の背丈がティナより高い、成人女性のシスターの姿があった。
「お帰りアリア」
「おかえり」
「ただいま、アンジュさん、ティナ、街の市場でおまけしてもらって安く食材買えましたよ!」
アリアは購入した食材を教会のベンチに置いた後、修道服の袖をまくった。
「手伝うよティナ」
「おう!助かるよアリア、じゃあ後はよろしく」
「あんたもやるんだよ!」
ゴツンと音が鳴る。
ティナは涙目になりながら頭を押さえた。
「痛い、何すんだババア」
「いいからさっさと掃除しな」
「わかったよ」
嫌そうな顔をしながら、ティナは掃除を続けた。
「ちゃん掃除くらいしないと、街ではティナの事、人助けをしてくれる素敵なシスターだって噂されてるのに」
ティナは腰に手をあて、ふんぞり返った。
「噂されるのも無理はない、なんたって私は完璧なシスターだからな!!」
アンジュはため息混じりに、ティナを見た。
「何言ってるんだい、どうせティナの事だから、お礼目当てに人助けしてるだけだろうに」
アリアは苦笑いを浮かべティナを見た。
「そんな訳ないでしょ」
ティナは首を傾げる。
「助けたんだからお礼をもらうのは当たり前だろ」
「全部台無しだよー」
アリアの声が教会内に響いた。
「あぁそうだ二人とも」
アンジュの声に2人は手を止めた。
「最近近隣の教会が襲われて、シスターが誘拐される事件が多発してるらしいから、あんた達も気をつけな」
アリアは深くため息を吐いた。
「本当、世の中物騒ですね、うちの教会にお金があれば護衛を雇えるのに…」
「本当だな…もぐもぐ、金さえあればな…もぐもぐ掃除する人雇えるのに」
「ティナ、何を食べてるのかな?」
「りんごだぞ、アリアも食うか」
「今日の夕飯の食材を食べるな!」
アリアは持っていたモップをティナに投げつけた。
「ぐへっ、何するだよアリア」
「何すんだよじゃない!」
掴み合うティナとアリアを見てアンジュは笑った。
「あんた達を見てると、帝国と連合国との戦争が嘘のように思えるよ」
その笑顔は少し寂しそうだった。
「はなしぇ、アリャ」
アリアはティナの頬を引っ張りながら答えた。
「休戦協定を結んでから2年ですか、私達のいる連合国のカヌエも少し活気が戻りましたが、まだ戦争の爪痕は残ってますしね」
「あぁそうだね、さぁ不安を抱く人々のためにも、私達がしっかりしないといけないよ、2人とも遊んでないで掃除しな」
「はーい」
「はい」
2人はアンジュに言われるがまま、教会の掃除を続けていった。
あくる日ティナはカヌエの街を歩いていた。
カヌエの街は、教会が建つ丘と違い人々で賑わっていた。
街の至る所で市場が開かれ、商人達の活気ある声と市場を訪れる客の声で溢れていた。
ティナが市場を歩くと、ティナを見かけた人達が声をかける。
「おう、ティナちゃん買い物かい、うちの店寄ってきなよサービスするぞ」
「おっちゃん、また今度な!」
「ティナちゃんこないだは荷物運んでくれてありがとうね」
「おう!また困ったことがあったらいつでも頼ってくれよ」
「シスターこの前、迷子の弟を見つけてくれてありがとうございます」
「ありがとうシスターのお姉ちゃん」
「坊主もう迷子になんなよ」
ティナは声をかけてくれる人達に笑顔で返事を返しながら街の中を歩いて行った。
(本当にこの街は素敵だ、笑顔が溢れている、私はこの街が大好きだ)
日が沈み始めた頃、街の時計台の鐘が鳴る音が聞こえた。
「うわ、やばいもうこんな時間だ、早く買い物を済ませて教会に帰らないと、アンジュに怒られる」
ティナは、買い物を済ませた後、急いで教会のある丘に向かった。
街の市場から少し離れた場所は、倒壊した家があちこちに並び、舗装されていた道路も崩れ抉れていた。
さっきまでの活気溢れる市場が嘘のように思えるその場所は、かつてカヌエの街の一部だった。
戦後の復興のために切り離されたその場所は、戦争の激しさを物語っていた。
(争いは何も生み出さない奪うだけだな…私は今度は…)
ティナは歯を噛みしめながら、夕暮れに照らされた荒れ果てた道を歩いて帰った。
「ただいまー、帰ったぞ!!」
「お帰りティナ」
救急箱を持ったアリアが出迎えた。
そこでは、アンジュが見知らぬ男を手当していた。
男の服は泥で汚れ、腕には刃物で切られた切り傷があった。
「誰だこいつ?」
ティナは男を指差し、アリアに尋ねた。
「ティナもう少し礼儀正しくしなさい」
「いえいいのですよ」
怒るアリアを男が宥める。
「私は、旅の商人キーラと申します、カヌエの街の近くの森で盗賊に襲われ、教会の近くで力尽きていたところ、こちらのアンジュさんに助けて頂きました」
ティナはアンジュを見た。
「そっか、相変わらず何でも拾ってくるなアンジュは…」
「なんだいティナ、ヤキモチかい」
ティナは頭を抱えた。
「何でそうなるんだよ、嫌味だよ嫌味ーー」
「そういやキーラ、商人だったら積荷とかはどうしたんだ?」
「命からがら盗賊から逃げて来たので、積荷は全て置いてきました」
「他の仲間は?」
「いえ、私一人で商売していたので、仲間はいませんが…どうかされたのですか?」
「いや、あんたが首からぶら下げてる商人証が連合国の物だったから、市場の商人の事思い出してな、少し気になっただけだ気にすんな」
そう言うとティナは、その場から離れ始めた。
「どこ行くんだいティナ」
「物置に荷物を置きに行くだけだよ」
「あんたまだ掃除が残ってるよ、サボるつもりじゃないだろうね」
ティナはその場から逃げるように走り始めた。
「ティナーーー」
アンジュの怒鳴り声を無視してティナはその場から立ち去った。
アンジュは深くため息を吐いた。
「まったくあの子は…」
アンジュはティナの走り去った方向を見つめていた。
その瞳は母が子を見るような優しい瞳だった。
「はい、治療終わったよ」
「ありがとうございます、何かお礼を…」
「いいよそんなの、これも私達の仕事だよ」
「すいません、ありがとうございます」
「怪我人を放置できないからね、今日はここで泊まっていきな」
キーラは深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
「いいさ、私は仕事に戻るから、アリアこの人を部屋まで案内してやりな」
「わかりました、キーラさん部屋まで案内するのでついて来てください」
そう言うとアリアは歩き始めた。
「最近近くの街で教会が襲われたと噂を耳にしましたが、ここでは護衛を雇ってないのですか?」
キーラの質問にアリアはため息混じりに答えた。
「うちには護衛を雇う程のお金がありませんからね、それどころかよく食べる子供に、お人好しのシスターのせいで借金まみれですよ」
アリアは今にも泣きそうだった。
「あっすいません、私の愚痴になってしまいました」
「いいですよ、大変なのですね」
「ええ大変ですよ…でも大切な家族みたいな人達ですからね、私がしっかり支えないと!」
そう言うとアリアは拳を強く握った。
「アリアさんはご立派なのですね」
キーラの言葉にアリアは照れながら手を振った。
「いえいえ、私なんてそんな…あっ着きましたよ、この部屋です」
「案内ありがとうございます」
「では、ゆっくり休んでください、私の部屋はここから2つ隣の部屋なので何か困ったことがあれば訪ねてください」
そう言うとアリアはその場から立ち去った。
「ええ何かあれば、頼らせていただきます」
キーラは不敵な笑みを浮かべながら部屋のドアを閉めた。
腰まで伸びた銀色の髪に、銀色の瞳の峰麗しい少女のシスターは、街に出れば困っている人を助けてくれるそんな素敵なシスターだと、街で噂されてました。
「ティナ、早く教会の掃除しな」
「わかってるよ、めんどくさいなー」
修道服を着た少女は、銀色の髪を揺らしながら、掃除用のモップとバケツを持ち、めんどくさそうな表情を浮かべながら歩いてくる。
「クソババー毎回こき使いやがって」
高齢のシスターは、笑顔でティナを見た。
「何か言ったかい、ティナ」
「何も言ってません、シスターアンジュ」
ティナは目を逸らしながら、濡れたモップを勢いよく床に擦り付け、逃げるように教会の掃除を始めた。
ティナが掃除をしていると、女性の声と共に教会の正面扉が開いた。
「ただいま、食材買ってきたよ」
そこには、短い黒髪の背丈がティナより高い、成人女性のシスターの姿があった。
「お帰りアリア」
「おかえり」
「ただいま、アンジュさん、ティナ、街の市場でおまけしてもらって安く食材買えましたよ!」
アリアは購入した食材を教会のベンチに置いた後、修道服の袖をまくった。
「手伝うよティナ」
「おう!助かるよアリア、じゃあ後はよろしく」
「あんたもやるんだよ!」
ゴツンと音が鳴る。
ティナは涙目になりながら頭を押さえた。
「痛い、何すんだババア」
「いいからさっさと掃除しな」
「わかったよ」
嫌そうな顔をしながら、ティナは掃除を続けた。
「ちゃん掃除くらいしないと、街ではティナの事、人助けをしてくれる素敵なシスターだって噂されてるのに」
ティナは腰に手をあて、ふんぞり返った。
「噂されるのも無理はない、なんたって私は完璧なシスターだからな!!」
アンジュはため息混じりに、ティナを見た。
「何言ってるんだい、どうせティナの事だから、お礼目当てに人助けしてるだけだろうに」
アリアは苦笑いを浮かべティナを見た。
「そんな訳ないでしょ」
ティナは首を傾げる。
「助けたんだからお礼をもらうのは当たり前だろ」
「全部台無しだよー」
アリアの声が教会内に響いた。
「あぁそうだ二人とも」
アンジュの声に2人は手を止めた。
「最近近隣の教会が襲われて、シスターが誘拐される事件が多発してるらしいから、あんた達も気をつけな」
アリアは深くため息を吐いた。
「本当、世の中物騒ですね、うちの教会にお金があれば護衛を雇えるのに…」
「本当だな…もぐもぐ、金さえあればな…もぐもぐ掃除する人雇えるのに」
「ティナ、何を食べてるのかな?」
「りんごだぞ、アリアも食うか」
「今日の夕飯の食材を食べるな!」
アリアは持っていたモップをティナに投げつけた。
「ぐへっ、何するだよアリア」
「何すんだよじゃない!」
掴み合うティナとアリアを見てアンジュは笑った。
「あんた達を見てると、帝国と連合国との戦争が嘘のように思えるよ」
その笑顔は少し寂しそうだった。
「はなしぇ、アリャ」
アリアはティナの頬を引っ張りながら答えた。
「休戦協定を結んでから2年ですか、私達のいる連合国のカヌエも少し活気が戻りましたが、まだ戦争の爪痕は残ってますしね」
「あぁそうだね、さぁ不安を抱く人々のためにも、私達がしっかりしないといけないよ、2人とも遊んでないで掃除しな」
「はーい」
「はい」
2人はアンジュに言われるがまま、教会の掃除を続けていった。
あくる日ティナはカヌエの街を歩いていた。
カヌエの街は、教会が建つ丘と違い人々で賑わっていた。
街の至る所で市場が開かれ、商人達の活気ある声と市場を訪れる客の声で溢れていた。
ティナが市場を歩くと、ティナを見かけた人達が声をかける。
「おう、ティナちゃん買い物かい、うちの店寄ってきなよサービスするぞ」
「おっちゃん、また今度な!」
「ティナちゃんこないだは荷物運んでくれてありがとうね」
「おう!また困ったことがあったらいつでも頼ってくれよ」
「シスターこの前、迷子の弟を見つけてくれてありがとうございます」
「ありがとうシスターのお姉ちゃん」
「坊主もう迷子になんなよ」
ティナは声をかけてくれる人達に笑顔で返事を返しながら街の中を歩いて行った。
(本当にこの街は素敵だ、笑顔が溢れている、私はこの街が大好きだ)
日が沈み始めた頃、街の時計台の鐘が鳴る音が聞こえた。
「うわ、やばいもうこんな時間だ、早く買い物を済ませて教会に帰らないと、アンジュに怒られる」
ティナは、買い物を済ませた後、急いで教会のある丘に向かった。
街の市場から少し離れた場所は、倒壊した家があちこちに並び、舗装されていた道路も崩れ抉れていた。
さっきまでの活気溢れる市場が嘘のように思えるその場所は、かつてカヌエの街の一部だった。
戦後の復興のために切り離されたその場所は、戦争の激しさを物語っていた。
(争いは何も生み出さない奪うだけだな…私は今度は…)
ティナは歯を噛みしめながら、夕暮れに照らされた荒れ果てた道を歩いて帰った。
「ただいまー、帰ったぞ!!」
「お帰りティナ」
救急箱を持ったアリアが出迎えた。
そこでは、アンジュが見知らぬ男を手当していた。
男の服は泥で汚れ、腕には刃物で切られた切り傷があった。
「誰だこいつ?」
ティナは男を指差し、アリアに尋ねた。
「ティナもう少し礼儀正しくしなさい」
「いえいいのですよ」
怒るアリアを男が宥める。
「私は、旅の商人キーラと申します、カヌエの街の近くの森で盗賊に襲われ、教会の近くで力尽きていたところ、こちらのアンジュさんに助けて頂きました」
ティナはアンジュを見た。
「そっか、相変わらず何でも拾ってくるなアンジュは…」
「なんだいティナ、ヤキモチかい」
ティナは頭を抱えた。
「何でそうなるんだよ、嫌味だよ嫌味ーー」
「そういやキーラ、商人だったら積荷とかはどうしたんだ?」
「命からがら盗賊から逃げて来たので、積荷は全て置いてきました」
「他の仲間は?」
「いえ、私一人で商売していたので、仲間はいませんが…どうかされたのですか?」
「いや、あんたが首からぶら下げてる商人証が連合国の物だったから、市場の商人の事思い出してな、少し気になっただけだ気にすんな」
そう言うとティナは、その場から離れ始めた。
「どこ行くんだいティナ」
「物置に荷物を置きに行くだけだよ」
「あんたまだ掃除が残ってるよ、サボるつもりじゃないだろうね」
ティナはその場から逃げるように走り始めた。
「ティナーーー」
アンジュの怒鳴り声を無視してティナはその場から立ち去った。
アンジュは深くため息を吐いた。
「まったくあの子は…」
アンジュはティナの走り去った方向を見つめていた。
その瞳は母が子を見るような優しい瞳だった。
「はい、治療終わったよ」
「ありがとうございます、何かお礼を…」
「いいよそんなの、これも私達の仕事だよ」
「すいません、ありがとうございます」
「怪我人を放置できないからね、今日はここで泊まっていきな」
キーラは深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
「いいさ、私は仕事に戻るから、アリアこの人を部屋まで案内してやりな」
「わかりました、キーラさん部屋まで案内するのでついて来てください」
そう言うとアリアは歩き始めた。
「最近近くの街で教会が襲われたと噂を耳にしましたが、ここでは護衛を雇ってないのですか?」
キーラの質問にアリアはため息混じりに答えた。
「うちには護衛を雇う程のお金がありませんからね、それどころかよく食べる子供に、お人好しのシスターのせいで借金まみれですよ」
アリアは今にも泣きそうだった。
「あっすいません、私の愚痴になってしまいました」
「いいですよ、大変なのですね」
「ええ大変ですよ…でも大切な家族みたいな人達ですからね、私がしっかり支えないと!」
そう言うとアリアは拳を強く握った。
「アリアさんはご立派なのですね」
キーラの言葉にアリアは照れながら手を振った。
「いえいえ、私なんてそんな…あっ着きましたよ、この部屋です」
「案内ありがとうございます」
「では、ゆっくり休んでください、私の部屋はここから2つ隣の部屋なので何か困ったことがあれば訪ねてください」
そう言うとアリアはその場から立ち去った。
「ええ何かあれば、頼らせていただきます」
キーラは不敵な笑みを浮かべながら部屋のドアを閉めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる