意地っ張りなオメガの君へ

萩の椿

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第7話

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「旭君、僕はやっぱりパートナーを作った方が良いと思うよ」

 唐突に告げられた斎藤からの言葉に、西園寺は目を見開いた。

「……嫌です。アルファやベータを好きになんかなれません。それに、俺はあいつらに股を開きたくなんかない」

オメガは、セックスで言えば女性の役割をすることになるのだが、組み敷かれるということが、アルファやベータに屈服しているように感じるのだ。オメガを馬鹿にしているアルファやベータに性的に支配されるのは西園寺にはどうしても耐えられなかった。

「オメガの子達はね、大体君の歳くらいにはパートナーを持ってる。年々ヒートを一人で乗り越えることが難しくなるからね。僕だって十五歳からパートナーがいた」

「俺には、必要ありません」

 きっぱりと断言する西園寺に、斎藤はかすかに微笑を浮かべた。

「君だって、実感がないわけじゃないだろう。オメガの体は成熟するにあたって子を宿せる体へと変化していく。体が変わっていくという感覚は、本人が一番分かるはずだ」

 確かに、斎藤の言う通り、体の疼きが年々ひどくなってきていることを西園寺は自覚していた。でも、だからと言ってパートナーを作れと言われても素直には頷けない。西園寺は過去に何度もアルファやベータに卑下されてきた経験があるのだ。

「それでも俺は、馬鹿にしてきたアルファやベータには頼りたくない」

「皆がみんな、オメガに偏見をもっている人ばかりじゃないよ。僕のパートナーは優しい人だ」

 斎藤の表情がかすかだが和らいだ。きっと、パートナーの事を思っているに違いない。

 アルファやベータの中で、オメガに偏見を持っていない人を探すのがどれだけ難しい事か、西園寺は良く分かっている。西園寺家は旭以外全員がアルファだが、オメガの西園寺を対等に扱おうとはしない。身近にいる家族でさえそうなのだ。

(先生は運がいいだけだろ……)

 これ以上討論しても無駄な気がして、西園寺は体勢を崩してベッドに横になった。

「もう、薬は処方してもらえませんか?」

 西園寺が問うと、斎藤はため息をつきながら白衣のポケットから瓶を取り出した。

「いや、今まで処方していた薬よりも、効果の強い薬を処方しておく。けれど、指定された以上の薬を飲むとオーバードーズを起こすからね。気を付けなさい」

 斎藤はベッドの横にある、サイドテーブルに瓶を置いた。

「ヒートを薬で抑えるのは、本当は良くないんだ。薬で抑えているオメガは、ヒートの周期が狂ったり、欲望をため込んだ状態だから、ヒート時に症状が悪化しやすい」

 斎藤の言葉を聞き流しながら、確か一条も同じような事を言っていたなと思い返す。そして、蘇ってきた昨日の記憶に西園寺が眉根を寄せていた時、帰り支度を始めた斎藤が手を止めた。

「一つ、君に言っておかなければいけないことがある。君のヒート時の状態についてだ」

 ヒートを起こした西園寺の記憶は途中から途切れていた。一体自分がどんな状態だったのか、聞いておかなければならないだろう。

「君は、点滴を施している僕に、もう入れて、俺の中を突いて、楽にしてよって、懇願したんだよ」

 聞いているだけでも恥ずかしいフレーズに、西園寺の顔が赤くなっていく。

「うっ、嘘だ!」

「嘘じゃないよ、ここにいる人達は全員聞いてたはずだ」

 西園寺は再度起き上がり、使用人の顔に視線を向けた。しかし、使用人は俯いたりどこか遠くを眺めていて、誰も西園寺と目を合わせようとはしない。

(本当に俺がそんな事を言ったのか……?)

 愕然としている西園寺をよそに、斎藤は続ける。

「旭君、それを聞いたのが僕じゃなくてアルファやベータだったら、どうだったかな? もしも、今回の発情期が、家じゃなく学校で起こっていたら?」

「……」

黙り込む西園寺を一瞥し、斎藤が言い放った。

「君は、確実に犯されていたよ」

 西園寺の顔から血の気が引いていく。でも確かに、斎藤の言った通りだ。今回、周期のずれたヒートを迎えた場所が自宅だったのは、運が良かっただろう。もしも、これが学校で起こってしまったなら。想像するだけで恐ろしい。

「まあ、無理にパートナーを持てとは言わないけど、一度よく考えてみるといいよ」

 斎藤はそれだけ言い残し、大きな鞄を持ち上げ部屋を去っていった。西園寺はベットに寝転び、頭からすっぽりと布団をかぶる。斎藤から告げられた自分の醜態があまりにも恥ずかしかった。そんなこと言った覚えはないのだが、斎藤がそんな嘘をわざわざつくとも思えないから本当なのだろう。記憶にあるのは、ただ体が疼く感覚と、終わりのない地獄のような苦しみだけだ。

 西園寺は恐ろしくてたまらなかった。体がまるで言う事を聞いてくれないのだ。

(昔のヒートは、もっと楽だったのにな……)

第二性がオメガだと診断されてからの一年ぐらいは、ヒートが襲ってきてもさほど辛くはなかった。翌日には体調も全回復していたのだが、最近はそうはいかない。

「旭様、斎藤様は点滴を打ったので、学校に行っても問題ないとおっしゃっていましたが、どうされますか?」


 今日は、週に一度の生徒会会議がある。入学式の準備が進んでいるか、委員と打ち合わせをしなくてはならないのだ。しかし、西園寺はどうしても起きる気にならなかった。

今まで一度も生徒会会議を欠席したことがなかった西園寺だが、今日初めてその記録が破られることとなった。
 


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