バトル・オブ・シティ

如月久

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メガロポリスの掟

5.ネバーランド登場

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 ヨシダ・シティが敗戦を迎えるまでゲームをしていたのなら、ヨッシーはリョウが部屋に着く30分くらい前まで、パソコンに向かい合っていたことになる。足のないヨッシーは遠くにはいけなかったはず。ますますこの行方不明は不可解だ。負けた直後に、パソコンを放置していなくなるだろうか。これだけ熱心に作った街なら、何とか再興しようとか思わないのだろうか。
 リョウはさらに終戦後の「シティ・プレス」を探した。そこには驚くべき内容が記されていた。
<「ヨシダ・シティ」代表を拘束>
 リョウは、そのあとの新聞を隅から隅まで探した。すると、関連記事がいくつか見つかった。
<「ヨシダ・シティ」代表、第一級戦犯で起訴>
<「ヨシダ」代表、起訴事実を否認―第一審開始>
<先制攻撃の証拠は明白―「ヨシダ」裁判>
<検察、決定的証拠を提示―「ヨシダ」代表の供述覆る>
 裁判はすでに2回開かれていた。公判はほぼ1カ月に1回のペースのようだ。歴史的にみて、軍事裁判はすべてその傾向があるが、この公判も戦勝国たるプレミアム・シティの主張通りに進んでいる。
<「先制攻撃はない」―最終弁論で「ヨシダ」代表>
<来年一月に判決公判―「ヨシダ」代表の有罪濃厚〉
 リョウはゲームのカレンダーを確認した。来年1月までには、あと2カ月。ということは、ほぼ2時間後に判決がでる。

 リョウが次の手を考慮していると、「シティ」に大きな変化が現れた。また一つ、「メガロポリス」が誕生したのだ。それは、「ヨシダ・シティ」と「プレミアム・シティ」の後塵を拝し続けてきた第3の都市「ネバーランド」だった。
 「プレミアム」から遅れること8年、ついに人口百万を突破し、「メガロポリス」の仲間入りを果たした。しかし、その末路は哀れではかないものだった。
 昇格後すぐに、「プレミアム」が圧倒的な軍事力を背景に、「ネバーランド」に不平等条約の締結を押し付けた。「ネバーランド」はそれを受けるしかなかった。プレミアム軍のネバーランド駐留、「プレミアム」国民の不逮捕特権、貿易関税の不平等措置、まるで江戸時代末期のように一方的で差別的な条約が2国間で結ばれた。「ネバーランド」は、商業が発達した豊かな都市国家だったが、上がった利益は巧妙に「プレミアム」に吸い取られる仕組みになった。軍備を増強して対抗しようにも、「プレミアム」の目が光っている状況下では、戦車1台を買うことさえままならない。「ネバーランド」は少しの間耐えたが、我慢の限界を超えたのか、突然「プレミアム」駐留軍を攻撃して戦車や戦闘機を奪い、「プレミアム」に宣戦布告した。
 しかし、「プレミアム」の軍事力は圧倒的だった。「ネバーランド」側の奇襲を難なくかわすと、すぐに陸・海・空の全軍で総攻撃に転じた。「プレミアム」の反撃は、戦争というよりも掃討作戦に近かった。組織化された「プレミアム」軍は、「ネバーランド」のわずかばかりの戦力を徹底的に叩き潰した。戦争はわずか1カ月、1時間足らずで終わった。
 ホームページの「メガロポリス」欄は、また「プレミアム・シティ」がひとつだけになった。
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