バトル・オブ・シティ

如月久

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プレミアム・シティの総攻撃

2.猛爆

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 宣戦布告のメールが届くや否や、「イチロー」の航空機工場群が爆撃を受けた。50機に及ぶ爆撃機が雲霞のごとく来襲し、爆弾を雨あられのように落とした。一瞬にして、「イチロー」自慢の工場群は瓦礫と化した。その様子を、「シティ」のホームページで確認している間に、今度は「シティ・ジャニス」の石油採掘基地が爆撃された。この作戦にも30機以上の爆撃機が参加していた。圧倒的な物量による電撃攻撃を、連合国側は甘受した。
 空だけではなかった。数百両の戦車軍団が、プレミアム軍の本拠地を出発し、旧ヨシダ・シティの領土を横切って、「シティ・ジャニス」に迫っていた。海上からは、「プレミアム」の誇る3隻の航空母艦が、連合国で唯一海に面している「イチロー」の港に向かっていた。互いの距離はそれほど開いていないので、間もなく艦載機の航続距離内に入るだろう。
「想像以上の強さね」
 ジャニスはポツリと漏らした。その通りだ、確かに強い。強すぎる。

 連合国側は、すぐに国連総会を開き、「プレミアム・シティ」の一方的な先制攻撃に対する非難決議案を全会一致で可決、それをメールで伝えた。当然ながら、返信はなかった。
「これは手順さ。『プレミアム』がこの世界のならず者だってことを、正式に決議したことに意味がある。これからは、今の6カ国以外にも『メガロポリス』に昇格してくる連中がある。彼らが『プレミアム』側につくと厄介だ。でも、これを見たら、どっちに非があるかを、すぐに理解してくれる」
 しかし、ジャニスは表情を曇らせた。
「いくら筋を通しても、このままやられっぱなしじゃ、すぐに占領されちゃうよ。反撃しなきゃ」
「分かってる。でも、話し合っただろう? 俺たちは『プレミアム』のような戦い方はしない。実力行使は、自衛のための補助手段で最小限で済ませる。メインの作戦は、内側から奴の国を崩すことだ。軍事力でまともに対峙したら、勝ち目はないよ」
「計画通りにいくかな…」
「『ポーラスターズ』とうちのメガバンクが今、猛烈な勢いで「プレミアム」の企業に買収攻勢を掛けている。この先制攻撃も、さっきの爆撃くらいの迫力があるよ。『ポーラスターズ』の銀行は、もう4つの企業を落としたよ。買収が成立した途端、すぐにやることがある」
「本社移転ね」
「そう。それで平和的に人口をこちら側に移すんだ。ゲームのプログラム上、これを阻止することはできないみたいだ。さっき言った4企業だけで、家族も合わせたら数千人がこちら側に移ったよ。調べてみたけど、もともと「プレミアム」の住民たちは、自分の国に対する満足度が低い。軍事力ばかり増強して、福祉や娯楽への投資を怠ってきたからね。今はまだ5百万の中の数千人だから、全然少ないけど、これを続けていったら、奴の国はいずれガタガタになる」
「でも、そのペースで間に合うの? それまで耐え切れるかな」
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