バトル・オブ・シティ

如月久

文字の大きさ
上 下
74 / 85
プレミアム・シティの総攻撃

3.不測の道

しおりを挟む
 ジャニスの心配は的中した。「プレミアム」の空母艦隊が、「イチロー」に総攻撃をかけてきたのだ。3隻の空母から発進した艦載機は総勢120機、それが一斉に「イチロー」の街に襲い掛かった。どうやら、最初に叩き潰すターゲットを「イチロー」に絞ったようだ。爆撃は熾烈を極め、道路、橋梁、港湾、主要な都市施設はほぼ完璧に破壊された。卑劣にも「プレミアム」の爆撃機は、住宅街の隅々にもたくさんの爆弾を落とした。リョウは次々と破壊されていく「イチロー」の街を見て、ヨッシーの街が「プレミアム」に敗れた直後を思い浮かべて暗澹とした気分になった。ジャニスも同じ気持ちなのだろう、顔色が蒼ざめている。
 単独の国で戦っていたら、これでゲームオーバーだっただろう。しかし、今度は連合国側も黙っては見ていなかった。艦載機が空母を飛び立ったのを確認して、「イチロー」の隣国「ジャイアンツ」と「タイガース」の領土に隠してあった爆撃機を一斉に出撃させた。総数は50機あるかないかだが、それを全て「プレミアム」本土に向けた。「プレミアム」は圧倒的な軍事力を過信し、保有する空母3隻を全て「イチロー」攻撃に出撃させていた。連合国側の爆撃機は、空っぽになった「プレミアム」の港湾施設を、ほぼ完璧に破壊した。なかでも重点的に狙ったのは、石油の備蓄タンクだ。これを徹底的に破壊すれば、たとえ空母が無傷で帰港したとしても、次の出撃はそう簡単ではなくなる。何しろ燃料が手に入りづらくなったのだ。

「何とか一矢報いたわね」
 ジャニスはパソコン画面で戦況を確認しながら言った。顔に少し赤みが戻った。
「本当に『イチロー』には感謝しなきゃならないな」
「最初に『自分がダミーになる』って言ってきたときには、意味がよく分からなかったけど、今ならすごく分かるわ」
「彼は昇格直後に戦闘機を大量生産することで、『プレミアム』の目を完全に引き寄せてくれた。奴の攻撃本能が『イチロー』に集中すればするほど、俺たちは他の作戦を取りやすくなる。『プレミアム』のオーナーは頭に血が上って、『イチロー』を攻撃することばかりを考えて、逆に自分が攻撃されることは想定しなかった。最初の攻撃に反撃しなかったのも、奴の注意を攻撃に集中させ、油断させたいというのもあったんだ。『自分も守れない程度の戦力だから、攻めてなんて来ない』と信じ込ませたかったんだ」
「そこで、想定外だった敵の本陣を一気に突いたのね」
「そう」
「不測の道は迷わず攻めろ、ということね」
 ジャニスが言ったのは「孫子の兵法」だ。言われてみると、この戦法も理にかなっていたということか。みんなで必死に考えた策だったのだが…
しおりを挟む

処理中です...