聖域を守る少女

可憐

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とある1日

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「ひっく……ずび……」
 
 周りは木々に囲まれていて、そのなかの1番大きい木の根本に膝を抱えて、髪は空のような水色でそれより薄い水色の瞳からは大粒の涙を流して女の子が泣いていた。
 
 いつしか雨が降り始めていたが女の子は未だにそこからは動かず泣くばかりだった。
 
「ア……ィ……アビィ! アビィー!」
「アルテッサ?」
 
 どこからか女の人の声がした。
 それは一生懸命に自分の名前を呼ぶ声だった。
 アビィはやっと伏せていた顔をあげると周りは既に薄暗く遠くの方に雷の音が響いていた。
 自分はどれくらいここにいたのだろうか…ずっと泣いていて気づいてなかったが雨により涙だけの水分ではない水が服を濡らしていた。
 そのためか体が冷えきっていた。
 
 そう自覚するとガタガタと体が震え始めた。
 
「寒い……」
 
 ゴロゴロと雷が近づいてくるのか分かるがアビィは雷より、今の自分の状況の方が怖かった。
 まるで世界に自分が1人になってしまったかのような感覚……アビィは大声で叫んだ。
 
「いやあああ!!」
 
 その大声で場所が分かったのかアビィを呼んでいた女の人、アルテッサはすぐそこに現れた。
 アルテッサが見たのはガタガタと可哀想なほど震え、目を見開き震えてるアビィだった。
 すぐにアルテッサはアビィの元にいく。
 
「アビィ、大丈夫……落ち着いて」
「いや……1人はいや……」
「大丈夫、私はここにいるよ。大丈夫だからアビィ」
 
 アルテッサはアビィを優しく抱き締めて、落ち着かせるために背中を撫でたり頭を撫でる。
 するとアビィは正気に戻って来たのか、まだ寒さによる震えはあったが伏せていた顔をあげて、アルテッサを見る。
 アルテッサはそんなアビィに微笑みかけ濡れないようにしていた小さな毛布をアビィにかけるとそのまま抱き上げる。
 
「帰ろう、アビィ。大丈夫、アビィをいじめていたやつらは、この私が蹴散らしたよ」
「……うん……いつもごめんなさい、アルテッサ」
「私は、アビィを守るって約束したよ。だからずっと私は、アビィを守っていく」
「ありがとう」
 
 アビィは自分は1人ではない。
 アルテッサがいるんだ、と安心してアルテッサに抱き付く。
    
 
 
 
「アビィ、アビィ?」
 
 ハッとして顔をあげるとアルテッサが心配そうな顔で見ていた。
 どうやら少し昔の事を思い出して意識がそちらに向かってたようだ、とアビィは気づいた。
 なんでもない、とアビィは笑って返す。
 今はこの聖なる聖域にいるのは2人だけ……昔みたいにいじめられることもない。
 ただし、このゆっくりと時間が過ぎる聖域にいる限りは一生、死ぬまでは出ることは出来ない。
 
「紅茶、おかわりする?」
「えぇ、お願い」
 
 紅茶を注ごうとしたときだった。
 
 その時。
 
 ピーンとアルテッサは耳を尖らせ、アビィもまた険しい顔になった。
 この聖域に近づいてくる人間の気配を感知したのだ……すぐにアビィは誰が来ようとしているのか集中して感知を始めた。
 来ようとしているのは女の人とその腕に抱かれてる赤ん坊だった。
 
「女の人と赤ん坊ね。すぐそこまで来てるわ……今の所、敵意は感じない」
「敵意はなし、か……安心は出来ないけど招き入れる?」
「……そうね、直接見ないと分からないし」
 
 アビィは聖域にかけていた結界を解いて、入口までその女の人を導く。
 導かれた女の人は聖域の入口まで歩いて来るとアビィは、入口に既に立っていた。
 女の人は少しの間、呆然としていたが、すぐにアビィがここの聖域を守る女神と分かり、ホッとした表情を浮かべる。
 
「ここの聖域に向かっていたみたいなので私が導きました。ここを目指していたということは……」
「この子を助けて下さい!
 私が母乳が出ないのに家にはお金がなくミルクも買えない……だから」
「……つまり栄養の水が欲しいと言うことですね」
「はい! お願いします! このままだとこの子は……」
 
 アビィは涙を流しながらお願いする女の人をじっと見る。
 確かに女の人は純粋に赤ん坊を助けたい、と願っていた。
 アビィは敵意はなく、悪用もする気もない純粋な母親だと分かって、アルテッサに栄養の水を持ってくるように頼んだ。
 
 数分後……。
 
 赤ん坊くらいの大きさの水が入った小瓶をアルテッサが抱えてきて、それを女の人に渡す。
 
「これは栄養の水です。この水を赤ん坊に飲ませ、栄養失調のあなたも飲んで下さい……
 そうすればあなたも赤ん坊も助かります」
「ありがとうございます!」
「今、赤ん坊に飲ませた方がいいでしょう……哺乳瓶はありますか?」
 
 女の人はハッとしてバックから哺乳瓶を出して小瓶の水を哺乳瓶へと入れてすぐさまぐったりしていた赤ん坊に飲ませると、少しづつ飲む赤ん坊がみるみる顔色がよくなっていく。
 それを見た女の人はまた涙を流す。
 
「本当にありがとうございます、ありがとうございます!」
「私が出来るのはここまでです。後はあなた次第です」
 
 そう言うと、女の人の前から霧のように消えていく。
 女の人はビックリしたが、少しだけ元気になった赤ん坊を見て、アビィに感謝をする。
 
「ありがとうございます、女神様」
 
 アビィはまた結界を張ると女の人と赤ん坊の前から消える。
 そして無言で入口からまた聖域へと入っていく。
 アルテッサもまた聖域にへと入っていく。
 
「紅茶、冷めちゃったわね……入れ直してくるわ」
「えぇ」
 
 "ありがとうございます、女神様"
 
「女神様…か」
 
 最後に女の人が呼んだ事がアビィには聞こえていた。
 確かにこの聖域にいる自分は女神だろう……でもアビィはなりたくてなったわけでもない。
 果たして自分は女神に相応しいのかと、そんな事を考えてると頬に軽い痛みが走った。
 顔をあげるとアルテッサが軽く頬を摘まんでいた。
 
「また、そんな顔をして……大丈夫、あなたは充分女神様よ」
「アルテッサ……」
 
 アルテッサもまた女の人の言ったことが聞こえていた。
 そしてアビィは女神様と呼ばれる度に悩んでいた事も知っていた。
 
「さぁ紅茶飲みましょう。今度のはさっきのとは違う紅茶よ」
「本当ね、落ち着く香りだわ」
「ハーブティーって言うらしいわ」
 
 アビィが一口飲むと爽やかな味わいだった。
 お腹からスー、とするような味わったことない感覚を感じていた。
 
「お気に召した?」
「爽やかな味わいね……スーっとするわ」
「ミントっていうハーブから出来てるらしいわ。気に入ったなら次の買い出しの時、買ってくるけど」
「お願いするわ」
 
 優雅とは言えないがゆっくりとした時間が流れていった。
 紅茶を飲んでいたアビィが急に悲しげな表情を浮かべた。
 アルテッサはアビィの顔を見てすぐに理解をする……。
 
「あの女の人と赤ん坊……襲われたのね……」
「えぇ……」
 
 アビィは水を渡した人物の行動が少しの間だけ見れる……なので、さきほどの女の人と赤ん坊が盗賊に襲われてしまったのがわかった。
 邪な考えを持つ盗賊はこの聖域には招かない。
 なので近くによく潜んでいて、招かれた人達の小瓶を狙い、奪う。
 
 そしてまた人の命がそこで消えた。
 
「いつになったらこの世界に平和が訪れるんだろうね……こんな水があるから戦争が起きる。いっそのこと破壊したいわ」
「……アビィ」
「わかってる。破壊したところで水の効力は消えない……だから余計、戦争が起きる」
 
 アビィはそう言うと先程殺されてしまった女の人と赤ん坊の為に祈りを捧げ、アルテッサも一緒に祈りを捧げる。
 こうゆうことはもう何年たっだろうか……アルテッサはアビィを見て思った。
 この聖域を守るように言い渡されたのがアビィが14歳の時だった。
 時間が止まったかのようなこの場所もゆっくりとゆっくりとと時間が進むこの空間でもう100年近くはいるんじゃないかと……アビィも少しだけ大人ぽくなっていた。
 
「あ、髪結んであげるよ」
「アルテッサって髪、結ぶの好きね」
「今日はツインテールにしようかな」
 
 先程の重い空気からアルテッサは抜け出すために、アビィの髪を結び始める。
 アビィは気持ちよさそうにアルテッサに身を委ね、結ぶのを待つ。
 
「そういえば……アルテッサに髪を始めて結んでくれるのいつ頃だったけ?」
「そういえばそうね……まだ召喚されたばかりの時はアビィの髪、短かったもんね」
「肩にギリギリつく位だったからね」
 
 そんな事しているとアルテッサはアビィの髪を結び終わる。
 アビィはすぐさま鏡を見て、相変わらず器用だなぁ、と思っていた。
 ルンルンと楽しげなアルテッサはアビィを見て、それに釣られ、アビィもまた少しだけ笑う。
 
「あ……外はもう夜ね。寝る準備しようか」
「そうね」
 
 アビィはティーポットとカップを水で洗い、アルテッサは寝床の用意をする。
 どちらも終わるとアビィが寝床へと入る。
 
「ねぇ……今日は、一緒に寝ていい?」
「いいわよ、おいで」
 
 ぼふっとアルテッサのベットへとアビィは横になる。
 そんなアビィにアルテッサは愛しく思い、アビィを抱き締める。 
 
「お休み、アルテッサ」
「お休み、アビィ。よい夢を」
 
 こうして1日は終わり2人は眠りに入る。
 静かに時が進む聖域の中で……。
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