騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫

文字の大きさ
25 / 39

◇25 戸惑いだらけの潜入捜査 ⑥

「……化けましたね」

「お客様は細くて背が高くいらっしゃいますからね。姿勢しせい綺麗きれいでいらっしゃいますからドレスが映えますわ」

「騎士でいるのがもったいないくらいでございます!」


 大きな鏡の前には、信じられないくらいにちゃんとしたご令嬢が立っていた。そう、ちゃんとしたご令嬢。

 狩猟しゅりょう大会の際に団長様からいただいたドレスも寮母にちゃんと着せてもらったけれど、こんなにゆっくりと鏡で自分を見る事はなかった。そして今、まじまじと見た私の姿に、私もちゃんとご令嬢になれたのかと衝撃を受けた。

 団長様が選んでくださったこのドレス。紫のドレスに、金色の刺繍ししゅうほどこされている。手はボロボロでタコだらけだけど手袋を用意してくださったから隠せている。

 こんなドレス、きっと重いだろうな、と最初は思っていたけれどそれほどではなかった。肩は出ているけれどちゃんと肩紐が付いているから、もし走ったりしても大丈夫だと思う。流石、人気ブティックだ。

 本当に、とても綺麗なドレスだ。けれど、見るたびに私がこんなに綺麗なものを着ていいのかな、と思う。騎士の道を歩いている私が、着ていいのかと。

 任務だから地味なものだと思っていたのに、こんなドレスを着ることになるとは思わなかった。


「……剣、は……駄目か」


 なんて事を呟きつつ鏡の前で背中を見たりしていたら、部屋に入ってきた人物が一人。この屋敷の主である団長様だった。私と目が合った瞬間、口を少し開けて目を見開いていた。

 何となく恥ずかしくなり目を背けた。以前もドレス姿を見られたはずなのに、今日は特に恥ずかしいというか、何というか。けれど、気が付けば団長様は目の前に立ち両手を取っていた。

 顔を上げると、団長様の少し微笑ほほえんだ表情が見えた。


「これにしてよかった。よく似合ってる」


 よく似合ってる、だなんて……以前着たドレスの時も、彼に言われた。それ以外に言われた事があるのは両親くらい。王城騎士団に入団し制服を着た時に言われたくらい。

 顔が火照ってしまった。きっと手袋ごしで握られてる手も熱くなってしまってる。


「……これでは剣を持てません」


 何も言葉が浮かばず、咄嗟にそう言ってしまった。

 こんな事しか言えない私は、どうしようもないご令嬢だろうか。


「だがナイフくらいは隠せる」

「……」


 そう言ってはいるけれど、その表情からしてナイフを持たせる気はないと言っているように見える。

 そもそも、こんなの普通の令嬢だったら言わない。

 本当に、私は普通の令嬢とは違う。残念な女、と言われても何も言えない。


「普段の騎士団の制服もよく似合ってるが、ドレス姿もいい。今日のテレシアも綺麗だ」

「っ……」

「君のドレス姿を最初に見られて、嬉しいよ」


 こんな事言われたら、期待してしまいますよ……リアム。


「……そろそろ、向かいましょう」

「あぁ。だが一つ忘れものだ」


 そう言いつつ、懐から何かを取り出した団長様。私を鏡の方に向かせて後ろに立つと……


「これで完璧だ」


 私の首元に、キラキラ光るネックレスが付けられた。とても綺麗な、赤い宝石の付いた、ネックレス。

 まるで、団長様の瞳のような、綺麗な宝石。

 つい、一緒に映る団長様を鏡ごしに見つめてしまった。何か言いたくても言えなくて。でもそんな私の心境を汲み取ったのかまた少し微笑んできた。


「さぁ、行こうか、レディ」

「あっ……」


 そう言って手を引かれてしまった。レディ、だなんて言われ慣れていないからいろいろと狂ってしまう。

 そして、馬車に乗ったこの瞬間しゅんかんに思い出した。そういえばパートナーは団長様だったなと。近衛騎士団事務所でそう教えてもらったはずなのに、ここに来て忘れていた。団長様を最初に潜入させるための協力者じゃない、私は。

 けれど、パーティー用の紳士服がとてもよく似合っていらっしゃるから目のやり場に困る。

 これは任務。そう、任務だ。超エリート集団である近衛騎士団が行う任務なんだから、そんな余計な事は考えちゃいけない。


「パーティー会場に入ってから、そちらで処理するとのことでしたが……」

「あぁ、君は私達を潜入させるための協力者だ。潜入後私と別れ、君は他の騎士団員達を潜入させるために窓を開けてほしい。その後休憩室のかぎを閉めて待機してくれ。完了次第合流後屋敷を出る」


 事務室で言われていた通りだ。誰か休憩室にいる可能性はあるけれど、その場合団長様が何とかしてくれるらしい。

 けれど……


「……私、端くれではありますけど、一応騎士です。潜入後、私にも出来る事はありますでしょうか」


 近衛騎士団はエリート集団。こんな私では足手まといになってしまうのは分かってる。けれど、どうして……もっとこの人の役に立ちたいだなんて思ってしまったのだろう。

 下っ端の騎士団員が、何言ってるんだろう。おこがましいにもほどがある。


「……いや、君を危険にさらしたくはない。自分が騎士だという事をさとられないよう振る舞ってくれれば、それで十分だ」


 そう、だよね。何出しゃばってるんだろ、私。自分が選ばれたからって調子乗ってるって思われちゃったかな。それは、嫌だな。


「私が戻ってくるまで、いい子で待っていてくれ」


 そう言って、私の頭を撫でてくる。

 近衛騎士団長。我が王国の軍事力を管理している存在。そんな方が、目の前にいる。そんな方の役に立つだなんて、無理に決まってる、か。私はただの協力者。そう、ただ唯一の女性騎士団員が私だったから、協力者としてがっただけ。


「それより、今日の君はいつも以上に魅力的だ。きっと周りの男共に目を付けられてしまうだろう。だが、何を言われたとしてもちゃんと断ってくれ」

「えっ」

「君は私のものなんだ、手を出されては困る」


 そう言ってほほでてきた。

 私は、団長様のもの、か。確かに、今日のパートナーは私。何事もなくスムーズに会場を出ないといけない。


「お任せください。何事もなく任務を完了出来るよう私も最善をくします」

「テレシア……そうではないんだが、分かってもらうには時間がないようだな」


 その声と共に、馬車が停まった。降りなくては、と思っていた時、団長様がいきなりキスをしてきたのだ。


「今すぐにでも分からせたいところだが、任務では仕方ない。……――後で覚えておいてくれ」


 そのささやきに、何を言っているのか分からなくても何故か顔が火照ってしまった。さっき手渡してくれた、目元だけ隠す白い仮面で顔を隠そうとしたけれど、こんなもので隠せるなんて事、出来るわけがない。
感想 14

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ! ⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」 ⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。 ⭐︎完結済ー本編8話・後日談8話⭐︎

試用期間の終わりに、伯爵様から永久雇用と指輪を渡されました

星乃和花
恋愛
植物が大好きな控えめ庭師見習いのリネットは、伯爵邸での試用期間を終える日、不安な気持ちで呼び出される。 けれど若き伯爵アルヴェインに告げられたのは、まさかの永久雇用。しかも“約束の証”として、美しい指輪まで渡されて――? 「君さえ望むなら、生涯ここにいていい」 控えめな自分が安心できるようにと考えられた、伯爵様の優しさの塊みたいな契約更新。 ……だと、リネットは本気で思っていた。 一方の伯爵様は、至って真面目に求婚のつもり。 求婚が通じたと思っている伯爵様と、 超手厚い福利厚生だと思って感激している庭師見習いの、 甘くて可愛いすれ違いラブコメディ。 (完結済ー全8話)

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (完結済ー全8話)

拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!

星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。 ……のに。 「お腹すいた」 そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。 強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。 手当てすれば「危ない」と囲い込み、 看病すれば抱きしめて離さず、 ついには―― 「君が、俺の帰る場所」 拾ってない。飼ってない。 ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。 無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の 距離感バグ甘々ラブコメ、開幕! ⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています