騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫

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◇28 底辺令嬢、そして騎士 ①

 任務に戻った団長様は、屋敷を出る前に私をここで一晩泊まらせるよう執事に伝えていたらしい。だから私はその後女子寮には戻らず客間に泊めてもらった。

 そして次の日、団長様と会う事はないまま女子寮に戻り、いつも通りの鍛錬たんれんから一日が始まった。

 けれど、あまり気が入らない。

 昨日のあの告白のせいだ。


「お前、近衛騎士団の任務に参加したんだって? どうだった?」


 私の気も知らない先輩達は、目をキラキラさせながらそんな事を聞いてくる。けれど、今はそれを聞かないでほしかった。

 だって、私に課せられた役目をきちんと果たせなかったのだから。この後事後報告をしてもらえるようだけれど、一体何を言われるのか気が気でならない。


「……一応役目は果たしましたけど……やっぱり近衛騎士団すごかったです」

「やっぱりか~。近衛騎士団入りは目標にはしてるけど、やっぱ難しいよな~。く~うらやましいぜ!! 俺も参加させてもらいたかった!!」


 いや、男性なんですから無理でしょ。とは、言えなかった。極秘なのだから内容は言えないに決まってる。

 それにしても、だいぶスピーディーだった。私が団長様とあのお屋敷に潜入し、別れてから近衛騎士団員の方達二人を潜入させて、あのあとどれくらいの時間が経っただろうか。正確な時間は分からないけれど、本当に速かったと思う。

 第一騎士団が探しても捕まえられなかったところを、こうも簡単に捕まえてしまうだなんて。やっぱり、近衛騎士団はすごい。


「おらお前ら~、4日後から大変なんだから今のうちに気ぃ引き締めておけよ~!」


 とはいえ、4日後に隣国の使節団がこの王城に来訪するだなんて、過酷かこくスケジュールにもほどがある。あの極秘任務はぎりぎりねじ込んだと言ったところか。他国の方々がいらっしゃる前にこの件を片付けたかったようだけど。でも、団長様はさぞかし大変だったことだろう。

 ……それなら、何故一緒にドレスを見に行ったのか聞きたいところだが。

 これから隣国の王女と王太子が来訪するため警備は厳重。だから王城騎士団は大忙しだ。大体4日で帰るらしいから短い方だが、でも気は抜けない。何事もない事を願おう。

 しかも、あの極秘任務前に起こってしまったあの恐ろしい事件も気にかかる。狩猟しゅりょう大会後のナイトパーティーで、元婚約者親子がお父様を首都に呼んでしまった事。両親は、ここ首都よりもだいぶ遠い田舎にいて、ここまで来るのに大体3週間。

 でも、使節団来訪中はけてくるはずだから、お帰りになってすぐに到着する可能性がある。あぁ、なんて恐ろしい。これでは、どう回避したらいいのか考える余裕なんてものが全くない。

 ……そう、余裕がない。

 ふとした時に思い出してしまう、団長様のあの言葉。


『……――好きだよ、テレシア』


 頭の中に、その言葉が響いてしまう。

 そうなると、仕事の事を脳内に無理やり引っ張り出すしか出来ない。


「おい、どうしたテレシア。顔、真っ赤だぞ」

「……いえ、お構いなく」


 恐ろしい悪魔の近衛騎士団長、のはずだった。それなのに、私に触れる彼はそんな姿は全くない。だから、混乱している中で『テレシア』と甘く呼ばれるのが耐えられない。それなのに、あんな事まで言われたら……

 自覚したくなかったこの気持ちが、溢れちゃうじゃない……

 でも、どうして、私なんかを……? 普通のご令嬢とかけ離れたこんな私を、だなんて……

 それに、そもそも身分が違いすぎる。第三騎士団の騎士団員と、近衛騎士団長。男爵令嬢と、侯爵家当主。到底釣り合わない。

 期待と、諦め。その二つが、私の頭の中で何度も衝突しょうとつしてしまう。

 そんな事を考えている暇なんてないくせに。



 時間というものは思っている以上に早く進む。気が付けば、もう隣国使節団が来訪する日となってしまった。

 こういった日は、王城騎士団は正装を身にまとう。白い制服に、片側の肩にだけかけるマント、ぺリースをつける。このぺリースは普段身につけている制服と同じ色のため私達は緑となる。対して、普段白い団服を身に着けている近衛騎士団員達は黒い正装だ。

 早朝から私達は集合し、厳重な警備を行う。そして時間になるとお出迎えとなるため、王城門前の端に第一、第二、そして第三騎士団員達が並ぶ。いつもは顔を合わせれば一番に喧嘩けんかになる第二騎士団も、今日は緊張感を持っているため速やかに並んだ。

 狩猟大会後のナイトパーティーで一悶着あった第二騎士団副団長とは顔を会わせたくはないが、今日は仕方ないな。

 そして来訪された、隣国使節団。私の前はすぐに通り過ぎてしまうので一瞬でしか見られなかったけれど……おかしい。一人、足りないような? 今回は第三王女と第二王子がご来訪されるはずだったのに、その第二王子の姿がなかったような。

 私の見間違いだろうか。


 その後、すぐさま決められた持ち場に散り散りとなった。私の持ち場は後宮の建物の外、ガストン先輩と二人で担当する事となった。の、だが……


「あんれ、マーフィス嬢じゃないですか。あぁ、マーフィス卿だったかな?」

「……」


 私達に寄ってきたのは、騎士団用の正装をを着た若い男二人。しかも、マントの色は青。まさしく第二騎士団の団員だ。まるで見下すかのようないつもの視線を、隣の先輩ではなく私に浴びせてくる。

 今は隣国使節団が来訪して大変だというのに、この男共は緊張感を持っていないのだと思うと呆れてものも言えない。頭は大丈夫?


「可哀想に。今パーティーやってるってのに、こんなところに立たされちゃってさぁ」

「ダメだって、ご令嬢は男爵家なんだからいいドレス買うにもお金がないくらい貧乏なんだぜ? この前だってようやく買えた渾身こんしんのドレスを台無しにしちゃってさぁ……つくづく、ドレスが似合わないご令嬢だな」

「はっ、騎士団の制服がお似合いですよご令嬢?」


 果たして、この男共をぶん殴ったら私に非はあるだろうか。こんなに忙しい時に緊張感なく頭の中お花畑だったから気合いを入れ直してやった、と言えばおとがめなしになるだろうか。

 とはいえ、それではこいつらが騒ぎ出して面倒になるな。それはやめておこう。私はこいつらより大人だという事はよく分かった。


「私は騎士です。任務を全うするのが騎士の仕事ではないのですか」


 そう、今は任務中だ。それも分からないとは言わせないぞ。

 だが、そんな私の返答にあまり面白くないような顔を見せてきた。


「ちっ、コネで入ってるようなやつに……」

「コネ? 私がコネで入ったと思ってるんですか」

「何が違うんだ。女のお前が正当に王城騎士団入りなんて出来るわけないだろ!」


 まぁ、私の父親は元々近衛騎士団員だし、今は騎士団を抜けてはいるけれど騎士の役職を持ちつつ田舎暮らしを満喫している。

 そんな父のコネで入ったと思っている奴らは、この騎士達に限らず大勢いる。

 ……が、さすがに会のお父様がコネで私を入れるだなんて事は、絶対にしない。私の口からコネなんて言葉が出てみろ、1週間、いや、2週間、一日中剣を握らされしごかれるの一択だ。


「私はちゃんと地方騎士を3年勤め上げ入団試験を受けて正式に王城騎士団に入団しました。貴方達は王城騎士団をコネを使って入れるような生ぬるい組織だとお考えですか? ならそれは不敬に値しますよ」

「っ……」


 それをこの王城内で、大きな声で言ってしまうのは馬鹿だとしか言いようがない。しかも隣国の使節団達が来訪している今、ここで。

 隣国の者達にこの国の王城騎士達のレベルが低すぎると思われたらどうする。そんなもの、恥ずかしくてしょうがない。


「それに、私が王城騎士団に入団して3年です。たとえコネで入れたとしても、ここまで生き残っていられるとお思いですか?」

「チッ、女が偉そうに……!」

「歴代の女性騎士も侮辱ぶじょくする発言ですよ、それ。もし文句がおありでしたら私が所属する第三騎士団の騎士団長でいらっしゃるデガルド団長にどうぞお伝えください」


 満面の笑みでそう強く言うと、舌打ちを残して去っていった。サボってないでさっさと仕事しろお前ら。


「本当にあいつらはりねぇのな。頭ん中お花畑か? それとも、女の子に構ってほしくてやってるんか」

「……先輩の方がひどい気がしますよ、それ」

「そうか? どうせあんな性格なんだ、女性なんて寄ってこないだろ。それに、家から縁談なんて来ると思うか?」

「さぁ?」


 そこら辺は私には関係ないから自分達で何とかしてくれ。けれど、構ってほしいんなら私じゃないご令嬢にしてもらえると助かる。

 でも、思った。

 騎士団に入って、鍛錬や任務やらで汗水たらして3年間の日々をずっと過ごしてきた。先輩方を除いて、周りの私に対する評価はあまりよくなかったけれど、それでも辞めるなんて選択肢はなかった。

 狩猟大会を思い出すと、あの近衛騎士団長に直接めていただいた事が思い浮かぶ。あの時間は、まるで夢のようだった。

 そして、この前の潜入捜査。私が呼ばれた理由は女性の騎士団員だったからであっても、近衛騎士団に、その任務に私が必要だと判断してもらえたことが嬉しかった。その後の捜査報告ではちゃんと確保出来たという事と、お礼までいただけた。

 私は与えられた役割を果たしたけれど、失態もあった。あれには気になったけれど、それでも、近衛騎士団員達が助かったと言ってくださったという言葉をいただけて本当に嬉しかった。

 それと同時に、団長様の中では私はちゃんと騎士団員なんだって思うと、もっと嬉しかった。そして……

 今まではただの遊びなんだって思っていたけれど……


『……――好きだよ、テレシア』


 遊びだったら、あんな事を言うだろうか。

 騎士団員である私を、団長様はちゃんと見ていてくれて、それを踏まえてそう言ってくれたのだとしたら……


「あ、そろそろ交代の時間だな。来たら昼飯取るか」

「はいっ!」


 すごく、嬉しくて舞い上がってしまいそうになる。

 ただの第三騎士団団員と、近衛騎士団長。

 男爵家の娘と、侯爵家当主。

 こんなの、夢物語でしかない。

 でも、そんなものを求めてしまっても、いいのだろうか。

 ……団長様に、会いたい。

 きっと今国王陛下方の近くで護衛をしていることだろう。他の団員達の指揮も取り、大変だと思う。

 これが全て終わったら、また、私の元へ来てくれるだろうか。
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