36 / 46
◇32-2 お久しぶりの次は修羅場
しおりを挟む
仮面舞踏会の会場に何人かいる、お酒のグラスをトレイに乗せ歩き回る使用人の中で、黄色の蝶ネクタイをしているうちの一人に声をかけた。
「黒の間の休憩室に行きたいのだが、案内してくれるか」
「かしこまりました」
そう旦那様が言うと、会場から離れた場所に案内された。この会場に入るために通った扉とは違う扉を通り、長く続く廊下を歩いた。
今のは合図だ。裏オークション会場は勝手に入れるところではない。会場内には、裏オークションの存在を知る者は恐らく半分もいないはずだ。ただ仮面舞踏会を楽しみに来ただけの客もいるのだ。
裏オークションとは、名前の通り非公式のオークション。とはいえ、ギリギリ合法である。取り扱っている商品は、ここの主催者が用意したものもあれば、他の者が出したものまである。売っていいものと悪いものは国々で変わってるくるけれど、それでもちゃんと守ってチェックしているようだ。
そして、購入したらオークション側は一切の責任を問わない事がルール。自分で買ったのだから責任を持ってくれ、という事。
そうして辿り着いた、大きな扉。この煌びやかな廊下には似つかない重量感のありそうな金属の扉だ。その前に立っていた使用人に、スラディ大公から頂いた会員カードを見せた。使用人は頷き、扉を開ける。
「足元が暗くなっておりますのでお気を付けください」
使用人の案内で付いていくように私達は扉をくぐる。まるで劇場のような道で、その先にあった会場もまさに劇場のような造りだった。真ん中に舞台があり、それを上から見られるように席が並んでいる。まるで地球にあった小さ目の東京ドームのようだ。二階席だけの。
こちらをどうぞ、と渡されたのは金色で高級感のある装飾がされた、片方に持ち手のある望遠鏡。これでステージに用意された商品を見るのか。
案内してくれた使用人から、説明を受けた。今回は42点の商品が準備されており、一点ずつステージに用意されては説明され指定された金額からの競売スタートとなるらしい。
「もしお求めの際には私に金額をお申し付けください。この札を上げて金額を代わりに提示いたします」
札には、20と数字が書いてある。私達は20番のお客さんという事なのだろう。なるほど。声を出すと誰なのか分かってしまう可能性もあるからという事もあるかもしれない。
そして、パラパラとお客さんらしき方々が集まってきた。皆仮面を付けている。
「さぁ、本日はお集まりいただきありがとうございます!」
薄暗かったステージに明かりが当てられ、ステージの真ん中に黒い紳士服を着た仮面の男性が現れた。これからオークションが始まるようだ。
説明の通り、一つ商品がステージの真ん中に運ばれてきた。タイヤが付いているのだろう低めの台に乗せられ運ばれてきた、大きな剣だ。
「これは初代レマックス帝国皇帝が所持していた大剣でございます! 保存状態もよく、錆や――」
レマックス帝国なんて、確か幻の国と言われた国だ。とはいえ、それが存在したのは今から約1000年も前の話。本当にあったのかどうかも分からない。
それからというものの、幻の孤島に眠っていた水晶、古代遺跡で発見されたとされる宝石、幻のマヤリラ民族伝統の刺繍がされた織物、などなど物珍しいものばかりが出てきてはいい値で売却されていった。
そして、23点目。
「これは繊細なガラス細工で形作られた置き物でございます!」
出てきたのは、大きな花だ。透明感のあるピンク色をした花びらは、大きなものが5枚、その上に小さなものが5枚重なっていて、真ん中には黄色の宝石があしらわれている。
あぁ、これか。そう悟ってしまった。それと同時に、呆れてしまった。呆れて笑えない。なんてものを……
「今日は、どれくらい使ってもよろしいですか」
「いくらでも」
隣の人に聞くと、さらっと返された。マジで使っていいらしい。
その言葉に一安心し、横に立つ使用人に金額を伝えた。
番号札を上げた使用人は……
「10億」
その、いきなりの巨額に周りは驚きを隠せずざわざわと騒ぎ立てる。先ほどまでは大体高くて2~3億程度だった。それなのにいきなり10億が出てきたんだからそうなるに決まってる。
他の客を見るにひそひそと話をしている者達がちらほら。あれを狙っていたらしいけれど、さすがに10億なんてお金は出せないらしい。
そして、時間になり私が落札となった。
「はぁ……」
「へぇ、あれか」
「……呆れてものも言えません」
まさか、こんなものが裏オークションに出てくるとは思わなかった。というか、呆れて遠い目をしてしまう。
というか、まずはテリサ王国の警備の見直しを提案したいところだ。
けれど、まさか他にもあるわけないわよね、と疑り深く見ていると、とあるものが出てきた。
「……ん?」
それは、壺だ。骨董品らしいんだけど……そこまで魅力的に思うような説明はない。年代物、らしいけど……設定金額が、意外と高い。
「どうしたの」
「いや、その……」
隣に使用人が立っているから、聞こえないように旦那様の耳元に顔を近づけた。
「……色が、おかしいなと思って」
「色?」
「あの壺を作った製作者の出身国は陶磁器が特産品となっていますが……色がやけにぼやけているというか……それに、年数が経っているのであれば、例え色が暗めであってもあそこまで新しいような色にはなりません」
「へぇ……」
あの国の壺は、いくつか見た事がある。そして、いろいろと教えてもらった事もあった。けれど、その特徴とはかけ離れたような装飾だ。きっとあれは、偽物だと思う。となると……
そんな時だった。
「1億」
その壺に、1億の価値を付けた客がいた。
何となく心配してしまったけれど……
「5億」
えっ……5億?
あれを買うと? 5億で買うと。いいの?
けれど、止まる事はなかった。いきなり隣の旦那様が口を開いたからだ。
「10億」
えっ? 10億?
さっき、あの壺は変だと話をしていたはずなのに……もしかして、何かあった?
「12憶」
またまた巨額の声が、私達より少し遠くの方から聞こえてきた。最初に希望価格を提示した彼だ。薄暗いから見えづらくて分からないけれど、この会場にはシャレニア人の他にも外国人が何人もいるはずだ。だから誰なのか予測は出来ない。
「20億」
……旦那様、一体いくら使うつもりですか。
「25億」
え、だいぶ上がってませ……
「40億」
旦那様!? 40億!? 40億いきますか!?
「あの、だ、大丈夫ですか……?」
「うん」
仮面をしていても分かる。だいぶ良い笑顔だ。さっきいくらでもと言われたけど、一体いくらまで予算があるのか。
でも、そこまで希望価格を提示していると……だいぶあの壺が気になって仕方ないな。
向こうの人言ってこないけど……やっぱり40億以上は出せない?
「45億」
「60億」
すかさず旦那様が45億を一刀両断。私含め外野はもう言葉が出せない。二番目に希望価格を提示した人も静かになっちゃったし。さすがに60億はないか。
というより、さっき私が使った10億、だいぶ大金だと思ってたのに可愛く思えてきたのだが。
「60億以上の方、いらっしゃいませんか? ではこちらは60億で落札です!」
……60億で、買ってしまった。
「あの……」
「ん?」
とっても素敵な笑顔……旦那様が恐ろしく感じるのは私だけだろうか。
「……何でも、ありません」
としか、言いようがなかった。
そうして、初めて参加した裏オークションは幕を閉じたのだった。購入したものはすぐに屋敷に届けてくれるらしい。まぁ、巨額で買ったのだからすぐお届けになるよね。さ、帰って見てみよう。
「はぁ……」
「お疲れ様」
まだ仮面舞踏会は終わっていなかったけれど、気疲れしてしまった事がバレてしまい旦那様と一緒に馬車に戻った。けれど……
「スイランは先に帰ってて」
「え?」
「俺ちょっと用事が出来ちゃったんだ。だから家で待ってて」
そう言いつつ笑顔でドアを閉めてしまった。旦那様の一言で、馬車が動き出してしまう。
用事? 用事って、どんな用事?
一応私の用事は終わったはずなんだけど……もしかしてあの壺かな。だって、あんな大金で買ってしまったんだから。ただ私は色が変だとしか言ってない。もしかして偽物? と思ったとしてもそこまでするだろうか。
そして、あの壺を欲しがった人はあと二人。ここには他国の者達も集まっているから予測出来ないけれど……もしかしたら、先ほどバッタリお会いした知り合いもあの場にいた可能性がある。……――ミルシス王国第二王子、テモワス・ルア・ミルシス王子が。
「……ん? 待って、おチビちゃ……ん!?」
待て待て待て待て、やばい、それはヤバい……!!
すぐに私はこの馬車の御者に戻るように伝えた。
もしかして旦那様、あの人達と一緒にいないよね!? ダメダメダメダメ!! おチビちゃんはダメ!! 絶対収拾付かなくなっちゃう!?
一体旦那様の用事が何だったのかは分からないけれど、あの二人の目的が分からない以上出くわす確率がだいぶ高い。となると……うわ、恐ろしい。
何となく、血の気が引いたような、ないような。とりあえず、旦那様を回収しなくては……!!
屋敷の前には馬車がいくつも並んでいるけれど、帰ろうとしている人はいない。だから、すぐに仮面をつけて馬車を降りると急いで屋敷の方に早歩きで向かった。
玄関前の使用人は、焦る私を見て不審に思ったようだ。けれど、持っていた招待状と「忘れ物をしてしまったの」と言い訳を付けるとすぐに通らせてくれた。一緒に探すと言われたけれど、どこにあるか分かるから大丈夫と断りすぐに右側にある廊下に向かった。
会場に向かう廊下とは違う廊下だ。私達が裏オークション後に玄関に行くために案内された廊下である。玄関に入るドアは小さくてあまり目立たないけれど、ちゃんと覚えてる。
そして、私がその廊下を速足で進むと……えっ。
「どけぇぇぇ!!」
「えっ」
誰かが、こちらに向かって走ってくる。男性だ。どけ、と言われるという事はこの屋敷の使用人ではないから裏オークションの参加者となる。けれど、ここまで急いで走っているし、何かを手に持っている。
これは……止めた方がいい?
と、思って目の前まで来ていた男性を止めようとしたけれど……あれ?
いきなり、目の前まで来ていた男性が消えて、大きな音が廊下に響いた。
「俺の奥さんに触んな」
……わぁお。旦那様強いな。一蹴りで壁に飛ばしちゃったよ。しかもめり込んでるし。
「こ、この……」
「あ゙?」
こ、っわ……ドスの利いた声が、だいぶ怖い……
これ、どうしたらいい?
「俺の、奥さん、っつったか?」
修羅場、とはこの事を言うのだろうか。
この男性と旦那様の登場で周りが見えていなかったのか、この男性が走ってきていた方向から、一人こちらに向かってきている人がいた。そして、その人物は……お会いしたくなかった方。
「お前か、私のスイランさんを奪ったのは」
その声と一緒に、旦那様のところまで飛び、胸ぐらをつかんできたのは……おチビちゃんならぬ、ミルシス王国近衛騎士団副団長ミシェル・トワイニス嬢。
でも……ちょ~っと、身長が、足りてないかな? 旦那様身長高いから、一応胸ぐらを掴めているけれど……顔がだいぶ遠い。
けれど……何この緊張感のある空気は。と、思っていたら旦那様はパシッとミシェルの手を払った。
「奪った? 貰ったの間違いだろ。俺とスイランは夫婦だ。そこは間違わないでいただきたい」
「あ゙?」
「スト~~~~~~ップ!!」
ほ~らやっぱりこうなった!! だから二人が出くわす前に旦那様を回収しようと思ってたのに!!
はぁ、これどうしたらいいのよ……
と、思っていたら二人はいきなり剣とナイフを抜いていた。いや、ちょっと待て、ここでそんな事……と思っていたら、二人共違う方向に投げ……逃げようとしていたらしいあの男性の顔面すれすれに刺さっていた。そ~っと逃げようとしていたらしい。
……こっわ。というか、息ピッタリだな。初めまして、だよね? 同じ騎士だから?
とりあえず、ミシェルと同じ方向から走ってきたテモワス王子に助け船の視線を送っておいた。
「……とりあえず、こいつ回収するぞミシェル」
「……かしこまりました」
……はぁ、面倒くさい事になっちゃった。
「黒の間の休憩室に行きたいのだが、案内してくれるか」
「かしこまりました」
そう旦那様が言うと、会場から離れた場所に案内された。この会場に入るために通った扉とは違う扉を通り、長く続く廊下を歩いた。
今のは合図だ。裏オークション会場は勝手に入れるところではない。会場内には、裏オークションの存在を知る者は恐らく半分もいないはずだ。ただ仮面舞踏会を楽しみに来ただけの客もいるのだ。
裏オークションとは、名前の通り非公式のオークション。とはいえ、ギリギリ合法である。取り扱っている商品は、ここの主催者が用意したものもあれば、他の者が出したものまである。売っていいものと悪いものは国々で変わってるくるけれど、それでもちゃんと守ってチェックしているようだ。
そして、購入したらオークション側は一切の責任を問わない事がルール。自分で買ったのだから責任を持ってくれ、という事。
そうして辿り着いた、大きな扉。この煌びやかな廊下には似つかない重量感のありそうな金属の扉だ。その前に立っていた使用人に、スラディ大公から頂いた会員カードを見せた。使用人は頷き、扉を開ける。
「足元が暗くなっておりますのでお気を付けください」
使用人の案内で付いていくように私達は扉をくぐる。まるで劇場のような道で、その先にあった会場もまさに劇場のような造りだった。真ん中に舞台があり、それを上から見られるように席が並んでいる。まるで地球にあった小さ目の東京ドームのようだ。二階席だけの。
こちらをどうぞ、と渡されたのは金色で高級感のある装飾がされた、片方に持ち手のある望遠鏡。これでステージに用意された商品を見るのか。
案内してくれた使用人から、説明を受けた。今回は42点の商品が準備されており、一点ずつステージに用意されては説明され指定された金額からの競売スタートとなるらしい。
「もしお求めの際には私に金額をお申し付けください。この札を上げて金額を代わりに提示いたします」
札には、20と数字が書いてある。私達は20番のお客さんという事なのだろう。なるほど。声を出すと誰なのか分かってしまう可能性もあるからという事もあるかもしれない。
そして、パラパラとお客さんらしき方々が集まってきた。皆仮面を付けている。
「さぁ、本日はお集まりいただきありがとうございます!」
薄暗かったステージに明かりが当てられ、ステージの真ん中に黒い紳士服を着た仮面の男性が現れた。これからオークションが始まるようだ。
説明の通り、一つ商品がステージの真ん中に運ばれてきた。タイヤが付いているのだろう低めの台に乗せられ運ばれてきた、大きな剣だ。
「これは初代レマックス帝国皇帝が所持していた大剣でございます! 保存状態もよく、錆や――」
レマックス帝国なんて、確か幻の国と言われた国だ。とはいえ、それが存在したのは今から約1000年も前の話。本当にあったのかどうかも分からない。
それからというものの、幻の孤島に眠っていた水晶、古代遺跡で発見されたとされる宝石、幻のマヤリラ民族伝統の刺繍がされた織物、などなど物珍しいものばかりが出てきてはいい値で売却されていった。
そして、23点目。
「これは繊細なガラス細工で形作られた置き物でございます!」
出てきたのは、大きな花だ。透明感のあるピンク色をした花びらは、大きなものが5枚、その上に小さなものが5枚重なっていて、真ん中には黄色の宝石があしらわれている。
あぁ、これか。そう悟ってしまった。それと同時に、呆れてしまった。呆れて笑えない。なんてものを……
「今日は、どれくらい使ってもよろしいですか」
「いくらでも」
隣の人に聞くと、さらっと返された。マジで使っていいらしい。
その言葉に一安心し、横に立つ使用人に金額を伝えた。
番号札を上げた使用人は……
「10億」
その、いきなりの巨額に周りは驚きを隠せずざわざわと騒ぎ立てる。先ほどまでは大体高くて2~3億程度だった。それなのにいきなり10億が出てきたんだからそうなるに決まってる。
他の客を見るにひそひそと話をしている者達がちらほら。あれを狙っていたらしいけれど、さすがに10億なんてお金は出せないらしい。
そして、時間になり私が落札となった。
「はぁ……」
「へぇ、あれか」
「……呆れてものも言えません」
まさか、こんなものが裏オークションに出てくるとは思わなかった。というか、呆れて遠い目をしてしまう。
というか、まずはテリサ王国の警備の見直しを提案したいところだ。
けれど、まさか他にもあるわけないわよね、と疑り深く見ていると、とあるものが出てきた。
「……ん?」
それは、壺だ。骨董品らしいんだけど……そこまで魅力的に思うような説明はない。年代物、らしいけど……設定金額が、意外と高い。
「どうしたの」
「いや、その……」
隣に使用人が立っているから、聞こえないように旦那様の耳元に顔を近づけた。
「……色が、おかしいなと思って」
「色?」
「あの壺を作った製作者の出身国は陶磁器が特産品となっていますが……色がやけにぼやけているというか……それに、年数が経っているのであれば、例え色が暗めであってもあそこまで新しいような色にはなりません」
「へぇ……」
あの国の壺は、いくつか見た事がある。そして、いろいろと教えてもらった事もあった。けれど、その特徴とはかけ離れたような装飾だ。きっとあれは、偽物だと思う。となると……
そんな時だった。
「1億」
その壺に、1億の価値を付けた客がいた。
何となく心配してしまったけれど……
「5億」
えっ……5億?
あれを買うと? 5億で買うと。いいの?
けれど、止まる事はなかった。いきなり隣の旦那様が口を開いたからだ。
「10億」
えっ? 10億?
さっき、あの壺は変だと話をしていたはずなのに……もしかして、何かあった?
「12憶」
またまた巨額の声が、私達より少し遠くの方から聞こえてきた。最初に希望価格を提示した彼だ。薄暗いから見えづらくて分からないけれど、この会場にはシャレニア人の他にも外国人が何人もいるはずだ。だから誰なのか予測は出来ない。
「20億」
……旦那様、一体いくら使うつもりですか。
「25億」
え、だいぶ上がってませ……
「40億」
旦那様!? 40億!? 40億いきますか!?
「あの、だ、大丈夫ですか……?」
「うん」
仮面をしていても分かる。だいぶ良い笑顔だ。さっきいくらでもと言われたけど、一体いくらまで予算があるのか。
でも、そこまで希望価格を提示していると……だいぶあの壺が気になって仕方ないな。
向こうの人言ってこないけど……やっぱり40億以上は出せない?
「45億」
「60億」
すかさず旦那様が45億を一刀両断。私含め外野はもう言葉が出せない。二番目に希望価格を提示した人も静かになっちゃったし。さすがに60億はないか。
というより、さっき私が使った10億、だいぶ大金だと思ってたのに可愛く思えてきたのだが。
「60億以上の方、いらっしゃいませんか? ではこちらは60億で落札です!」
……60億で、買ってしまった。
「あの……」
「ん?」
とっても素敵な笑顔……旦那様が恐ろしく感じるのは私だけだろうか。
「……何でも、ありません」
としか、言いようがなかった。
そうして、初めて参加した裏オークションは幕を閉じたのだった。購入したものはすぐに屋敷に届けてくれるらしい。まぁ、巨額で買ったのだからすぐお届けになるよね。さ、帰って見てみよう。
「はぁ……」
「お疲れ様」
まだ仮面舞踏会は終わっていなかったけれど、気疲れしてしまった事がバレてしまい旦那様と一緒に馬車に戻った。けれど……
「スイランは先に帰ってて」
「え?」
「俺ちょっと用事が出来ちゃったんだ。だから家で待ってて」
そう言いつつ笑顔でドアを閉めてしまった。旦那様の一言で、馬車が動き出してしまう。
用事? 用事って、どんな用事?
一応私の用事は終わったはずなんだけど……もしかしてあの壺かな。だって、あんな大金で買ってしまったんだから。ただ私は色が変だとしか言ってない。もしかして偽物? と思ったとしてもそこまでするだろうか。
そして、あの壺を欲しがった人はあと二人。ここには他国の者達も集まっているから予測出来ないけれど……もしかしたら、先ほどバッタリお会いした知り合いもあの場にいた可能性がある。……――ミルシス王国第二王子、テモワス・ルア・ミルシス王子が。
「……ん? 待って、おチビちゃ……ん!?」
待て待て待て待て、やばい、それはヤバい……!!
すぐに私はこの馬車の御者に戻るように伝えた。
もしかして旦那様、あの人達と一緒にいないよね!? ダメダメダメダメ!! おチビちゃんはダメ!! 絶対収拾付かなくなっちゃう!?
一体旦那様の用事が何だったのかは分からないけれど、あの二人の目的が分からない以上出くわす確率がだいぶ高い。となると……うわ、恐ろしい。
何となく、血の気が引いたような、ないような。とりあえず、旦那様を回収しなくては……!!
屋敷の前には馬車がいくつも並んでいるけれど、帰ろうとしている人はいない。だから、すぐに仮面をつけて馬車を降りると急いで屋敷の方に早歩きで向かった。
玄関前の使用人は、焦る私を見て不審に思ったようだ。けれど、持っていた招待状と「忘れ物をしてしまったの」と言い訳を付けるとすぐに通らせてくれた。一緒に探すと言われたけれど、どこにあるか分かるから大丈夫と断りすぐに右側にある廊下に向かった。
会場に向かう廊下とは違う廊下だ。私達が裏オークション後に玄関に行くために案内された廊下である。玄関に入るドアは小さくてあまり目立たないけれど、ちゃんと覚えてる。
そして、私がその廊下を速足で進むと……えっ。
「どけぇぇぇ!!」
「えっ」
誰かが、こちらに向かって走ってくる。男性だ。どけ、と言われるという事はこの屋敷の使用人ではないから裏オークションの参加者となる。けれど、ここまで急いで走っているし、何かを手に持っている。
これは……止めた方がいい?
と、思って目の前まで来ていた男性を止めようとしたけれど……あれ?
いきなり、目の前まで来ていた男性が消えて、大きな音が廊下に響いた。
「俺の奥さんに触んな」
……わぁお。旦那様強いな。一蹴りで壁に飛ばしちゃったよ。しかもめり込んでるし。
「こ、この……」
「あ゙?」
こ、っわ……ドスの利いた声が、だいぶ怖い……
これ、どうしたらいい?
「俺の、奥さん、っつったか?」
修羅場、とはこの事を言うのだろうか。
この男性と旦那様の登場で周りが見えていなかったのか、この男性が走ってきていた方向から、一人こちらに向かってきている人がいた。そして、その人物は……お会いしたくなかった方。
「お前か、私のスイランさんを奪ったのは」
その声と一緒に、旦那様のところまで飛び、胸ぐらをつかんできたのは……おチビちゃんならぬ、ミルシス王国近衛騎士団副団長ミシェル・トワイニス嬢。
でも……ちょ~っと、身長が、足りてないかな? 旦那様身長高いから、一応胸ぐらを掴めているけれど……顔がだいぶ遠い。
けれど……何この緊張感のある空気は。と、思っていたら旦那様はパシッとミシェルの手を払った。
「奪った? 貰ったの間違いだろ。俺とスイランは夫婦だ。そこは間違わないでいただきたい」
「あ゙?」
「スト~~~~~~ップ!!」
ほ~らやっぱりこうなった!! だから二人が出くわす前に旦那様を回収しようと思ってたのに!!
はぁ、これどうしたらいいのよ……
と、思っていたら二人はいきなり剣とナイフを抜いていた。いや、ちょっと待て、ここでそんな事……と思っていたら、二人共違う方向に投げ……逃げようとしていたらしいあの男性の顔面すれすれに刺さっていた。そ~っと逃げようとしていたらしい。
……こっわ。というか、息ピッタリだな。初めまして、だよね? 同じ騎士だから?
とりあえず、ミシェルと同じ方向から走ってきたテモワス王子に助け船の視線を送っておいた。
「……とりあえず、こいつ回収するぞミシェル」
「……かしこまりました」
……はぁ、面倒くさい事になっちゃった。
49
あなたにおすすめの小説
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる