扉の先は異世界(船)でした。~拾ったイケメンと過ごす異世界航海ライフ~

楠ノ木雫

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第二章 拾っちゃいけなかった、かな?

◇11 side.ヴィンス

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 海に流された俺を拾ってくれたのは、世間知らずな女性だった。

 見たことのない立派な船に一人で暮らす、20代くらいの女性。

 彼女には謎が多すぎた。世間を知らなさすぎるし、俺の事も全然警戒していない。それに、この船の船長のはずなのにこの船の事もあまりよく分かっていない。

 貴族のご令嬢のように手が綺麗だし、力仕事にも慣れていないし、俺の知らない知識もある。彼女が持っていたノートを覗き見たが、字だって書けている。まぁ、俺が読めない字がいくつかあるが、きっとこれは彼女の故郷の字なんだろうな。

 じゃあ、やはりどこかの貴族の娘なのか?

 彼女は、故郷はもうないと言っていた。となると、消された、が普通だろう。という事は、誰かが彼女をこの船に乗せて逃がした、が一番確率が高い。

 この船は自動的に動かすことが出来るし、防御力も素晴らしいの一言で表せられないほどの威力だ。だからよく知らない彼女でも大丈夫だと判断し誰かが行かせたのか。

 入ってはいけない部屋、見たことも聞いた事もない様な魔法道具、掃除をしなくても船内の清潔さを維持できる自動管理システム、酷い嵐でもかすり傷一つ付けられない自動防衛システム。

 一体彼女は誰なのか。この船は何なのか。そう思って探ってはいたが……


「ヴィンス! ヴィンス来て! なんかタコみたいなのいる! うにょうにょしてるよぉ!!」

「ナオ、漁は俺がやるって言ったろ」

「……ちょっとやりたくなっちゃったと言いますか……それよりこれ何とかしてくださいますか……!!」

「はいはい」


 魚は普通に触れるのに、タコやイカは触れないっていうのも考えものだが。一緒だろ、どっちも。それでも触れず食べられないから海に投げるんだが。


「今日は魚の塩焼きにしよ!」

「本当にいいのか?」

「全然! むしろいっぱいあるから食べなきゃ!」

「じゃあ手伝うよ。その魚は俺が運ぶから」

「いいの?」

「こういうのは俺の仕事だろ」

「ありがと、力持ちさん」


 何となく、探りを入れようとしてる自分に呆れてきたような……そんな風に最近思えてきた。

 約束事はしたが、まだ彼女の事をよく知らない。素性の知れない相手には警戒心を持っていないといずれ自分の方が危険にさらされる。そう言い聞かされて生きてきた。だから、それもあってあの開けてはいけない部屋に侵入しようと機会を伺ってはいる。

 だが、今までとは全く違った場所でこんなに自由でいられるなんて思いもしなかった。

 ひゅるるるるるるるるるるる。

 甲板に出ると、そんな鳴き声が微かにした。聞き覚えのあるその鳴き声に、この平和ボケが直った。そして、空を見上げると視界に入ってきた。それは……鷲だ。見覚えのある、鷲。俺を見つけたのだろう。

 だが、急降下しても降り立つことなく上に戻っていった。俺のいる船の甲板に降りてこられないようだ。もしかすると、この船のせいか。この船の船長はナオだ。きっと、ナオが許可しないと船には乗ることが出来ないのかもしれない。

 俺の場合、魚に間違えられてナオが拾ったからな……

 今ナオはキッチンにいる。この鷲には気が付いてない。

 これは無理だな。そう思い、ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、と指笛を鳴らした。


「ヴィンス?」

「どうした、ナオ」

「ん? なんか聞こえなかった?」

「いや? 海の音じゃないか?」

「そっか」


 鷲は……行ったな。きっと、これで俺のいる位置を知られた。まぁ、ようやく合流出来て良かった。何となく、残念な気持ちになったが、だがこのままでいれば自分の身の安全も、役割も、危険にさらされる。

 まだ、分からない事が多すぎる。きっと、どこかの国に入れば目を付けられる。もし手に入れたとしたら国政がひっくり返りかねない。

 それだけは、避けないといけない。

 ナオには恩返しをしたいと言ったが、それでは弱かった。だから、ナオにキスをした。女性心を利用したわけだが、少し申し訳なくも思う。とはいえ、これは仕方のなかったことだ。

 そして次の日の朝、顔を合わせたナオはどこか気まずさを感じているように見えた。


「……あ、あの、その、おはよ……」

「はよ」


 だが、この船だけは駄目だ。


「風邪、引かなかったか。昨日甲板結構寒かったろ」

「へっ、あ、うん、大丈夫!」


 こんな、見たこともない、とんでもない技術が詰め込まれた船が利用される事だけは、あってはならない。


「あ、実ってるぞ」

「……へ?」

「大豆」

「……あ、ほんとだ!」


 だが、この船をどう扱うかはまだ答えは出ていない。とにかく、ナオには余計な事はさせてはいけない事は分かっている。とはいえ、世間知らずではあるから扱いやすくはあるが。


「じゃあこの後豆腐作ろっか!」

「豆腐?」

「え、知らない? 白くてぷるぷるしてるの」

「……ゼリーみたいなものか?」

「ちょっと違うかな。じゃあ朝ご飯食べたら作ろっか。あとで海水汲まなきゃ!」


 ……だが、困った事に危なっかしい。

 だから彼女から目が離せない。


「……海水?」

「ほら、私が作る塩は海水から作ってるって言ったでしょ? その時に出来る液体を使うの」

「……今から塩、作るのか。俺、手伝っていいのか?」

「いいっていいって、むしろ一緒に作りたい!」


 これから買い物をする為ラモストエリス王国に行く事になる。だが、領域に入った瞬間から、気は抜けなくなる。船の事だってそうだが、彼女の事もだ。

 ただでさえ騙されそうな性格だし、こんな立派な船を傲慢な貴族共に見られたら手に入れようと彼女に漬け込むに決まってる。

 となると、俺のやる事はただ一つ。

 何故俺がここにいるのか、忘れるな。
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