えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫

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◇35 とりあえず、ぶん殴ってやる

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 空からサイシス王国を出て、ティーファス王国を越え、もう一つ国を越えると見えてきた。パラウェス帝国だ。

 見渡していたら、何やら列を見つけた。何人もの人たちが並んだ長い列だ。


「おいおい待てよ、武装してんじゃん……!」


 もしかして、これから悪魔族の領地に向かうのか。しかも何かに乗ってる。馬じゃないな。何かの魔獣か何かか? 足早いな。

 でもそれより先にエルフお姉さんだ。あっち! とピクシーが指さした先は、あれは帝都か。

 アグスティンに急いで帝都に向かってもらったけど、ピクシーはあろうことか帝都じゃなくてその近くにあった森に指をさしていた。あの森は知ってる、俺がこの異世界に飛ばされた時にいた場所だ。

 森の入り口に降りて滑り落ち着地、急いで森の中に走った。


『ルアン! ルアン!』

「乗っていいか?」

『任せろ!』

「はしゃぐなよ」


 と、今度はバリスの背に乗った。ここ、前はもっと暗かったけどちょっと明るいな。そう思ったけど、途中でそう思わないようにした。なんかいろいろとえぐれてないか? 地面。誰がやったんだろ~。……俺だな。森林破壊、すんませんでした。

 まぁそれはさておき、ピクシーの指さす先には、川があった。その川を登っていくと……いた!


「エルフお姉さん!」


「あ……」


 木の陰に座り込んでいた。ピクシーが飛んでいき、泣きそうになって彼女に飛びついていった。まぁ、見たところ大きな怪我はないようだけどボロボロではあるから、離れた事で主人が無事か不安だったんだろうね。


「ありがとう、来てくれて」

「いえ、無事でよかったです」


 治癒魔法をかけてあげると、ふぅ、と息を吐いていた。いろいろと無理をしてたんじゃないかな。でも生きててよかった。


「それで、何があったんですか」

「あっ、そう! こうしちゃいられないっ! もう始まってるの!」

「えっ。でも、さっき武装した奴ら見ましたけどちょうど国の国境を抜けたあたりでしたよ?」

「違うの! あれは援軍っ!」


 ……え、まじ? もう行っちゃってたの? え、やばいじゃん!


「じゃあ乗ってくださいっ!」

『俺!』

「そう!」


 俺が乗ったバリスの背に、エルフお姉さんを乗せた。肩にいたトロワは不満げではあったけれど、今はそうしちゃいられない。

 エルフお姉さんはバリスがいきなり動き出してうわっ、とビックリしていたけれど、俺の服を握りしめて何とか乗っていられてるみたいだ。振り落とすなよ、いいなバリス。落ちたら痛そうだし。


「今回皇帝は独断で兵を動かして悪魔族の殲滅に動き出したの」

「えっ」


 やっぱりそうだったか。


「皇帝はだいぶ前からその準備をしていたみたいなの。約96年前の戦争で敗戦国となった悪魔族の国は勇者様のご意向で潰さず監視下に置くこととなった。けれどそれをよく思ってなかったみたい。
 だから、皇帝になった今、悪魔族がパラウェス帝国に復讐するために動き出しているとでたらめの理由を作って軍隊を動かした」

「マジすか」

「今、悪魔族の国には警備兵はいても軍はない。そういう誓約だったから。だから今攻め込まれたら生き残れる悪魔はいないわ」

「結界で逃げられない、って事ですか」

「いいえ、パラウェス帝国が攻め込むには結界を解かないといけないからきっと解かれるはずよ。それでも今海は荒れまくってるから海に面している悪魔族の領地では逃げ道はない」


 まじかよ。じゃあ全員一人残さず殺す気かあいつは。いったいどんな頭してるんだよ。


「今、海が荒れているのは人魚族の仕業なの」

「人魚族ですか」

「そう。最近、人魚が何人かが誘拐されて怒っているのよ。そして、その犯人はあの皇帝」

「えっ」

「人魚の涙は流れた時宝石になり、それを飲み込むことによって自身の魔力が増幅される。けど、人魚の生き血のほうが効果が倍になる」

「殲滅させるための力を得て、しかも悪魔族達の逃げ道も防げる」

「そう」


 やることがひどすぎだろアイツっ!!

 じゃあ、【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】を欲しがったのはそのためか。


「アグスティン!」

『……』

「いいから!」

『分かった、兄弟よ』


 森を抜けたタイミングで名前を呼んだ。アグスティンが元の姿に戻り、バリスがジャンプして背中に乗った。何が何だかよくわかってないエルフお姉さんへの説明は後だ。


「悪魔族の国の場所、分かるな」

『あぁ』

「よろしく。――【全域バリア】」


 何とか背中の角をつかみ、急上昇するアグスティンに振り落とされないよう掴まった。ちゃんとエルフお姉さんの手を掴んで。


「ルアン、あなた……」

「しぃー」


 聞かないで。

 きっと、ギルドの人間であるエルフお姉さんはアグスティンの事を知っているはずだ。でも、今はそれどころじゃない。

 だから、察して。この前のシシスゴマンダーの時と同じように。

 その声が伝わったのか、うん、とうなずいてくれた。

 さて、じゃあ戦争が始まってるみたいだけど……どうすっかな。どうすれば、戦争というものは終わるのだろうか。

 俺の知ってる簡単なやつは、総大将の首を取る。でも、それだけじゃ意味がないと思う。というか、あのバカはそれで気が済まないと思う。

 じゃあ、とりあえず殴るか、俺が。一応息子だし。

 とりあえず……てめぇの首洗って待ってろ?

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