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◇34 私の心の内。

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 その後、頑張ってくれた俺の家族へのお礼としてこの町にある市場に来ていた。なんかいろいろと売っているものがあるらしく、三人の好きなものがあるかもしれないと連れてきた。

 まぁ、人並みの中でアグスティンは別としてトロワとバリスを連れてくるのはどうしたものかと思ったけれど、まぁ周りを注意していれば大丈夫だろう。


「さ、どれがいいトロワ」

『わぁ! いっぱい!』

「瓶に入ったやつがいい?」

『うんっ!』


 うん、こう見ると可愛い女の子って感じだ。魔法を使わせると容赦ない精霊になるが。

 でも、昨日はあまり元気がなかったように見えたけど今は元気そうだな。


『ねぇルアン! 私これがいい!』

『ルアン! ルアン! 俺には!』

「はいはい、バリスは次な。トロワはこれか?」

『そう! それ!』


 うん、満足そうでよかった。

 それでバリスはコロッケもどきだったか。

 そう思っていた時、いきなり現れた。


『助けてっ! ルアンっ!』


 下位精霊ピクシーだ。

 そして彼女が持っていた小さい水晶。そこからそんな言葉が流れてきた。その声は俺がよく知る人のもの。


「エルフお姉さん……?」

『パラウェス帝国の殲滅作戦が始まっちゃうっ!! その矛先は、悪魔族よっ!!』


 殲滅作戦。

 悪魔族。

 水晶を持ってきてくれたピクシーはボロボロ。羽もところどころちぎれていて。まずは治療だな、と【治癒魔法】をかけてやった。

 もしかしたら、エルフお姉さんも危ないんじゃ? という不安は言わないでおこう。彼女はA級のハンター、今はS級に昇格してるけど。だから、きっと大丈夫。いや、そう信じたい。

 自分に言い聞かせて、とりあえず人気のないところにと離れた。


「悪魔族、か」


 昨日、お姉さんが言っていたことを思い出した。パラウェス帝国が不穏な空気を漂わせている、と。そして自分達は何も出来ないと。

 殲滅、だなんて何てこと言い出すんだあの皇帝は。


『悪魔族も、人間や獣人、エルフなどと同じこの世の種族の一つだ』

「え?」

『ただ、悪魔族の王、魔王はこの世の理から外れた。そしてアンリークにより撃たれた。ただそれだけの事だ。悪魔族がすべて悪いわけではない』


 そう言ったアグスティン。アグスティン達はじいちゃんと魔王の戦いに一緒にいたってことだよな。

 魔王が理から外れた、か。そういえば、96年前の悪魔との大戦争で悪魔達は太古の呪術を使ったって言ってたな。その戦場となった場所がそれのせいで汚染されて死の大地となって近づけなくなったって。

 じゃあ、魔王が余計なことをしなければ撃たれることはなかった、という事にもなる。そんな大戦争は起こらず、じいちゃんも勇者となって魔王を討ち取りに行かずに済んだ。


『――あの日、誓約を立てた』

「えっ」

『大戦の終結後、パラウェス帝国と悪魔族の間に立てた誓いだ』


 1つ、悪魔族の国の領地をパラウェス帝国の監視下に置くこと。

 2つ、他種族に干渉しないこと。

 3つ、呪術に関することは全て消し、二度と手を出さないこと。


 なるほど、敗戦国となった悪魔族の国にパラウェス帝国が下した誓約という事か。そのうちの一つは、昨日お姉さんから聞いた内容だ。

 じゃあ、もうその件に関しては終わったことになっているはずだ。なのになんで今更、皇帝は殲滅作戦を決行しようとしているのだろうか。


『でも、あんなところにどうして悪魔がいたのかも気になるわ。結界の中にいたはずなのに』

「結界?」

『えぇ、悪魔族の国の領地を結界で覆っているの。出てこれないようにって。監視下に置くという事はこういう事よ』


 まじかよ。そこで大人しく生活してろってことか。でも、また何かやらかすかもしれないという安全策と言われれば何も言えないけどな。


「……ただ、あの人は魔王様を誕生させることだけが目的みたいだった」

『あの人?』

「そう、あの後俺んところに来たんだ。悪魔が。魔王の卵を持ってて、俺に孵化ふかしてほしいと頼まれた。断ったけど。今までの事も、悪気があったわけじゃないって言ってきた」

『え、何それ今更何言ってんのそいつ。殺されかけた事実は変わらないのに』

「でも結果死んでないし、だからなかったことにした」

『ルアンのお人よし~!』

『ルアンがいいなら俺もいいけどさぁ、いいのか?』

「ただのトラブルだった、それでいい。でも、悪魔族の国が監視下にあって、殲滅作戦が決行になった。という事は悪魔族が帝国に何かしたって考えられるけど、エルフお姉さんのあの言葉だと、皇帝の独断だって思うんだ、俺は」

『そうね』


 俺に【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】を要求したのも引っかかる。それを使って何をしようとしていたのか。でも、悪いことに使いそうな気もしなくもない。


「じゃあまずは、君、エルフお姉さんのところまで案内してくれる?」


 うなずいたピクシー。じゃあ行くかと【陰身魔法】をかけ、そして元の姿に戻ったアグスティンの背に皆で飛び乗ったのだ。

 皇帝の考え、思惑は全く分からない。正直言ってアイツのところには行きたくない。けれど、止めないといけないのであれば、エルフお姉さんが助けてと言ったのであれば、俺はいかなきゃ。

 待ってて、エルフお姉さん。




 ◇◆◇◆

 私は、とある人間の子供に一度召喚されたことがある。


「わぁ! 妖精さんだぁ!」

『え”っ、もしかして、呼んだのあなた?』


 最上位精霊である私を召喚するのは至難の業。大量の魔力も必要なのに、それをこの10歳足らずの男の子がやってのけた。

 しかも、へらへらして「妖精さん!」って呼んでくるようなやつ。


「一緒に遊んで!」

『あなた、なんで私を呼んだのよ』

「遊んでくれる人がいなかったから、妖精さん呼んだら一緒に遊んでくれるかなって思って!」


 聞いて呆れた。男の子の周りには、魔法書が散らばっていて、これを読んで精霊召喚をやってのけたのかと思うとぞっとした。変態だ、こいつ。

 けど、これを天才と呼ぶのだという事も分かってた。


『あんた、他にお友達はいないの?』

「いないよ!」

『あんた、はっきり言うのね……』

「だって本当の事だもん」


 とりあえず、呆れるしかなかった。

 けど、天才の割には素直な子だなとは思った。


「あのね、あのね、妖精さんの絵、描いていい?」

『……綺麗に描くならいいわよ』

「ありがとう妖精さん!」


 私を召喚し続けるにはそれ相応の魔力が必要だ。それなのに、数時間も彼は私を離さなかった。

 出来た! と私を描いた似顔絵は、まぁちょっと綺麗には描いてくれたみたい。


「じゃあまたね、妖精さん。絶対に明日も呼んであげるね!」

『しょうがないわね』


 そう言って別れた。

 それから、数百年の年月が経った。

 人間の一生はあまりにも短い。

 私達にとっては短すぎるくらいだ。きっと、今はもう亡くなっているのかもしれない。

 ただ、ふと、それを思い出しただけ。


「どしたトロワ」

『……んーん、何でもないよ、ルアン』

「そっか。じゃあ今日はどの飴がいい?」

『これ!』


 アンリークも、112年という短い一生だった。きっと、ルアン、ルイもそれくらいの一生を生きるのだろう。

 だから、絶対に忘れないように。

 ルイとの生活を楽しもう、思い出をたくさん作ろう。

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