厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第一部 五章「命を喰らう結晶」

「もう一人の不死」

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「――殺していいんだよねっ」

 そう言い放つ少年は、その言葉に似合わない無垢な笑みをしていた。
 言葉にあるのは殺意のようなまがまがしさではなく、純粋なことを成そうとするもので命を奪うという重みもなにも感じさせない。
 それは一つの恐怖でもある。
 軽口かもしれなくとも、簡単に人の恐怖心を煽った。
 
「う、撃てぇええっ!!」

 狼狽えつつ教祖は腕を振り払い声をあげた。
 教祖の命令のままに、再び少年の胴体へ杭が撃ち込まれる。
 
「心臓だ! 不死でも心臓を止めてしまえば……!」

 見事に胸を撃ち貫く杭は心臓を穿つ。
 手応えは確かにあった。急な息苦しさが少年をよろめかせ軽い表情を崩し、「やったか」と意気込む。
 しかし、少年の意識はまだそこにあり、心臓を貫く杭を容赦なく引き抜いた。

「え、ぅ……っ。ここはやめてよねっ。気持ち悪くなるし、息しにくくなるか、らッ!」

 今度は杭を投げ飛ばし教祖の隣にいた信者にへとぶつける。
 物理的な殺傷では少年の動きを止めることは不可能だと理解させられた。
 
「あと、危ないって言ってるのっ。わがままよくないって、言ってたもん! ボクいい子だから、マスターの教えてくれたことちゃんとできるもん! 邪魔する奴は「殺せ」って約束なんだからね!」

 どういう教育を受けているのか少年は非合理的な言い文句を押しつけてくる。
 そう言い返せるような宗教団体ですらもなく、絶句して立ち尽くすのみだ。
 
「こんなふうにいじめる人、ボク嫌い!」

「そんなこと、知るかぁああっ!! 取り押さえろ! 死なぬなら取り押さえてしまえ!」

「ほわわっ!?」

 一斉に大人たちが飛びかかる。
 覆い被さる影に少年は一気に地を蹴って跳躍。捕まえ損ねた信者を足蹴に、更に少年は高く飛び上がり多数余っていた信者を転々と飛び移っていく。
  軽々と身軽な少年は地にへとようやく脚を付けると集団の後ろを取る。
 
「ちょこまかとぉ! 早く取り押さえんか!」

 操り人形のように教祖の命令を忠実に執行しようとする信者は少年を捕らえようと必死だ。攻撃を受け、逃げ回っていた少年はついに手に持っていた銃を向ける。銃口には光が集まり、少年が引き金を引くと、それは弾け幾つもの銃弾となって曲線を描き放たれる。一度引き金を引くだけで同時に複数の信者たちを撃ち抜く。
 その弾は実弾とは異なる。その銃は普通のものとは違っていた。

「――魔銃、だと!? なぜこうも不死身に続き魔銃使いまでもが……!」

 こんな同じ者が二人も現れれば狼狽するのも当たり前だった。

「も~。捕まえようとする人も、ボク嫌い。そういう人は消えてよね」

 及び腰に少年は身を傾ける。少年はその体勢から一気に身を広げ解き放った時、異常な姿にへと変わっていた。
 少年の背には漆黒とした翼が生え広がる。
 そして、甘えた様な声で魔銃にへと囁いた。

「ねぇ? ――

 魔銃は呼び声に応え翡翠とした光を放ち風を纏う。
 
「ボクに酷いことする人なんて、消しちゃお? だってマスターがそう教えてくれたから」

 少年の翼は羽ばたき上空にへと導く。その翼は飾りなどでもない、紛れもない鳥が飛び立つために持つ翼そのものだった。
 塔の最上階であるこの場に侵入することなど崖を飛び降りる以外に方法はない。その考えを覆すような姿が信者や教祖の目にへと焼き付けられた。
 曇りのない漆黒の翼は堕天使とも錯覚させる。
 
「もう面倒だし、一気にやっちゃおっか」

 その言葉とともに銃口は天井の中心にへと向けられる。
 そして、少年は唱えた。


「――【舞え。フレズベルグ】」

 引き金が当然のように引かれた。
 銃弾は天井に直撃するよりも早く弾けて消え、巨大な円法陣を広げる。
 緑色とした法陣は大室の上空を占拠し全てを見下ろしている。
 仕掛けた張本人は天井にあいた穴から外にへと飛び立ち残された者たちは狼狽に身を固めた。
 法陣は急激に光を増し、無数の光の玉を形成していく。
 そして、それらは雨の様に降り注ぎ真下にいた全てを無差別に撃ち抜いた。
 天より飛来する光の嵐。なんの守りのない生者はその前に断末魔だけを献げ破壊音と共に消滅していく。

   

 酷い嵐が通り過ぎれば、そこにあるのは静寂とした世界だった。
 教祖とそれを崇拝していた信者たちはその場で倒れていた。
 体には大きな穴で、まるで抉り取られたかのような無残な有様となって。
 生存者は、おそらくいない。
 ――未だに危機を脱していないエリー以外は。
 巨大な機器は損傷箇所から火花を散らし動きを止めてしまっている。しかし、止まろうとも既にがガラスケースの中身は液体で満たされていた。
 口を閉じ、堪えていたエリーにもうそんな余力などはない。呼吸もできず、ついに開いてしまった口からは空気が抜けていってしまう。
 冷たい。寒い。苦しい……。
 意識が薄れていく中、その感覚が心すらも凍てつかせていくようだ。
 
 ――私……、死ぬのかな……?

 思わず液体の中でエリーはふと目を閉じ涙をこぼした。
 なにも聞こえない。なにも見えない。
 自分の鼓動ですら、響いてこない。
 体が水底に沈んでいくように、なにもかもが遠くなっていく。
 音だけでなく光すらも。暗闇にへと体が溺れる。
 代わりにエリーに与えられたのはぼんやりとした走馬灯だ。
 記憶のないエリーにとっての記憶はひと月とほんの少しのみ。その短い思い出がゆっくりと流れていく。

 拾ってくれたのは優しい人。ずっと不安でいる自分を癒やし笑顔を与えてくれた人。きっと誰よりも長く一緒にいたはずなのに、彼女との記憶はすぐに泡となって消えてしまう。
 入れ替わるように映り込んだのは冷たい少年。マーサよりも短い付き合いのはずの彼との時間が、不思議と長く感じられた。
 最初に抱いたのは恐怖。優しさの欠片もなく冷たくて酷い人。氷のように冷たく、炎を纏う魔銃使い。

 心の中で、エリーは彼との思い出に手を伸ばす。

 道具と言う彼にとって、他はモノとしか見れない。人を遠ざけ、嫌い、……それでも何故か安心できた。
 だって、彼は自分を守ってくれるのだから。どんな扱いでもそれは変わらない。この彼に対する想いは紛れもなく自分のもので本当の気持ちだった。
 だから彼には付いていく。どんな場所だろうと、彼とならきっと大丈夫。
 自分で選んで、自分で決めた。素敵な出会いだってあった。

 ――好意は偽善……。

 そう思われてもいい。少しでも彼の役に立てるのなら。
 守られているのなら、その分彼のためになにかしてあげたい。 
  ……そう、決意したのに。

 
 ――最後に、会いたかったな……。クロトさん……。


 エリーの意識はもはや現実を見ているかもわからない。
 ただただ冷たい闇の底にへと沈んでいきながら一寸だけ光の見えた水上を見たまま。それが実際に見えているものなのか、それとも錯覚なのか、その判断すらする思考が残っていない。
 しだいに感覚がなくなって感じる温度すら遠のいていく。 
 瞼も重く、眠るようにエリーは全てを閉ざし闇にへと呑まれた。
 
 ――……

 全てを投げ出した闇の中に、わずかな光が見えた気がする。
 瞳を閉じているのにどこからその光は見えているのか。
 錯覚と疑うも、その光はしだいに広がり、自身を覆う闇を消し去った。
 その時、確かな温もりが体に触れる。




 ヒビを入れたガラスケースが軋み、水が隙間から漏れる。流れは勢いを増し、ケースを破壊し一気に流出。放り出された小さく芽付いた結晶は未完成なため砕けて大気にへと溶けていく。
 全身を濡らし冷たくなったエリーの身は一人の腕に抱かれた。ようやく空気を口に含むと、体内にまで侵入していた液体をエリーは吐き出しながらむせ返る。縛る拘束具を剥がし、ケースから引きずり出されたエリーの意識が光りを浴びて虚ろとして開く。
 ぼやける視界の先には、見慣れた顔が存在していた。

「……っ、……ク、ロ……さん……?」

 上手く言葉を出せずとも、エリーは彼の名を口にする。
 感覚の薄れた体は無意識に温もりを求めエリーはクロトにへと縋り付いた。
 初めてかもしれない。自らこうして彼の胴体にへと寄り添うのは。
 それはとても温かく、冷え切った体を温めてくれる。

「……たく。本当に手間のかかる奴だよ、クソガキ」

 冷たくあしらうような言葉使い。だがそれでも聞いていてホッとする。
 姿だけでなく声までも聞ければ、そこにいるのは夢でも幻でもなく、クロト本人である。
 無事なクロトに会えた。それだけで安堵し涙が溢れてきてしまう。
 
「よか……った……っ。無事で……、よかった……」

 怖かった。寂しかった。辛かった。
 そんな自分のことよりも、エリーは力の入らない体で微笑みクロトの無事を喜ぶ。

「……なんで俺の心配なんだよ。……このアホが」

 心なしか、クロトはその時肩の力を抜いて穏やかに笑みを浮かべたような気がする。 
 体力のほとんど残っていないエリーはまた瞼を閉じるとそのまま眠るように意識を手放す。
 救い出したことに安心はするが今のエリーの体温はとても低く危険な状態なことに変わりはない。
 このままでは衰弱死も有り得る。早く何処かで温め安静にさせねば……。
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