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第七部 四章「魔銃使いと半魔」

「裏口」

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 銃声が外で鳴り続ける。
 同時に地鳴りは地の深くにも鈍く聞こえていた。 
 それに耳を澄まし、外の状況を悟る。

『外は派手にやっている様だな。その方がこちら側が手薄にもなる。……予定通りだ』

「うん。……なんか嫌な感じ? にはなるけどぉ」

 両耳に手をかざしていたイロハが、少々不貞腐れた顔で石畳の天井を見上げる。
 クロトとは別行動をとるイロハたちがいるのは、屋敷の地下だ。
 ニーズヘッグの偵察により見つけた地下への近道。屋敷の裏手にある落とし穴を通り、針の罠を超えた先。
 
『ニーズヘッグの事もあるだろうが、そう駄々をこねるな。元々手薄な裏手ではあるが、こちら側を悟られては面倒だからな』

「……よくわかんないけど、とりあえず先輩の作戦通り? ってこと?」

『そういう事だ。異端者の目もあちらに向く。こちらはこちらで、やるべき事を済ませるのみだ』

「うん」

 頷きを返す。
 しかし、ふとイロハは後ろにへと振り返った。
 侵入者を阻むための罠である針地獄の落とし穴。イロハの翼があれば、それは難なく超えられるため、何の問題もない。
 ……が。イロハが気にかけているのはそういう事ではない。
 単純に。簡単に。不思議とその罠に首を傾けた。

「……なんか、思ってたよりも危なくなさそうな罠だったね。……折れてるし」

 イロハの視線の先にある針地獄は、当初思い浮かべていたものと異なっていた。
 ニーズヘッグの調査では、落ちれば死は確定されるほどの針の山だったらしい。はずが、その針地獄はまるで固い岩でも落とされたかのようにへし折られており、とても針地獄とは呼べない状況下にあった。
 
『確かにな。……あのニーズヘッグが見間違えるとは、とても思えんのだがな』

 フレズベルグも、友の情報に間違いはないと疑う光景。
 だが、今はそれを悩む時ではないとイロハに言いつけ、先にへと進ませた。
 道中。いったいがあの針地獄を破壊したのかと思いつつ……。

   ◆

 薄暗い、冷たい通路。温もりよりも冷酷さのみで形作られた場所を淡々と歩む、の影。
 それは幼くあり、その場に不似合いと思える気楽な歌声に似た会話があった。

「どこかしら~? どこかしら~? 魔女様の邪魔者はぁ?」
「どこかしら~? どこかしら~? 魔女様の不届き者はぁ?」

 身を左右に揺らしながら布袋を抱える二人の少女。
 瓜二つと、鏡合わせな双子――ナナとルル。
 少女たちは暗闇に怯えることなく、何かを探しながら楽し気にいる。
 その前方で二人と行動を共にするのは、鬼の面をかぶる少年――リキ。
 気楽そうな二人の言葉はどこか物騒であるが、聞こえないふりをして一人黙る。
 理由としては、後ろの二人が魔女の関係者である事。頼まれ事ついでに魔女から引き渡された。
 
「お兄様すごいのぉ。針の山なんてへなちょこ~」
「お兄様すごいのぉ。針の山より頑丈なの~」

「……それは、恐縮です。確かに、あのような場所ではお二人も危険ですからね。自分がでよかったです」

 幼い子の接し方か、リキは戸惑いつつ応答する。
 いや。接し方よりも、後ろをついてくる少女たちの視線が気がかり、というモノやもしれない。
 
「……あの。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「「なんですのぉ?」」

 息を合わせた返答。
 双子ならではか、まるで同じ行動をとる人間が二人いるかの気にもなる。

「その……、手に持っている物は、いったい……?」

 リキが気にしているのは、ナナとルルが抱えている布袋だ。
 大きさは少女が持つには大きくあり、身の丈近くはある。二人は同じ大きさの物を大事そうに抱えていた。
 リキとしては、その中身を妙に意識してしまう。その中身と、少女のこちらを物欲しそうな視線で見る目を合わせ、気が許せずにいた。
 質問に対し、二人はにっこり笑って答える。

「「乙女の秘密ですわぁ♪」」

 と。なら仕方ないと、渋々納得させられてしまう。
 確かに、幼子とはいえ女性。そう言われてしまえば深々と探るのは無粋というモノ。リキは無理矢理にでも了承し、その件には触れない様にした。
 それから入り組んだ道を進み続け、上にへと続く階段を見つける。
 
「では、此処までで大丈夫でしょうか? 一応、魔女殿には別を頼まれておりますので、自分はこのまま下にいるのですが……」

 リキにはリキの役目がある。
 同行者として来た少女たちが言うには、上に用があるとのこと。
 案内し終えると、二人は元気よく深々と頭を下げた。

「「はーい。お兄様、ありがとうですのぉ」」

 ナナはルルの手を取り、仲良く上にへと駆け上がっていく。
 それを見送り、リキはまた暗い通路の奥にへと向かった。




 明るい道が見える。
 駆け上がった先は明るく、少女たちを招き入れる。
 煌びやかな屋敷の中。二人はようやく暗闇から解放されたと、体を伸ばす。

「此処にいますのね。ルル」
「此処にいますのね。ナナ」

 お互いに顔を見合わせ、確認をとる。
 キャッキャッと楽し気に会話をする二人の姿は、とても屋敷内では目立つものだ。
 裏手で作業をしていた使用人が、その声に引き寄せられ部屋の扉を開けて様子を覗き込む。

「誰かいるの……?」

 使用人でも、銃声の音もあり現状は理解できていた。そのため部屋にこもり安全をとっていた。
 しかし、幼い声につられてしまう。
 この状況下で、いったい誰が騒いでいるのか。
 最初に気付いたのは、食事や掃除を行う使用人の女性である。
 通路を覗き込むと、幼い少女二人と目が合う。
 慌てて使用人は部屋から飛び出し少女たちにへと駆け寄った。

「危ないわよっ。今は怖い人がうろついているみたいだから、早く部屋に――」

 子供の身を案じて、二人を部屋に連れ込もうとした。
 その時、血しぶきが通路にへと飛び散る。
 鮮血が扉の隙間から見えたのか、次々と何があったのかと他の使用人たちも様子を見に出てきた。
 そして、同時に空気は凍てつき、甲高い悲鳴があがる。
 
 最初に飛び出した使用人が、無残な姿で発見された。

 首と胴体を切断され、内臓が周囲にへと飛び散っていた。
 その光景を認識した時、急激な吐き気と嗅覚を抉る血の匂いが襲い掛かる。
 誰もが言葉を失う光景だというのに、その中で、少女たちは言う。

「綺麗な赤~」
「真っ赤な赤~」

 飛び散った内臓の一部を手に取り、その色鮮やかなものに目移りする。
 少女二人にはそれらが綺麗な宝石にでも見えているのか、どれもこれもが宝の山かの様。
 ……遅れて。ナナとルルは同時に目を、見ていた者たちにへと向ける。
 
「お客様がいっぱいよ、ルル」
「お客様がいっぱいね、ナナ」

 血に濡れつつ、二人は不気味と笑みを浮かべる。
 傍らにあったものを手にし、二人はそれらを見せつける。
 それは大きなはさみ。二つに分割されたそれらを一人一つ持ち、合わせた。

「もっともっと、真っ赤な色を見せてください」
「もっともっと、綺麗な血を見せてください」

 そこから聞こえてくるのは呪いの言葉か。
 誰もの思考を奪う、忌まわしくある言葉の羅列が脳を支配していく。

「「くださいな、くださいな」」

「皆さんのいろんなモノをくださいな」
「皆さんのどれもが欲しいの」
「腕でも足でも」
「舌でも目でも」
「指でも骨でも」
「脳でも心臓でも」
「その全てをくださいな」

「「私たちの【欲】を満たしてくださいな」」

 二人は合わせた刃を鋏の如く、ジョキンッと噛み合わせた。

「――さぁ、私たちと遊んでくださいな」


******************

『やくまが 次回予告』

ネア
「アンタが強ければよかった」

クロト
「それはもう本編で聞いた」

ネア
「アンタが弱ければよかった」

クロト
「それも本編で聞いた」

ネア
「アンタが、私が認めるくらい強くて、いい加減でも中途半端でもなくて、女性にも優しくて、人の事ちゃんと想える、男でも許せるような完全無欠の完璧超人ならいっそよかった」

クロト
「何処にそんな人材がいるんだよ? 急にハードル上げて無理難題としか言いようがないが?」

ネア
「それくらいの奴だったら、お姉さんだってちゃんと相談できたもん!」

クロト
「もん! じゃねーよ! 逆にそんな奴がいたらキモイんだが? こえーんだが? お前ずっと俺にそんな気味の悪いものを求めてたのかよ?」

ネア
「いやぁ……、さすがにアンタがそれだったらと考えると不気味すぎて逆に近寄りたくないわ。ないない」

クロト
「なんなんだよこの茶番は……」

ネア
「さーて、お姉さんがついに本気出したんだから、普段からやられてるアンタは余計にかなわないわね。この場だけでも諦めとけば?」

クロト
「ほざけ。誰が諦めるかってんだ」

ネア
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第七部 五章「悲雷心」。なら、死ぬ気でかかかってくるのね」

クロト
「そのつもりだ」

ネア
「……そう、アンタはそれでいいのよ。悪いのは全部――」
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