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第八部 一章「祝星祭」

★序章★

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 それは100年に一度おこるといわれている現象。
 世界中のマナが天に向かって舞い上がるように光りだす。それと同時に星は輝きをまし流星群が降りそそぐ。
 その祝祭は魔銃使いたちの行く先にもあった。
 星の瞳に流星群が映りこむ。
 多くの眩い星を誰もが祝福するが、少女が抱く星はけして受け入れられる事はないだろう。
 その星を望むのはただ一人。

「お久しぶり。ようやくこの時が来たの。迎えに来たわ、愛おしい子」

 全てはこの日のため。この時のために全てはあった。
 ついに訪れた約束の日。真実が告げられる日。【願い】が叶う日。
 魔女の仕組んだ彼女の、彼女たちのための筋書きは最終局面を迎える。
 
【厄災の姫と魔銃使い】第八部 願い星編:前編 開幕


 
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「……と、言うわけでだな。情報共有と何か意見などを聞きたいのだが」

 南の国――ヴァイスレット王城。アヴァロー・ヴァイスレット王は書類の数々に目を通しながら語る。
 その途中。言葉を遮る様に「ふっ」と鼻で笑う声が。アヴァローは書類から目を離し、声の方にへと視線を傾ける。
 声の正体は投影された東の国――レガル王ことベアトリス・リーフォン・レガル王だ。
 彼女は胸を張りながら口を挟む。

『そのような事は当の前から把握しておる。多少のずれはあったが、その原因らしくものも昨夜消失した事を確認済み。こちらは順調にこの祝祭の準備を進めておるわ。余の精霊たちは優秀でな』

 精霊たちを称賛しつつ、ベアトリスはご機嫌なもの。
 他王を見下す姿勢はあるものの、上機嫌で会議に参加しているのなら問題ないと、アヴァローはなかった事の様に流す。もちろん、北の国――アイルカーヌ王ことコーア・アイルカーヌも同様だ。
 現王の会議で、最も荒げさせてはいけないのがベアトリスである。
 
「さすがはレガル王。順調なのは喜ばしい事だ」

『うむ。当然であろう』

 誇らしげだ。自慢する様にある大きな態度も不愛想であるよりは可愛げかあるというもの。
 怒りもせず、和やかに対応するアヴァローに合わせ、コーアも拍手をしておく。
 
『ずれの件に関しては、申し訳なく思っていますレガル王。まさかアイルカーヌの民がレガルに損害を与えてしまうなど……。先代からも言われていましたが、警戒を怠っていました。すみません』

『アイルカーヌ王の意志でないのなら問題はない。少しマナが減少したのと燃えた程度だ。その程度、すぐにレガルでは回復する。ついでに何者かに処罰されたので満足している。それに余は今機嫌が良いのでな。ありがたく思うがいい』

「まあまあ、そんな辛気臭い話よりも、今はこちらではないか。なんせ、100年に一度の祝祭なのだからな」

『そうですね。こちらではサキアヌ代表より連絡が届いておりますよ。遅れながらも祝祭の準備をされているそうです』

『あちらはこの様に対面することができぬからな。なんせ精霊路も乏しい故、哀れな国だ』

 西の国――サキアヌには王がなく、国を代表する面々が集い、会議を通して国の発展や事業を執り行っている。
 通信を通して王たちの会議に出席することもできず。アイルカーヌとは書面を通してやりとりを行っている。
 この会議での事も、後にアイルカーヌからサキアヌへ届く流れ。
 各々の国ではそれぞれどのようにして祝祭を盛り上げるかを一部発表。会議の間は荒れる事もなく終える事となった。
 先に退出したのはベアトリス。コーアも退出しようとしたが、ベアトリスがいなくなった事に安堵してからアヴァローにへと声をかける。

『まさか王位に着いてからこの祝祭が訪れるとは、思ってませんでした』

「長生きすれば次回も見る事ができるやもしれんな。ははっ」

『ヴァイスレット王は何故か亡くなる姿が想像できませんね。なんというか、もっと長生きしそうなものがあります』

「私とてただの人間なのでなぁ。期待に応えるのは難しそうだよ」

 と。アヴァローは顎を撫でながら笑う。
 コーアもそれは理解しているのだが、その理屈を超えそうなアヴァローの存在感は歳のわりに大きいというもの。思わず苦笑を返してしまう。

『それではヴァイスレット王。良き祝祭を』

「アイルカーヌ王も。良き祝祭を」



 これより日数は流れ、彼らの言う祝祭は訪れる。
 100年に一度で訪れると言われる、一生に一度あるかないかの記念すべき日。
 星の輝きが天を覆う神秘の現象。
 
 ――それは同時に、約束の日でもある。
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