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第七部 六章「もう一度、此処から」
「残りわずか」
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ざく……。ざく……。
土を掘る音はクロトたちが暴れた夜の後、早朝に鳴り続けていた。
瓦礫の一部をショベル代わりに使い掘り続けたリキは、朝日が昇ると同時に一息入れて空を眺めた。
「……もう朝ですか。思った以上に崩壊がなく助かりましたが……」
思い返しながら、リキは壊れた屋敷にへと向く。火はすっかり消え、焦げた臭いと、それに混じる血の臭いに眉をひそめる。
最後前を向き直れば、地面には幾つも掘り起こされた穴がある。大きさは大人が入れるほどの物であり、少しの休憩の後にリキはなんとか回収できた遺体の数々を運び、丁寧に穴にへと配置していく。
全て、屋敷にいた使用人や警備人。……そして、首のない領主の体。
中には体のパーツがバラバラな物もあり、それらしい物で組み合わせる事しかできず、正確に合わせる事はできない。曖昧ながらもそれらを穴に置き終われば、リキは再度瓦礫のショベルでそれらを黙々と埋めていく。
リキが作ったのは簡易な墓である。自分が殺めたわけではなくとも、罪悪感を胸に土をかける。
最後の穴には最後に生存していたはずである領主の身がある。そこに土をかぶせる前に、リキはぽつりと「申し訳ありません……」と呟く。
脳裏には、数時間前の事がよぎる……。
ジョキン。ジョキン。
鋏の擦りあう音は不気味なほど頭に残っているものだ。
不気味と言えば、あの双子もそうだった。
共に行動をしている時から薄々は感じていた、ジリジリと迫りくる嫌悪感。後ろを歩きながら、彼女たちはいったいどのような思いで自分を見ていたのか。
思い出すだけで、何故その感じた嫌悪感に正直になれなかったのか。向き合っていれば、この様に多くの者の命を奪わなくて済んだのか。
全て自分の責任とも思えてくる。
少女たちは不気味に笑い、夜闇に紛れ影を伸ばし、守ろうとした領主の首を刈り取った。
その時、少女たちはけして二人だけではなかった。
その数は多く、尽きない欲を形どったかのようにもと、リキは思い返す。
「これが、貴方の望んだ結果なのですか……? ――魔女殿」
自分だけがこの場で生かされた事にも不服を感じてしまう。
「……そういえば、クロト殿の気配がしたような。…………気のせい?」
◆
そこは現実か、それとも幻想か。
しんとした空間で、一人本をめくる少女がいた。
少女は幼い外見に、大人びた黒のドレスを纏う、どこか不思議と目を奪うような妖艶さを持っている。
その周囲は淡い紫を彩った水晶で構成された神殿。あるいは城とでも呼べる場所。
少女――魔女が幾度かページをそっとめくった時、彼女の周囲が瞬時に輝きを変える。
魔女は、すっと上を見上げる。巨大な砂時計は先ほどまで砂を落とさずにいたが、チリッと動きを見せ時を進ませる。そのわずかな振動、変化が周囲の水晶を共鳴させ光傾けた。
「……おつかいはちゃんとできたようね。リキには悪いけど、私は自分の【願い】を理解してもらおうなんて思ってないの。……ようやく、この【願い】が叶うその過程に何があったとしても……ね」
席を立ち、魔女は砂時計を見上げた目を下にずらしていく。
二つの巨大な砂時計。その間には、一つの玉座が置かれていた。
魔女はその玉座を撫で、寄り添い穏やかな笑みを浮かべる。
「邪魔をしたマナの減少問題もこれで解消される。100年に一度、この日が来るのをずっと待っていた。私の【願い】。私たちの【願い】が、ようやく叶う時が来たのね。……長かった。待つことは昔から嫌いだった。でも、それももうお終い。そうよね……ダンタリオン」
抱きしめる本に魔女は問いかける。
本は何も言わない。ただ、その無言にも関わらず、魔女は肯定の声を聴く。
魔女は靴を鳴らし、広い神殿内で軽やかに踊る。
長い髪をなびかせ。水晶は魔女を映しながら光を変えて、まるで彼女の悲願を祝福するかの様。
魔女は本を掲げ、無垢な子供のような笑みを浮かべた。
「――さぁ、迎えに行きましょうダンタリオン。私の愛する、愛おしい子たちを」
******************************
『やくまが 次回予告』
ネア
「最近、人里のイベント事に関わってる気がしない」
クロト
「必要性がないだろうが」
ネア
「お姉さんだってパーッとストレス発散したい時だってあんのよ」
クロト
「あれだけ電気流してもたりねーのかよ……」
ネア
「誰がそっち方面のストレス発散を求めたって? もっとこう、特大イベントでエリーちゃんとキャッキャウフフな展開とか。そういうの!」
クロト
「つまり私情にかられたいと。……よし。いらねーな」
ネア
「いるわよ!」
クロト
「必要性がねーって言ってんだろうが。だいたい、都合よくそんなもんあるわけ……」
ネア
「と、思うじゃん?」
クロト
「……腹立つなぁ」
ネア
「実はあれから移動して現在地。元クレイディアント領地だった此処でお祭りあるんですって。どうせもう夜だし、此処で宿でしょ? いいわよアンタは宿で休んでても。私とエリーちゃんで言ってくるから」
クロト
「ここ最近のお前の行動で信用できねぇ……」
ネア
「じゃあそれまでは信用してたと?」
クロト
「…………面倒だが不安のため仕方なく行くか」
ネア
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第八部 一章「祝星祭」。まさかこんな大イベントとは……」
クロト
「人生あるかないかのイベントだな」
ネア
「なんかありそうで怖くなってきたわね」
土を掘る音はクロトたちが暴れた夜の後、早朝に鳴り続けていた。
瓦礫の一部をショベル代わりに使い掘り続けたリキは、朝日が昇ると同時に一息入れて空を眺めた。
「……もう朝ですか。思った以上に崩壊がなく助かりましたが……」
思い返しながら、リキは壊れた屋敷にへと向く。火はすっかり消え、焦げた臭いと、それに混じる血の臭いに眉をひそめる。
最後前を向き直れば、地面には幾つも掘り起こされた穴がある。大きさは大人が入れるほどの物であり、少しの休憩の後にリキはなんとか回収できた遺体の数々を運び、丁寧に穴にへと配置していく。
全て、屋敷にいた使用人や警備人。……そして、首のない領主の体。
中には体のパーツがバラバラな物もあり、それらしい物で組み合わせる事しかできず、正確に合わせる事はできない。曖昧ながらもそれらを穴に置き終われば、リキは再度瓦礫のショベルでそれらを黙々と埋めていく。
リキが作ったのは簡易な墓である。自分が殺めたわけではなくとも、罪悪感を胸に土をかける。
最後の穴には最後に生存していたはずである領主の身がある。そこに土をかぶせる前に、リキはぽつりと「申し訳ありません……」と呟く。
脳裏には、数時間前の事がよぎる……。
ジョキン。ジョキン。
鋏の擦りあう音は不気味なほど頭に残っているものだ。
不気味と言えば、あの双子もそうだった。
共に行動をしている時から薄々は感じていた、ジリジリと迫りくる嫌悪感。後ろを歩きながら、彼女たちはいったいどのような思いで自分を見ていたのか。
思い出すだけで、何故その感じた嫌悪感に正直になれなかったのか。向き合っていれば、この様に多くの者の命を奪わなくて済んだのか。
全て自分の責任とも思えてくる。
少女たちは不気味に笑い、夜闇に紛れ影を伸ばし、守ろうとした領主の首を刈り取った。
その時、少女たちはけして二人だけではなかった。
その数は多く、尽きない欲を形どったかのようにもと、リキは思い返す。
「これが、貴方の望んだ結果なのですか……? ――魔女殿」
自分だけがこの場で生かされた事にも不服を感じてしまう。
「……そういえば、クロト殿の気配がしたような。…………気のせい?」
◆
そこは現実か、それとも幻想か。
しんとした空間で、一人本をめくる少女がいた。
少女は幼い外見に、大人びた黒のドレスを纏う、どこか不思議と目を奪うような妖艶さを持っている。
その周囲は淡い紫を彩った水晶で構成された神殿。あるいは城とでも呼べる場所。
少女――魔女が幾度かページをそっとめくった時、彼女の周囲が瞬時に輝きを変える。
魔女は、すっと上を見上げる。巨大な砂時計は先ほどまで砂を落とさずにいたが、チリッと動きを見せ時を進ませる。そのわずかな振動、変化が周囲の水晶を共鳴させ光傾けた。
「……おつかいはちゃんとできたようね。リキには悪いけど、私は自分の【願い】を理解してもらおうなんて思ってないの。……ようやく、この【願い】が叶うその過程に何があったとしても……ね」
席を立ち、魔女は砂時計を見上げた目を下にずらしていく。
二つの巨大な砂時計。その間には、一つの玉座が置かれていた。
魔女はその玉座を撫で、寄り添い穏やかな笑みを浮かべる。
「邪魔をしたマナの減少問題もこれで解消される。100年に一度、この日が来るのをずっと待っていた。私の【願い】。私たちの【願い】が、ようやく叶う時が来たのね。……長かった。待つことは昔から嫌いだった。でも、それももうお終い。そうよね……ダンタリオン」
抱きしめる本に魔女は問いかける。
本は何も言わない。ただ、その無言にも関わらず、魔女は肯定の声を聴く。
魔女は靴を鳴らし、広い神殿内で軽やかに踊る。
長い髪をなびかせ。水晶は魔女を映しながら光を変えて、まるで彼女の悲願を祝福するかの様。
魔女は本を掲げ、無垢な子供のような笑みを浮かべた。
「――さぁ、迎えに行きましょうダンタリオン。私の愛する、愛おしい子たちを」
******************************
『やくまが 次回予告』
ネア
「最近、人里のイベント事に関わってる気がしない」
クロト
「必要性がないだろうが」
ネア
「お姉さんだってパーッとストレス発散したい時だってあんのよ」
クロト
「あれだけ電気流してもたりねーのかよ……」
ネア
「誰がそっち方面のストレス発散を求めたって? もっとこう、特大イベントでエリーちゃんとキャッキャウフフな展開とか。そういうの!」
クロト
「つまり私情にかられたいと。……よし。いらねーな」
ネア
「いるわよ!」
クロト
「必要性がねーって言ってんだろうが。だいたい、都合よくそんなもんあるわけ……」
ネア
「と、思うじゃん?」
クロト
「……腹立つなぁ」
ネア
「実はあれから移動して現在地。元クレイディアント領地だった此処でお祭りあるんですって。どうせもう夜だし、此処で宿でしょ? いいわよアンタは宿で休んでても。私とエリーちゃんで言ってくるから」
クロト
「ここ最近のお前の行動で信用できねぇ……」
ネア
「じゃあそれまでは信用してたと?」
クロト
「…………面倒だが不安のため仕方なく行くか」
ネア
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第八部 一章「祝星祭」。まさかこんな大イベントとは……」
クロト
「人生あるかないかのイベントだな」
ネア
「なんかありそうで怖くなってきたわね」
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