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第九部 五章「願い星」
「白のX」
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現状の感覚としては、酷い悪夢を見た後の唐突な目覚めにも似ていた。
魔女の力にのまれ、思考などまともにできず頭の中が真っ白になってしまった。そのまま敗北を刻まれるという焦燥感が迫ってくる。あの【怒り】の凝縮された水晶の牙が目先にまで近づいた事ですら、今でもその脅威を肌が覚えているほど。それほどまでに身が強張っていた、はずだった。
にも関わらず、全ては夢だったかのように跡形もなくクロトの周囲から消えていた。
傷も疲労もまったくない。まるで全てが嘘だったのだと、呆気に取られてしまっていた。
そして、目の前にある光景も現実とはとても思えず、間の抜けた顔でその光景に呆けてしまう。
『こちらも見つかってませんよ……。見つけたらとっくに情報共有しています』
『もう消滅したと考えるのが妥当では?』
『なら我々も御役御免ですか?』
『ですが、まだあちらの詳細もつかめておりませんので、そちらが最優先事項になるかと』
『困りますよね~。仕事を増やされるのは……』
楕円テーブルを囲い、4体の白いローブはそんな事をぶつぶつと言い合っている。4体いるにも関わらず、どのローブも同じ声と口調であり、まるで同一人物が複数に分かれて対話しているようにも見えた。
しかし、それを呆然と見るクロトにはそういった人物に心当たりもなく、刹那の夢なのかとも思えたがそれも難しい。あった事のある人物ならまだしも、見知らぬ相手が堂々と映りこんでくるのも不可解。こんな特徴的な輩を一度見れば相当の事がない限り忘れはしないだろう。
ならば、彼らはいったい何者なのか。
呆気に取られていたクロト。徐々に空虚だった頭には、少しずつ不快感が増してきた。
走馬灯の序章か。幻覚か。なんにしろ関係ない。
魔女との戦いが夢などでない事など自分がよく理解している。その合間に割り込んできたこの空間と、対話している謎の物体たち。どうあれ邪魔されたと解釈したクロトは、彼らの中心にあるテーブルを感情のままに蹴り飛ばした。
激しい衝突音。意外にも軽すぎたテーブルは宙をくるくると回り、軽い音をたてて地に落下する。
椅子にこしかけていたローブの4体はぽかんとした様子で会話を中断。ゆっくりとクロトにへと顔を向ける。
ようやくこちらの存在に気付けば、クロトは蔑みと不快感ある眼差しで言葉を発する。
「なんなんだお前ら? 人の頭ん中でなに団欒してやがる!!」
行動してようやく理解できた。
この空間はニーズヘッグと対話する精神世界と似ている。声は頭に響くかの如く。あちらは暗闇だが、うって変わ手こちらはまるで光の中とも思える純白。ニーズヘッグはいない。なら、自分の中の別の精神世界とも捉えられた。
つまり、勝手に自分の領域にこの謎の存在たちは平然と居座っていると考える。
クロトの問いに彼らは呆然とする。
そして、一体が間を開けてから会話を繋げた。
『――おや。おひさしぶりですね』
ローブの一体は思い出した様子で、まるで面識がある言い口でいた。
『知り合いですか?』
『見た所、人間のようですが……。この場所にこれるのは……』
首を傾げる他に対して、1体が話し出す。
『ええ。60が遭遇しまして、以前から気になっていた人材です。最優先情報ではありませんでしたので、遅れてですが情報共有させてください』
そう言って、人差し指を天に向ける。光の空間に、蒼白とした四角い光がチラチラと舞い、他の3体にへと寄りかかる。
『……ああ。となると北側にいたイレギュラーですか』
『いましたねそんなのが』
『目立った行動をしていなかったので、情報の隅に埋もれていました』
『当時は何も知らない幼子でしたからね』
「……さっきから、なに意味不明な事を――」
話について行けず、問いただそうとする。
……が。その間もなく。
クロトの目の前に、ずいっ! と、静かにローブ姿の1体が顔を近づけていた。
思わず、一歩後退る。表情は、恐らく不覚にも血の気が引いてしまっていたのだろう。何故なら、ローブのフードから間近でこちらを覗いているのは人の顔ではない。それは、まるで夜空。暗闇に星が散りばめられた、血肉のない空間が布地の中に潜んでいた。人ではないのだとは、なんとなく理解していたが、何処か恐怖も感じ、不気味とも思える。
黙り込んでしまったクロトに、その1体が表情など見えなくとも笑っている様に見えた。
『そう怖がらないでください。危害は加えませんから……』
気が付けば、指がクロトの額にへと触れていた。
指先は蒼白と光。その光は線を描く様に、ローブの中にある空にへと吸われてゆく。
『…………なるほど』
指が離れ、再び他の方にへと向き直った。
『更に情報共有です。――残念ながら、もうじき世界は終わるようです』
放たれた宣告に、誰しもが驚きの様を見せた。
クロトは焦って自身の額にへと手を当てた。
「……お前……っ、まさか俺の記憶を読んだのか!?」
『すいません。ですが、困った状況ですねぇ』
怒声に臆する事などなく肩をすくめられる。
先ほど額に触れた指先。そこから飲まれた光。その光がクロトが記憶した情報であり、それを読み取られた。それだけで、更にこの存在たちへの危険性が高まった。
『魔女……ですか』
『彼女たちの行動は恩恵のせいでこちらは管理しづらいですからね』
『ですが、これは本当に不味い状況なのでは?』
『今から対処に向かうのは……』
『いえ、恐らく間に合いませんね。……むしろ、我々はそこに立ち入る事すら困難』
『なら、どうすべきですかね? 主に問い合わせますか?』
ざわつくローブたち。しかし、その中で1体だけは冷静としていた。
それが、先ほどから席を立ちクロトに前にいる1体だ。
『お忘れですか? 我々はその時まで下手に行動はできません。主はこれになんのお告げもしていませんので。ましてやあの【時の管理人】も、【第一反転体】も動く様子も見受けられませんし、向こうもお手上げと思います。そこで私は――彼に任せようと思います』
何処か揚々と、1体はクロトを指名する。
「……っ、なにを勝手な事言ってやがる!? わけわかんねぇ事ばっかしゃべりやがって!」
『いえ。妥当かと。今最もその場に近くある者に担当していただくのが最速ではありませんか。それに、どの道止める気でいらっしゃるんですよね?』
「~っ。それはそうだが、お前らみたいな意味不明な奴らに頼まれるのも癇に障るっ」
『まあ、此処で会ったのも60が貴方に接触した際に細工をしていたのでしょう。そのおかげで、世の終焉に立ち向かう貴方に微力ながら協力をしてあげられます』
「…………協力?」
『あと一歩なのですよね? ならば、貴方に我々が有する力の一部を一時的に許可してあげます』
『ただし、此処での記憶は消去させていただきます。我々の存在もあまり知れ渡ってほしくないので。頑張ってください』
「ハァッ!? 「でりーと」ってどういう意味だよ!? 勝手な事言って勝手に終わろうとすんな!! だいたい、お前ら一体なんだよ!? こっちの質問には全く答えねー気かよ!?」
突然目の前に現れ。勝手に話を進められる。これを気に喰わないと思わないほうがおかしな話だ。
1体が再び触れようと手を伸ばしてくるも、クロトはそれから遠ざかる様に後退っていく。
『そうですねぇ。色々と呼び名はあるでしょうが……、我々の事は【観測者】とでもお呼びください』
彼らは何者か。その質問に対し、どうにか淡々と答える。
「……か、【観測者】?」
『はい』
指先がクロトの手に触れる。その刹那、脳を焼き尽くす様なものが急激に流れ込む。
それは魔科学の数式か。知らぬ情報という荒波か。
その途端に、意識が遠のいてゆく。
視界が薄れる最中、ローブ姿の【観測者】を称した者たちがこちらを見送っている。
『情報提供に感謝します』
『おかげでこちらの最優先事項に変更がありました』
『どうか勝利を。それの使い方は、我々よりも貴方が一番よく知っているはずです』
『またあちらでお会いしましょう。――期待していますよ、【異例個体】さん』
ゆっくりと閉じてゆく意識が、その後プツンと途切れる。
魔女の力にのまれ、思考などまともにできず頭の中が真っ白になってしまった。そのまま敗北を刻まれるという焦燥感が迫ってくる。あの【怒り】の凝縮された水晶の牙が目先にまで近づいた事ですら、今でもその脅威を肌が覚えているほど。それほどまでに身が強張っていた、はずだった。
にも関わらず、全ては夢だったかのように跡形もなくクロトの周囲から消えていた。
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そして、目の前にある光景も現実とはとても思えず、間の抜けた顔でその光景に呆けてしまう。
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しかし、それを呆然と見るクロトにはそういった人物に心当たりもなく、刹那の夢なのかとも思えたがそれも難しい。あった事のある人物ならまだしも、見知らぬ相手が堂々と映りこんでくるのも不可解。こんな特徴的な輩を一度見れば相当の事がない限り忘れはしないだろう。
ならば、彼らはいったい何者なのか。
呆気に取られていたクロト。徐々に空虚だった頭には、少しずつ不快感が増してきた。
走馬灯の序章か。幻覚か。なんにしろ関係ない。
魔女との戦いが夢などでない事など自分がよく理解している。その合間に割り込んできたこの空間と、対話している謎の物体たち。どうあれ邪魔されたと解釈したクロトは、彼らの中心にあるテーブルを感情のままに蹴り飛ばした。
激しい衝突音。意外にも軽すぎたテーブルは宙をくるくると回り、軽い音をたてて地に落下する。
椅子にこしかけていたローブの4体はぽかんとした様子で会話を中断。ゆっくりとクロトにへと顔を向ける。
ようやくこちらの存在に気付けば、クロトは蔑みと不快感ある眼差しで言葉を発する。
「なんなんだお前ら? 人の頭ん中でなに団欒してやがる!!」
行動してようやく理解できた。
この空間はニーズヘッグと対話する精神世界と似ている。声は頭に響くかの如く。あちらは暗闇だが、うって変わ手こちらはまるで光の中とも思える純白。ニーズヘッグはいない。なら、自分の中の別の精神世界とも捉えられた。
つまり、勝手に自分の領域にこの謎の存在たちは平然と居座っていると考える。
クロトの問いに彼らは呆然とする。
そして、一体が間を開けてから会話を繋げた。
『――おや。おひさしぶりですね』
ローブの一体は思い出した様子で、まるで面識がある言い口でいた。
『知り合いですか?』
『見た所、人間のようですが……。この場所にこれるのは……』
首を傾げる他に対して、1体が話し出す。
『ええ。60が遭遇しまして、以前から気になっていた人材です。最優先情報ではありませんでしたので、遅れてですが情報共有させてください』
そう言って、人差し指を天に向ける。光の空間に、蒼白とした四角い光がチラチラと舞い、他の3体にへと寄りかかる。
『……ああ。となると北側にいたイレギュラーですか』
『いましたねそんなのが』
『目立った行動をしていなかったので、情報の隅に埋もれていました』
『当時は何も知らない幼子でしたからね』
「……さっきから、なに意味不明な事を――」
話について行けず、問いただそうとする。
……が。その間もなく。
クロトの目の前に、ずいっ! と、静かにローブ姿の1体が顔を近づけていた。
思わず、一歩後退る。表情は、恐らく不覚にも血の気が引いてしまっていたのだろう。何故なら、ローブのフードから間近でこちらを覗いているのは人の顔ではない。それは、まるで夜空。暗闇に星が散りばめられた、血肉のない空間が布地の中に潜んでいた。人ではないのだとは、なんとなく理解していたが、何処か恐怖も感じ、不気味とも思える。
黙り込んでしまったクロトに、その1体が表情など見えなくとも笑っている様に見えた。
『そう怖がらないでください。危害は加えませんから……』
気が付けば、指がクロトの額にへと触れていた。
指先は蒼白と光。その光は線を描く様に、ローブの中にある空にへと吸われてゆく。
『…………なるほど』
指が離れ、再び他の方にへと向き直った。
『更に情報共有です。――残念ながら、もうじき世界は終わるようです』
放たれた宣告に、誰しもが驚きの様を見せた。
クロトは焦って自身の額にへと手を当てた。
「……お前……っ、まさか俺の記憶を読んだのか!?」
『すいません。ですが、困った状況ですねぇ』
怒声に臆する事などなく肩をすくめられる。
先ほど額に触れた指先。そこから飲まれた光。その光がクロトが記憶した情報であり、それを読み取られた。それだけで、更にこの存在たちへの危険性が高まった。
『魔女……ですか』
『彼女たちの行動は恩恵のせいでこちらは管理しづらいですからね』
『ですが、これは本当に不味い状況なのでは?』
『今から対処に向かうのは……』
『いえ、恐らく間に合いませんね。……むしろ、我々はそこに立ち入る事すら困難』
『なら、どうすべきですかね? 主に問い合わせますか?』
ざわつくローブたち。しかし、その中で1体だけは冷静としていた。
それが、先ほどから席を立ちクロトに前にいる1体だ。
『お忘れですか? 我々はその時まで下手に行動はできません。主はこれになんのお告げもしていませんので。ましてやあの【時の管理人】も、【第一反転体】も動く様子も見受けられませんし、向こうもお手上げと思います。そこで私は――彼に任せようと思います』
何処か揚々と、1体はクロトを指名する。
「……っ、なにを勝手な事言ってやがる!? わけわかんねぇ事ばっかしゃべりやがって!」
『いえ。妥当かと。今最もその場に近くある者に担当していただくのが最速ではありませんか。それに、どの道止める気でいらっしゃるんですよね?』
「~っ。それはそうだが、お前らみたいな意味不明な奴らに頼まれるのも癇に障るっ」
『まあ、此処で会ったのも60が貴方に接触した際に細工をしていたのでしょう。そのおかげで、世の終焉に立ち向かう貴方に微力ながら協力をしてあげられます』
「…………協力?」
『あと一歩なのですよね? ならば、貴方に我々が有する力の一部を一時的に許可してあげます』
『ただし、此処での記憶は消去させていただきます。我々の存在もあまり知れ渡ってほしくないので。頑張ってください』
「ハァッ!? 「でりーと」ってどういう意味だよ!? 勝手な事言って勝手に終わろうとすんな!! だいたい、お前ら一体なんだよ!? こっちの質問には全く答えねー気かよ!?」
突然目の前に現れ。勝手に話を進められる。これを気に喰わないと思わないほうがおかしな話だ。
1体が再び触れようと手を伸ばしてくるも、クロトはそれから遠ざかる様に後退っていく。
『そうですねぇ。色々と呼び名はあるでしょうが……、我々の事は【観測者】とでもお呼びください』
彼らは何者か。その質問に対し、どうにか淡々と答える。
「……か、【観測者】?」
『はい』
指先がクロトの手に触れる。その刹那、脳を焼き尽くす様なものが急激に流れ込む。
それは魔科学の数式か。知らぬ情報という荒波か。
その途端に、意識が遠のいてゆく。
視界が薄れる最中、ローブ姿の【観測者】を称した者たちがこちらを見送っている。
『情報提供に感謝します』
『おかげでこちらの最優先事項に変更がありました』
『どうか勝利を。それの使い方は、我々よりも貴方が一番よく知っているはずです』
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