Jet Black Witches - 2芽吹 -

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第22話 実りと羽化とできること

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 ママとイルがお茶とお菓子を運んで来た。
「あらあら、何のお話かしら?」
 イルも話に入ってきた。
「イルの名前が聞こえたよ?」

 ケインが話の要点を掻い摘まんで話してくれる。
「あぁ、ジンさんとマコちゃんの仲睦まじさをさんざん当て付けられたことと、イルとマコちゃんも仲好しだって話してたのよ。あぁ、それとジンさんとマコちゃんの共通点の話になって、ジンさんの戦術的天才を目指したいというマコちゃんの意向に、ジンさんが徹底的に仕込んでくれることになったのよ」

「えぇ? それ、イルにも仕込んで欲しいな、パパ?」
「あら、私も興味あるわ、あなた?」

「お、おぅ。それなら、みんな纏めてのほうがいいんだろうな? ただ、前もって教えられるようなものは特にないから、事あるごとの機会教育的に都度話す程度になるけど、それでいいか?」

「うん、マコはそれでいいよ」
「イルもそれでいい」
「私もそれでいいわ」
「み、みんな、好戦的なのね? 私は平和主義者だけど、せっかくだからそのときは同席させていただくわね、ジンさん?」

「あぁ、わかった。せっかくだから話しておくけど、実際にソフィアはある組織から標的にされているし、それは魔女の血筋が目的だから、マコトも娘であることが知れてしまえば、同じく標的にされることは明白なんだ。それは血筋が少し異なるだけで魔女の血筋がバレてしまえば、ケインもイルも、そしてオレも同じく狙われる可能性が高いんだ。それ故に、ケインとイルはバレないように心掛ける必要はあるけど、せめて自衛手段としての能力や知識は持っていてもらいたいと思ってる」

 ん? ケインは危険そうな話に少し顔を曇らせたように見え、パパもそれを感じたみたい。

「あぁ、そうか。救出したようなテイだったと思うけど、結局は危険に巻き込む可能性が増えたのかもしれないな。うん、やっぱり危険に巻き込むのなら、このままオレたちに関わらずに離れたほうが良いような気がしてきたよ」

 しかし、すかさずイルが反論を返す。

「ううん、イルはそうは思わないよ。マコちゃん家族は弱いイルたち親子を全力で救ってくれて、お母さんの命、未来を救ってくれたし、新しい強さとそれに見合う未来の可能性を教えてくれた。弱いままなら、そんな危険からはなんとか逃げ出したくなるけど、どこに行ってもいろんな危険は必ず訪れる。でも今以上に強くなれるなら、多少の危険は蹴散らせると思う」

 強い語気を保ちながら、イルは続ける。

「それにイルたちには研鑽を重ねた知恵がある。一つ一つの降りかかる未来をただ指をくわえて待つ必要はなくて、新しい力も上手に使えば他の誰よりもうまく解決できるはずよ。何よりも平凡な人生を送るより、もっと刺激的で心震える何億倍も楽しい人生の扉が開かれているのだから、進まない選択はないと思うの。お母さんはどう思うの?」

「そうね、借金を返すだけの受け身の生活を長らく続けていたせいか、心が少々日和っていたわ。戦力にはあまりなれないかもしれないけれど、いただいた強さで自分の身は自分で守り、これまでの社会経験も活かした頭脳勝負でなら役に立てることはあるかもしれないわ。それに救っていただいたこの命、あなた達親子のためになら投げ出すことも厭わない、あのときそう決心したんだもの。まずは次の生活に合わせた新しい仕事を探さなきゃだけどね?」

「あぁ、ケインはこれからの生活がどうなっていくのか、わからないでいるのよね? ごめんなさい、まだいろいろなことが不確定だから話せなかったのだけど、あなたに是非お願いしたいお仕事があるの。もちろんあなたが嫌じゃなければだけどね」

「え? お仕事まで用意してくださるの?」
「えぇ、ケインは私より目上の方になるから、もしも嫌なら断ってもかまわないのだけど、お話ししても良いかしら?」
「ええ、社会に出れば年の上下は関係ないわ。それに私はソフィアに尽くしてもかまわないと思っているしね。だから問題ないわ」

「そう、じゃあ話すわね? ケイン、私の秘書になってくれないかしら?」
「え? 私はかまわないけれど、それが私のお仕事になるってことは、もしかしてソフィアは社長令嬢か何かなの? あぁ、それかやっぱり女優さんか何かかしら?」

「あははは、ごめんなさい。まだ言ってなかったわよね。私はN国王女なの」
「え? えぇーっ! プ、ププブ、プリンセス? あ? あーっ、思い出した。何年か前に世界中で大騒ぎになった、N国王女! 美しすぎて世界中で溜め息が止まらなかった、あの顔よ! 確か消息不明でもう亡くなられたのかと思ってたわ。でもそのプリンセスがなんでこんなところでこんな生活をしているのかしら?」

 驚きで声が半分裏変えるケイン。イルも目があんぐりして、口がハクハクしている。そりゃそうだよね。マコたちもびっくりしたもん。
「いろいろとあるのよ。またそのうちにね」

「イ、イル、大丈夫?」
「び、び、び、びっくりし過ぎて、ぜぇぜぇ、呼吸するのを、ぜぇぜぇ、忘れてたぁ、はぁはぁ」

「あははは、もう、イルはびっくりするといつもヤバいね?」
「はぁはぁ、この人たちは、どれだけ、びっくりさせて、くれるのかしら? 寿命が少し減ったんじゃ?」
「ケインにイルちゃ、あともう少しびっくりすることはあるかもね?」

「あぁ、ママ? 歴史的な話は概略イルはもう知ってるよ? 2、3個のワードを言っただけでスルスルスルって勝手に解析して構築しちゃったの。一を聞いて十、いや百を知るとは、こういうことなんだなぁ、って感心しちゃった。すごいでしょ、イルってば。ふふん」

「出た! マコちゃのドヤ顔! ホントにイルちゃのことが大好きだよね?」
「そだよー、イル、お嫁さんにしたいくらいだもん」
「うふふ、わたしもマコちゃんに恋してるから、相思相愛ね? 嬉しい」

「あら、たくさんの男の子が悲しむ様子が目に浮かびそうね? ニョロ太くんだったかしら? それとゲコ太くん?」
「ありゃ、覚えなくていいよ、あんなやつ。イルだけじゃなく、ママを見て、マコを見て、3人とも好きって言っちゃうやつ。不浄だよね?」

「あぁ、そのニョロ太くん? 気持ちはわかる気がするわ。イルもすごく可愛いけれど、ソフィアの美しさは世界が絶賛するレベルよ? さらにそれを受け継いだマコちゃん。私がその男の子なら、気持ちはグラグラになるわね。二人とも罪深いわよ? それに不浄は言い過ぎかな? 気が多い、くらいが適当でどちらかと言えば正常な男の子の反応かもよ? むしろ、素直にそんな気持ちを吐き出したニョロ太くんは賞賛ものじゃないかしら?」

「え? あ、そうなの? じゃあ、ひどいこと言っちゃった! あ、謝らなきゃ」
「あー、まぁ、本人が落ち込んでるようなら、言ってあげたほうがいいかもだけど、そうじゃなきゃ、たぶん深く考えてないと思うから放っといていいんじゃない?」

「うん、わかった。それとママが罪深いのはこれまでたくさん目の当たりにしてきたからわかるけど、マコは今までそんなことなかったよ? マコも罪深いの? あまりピンと来ないのだけど」

「あぁ、うん。マコちゃんはぱっと見まだ幼さが多くを占めるけれど、ゆっくりと成長してるのよね? だんだんとソフィアに似てきてソフィアの美しさの片鱗を纏い始めていると思うわよ?」
「え? マコもママみたいになれるの? ホ、ホントに? し、信じられない」

 ママの娘だからママに似るのは至極当然の感覚だと思うけど、あまりに美しすぎるママだから、なんとなく自分とは違う特別感があった。だから、自分の姿がママのような美しさを放つイメージは全くなかった。それだけにママとマコの容姿を結び付けるケインの言葉は衝撃的だった。

 そういう見方を教えられると、ママの容姿に自分らしさを加えたようなイメージが頭の中に浮かんでは消える。

 いやいやマコのキャラじゃないよ! と思いつつも、綺麗にみえる自分が嬉しいし誇らしい気持ちが湧き上がる、それと同時にみんなの視線が急に気になり始めて小っ恥ずかしさに思わず俯いてしまった。

 顔が熱く、きっと真っ赤に紅潮しているから、隠したくて仕方ない。

「うん。まぁ、金髪碧眼と黒髪黒眼じゃ、少しだけ華やかさに違いは出てくるだろうけど、本質的な美しさは変わらないと思うわ。それにおそらくマコちゃんはもう少ししたら金髪碧眼になれるんでしょ? そうしたらソフィアに劣らない、いや若さの分、遥かに勝る美しさを手に入れるかもしれないわよ? あぁ、楽しみだわ」

 美しいだなんて、言われる日が来ることは想定外だ。気恥ずかし過ぎる。

「……うわーっ、どうしよう! 綺麗になる覚悟なんてできてないよ」

 んぁあっ! 思わず心の叫びが呟きにになって零れてしまった。

「んふふふっ。マコちゃったら、ようやく自分の可愛さを自覚したのね? 良かったわ。今までが無頓着すぎて、女子視点の話は諦めてきたけど、これからはたくさんお話しできそうね? うふふ、楽しみだわ」

「イルも嬉しい。マコちゃん、これからどんどん素敵なレディになっていくのね?」

「も、もしかして、これは、蛹から羽化する蝶の瞬間なのかしら? きゃー、素敵素敵。イルのときは私がいっぱいいっぱいだったから、気付いてあげられなくて、見逃しちゃったのよね」

 なんだろ? このホヤホヤっとした感じ。
 別に嫌じゃない。自分が可愛いと思われることも当然嬉しい。でもなんだろう? 自分で自分を可愛いとか美しいとか思った途端、自分が嫌な人間に思えるような気がしてるのかな? 兎にも角にも恥ずかしい。顔中が熱いから、きっと耳の先まで真っ赤っかじゃないかな? ぅぅっ…… 

「ま、まだマコには早いよ。ぅぅっ、綺麗なんて言われ慣れていないから恥ずかしいよぉ。いったいどんな顔をすればいいのかわからない……」

「ダメよ、マコちゃ。どちらかと言えば遅いほうなのよ? 日に日に可愛さが増していってるのに気付かない? そろそろレディの自覚が芽生えても良い頃よ? 慣れてないなら、ひたすら慣れるしかないわね。それにマコちゃは魔力も使いこなせてるし、そろそろ漆黒の髪も卒業する頃のはず」

 これは逃れられないヤツ? もう涙目だ。今マコはどんな顔してるの? 泣いてる顔? 笑っている顔? ううん、何とも言えない微妙な顔になっているのでは? 頭がグルグル回っている。

 考えが纏まらない、ひたすら落ち着かない。ふぇーん、誰か助けて!

「うふふふ。落ち着かないのね、わかるわ。私もちょうどマコちゃと同じ歳のときだったもの」

 ママが優しく包むように抱き寄せ、そぉっと抱き締めてくれる。

「ママも同じだったの?」
「そうよ? 難しく考える必要はないわ。何をしたって何を考えたって、目の前のできごとは何も変わらないもの。力を抜いて、すぅーっと、そうそう、それであなたはただありのままを受け入れるだけでいいのよ」

 ママに包まれているだけで、さっきまでのせわしかった感情の揺れももつれも、いつの間にか無くなってて、とても穏やかになっていた。

「たぶん、あなたの心にわだかまるものはこういうことだと思うの。今までマコちゃは良いこと、凄いや偉いと思えることをしたときにみんなが誉めてくれたでしょう? でも綺麗や美しいはどこにも偉いと思える要素は見つからないのに誉めてくれることへの違和感。それから今言ったように、どこも偉いと思えるところはないのに、綺麗を偉いと勘違いしている輩が多いこと。そして自分の場合に誉められて対応を誤れば同じく勘違いしていると思われかねないこと。後は単純に誉められて嬉しいけれど、慣れていないからどんな表情をして良いかわからないこと。さらに強いて言えば、そんな煩わしさの少ない子供のままでいたいこと。とまぁ、そんなところかしら?」

「す、すごい、ママ。さすが年の功」
「誰が年の功じゃ、ぐぉるぁ!」
「あははは、それちょっと怖い。でもありがとう、ママ」

「うん。……それとね、ここからが大事なことよ? 誰かがかけてくれる、綺麗、とか、可愛い、という言葉は、素直に喜べばいいのよ? ただ、自分が綺麗であるということ、ではなくて、自分のことを誉めようと心を尽くしてくれた相手の心遣いに対して、満面の笑みでありがとう、って返してあげるの。仮にそれが社交的、形式的なものであったり、別の思惑があったり、そこに思いがなかったとしても、マコのことを綺麗だと認め、その言葉をかけてくれた、そういう行為であることに違いはないもの。世の中で誰かに無視されることはかなり堪えるけれど、それとは違って少なからず心を砕いてくれた、ってことでしょう? そこに感謝の気持ちを表せるようになればいいのよ」

「うん!!」
 マコは満面の笑みで頷きを返す。

「そう、その笑顔よ? それができるようになるとさ、マコちゃのわだかまり、ほら、いつの間にかなくなってない? そうすればマコちゃの願いに近いかたち、そう、子供のままとはいかないけれど、自然体のままのマコちゃでいられると思わない?」

「ほ、本当だ。すごい! 考え方ひとつなのに、心の有り様が全然変わってくるね。あーっ、気持ちがスッキリしてきたーっ! よーし、マコは綺麗になるぞぉーっ!」

 心が晴れ渡り、やる気みたいなものが戻ってきたと思っていたら、なぜか身体に異変が起こった。

 突然の眩い光に包まれ始める。とすぐに辺りがカッと強く放った光で見えなくなるほどの眩しい状態になった。この異変にママがいち早く気付き、嬉しそうに言葉をかける。

「おめでとう、マコちゃ。頑張ったわね。とても綺麗よ。でも前にも言ったとおり、人前で大きな魔法を使うと髪の色も戻ってしまうから、それを見られないようにね? それとはい、これ」

 マコは、手渡された手鏡を見て驚く。

「うわーっ! ママと同じ金髪碧眼だ、マコ可愛い、良かった。可愛い? パパ、あ、わわわ」

 パパはすぐ近くにいたのに全速力で駆けて抱き締める。涙が溢れて顔がぐしゃぐしゃだ。

「ヴンヴン、良がった。マコト、可愛い。うんうん」

 ひたすら頷きを繰り返しながら、抱き締める力も半端ない。

「ちょ、痛い、パパ」
「ご、ごめん」

 少しだけ我に帰るパパ。慌てて抱き締める手を解く。目に涙を滲ませながら嬉しそうだ。

 と、さっきから一人うるさくしてるのがケイン。

「きゃー、きゃー、すごいわ。こんな奇跡的な瞬間に立ち会えるなんて、きゃー。少女への実りの瞬間と魔女への羽化? の瞬間になるのかしら? あぁん、なんて神秘的。それにやはり金髪碧眼だったわね。ソフィアの神々しさもすごいと思ったけれど、マコちゃんはもう天使そのものじゃない。あぁ、羽根がないわね。でも、なんて愛らしいのかしら? おめでとうマコちゃん。抱きついてもいいのかしら?」

「いいよ」
 と返事を返しきる前にケインはもう抱きついていた。

「あぁ、羽根?」
 ケインに抱きつかれたまま、ケインの背中の空間で、前に筋斗雲をデコったときの要領で、ちょちょいと羽根を作って自分の背中に付けて可視化。羽根デコやってみた。

「こんな感じ?」
「わぁ、ホントに羽根だ、もしかして飛べるの?」

 あっ、そうか。そういえば昔見たアニメでも天使は羽根をパタパタさせて浮いてたね? すぐさま羽根をパタパタはためかせて、ケインの手を解き、ゆっくり浮揚してみる。

 自身を素のオーラで纏うから、ふんわり全身に光が灯るとともに、力加減に伴い光度合いも変化し、動きの節々と羽根のパタパタから光の残滓が零れ落ちるさまは、まさに天使、と思わせるのにちょうど良い演出になりそうだ。

「こんな感じ?」

 沈黙を保ち、ポカーンと呆気に取られていたイルが、紅潮したほっぺに、目をウルウルさせながら、同時に星が零れてきそうなくらい、目をキラキラさせながらマコを見上げている。器用なイル。マコと眼が合って、ハッと我に返ったのか、口を開く。

「すごーい。マコちゃんキレーイ。あ、おめでとう、マコちゃん。金髪碧眼だから、天使が抜群に可愛いー」
 そう言いながら手を伸ばしてきた。

 あ、綺麗って誉められたら、その気持ちに感謝の気持ちを持って、満面の笑み、だっけ?

 ニコッと笑みを浮かべてみたら、パパがズキューンと射抜かれたような素振り。

 ん? ズキューン? 射抜く? ん? あぁ、左手のひらに右の拳でポンと叩く。

 マコは閃いた。天使で射抜くのはキューピット。うん、即実行だ。筋斗雲デコ以来、オーラの加工はお手のもの。イメージさえあれば一瞬で作れちゃう。

 DIYは楽しいな♪ ルン♪

 しなるイメージで、両手で弓を型どり透過率を下げて半透明の弓が完成! 強い糸のイメージで弦を張り、当たるとすり抜けるイメージの矢を作り、矢の先に軽く圧縮して温かくなった空気玉を装着。この間約3秒。そうして弓を構えてみる。

 ケインの弾丸トークも止まらない。
「きゃーきゃー。マコちゃん、ホントに天使だったのね? その美しさも天使だからなのかしら? キラキラしてとてもキレーイ」

 ケインってば、もう。ちょっとサービス。
 ケインに向けてすり抜ける矢を放ってみた。

 ……シュッ……

 矢先の空気玉は当たると霧散する。風が当たった感覚とその温かさはきっと感動を加速するのでは?

「きゃー、マコちゃんの矢、キューピットの矢に射抜かれたわ! これが世に聞くズキューンというやつなのかしら? あぁ、胸が熱いわ。もうマコちゃんにメロメロみたい」

 あははは、勘違いさせちゃったかも? ケインには後で説明しなきゃだね?

 伸びてきたイルの手を取り、イルをオーラで包み、引き上げ、ふわっと浮かせる。まるで無重力状態の宇宙飛行士のように。

「うわーっ、私浮いたわ? 信じられない。でもどうやって? それにその羽根はどうやったの? 私には羽根がないけど浮いてるわ?」

 イルは感動しつつも冷静に状況を把握しようとする。さすがはイルだね。パパは筋斗雲のことを知っているから、ただ温かい目で見守っている。ママはどうやっているのかを見透かそうと懸命な様子だ。

「マコちゃ、あなた本当に器用ね? それはどうやったの?」

「あぁ、羽根のこと? パパとの修練の賜物なんだけど、オーラを細い紐状に変形させて、それを束ねたり重ねたりして羽根みたいにかたどって、透過率を下げてやれば、ほら出来上がり。あとは背中に背負って動かすだけだよ? ほらね?」

 作った羽根をイルの背中に付けてはためかせる。
「うわぁ、イルにも羽根が……」

「ほ、ほらね、って、マコちゃ? あなたたち、一体どんな修練をしているの? 今まで時間が取れずに私が教える場はなかったから、きっと基礎的な訓練をしているのかと思っていたけど……」

「うん。魔法のことはマコもパパもよくわからないから、オーラを出して力を付与することだけできるようになったら、パパがいろんなできるかもを試して少しずつ幅を広げていったの。それ以外は物理の授業を受けているみたいな感じ?」

「じゃあ、どんなことができるようになったの?」
「んーとね、オーラで包んだものを浮かせる。これが一番の基本原理であとは応用だね?」

「応用にはどんなものがあるの?」
「んーと、つぶて? 石ころなんかを指で弾いて撃つの。指で弾いた初速に魔法で思いっきり加速するの。銃よりもすごいと思うよ? 今は室内で危ないからやらないけどね」

「え? そ、そんなことができるの? ほ、他にはどんなことができるの?」

「んーと、さっきのつぶてで石じゃなく空気を握り込んで撃つと、程度が軽ければちょっと痛いかもな風魔法みたいな感じ? 今弱くして撃つけど、こんな感じ?」

 さっきまでマコが座っていた椅子の座面に向けて放ってみる。ポンッと音がして一瞬座面がへこみ、ガタッと椅子が少し動く。

「気合いを入れて空気玉を圧縮するともう炎魔法? 空中、弱めの短距離ならこんな感じ?」
 空中の1m先に炎がポッと出て霧散する。

「さらに気合いを入れてねじ込むと、もう爆裂魔法? ホントはかなりスゴいけどデモ版ね?」
 ギュルギュル、グォォー、ハラハラハラ……。
 空中の1~2m先に大きな炎が音を立てて燃え霧散する。

「威力も音もスゴいからあまり使う機会はなさそうだけど、ハイエナを追い払うには効果てきめんだったよ。あとは、ほうきに跨がって浮いてみるとか、どうせならエアボードがいいってマコが言って、エアボードで飛行したり、筋斗雲作ったり、オーラを紐状にして、周囲をサーチするレーダーみたいなことや、またその応用でオーラの紐の先っぽでものを掴む、一本釣りとか、それを操って離れたところで字を書いたり、んーと、そのくらいかな? 癒やしや解毒なんかは全くできないからママに教えてもらわないといけないかな。最初に言った基本原理から、パパが物理法則を重ねながらどんどん拡張するもんだから、短期間だったのに数えたらけっこうあるんだね?」

「あなたたちスゴすぎるわよ。って、あれっ? もしかしてパパも魔法使えるの?」

「あ、そうだね。パパは言ってなかったのかな? やっぱりパパにも使えるように力が移ったみたいだよ? というか、パパがやるとどれもものすごいんだ。パパの知見が混じると化学反応みたいにすごいことができるようになるよね? だいたいパパとマコがつぶてを使えるから、イルんちを襲ったギャングたちも怖いことは何もなく、スムーズに撃退できたし、ママから教わったシールドが加わったら、もう何も怖いものは無くなって、掃討作戦もパッチリだったよね? あははは、そういえばあの花火のつぶては最高だったね」

「花火? 打ち上げたの?」
「あ、違う違う、日本の子供向けに売ってる花火で、思いっきり踏んだり壁に投げつけたりするとパァンって音がする小さな紙の玉があるの。それを撃つ手が見えないように威嚇射撃すると、銃で狙われてる、って勘違いしてくれて効果絶大だったよ。ただ音がするだけの紙玉なのにね。クフフフ」

「え? も、もしかして銃撃戦だったの?」
「うん。でもマコたちのつぶては銃にも勝るし、ママのシールドがあれば、もう無敵だから怖いものは何もないよ」

「ケガはなかったのね?」
「うん。全然? 余裕で安全だったよ」

「そう、なら良かったわ。無理はしないでね?」
「うん。わかってる。でもね、マコたちのポリシーは誰も傷付けずケガもしないで生還するのが最低必須条件でしょ? さらに魔法がバレてもダメでしょう? だからちょっとハードル高いけど、そこでパパの知恵が炸裂するの。それからシャナの課題で隠密の救出能力のための試みがレーダーや一本釣り、それからエアボード。着々と進んでるんだよ?」

「あー、もう、私が教えることなんてたぶんほとんどなさそうね。私も王室育ちだから魔女の里へは行ったことはなくて、母、アイリに教わる以外、本格的な魔法は知らないのよ。王室の中では練習する機会もほとんどなかったしね。今度N国に行くとき、ぜひ本場の魔法を教わりたいわね。それまでに私もパパ塾の生徒になって、漆黒の魔女が舐められないように地力を鍛えておかないとだね?」

「イルもお願いします」
「もちろんよ? 当然ケインもね?」
「わ、私も? 大丈夫かな?」

「大丈夫よ。というか、いろいろマスターしないと、せっかく魔女の力を得られたのだし。私の秘書なら使いこなせないと困るわよ? 何より、早く能力を開花させないと、髪色は黒いままよ?」
「わかったわ。頑張ってみる……」

「お母さんはなんか弱気だね? 一緒に新しい世界を楽しもうよ! まだまだ若いんだし」
「うーん、恥ずかしいわ、とっても。さっきも日和ってる、って自覚して、これじゃいけないって奮起したばかりのはずなのに、ほんの少しの時間が過ぎてみれば、もう忘れたかのように後退りしてしまっているなんて!」

「あぁ、ケイン? 気を引き締める意味で気にすることはすごく意味のある良いことだと思うけど、くよくよしたり落ち込む必要はないからね? これから踏み入れるのは、ケインにとって未知の世界。不安になるのは当たり前のことなんだ」
「そうよね。年のせい? それとも自分に自信が持てないのかしら?」

「ん? どうしても不安で進めないなら、無理を言うつもりはない。置いていくから、後は自分の思う幸せに向かって歩めばいい。おれたちは共に歩んでいける世界、ケインに良かれと思う世界がそこにある、と思っているから、その選択肢を提示しただけに過ぎない。重要なことはケインが自分の意志で選び取ったという事実だ。ケインは大人だから、これ以上の言葉は必要ないだろう?」

「ごめんなさい。まだなんか甘えていたみたい。私はみんなと共にありたい。置いて行かないで! そうよね? 自分のことは自分で責任持たなきゃだよね?」

「うん。その言葉を待っていた。大丈夫、甘やかしたりしないから。しっかり付いてきてね?」
「う、うん。だけど、少しくらいは甘えさせてね?」

「う、ま、まぁいいか。それにそんな高度なことは求めていないから、身構えなくても大丈夫。ソフィアのサポートができるようになるならそれで良いよ。けど、まずは能力を開花させて髪色を戻すのが最優先だな?」
「あぁ、髪ね? 私はどっちでも良いけど、あぁそうか、パスポートが絡むからよね?」

「そう。パスポートがないと、日本にもN国にも行けないから、ここでお留守番、っていうか、お引っ越しするのだから、ずぅーっと一人ぼっちになっちゃうから、それは嫌でしょ?」
「それ大変ね? きゃー、それは急務だわ」

「そう、わかってくれたならいいけど、イルは子どもだから成長も早いと思う。たぶん直ぐに開花するから、ケインも返済や引っ越しに向けての残作業をやりつつ、忙しい中、修練に励まないとね?」
「うぅ、頑張るわ!」


「ケイン、頑張ってね! それはそうと、マコちゃ? さっきまでの会話でサラッと流したけど、ちょっとした違和感があるのよ。」
「ん? なぁに? ママぁ」
「羽根や弓のようなものをちゃっちゃと作り上げる、その特殊なスキルもそうだけど、何か、筋斗雲、みたいなワードが混じっていたような? んん? 孫悟空のアレ? んん?」
「あははは、よく聞いてたね、ママ」

 手を口に当てて、「きんとうーんっ」大きくない声でそう叫びながら、オーラの触手のようなものを伸ばして、雲デコ済みのスケボーを一本釣り。宙に取り出せたら、早速操縦して、ぷよよよよーって、減速しながら、目の前で停止させて、ふよふよと浮かせてみる。

 同時にあのわっかみたいなのも、オーラで自作して、少し光らせて頭にはめて、筋斗雲に飛び乗るマコ。
「よっっと! どう?」

 …………

「「「ぷっ」」」
「あははは、なにそれ? あははは、可愛いけどお腹が痛い、あははは」

 ママには大受けみたい。お腹を抱えて涙を流してる。吹き出してはくれたものの、やや神妙な面持ちのイルが尋ねてきた。

「マコちゃん、何かおもしろい雰囲気だけど、きんとうんってなぁに?」
「え? あぁ、こっちではあまり知られてないのかな? 中国の古い物語、西遊記の主要なキャラクターである石猿の仙人、孫悟空の仙術で乗る雲のことだよ」

「え? あ、孫悟空、知ってる! 雑誌に載ってた日本のアニメ! そうそう、子どもが雲に乗って飛んでる絵もあったよ? あぁ、あの雲かぁ。やっとピンときた。あははは、おもしろいマコちゃん。でもあれっ? さいゆうきなんて知らないよ? 確かドラゴンボールって名前じゃなかったっけ?」

「あぁぁ、そっちの孫悟空かぁ、元は中国の西遊記で、昔から日本人には馴染み深いお話なんだけど、だからこそ、なのかな? それをモチーフにした日本のマンガの主人公ではあるけど、ストーリーは全く別の物語なんだ、ドラゴンボールって。コッチはハチャメチャなのがおもしろいんだよ。日本に帰ったら続きを観るのが楽しみなんだ」

「あーん、イルも観たい!」
「あははは、一緒に観ようね?」
「うん!」
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