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第7話 コックピットでの秘め事
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コックピット内制圧のあと、負傷の副操縦士は、思うより状態が悪いことを機長に告げる。
「機長さん? 私の見立て、というか、もう、感覚的なものですが、ことは急を要していると考えています。このような場でなんですが、あなたは秘密が守れますか?」
「意味は不明だが、少なくともそこの彼を救うためならどんな秘密でも守ると誓えるが……」
機長の誓いを確認できたジンは、ソフィアの力に縋ることを決める。
「マコト? ママを呼んできて」
「わかった、待ってて。琴を先触れに出すからきっとすぐ連れてこれると思うよ?」
「おぉ、頼んだ」
会話しながらも操縦に暇ない機長に、これから起こる出来事に驚かないよう、少しでも納得を得られるよう、ジンは必要な予備知識を伝える。
「機長さん? 私の妻には少々不思議な力がありまして、おそらくなんとかできると思います。ただ、そんな力が人に知れるとただでは済まない事態に巻き込まれることは必至です。本当は隠しておきたいのですが今施せば救える命から目を背けたくないんです。私が今この場を制圧できたのも似たような力があるからで、ここで起こることは口外無用でお願いしたいんです」
「わかった。そうだな。警察でもない、ただの青年に見えるあなたが、いともかんたんに制圧できているこの事実。驚愕すべきが周りが静かすぎて、恥ずかしながら私もうっかりこの安穏な感じに飲み込まれていたよ。扉の外の犯人達は皆銃を持っていたはず。そんな危険地帯に君達親子は飛び込んで、私達はもちろんこの飛行機に乗る全ての命を救ってくれたのだな。あぁ、本当にありがとう。君のことは全面的に信じるし、秘密は墓場まで持っていくことを誓うよ」
するとガチャッと扉が開き、マコトとソフィアが入ってきた。
「パパァ、ママ連れてきたよ」
「あぁ、機長さん? こちらが妻のソフィアです」
「初めまして。それよりこちらの方がそうかしら? 簡単にはマコちゃから説明を受けたわ。早速かかるわね? 急がないとヤバい感じがするわ。なりふり構わずやっていいのよね?」
「あぁ、秘密の誓いはもらった」
「わかったわ」
ソフィアが手をかざすと、副操縦士はうっすらとした青い光に包まれる。これは体の中をスキャンするように隅々までを走査していくが、普通の人にはほとんど見えることはない。
「あぁ奥さん、よろしくお願いし……って、なんという美しさ。あぁ申し訳ない。続けてください。それにしても美しすぎて……どこかで拝見したような気が……もしかして女優さん?」
「あぁ、そのあたりも含めてノーコメントでお願いします」
「あぁ、そうでしたな。失敬」
あらかたスキャンは終わり、続いて緑色の灯りが身体に灯るように、うっすらと光を帯びる。この状態は普通の人にも認識されやすい。
「おぉ、なんて美しい光景なんだ。私はさっきから話をしながらも、操縦するために前方からほとんど目を離すことはないんだが、今のこの状態は美しすぎて、操縦者には目の毒だな? 操縦を忘れてずっと見ていたくなりそうだよ」
機長とジンは顔を見合わせて、フフっと笑う。そこへ応急手当を終えたソフィアが割り込む。
「弾は三発摘出ね。腕と足はまぁ良いのだけど、ぱっと見に気付きにくいお腹にも一発もらっていて、肝臓がかなりヤバい状態だったわ。ジンが感じていた危機感はたぶんコレね。放っとけば数時間後には亡くなられていたと思うわ。ジン? なかなかの英断よ? あと15分から30分くらいこの癒やしを続けたら大体完治かな?」
「さすがはソフィアの癒やしだな? あ、そうそう、片手が空いているのなら、そこに転がっている二人の犯人も診てくれないかな? ここは場所が場所だけにしくじると飛行機全体がヤバいと思ったから、かなり強めにお腹を強打したんだ。もしかしたら内臓がヤバいかも?」
ジンにはやり過ぎた自覚があるから、副操縦士の手当が終わるのを待ってた節もありそうだ。
「あぁ、人使い荒いわね。まぁ、緊急事態なのもわかるからやるけど、わたしも枯渇に近付いてるから、あとできっちり補充お願いね?」
「あぁ、もちろんだよ」
「あら? 本当ね。こっちの人は内臓がグチャグチャよ? 放っとくと亡くなられそうだわ。どんだけ強く打ったのかしら?」
ソフィアレポートに肝を冷やすジン。いくら不可抗力でも命だけは奪いたくないからだ。
「あぁ、もう加減する余裕がなかったし、ソフィアがいるなら大丈夫かと。でも良かった。悪人とはいえ、人ひとり殺しちゃうところだったのか。力加減もきっちり検証しなきゃだな」
「あぁ、ジン? 機長さんには誓ってもらったけど、さっきからスチュワーデスさんもちらちらと様子見に来てるし、ジェイムズもちらりと覗いていたみたいよ? 大丈夫かしらね?」
「あぁ、もうジェイムズにはキチンと話した方がいいかもな。あまりに関わりが深い気がするからこれ以上は誤魔化しきれないしな。それに信用できる人物だとさっき確認できたからな」
コックピット内が一段落したところだから、その外についても、必要な説明や今後の検討など、そろそろ頃合いと考えてたジンは、マコトにお使いを頼む。
『マコト? さっきから出入りしてる人は、最初のスチュワーデスさんの二人だよね?』
『うん、そうみたい』
『その二人をコックピットに連れてきてくれないかな? 機長さんが呼んでるって』
『わかった、待っててね』
『あぁ、頼む』
「あぁ、機長さん? 今娘に、さっきの事態に関わっていたスチュワーデスさんを連れてきてもらうから、先ほどの秘密の誓約をスチュワーデスさんにもしてもらえないですか?」
「あぁ、お安いご用ですよ」
コンコン。マコトがパーサー2人を伴い入ってきた。
「失礼いたします」「機長、お呼びでしょうか?」
「あぁ、君達も薄々気付いていると思うが、この方達の活躍で、この事件は副操縦士以外は被害ゼロという驚異的な状況なのだが、その節々で何か不思議な力を感じただろう?」
機長の問い掛けにパーサーの2人は無言で頷きを返す。視界の端で確かめた機長は続ける。
「彼らはそれらが知れてしまうと危険に晒されることになるらしい。しかしそんなリスクも顧みず、事態の解決に踏み出してくれた。我々個人の危機だけじゃなく、犯人達はこの航空機を墜落させようとしていたのだから、全員の命を救ってくれたことになる。我々全員の命の恩人というわけだ。しかもヤツラには交渉の余地などなく、おそらく1時間後には終わっていた」
話しは長めの機長だが、ここからが本題だ。一息ついて機長は話を続ける。
「ところがどうだ。人智を超えると思える力で一瞬のうちに鎮圧し、今は医療事情の整わぬ機内でまたまた人智を超える治癒の力を振るってくれている。強制はできないのだが、特異な状況を目にしたはずの君達にも秘密を守ることを誓って欲しいと思っているがどうだろうか?」
長い話の最中に既に考えは定まったのだろう。1人目のパーサーは間を空けずに即答する。
「はい、もちろんです。私はケイトスミスと申します。チーフパーサーを務めさせていただいております。あのタイミングで救っていただけなかったら、私は一番先に殺されていました」
神妙な面持ちでそう告げた後、笑顔混じりの表情に切り替え、話を続ける。
「ただ、ひとつだけお願いがあります。私達を救ってくれた大恩人に対して、ご住所かメールアドレスかを教えていただけるなら、毎年、年賀状やメールを差し上げたりしたいと思っています。それに対して、お忙しいならお返事はけっこうです。返事があるのもないのもご無事の証拠でしょう。だから、ただ一方的にでもご挨拶を差し上げたいと存じます。いかがでしょうか?」
ケイトが話し終えると、もう1人のパーサーも同意の頷きとともにと意見を述べ始める。
「わ、わたしも同意します。それと同意見ですが、一方的でよいのでお便りさせてください。あぁ、申し遅れました。私は片桐紗栄子と申します」
「わかりました。お二人とも秘めることを誓っていただけるということですね。ありがとうございます。メールアドレスでよろしければ後ほどご連携させてください」
聞き耳を立てつつも何かを思案していたように見えた機長が、ふと話に割って入ってきた。
「あぁジンさん? でよろしいですか? あのさっき墜落の話をしたときにふと連想したのですが、7年ほど前の地中海の民間機撃墜事件をなぜか思い出し、あのときの確かソフィア王女とお名前もお年もそしてなぜか黒髪ですがお顔までそっくりな気がします。もしかして……」
「よく憶えてらっしゃいますね?」
「えぇ、なんといっても私は当時の航空機の副操縦士でしたから、いくらお礼を言っても言い足りないぐらい感謝しています」
機長が当事者であるという件に心が反応を示し、目を見開くソフィア。
「というか、真相のほどはわかっていませんが、あれ以来、行方不明となったソフィア王女が、あのとき不思議な力で錐揉降下の暴れまくる機体を強引なまでに安定させ、落下速度を究極まで抑えてくれた。その結果、機体は強度が耐えきれずにバラバラになりましたが、かえってそれが功を奏して、誰もが衝撃の少ない着水となったわけです」
まざまざと脳裏で回想が巡るソフィアは目頭を潤ませ、声の主から視線を外せない。
「あ、申し訳ありません。真相も明らかにはなっていないのですが、あのときの状況は、私は操縦席にいたからこそ、ひしひしと実感しているのですが、誰かに人智を越える力が備わっており、そのような行動をとったとしか思えず、周囲の多くからも、それがソフィア王女によるものとの意見が多いこと、また私の感覚に過ぎませんが、操縦席からの相対位置として、力が振るわれたその中心と思える位置を座席表に照らし合わせても、やはりソフィア王女の座席位置付近と重なることから、私の中ではそう確信しているもので……」
話しの途中から突然ボロボロと涙を落とし始め、言葉を発せずにはいられないソフィア。
「あ、あなたもあの事故の生存者でしたか。よかったぁ。ほんとによかった」
「その反応、やはりそうなんですね。でもどうして行方を……」
ノーコメントを謳っていたものの、今既に力を振るった後で、過去のこれほどの当事者に全てを秘めるは失礼と、そこからは当たり障りの少ない概略の経緯をソフィアは語り始める。
「あぁ、私はとある教会から魔女と疑われ、とある軍事大国の超能力研究所から目を付けられているところにあの事件でしたから、やむなくあの場はいったん離散したんですが、気を失ってしまい、気が付いたらアフリカ南部まで飛んでいました」
地中海から一転、アフリカ南部へと、桁外れな座標移動に驚きが隠せない機長。
「え? あ、まぁ、人智を超える力なのですから……そ、それにしてもすごいですね」
「おまけに生体エネルギーがほぼ完全枯渇状態での不時着で、私は死んでしまったのですね。みんなの命を救ったのに自分は死んでるなんて、間抜けな話ですが……」
「え? でも……」
「あぁ、そこで彼、私の夫、ジンに発見してもらって、蘇生してもらえてぎりぎり息を吹き返し……でもそのときは身体も動かせない状況でしたが、記憶は全く失ってしまって……」
驚きの連続する中、ソフィアの被ったその一つ一つを捉えては、その大きさに機長は心を痛めながら聞いていた。一区切りついたところで改めてお礼の言葉を述べる機長。
「私達を救った代償はそれほどに大きかったのですね。全く知り得ずのうのうと今まで生きてしまいました。誠に申し訳ない。そしてありがとうございました。やっとお礼が言えました」
「いえ、私もみなさんの行く末が気になって、記憶を取り戻せた後にテレビで撃墜の直接被害者以外はみな無事と知って嬉しかったのですよ? それが今、当の生存者、しかも当時のパイロットの方にお会いできるなんて……感極まるとはこのことですね」
ズズッ
機長はソフィアをちらちら見ながら言葉を返す。まだ気になる部分があるようだ。
「はい。またこんな事件の遭遇中なのが微妙ですが……それにしても髪、それに瞳も……」
「あぁ、これですか。ふっ」
ソフィアは金髪碧眼に姿を変える。ふと飛び込む著しい変化に目を丸くする機長とパーサー。
「あ? え? こ、これも不思議な力の一部なんですね。そう、そのお顔と髪色と瞳でした。あの頃と全く変わらないお美しさで、というか、さらに神々しさを増しているようにも見えます。その人智を超える力からも、あなたはもしかして女神の化身なのでは……」
金髪碧眼のソフィアを見たチーフパーサーのケイトはもう役職を忘れて興奮気味に割り込む。
「キャーッ、そのお姿。あのソフィア王女だったのですね? 私もあの事件で知って、そのお顔がテレビに映されるたびに、ほぉぉっ、って溜息が止まらない毎日でした。本当に素敵です。今日はこんな事件が起こったけど、今の一瞬で私の中では素敵な一日に塗り替えられました」
もうひとりのパーサー、紗栄子も思いの丈を語り出す。
「私もニュースで拝見してました。この世にこんなにも美しい方がいらっしゃるなんて、とずっと思っていました。同性ですがドキドキが抑えられず、なんというか、そう、尊い、その一語に尽きます。そういえば先程迎えにいらしたのは娘さんですよね? 黒髪黒目ですが、なんとも可愛らしいと思っていたら、そうですか、ソフィア王女の娘さんでいらしたのですね?」
「あぁ、マコの髪、ふぅ」
マコトも金髪碧眼の姿に変わる。またも驚きの容姿激変だが子どもゆえの可愛らしさの破壊力は半端ない。元々子ども好きなのか、これには紗栄子が喰い気味に話し始めた。
「え? ママ、マコちゃん? でいいのかしら? スゴいスゴい! 可愛らしすぎる。まるで天使のよう。もう、ギュッと抱き締めたくなってくるわ。あ、ごめんなさい。あの、後でかまわないのですが、一緒にお写真など撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え? あぁ、誰にも見せないならかまわないけど、マコ達は身バレNGだから……」
「えぇ、承知しております。門外不出の家宝として大切に仕舞って……というより毎朝拝謁して一日はドキドキから開始したいです。それにしても表舞台に出れないのはお辛いですね?」
これにはソフィアが答える。
「あぁ、私も隠れる人生をよしとはしたくないから数年のうちに決着を付けるつもりよ。いずれは表舞台に戻るから、その時が来たら写真もOK。ただこの不思議な力のことは別ね?」
「わかっています。本当に今日は命を救っていただきありがとうございました」
「いえ、どういたしまして。じゃあ、もう髪色は戻すわね。マコちゃもね?」
「えー、もう? まぁいいけど」
そうして二人とも黒髪黒目に戻る。実は金髪碧眼になれて日も浅いため、残念がるマコト。
「本当に不思議な力をお持ちなのですね」
「あぁ、本当に秘密でね。でないと今度こそ狙われ、最悪殺されてしまうかもしれないもの」
「えぇ、絶対に恩人を裏切る真似だけはいたしません」
「わかったわ。それよりこの犯人さんはお終いよ。パイロットさんもそろそろ終わる頃合ね」
絶え間なく操縦している機長だから、前方と計器を主体に見ているが、副操縦士のケガの様子は何よりも気になるようで、ちらちらの頻度が激しく、その状況をつぶさに捉えようと余念がない。
「おぉ、傷跡が殆どわからなくなっている。本当に凄い力です。終わってみれば、ジンさんの活躍により、誰一人、怪我を負うことなく、ほんの一時で終わり、こんな不思議な力を目にすることができて、かの伝説的美少女、ソフィア王女と、その血を継ぐ天使のような娘さん。あれっ? 娘さんも王女になるのか? おそらく世間の誰もが知らないN国のマコト王女? にもお会いすることができた。今日ほど良き一日はない気がします」
「あら? 久しぶりにそんなに持ち上げられるのも照れてしまうわね。はい、パイロットさんもお終い。ジン? そろそろ戻らないとケイン達も心配しているかもよ」
「わかった。でも、ちょっと待ってて」
「機長さん? 私の見立て、というか、もう、感覚的なものですが、ことは急を要していると考えています。このような場でなんですが、あなたは秘密が守れますか?」
「意味は不明だが、少なくともそこの彼を救うためならどんな秘密でも守ると誓えるが……」
機長の誓いを確認できたジンは、ソフィアの力に縋ることを決める。
「マコト? ママを呼んできて」
「わかった、待ってて。琴を先触れに出すからきっとすぐ連れてこれると思うよ?」
「おぉ、頼んだ」
会話しながらも操縦に暇ない機長に、これから起こる出来事に驚かないよう、少しでも納得を得られるよう、ジンは必要な予備知識を伝える。
「機長さん? 私の妻には少々不思議な力がありまして、おそらくなんとかできると思います。ただ、そんな力が人に知れるとただでは済まない事態に巻き込まれることは必至です。本当は隠しておきたいのですが今施せば救える命から目を背けたくないんです。私が今この場を制圧できたのも似たような力があるからで、ここで起こることは口外無用でお願いしたいんです」
「わかった。そうだな。警察でもない、ただの青年に見えるあなたが、いともかんたんに制圧できているこの事実。驚愕すべきが周りが静かすぎて、恥ずかしながら私もうっかりこの安穏な感じに飲み込まれていたよ。扉の外の犯人達は皆銃を持っていたはず。そんな危険地帯に君達親子は飛び込んで、私達はもちろんこの飛行機に乗る全ての命を救ってくれたのだな。あぁ、本当にありがとう。君のことは全面的に信じるし、秘密は墓場まで持っていくことを誓うよ」
するとガチャッと扉が開き、マコトとソフィアが入ってきた。
「パパァ、ママ連れてきたよ」
「あぁ、機長さん? こちらが妻のソフィアです」
「初めまして。それよりこちらの方がそうかしら? 簡単にはマコちゃから説明を受けたわ。早速かかるわね? 急がないとヤバい感じがするわ。なりふり構わずやっていいのよね?」
「あぁ、秘密の誓いはもらった」
「わかったわ」
ソフィアが手をかざすと、副操縦士はうっすらとした青い光に包まれる。これは体の中をスキャンするように隅々までを走査していくが、普通の人にはほとんど見えることはない。
「あぁ奥さん、よろしくお願いし……って、なんという美しさ。あぁ申し訳ない。続けてください。それにしても美しすぎて……どこかで拝見したような気が……もしかして女優さん?」
「あぁ、そのあたりも含めてノーコメントでお願いします」
「あぁ、そうでしたな。失敬」
あらかたスキャンは終わり、続いて緑色の灯りが身体に灯るように、うっすらと光を帯びる。この状態は普通の人にも認識されやすい。
「おぉ、なんて美しい光景なんだ。私はさっきから話をしながらも、操縦するために前方からほとんど目を離すことはないんだが、今のこの状態は美しすぎて、操縦者には目の毒だな? 操縦を忘れてずっと見ていたくなりそうだよ」
機長とジンは顔を見合わせて、フフっと笑う。そこへ応急手当を終えたソフィアが割り込む。
「弾は三発摘出ね。腕と足はまぁ良いのだけど、ぱっと見に気付きにくいお腹にも一発もらっていて、肝臓がかなりヤバい状態だったわ。ジンが感じていた危機感はたぶんコレね。放っとけば数時間後には亡くなられていたと思うわ。ジン? なかなかの英断よ? あと15分から30分くらいこの癒やしを続けたら大体完治かな?」
「さすがはソフィアの癒やしだな? あ、そうそう、片手が空いているのなら、そこに転がっている二人の犯人も診てくれないかな? ここは場所が場所だけにしくじると飛行機全体がヤバいと思ったから、かなり強めにお腹を強打したんだ。もしかしたら内臓がヤバいかも?」
ジンにはやり過ぎた自覚があるから、副操縦士の手当が終わるのを待ってた節もありそうだ。
「あぁ、人使い荒いわね。まぁ、緊急事態なのもわかるからやるけど、わたしも枯渇に近付いてるから、あとできっちり補充お願いね?」
「あぁ、もちろんだよ」
「あら? 本当ね。こっちの人は内臓がグチャグチャよ? 放っとくと亡くなられそうだわ。どんだけ強く打ったのかしら?」
ソフィアレポートに肝を冷やすジン。いくら不可抗力でも命だけは奪いたくないからだ。
「あぁ、もう加減する余裕がなかったし、ソフィアがいるなら大丈夫かと。でも良かった。悪人とはいえ、人ひとり殺しちゃうところだったのか。力加減もきっちり検証しなきゃだな」
「あぁ、ジン? 機長さんには誓ってもらったけど、さっきからスチュワーデスさんもちらちらと様子見に来てるし、ジェイムズもちらりと覗いていたみたいよ? 大丈夫かしらね?」
「あぁ、もうジェイムズにはキチンと話した方がいいかもな。あまりに関わりが深い気がするからこれ以上は誤魔化しきれないしな。それに信用できる人物だとさっき確認できたからな」
コックピット内が一段落したところだから、その外についても、必要な説明や今後の検討など、そろそろ頃合いと考えてたジンは、マコトにお使いを頼む。
『マコト? さっきから出入りしてる人は、最初のスチュワーデスさんの二人だよね?』
『うん、そうみたい』
『その二人をコックピットに連れてきてくれないかな? 機長さんが呼んでるって』
『わかった、待っててね』
『あぁ、頼む』
「あぁ、機長さん? 今娘に、さっきの事態に関わっていたスチュワーデスさんを連れてきてもらうから、先ほどの秘密の誓約をスチュワーデスさんにもしてもらえないですか?」
「あぁ、お安いご用ですよ」
コンコン。マコトがパーサー2人を伴い入ってきた。
「失礼いたします」「機長、お呼びでしょうか?」
「あぁ、君達も薄々気付いていると思うが、この方達の活躍で、この事件は副操縦士以外は被害ゼロという驚異的な状況なのだが、その節々で何か不思議な力を感じただろう?」
機長の問い掛けにパーサーの2人は無言で頷きを返す。視界の端で確かめた機長は続ける。
「彼らはそれらが知れてしまうと危険に晒されることになるらしい。しかしそんなリスクも顧みず、事態の解決に踏み出してくれた。我々個人の危機だけじゃなく、犯人達はこの航空機を墜落させようとしていたのだから、全員の命を救ってくれたことになる。我々全員の命の恩人というわけだ。しかもヤツラには交渉の余地などなく、おそらく1時間後には終わっていた」
話しは長めの機長だが、ここからが本題だ。一息ついて機長は話を続ける。
「ところがどうだ。人智を超えると思える力で一瞬のうちに鎮圧し、今は医療事情の整わぬ機内でまたまた人智を超える治癒の力を振るってくれている。強制はできないのだが、特異な状況を目にしたはずの君達にも秘密を守ることを誓って欲しいと思っているがどうだろうか?」
長い話の最中に既に考えは定まったのだろう。1人目のパーサーは間を空けずに即答する。
「はい、もちろんです。私はケイトスミスと申します。チーフパーサーを務めさせていただいております。あのタイミングで救っていただけなかったら、私は一番先に殺されていました」
神妙な面持ちでそう告げた後、笑顔混じりの表情に切り替え、話を続ける。
「ただ、ひとつだけお願いがあります。私達を救ってくれた大恩人に対して、ご住所かメールアドレスかを教えていただけるなら、毎年、年賀状やメールを差し上げたりしたいと思っています。それに対して、お忙しいならお返事はけっこうです。返事があるのもないのもご無事の証拠でしょう。だから、ただ一方的にでもご挨拶を差し上げたいと存じます。いかがでしょうか?」
ケイトが話し終えると、もう1人のパーサーも同意の頷きとともにと意見を述べ始める。
「わ、わたしも同意します。それと同意見ですが、一方的でよいのでお便りさせてください。あぁ、申し遅れました。私は片桐紗栄子と申します」
「わかりました。お二人とも秘めることを誓っていただけるということですね。ありがとうございます。メールアドレスでよろしければ後ほどご連携させてください」
聞き耳を立てつつも何かを思案していたように見えた機長が、ふと話に割って入ってきた。
「あぁジンさん? でよろしいですか? あのさっき墜落の話をしたときにふと連想したのですが、7年ほど前の地中海の民間機撃墜事件をなぜか思い出し、あのときの確かソフィア王女とお名前もお年もそしてなぜか黒髪ですがお顔までそっくりな気がします。もしかして……」
「よく憶えてらっしゃいますね?」
「えぇ、なんといっても私は当時の航空機の副操縦士でしたから、いくらお礼を言っても言い足りないぐらい感謝しています」
機長が当事者であるという件に心が反応を示し、目を見開くソフィア。
「というか、真相のほどはわかっていませんが、あれ以来、行方不明となったソフィア王女が、あのとき不思議な力で錐揉降下の暴れまくる機体を強引なまでに安定させ、落下速度を究極まで抑えてくれた。その結果、機体は強度が耐えきれずにバラバラになりましたが、かえってそれが功を奏して、誰もが衝撃の少ない着水となったわけです」
まざまざと脳裏で回想が巡るソフィアは目頭を潤ませ、声の主から視線を外せない。
「あ、申し訳ありません。真相も明らかにはなっていないのですが、あのときの状況は、私は操縦席にいたからこそ、ひしひしと実感しているのですが、誰かに人智を越える力が備わっており、そのような行動をとったとしか思えず、周囲の多くからも、それがソフィア王女によるものとの意見が多いこと、また私の感覚に過ぎませんが、操縦席からの相対位置として、力が振るわれたその中心と思える位置を座席表に照らし合わせても、やはりソフィア王女の座席位置付近と重なることから、私の中ではそう確信しているもので……」
話しの途中から突然ボロボロと涙を落とし始め、言葉を発せずにはいられないソフィア。
「あ、あなたもあの事故の生存者でしたか。よかったぁ。ほんとによかった」
「その反応、やはりそうなんですね。でもどうして行方を……」
ノーコメントを謳っていたものの、今既に力を振るった後で、過去のこれほどの当事者に全てを秘めるは失礼と、そこからは当たり障りの少ない概略の経緯をソフィアは語り始める。
「あぁ、私はとある教会から魔女と疑われ、とある軍事大国の超能力研究所から目を付けられているところにあの事件でしたから、やむなくあの場はいったん離散したんですが、気を失ってしまい、気が付いたらアフリカ南部まで飛んでいました」
地中海から一転、アフリカ南部へと、桁外れな座標移動に驚きが隠せない機長。
「え? あ、まぁ、人智を超える力なのですから……そ、それにしてもすごいですね」
「おまけに生体エネルギーがほぼ完全枯渇状態での不時着で、私は死んでしまったのですね。みんなの命を救ったのに自分は死んでるなんて、間抜けな話ですが……」
「え? でも……」
「あぁ、そこで彼、私の夫、ジンに発見してもらって、蘇生してもらえてぎりぎり息を吹き返し……でもそのときは身体も動かせない状況でしたが、記憶は全く失ってしまって……」
驚きの連続する中、ソフィアの被ったその一つ一つを捉えては、その大きさに機長は心を痛めながら聞いていた。一区切りついたところで改めてお礼の言葉を述べる機長。
「私達を救った代償はそれほどに大きかったのですね。全く知り得ずのうのうと今まで生きてしまいました。誠に申し訳ない。そしてありがとうございました。やっとお礼が言えました」
「いえ、私もみなさんの行く末が気になって、記憶を取り戻せた後にテレビで撃墜の直接被害者以外はみな無事と知って嬉しかったのですよ? それが今、当の生存者、しかも当時のパイロットの方にお会いできるなんて……感極まるとはこのことですね」
ズズッ
機長はソフィアをちらちら見ながら言葉を返す。まだ気になる部分があるようだ。
「はい。またこんな事件の遭遇中なのが微妙ですが……それにしても髪、それに瞳も……」
「あぁ、これですか。ふっ」
ソフィアは金髪碧眼に姿を変える。ふと飛び込む著しい変化に目を丸くする機長とパーサー。
「あ? え? こ、これも不思議な力の一部なんですね。そう、そのお顔と髪色と瞳でした。あの頃と全く変わらないお美しさで、というか、さらに神々しさを増しているようにも見えます。その人智を超える力からも、あなたはもしかして女神の化身なのでは……」
金髪碧眼のソフィアを見たチーフパーサーのケイトはもう役職を忘れて興奮気味に割り込む。
「キャーッ、そのお姿。あのソフィア王女だったのですね? 私もあの事件で知って、そのお顔がテレビに映されるたびに、ほぉぉっ、って溜息が止まらない毎日でした。本当に素敵です。今日はこんな事件が起こったけど、今の一瞬で私の中では素敵な一日に塗り替えられました」
もうひとりのパーサー、紗栄子も思いの丈を語り出す。
「私もニュースで拝見してました。この世にこんなにも美しい方がいらっしゃるなんて、とずっと思っていました。同性ですがドキドキが抑えられず、なんというか、そう、尊い、その一語に尽きます。そういえば先程迎えにいらしたのは娘さんですよね? 黒髪黒目ですが、なんとも可愛らしいと思っていたら、そうですか、ソフィア王女の娘さんでいらしたのですね?」
「あぁ、マコの髪、ふぅ」
マコトも金髪碧眼の姿に変わる。またも驚きの容姿激変だが子どもゆえの可愛らしさの破壊力は半端ない。元々子ども好きなのか、これには紗栄子が喰い気味に話し始めた。
「え? ママ、マコちゃん? でいいのかしら? スゴいスゴい! 可愛らしすぎる。まるで天使のよう。もう、ギュッと抱き締めたくなってくるわ。あ、ごめんなさい。あの、後でかまわないのですが、一緒にお写真など撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え? あぁ、誰にも見せないならかまわないけど、マコ達は身バレNGだから……」
「えぇ、承知しております。門外不出の家宝として大切に仕舞って……というより毎朝拝謁して一日はドキドキから開始したいです。それにしても表舞台に出れないのはお辛いですね?」
これにはソフィアが答える。
「あぁ、私も隠れる人生をよしとはしたくないから数年のうちに決着を付けるつもりよ。いずれは表舞台に戻るから、その時が来たら写真もOK。ただこの不思議な力のことは別ね?」
「わかっています。本当に今日は命を救っていただきありがとうございました」
「いえ、どういたしまして。じゃあ、もう髪色は戻すわね。マコちゃもね?」
「えー、もう? まぁいいけど」
そうして二人とも黒髪黒目に戻る。実は金髪碧眼になれて日も浅いため、残念がるマコト。
「本当に不思議な力をお持ちなのですね」
「あぁ、本当に秘密でね。でないと今度こそ狙われ、最悪殺されてしまうかもしれないもの」
「えぇ、絶対に恩人を裏切る真似だけはいたしません」
「わかったわ。それよりこの犯人さんはお終いよ。パイロットさんもそろそろ終わる頃合ね」
絶え間なく操縦している機長だから、前方と計器を主体に見ているが、副操縦士のケガの様子は何よりも気になるようで、ちらちらの頻度が激しく、その状況をつぶさに捉えようと余念がない。
「おぉ、傷跡が殆どわからなくなっている。本当に凄い力です。終わってみれば、ジンさんの活躍により、誰一人、怪我を負うことなく、ほんの一時で終わり、こんな不思議な力を目にすることができて、かの伝説的美少女、ソフィア王女と、その血を継ぐ天使のような娘さん。あれっ? 娘さんも王女になるのか? おそらく世間の誰もが知らないN国のマコト王女? にもお会いすることができた。今日ほど良き一日はない気がします」
「あら? 久しぶりにそんなに持ち上げられるのも照れてしまうわね。はい、パイロットさんもお終い。ジン? そろそろ戻らないとケイン達も心配しているかもよ」
「わかった。でも、ちょっと待ってて」
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