Jet Black Witches - 3飛翔 -

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第25話 漆黒の本領

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 マコトの必死の呼び掛けも、やることなすことそのすべてが空を切るばかりで、無力感に打ちのめされ、もう息絶えているジンのこの状態に、心は諦めムードに支配されそうになる。

「何が、イメージがあれば何でもできるだ。何が漆黒の魔女だ。こんな大事なときに何もできないなんて何のための力? 漆黒ってなに? 役立たずにも程があるよ! ふざけるなぁ!」

 バシッ!

 マコトは、以前に自分が言い放った言葉を思い出しながら、無力な自分に腹が立って仕方なく、自分の頬に渾身の平手打ちを繰り返す。

 バシッ、バシッバシッ!

「痛い! けど、こんなの痛くなんかない。パパが味わっている激痛に比べれば……え?」

 ジンジンとする頬に意識が向かうとき、ふと視界に入る自分の髪の毛。

「え? え? あれっ? 漆黒……じゃない? どうして?」

 旅客機の中ではあえて黒髪に変えていたが、機外に出て魔力行使を繰り返すことで平常の状態では金髪に戻っていた。今はちょっとした魔力行使なら黒髪にならずに使えるマコト。そして、さっきから癒やすためにありったけの魔力を使っているはずなのに黒髪じゃない。全力のつもりだったから、その一点の事実に驚愕し、自問自答の呟きを始めるマコト。

「ということは、全力が出せていない?」
「マコはそんなに焦っていたの?」
「自身よりも大切に思う家族だからこそ、動揺しすぎて自分を見失ってた?」
「そんな中途半端でマコはパパを失ってもいいの? いやだ! 今諦められるはずがない」
「でもどうすれば? 急がなきゃだけど、まずは落ち着け! マコ!」

 そんな問答で少し冷静さを取り戻しつつ、思考は冷ややかに、胸に宿す思いはジンとの思い出の数々、それをギューッと圧縮して、熱い熱い思い出の熱エネルギーに変えて、っと思っていたら、ボッっと心に火が灯り、だんだん勢いを増し、炎と化していく。ごごごごっ。

「でも、もぅマコは疲労困憊。ここで諦めたって誰もマコを攻めたりしない。諦めるぅ?」

 そう。確かにかなりの疲労困憊でどれほど力が出せるのかわからない。けれど自身を鼓舞するために、敢えて貶める言葉を自分に投げかける。そう問い質した結果の自身の答えはこうだ。

「否! ゃだ。絶対嫌だ! 諦めない! 何が何でも助ける!! 助けるって言ったら絶対助ける! 漆黒の力、そんなすごい力が本当にあるのなら今がその時。すべてを解放しろ!!」

 この瞬間、マコトの髪は漆黒に染まる。何もかもをその深い闇に吸い尽くしそうなほどの、真の漆黒の状態だ。そして漆黒なのだが、その周囲のオーラの外側には、透明な何かが幾重にも折り重なり、それ自身は光ってもテカってもいないのだが、魔力が干渉するのか、もしも人がいたら直視できないほどの眩さをひた放つ。その干渉の変化に合わせて、不思議な変幻の様相は、この世のものとは思えぬ美しさを呈していた。

 ブラックホールは、その漆黒の闇に光すらも吸い込むという。マコトの漆黒の力も周囲から放たれる様々な色の光が発したと同時に吸い込まれ、結果見えることのなかった光の残滓のような、確かに存在したミリ秒単位の存在が残像効果として残る美しさなのかもしれない。

「身体が熱い……ぐぅぅ、熱い……」

 同時に魔力が急速に膨れ上がる。ここは旅客機内のような壁も床も天井もない、危害を与えてしまう人もいない大空の中。際限なく溢れ出す魔力は一瞬で周囲の空気を引き寄せ、高速の渦を形成し、天上へと白く輝く細く長い大きな柱を形成する。

「はぐっ、く、苦しい。息が……」

 マコトに向かって一瞬で押し寄せてきた空気はそのまま上方に向かう。その流れに乗って、漆黒の髪は直上に伸びてはためく。

「ふぅ。これは一体?!」

 自然の空気が寄り集まって生まれ形成されるもこもこの入道雲と異なり、上方に伸びたものはもう雲とも呼べない。ほんの一瞬の間に圧倒的な力で強引なまでに引き寄せねじ曲げ、螺旋状に上昇しながら熱く煮えたぎる超高密度の空気の柱と化していた。ぐんぐん上方に伸びていきさらに細く絞り込まれるからなおさらだ。そして周囲およそ100mの大気を一瞬で呑み込んだのだからその反動は凄まじい。その瞬間、概ね30km四方の大気が大きく揺らいだ。

 編隊飛行中の敵機はその編成を大きく掻き乱し、一瞬だったとはいえ態勢の立て直しに膨大な時間を費やすことになる。物理的な変動だけでなく、この異常な規模の揺らぎの中に編隊でいればこそ上下左右のうねりで互いが今にも衝突しかねない、それほどの余波の影響を受けたのだから、知覚の他、感覚器官も激しく揺らされ、感じた恐怖感も凄まじかったことだろう。
 この柱の内側は熱の影響で赤く、その外側は高速の螺旋状の気流が白く、さらにその外側には激しい静電気が柱に纏わりつき迸る火花とともに眩い光を放っていた。その外側をマコトのオーラが包み込む状態だ。見上げるマコトは思わぬ状況に声を漏らす。

「うぅ、なんかすごいことになってる気がする……」

 監視役とのバトル以降、なぜかマコトのオーラは電気エネルギーとの親和性が増したようで、息を吸う位に自然に操れるオーラ生体エネルギーと同じ位マコトの意志に自然に呼応する電子の粒子という支配構造が形成されていた。もちろんマコト自身は無自覚なのだが。

「ふゎぁぁ、今度はこっちだぁ……」

 そして一瞬遅れて同調するようにマコトの身体も光を帯び始め、眩く輝き出す。その光は抱きかかえるジンをも包み込み、白く大きく膨れ上がる。同時に頭上にそびえる風の柱は更に収束を始める。ここまでスローな描写の語り口だが、時間にすれば僅か数秒間の出来事である。高さがぎゅーっと縮んでいき直径30m位の球体へと変化すると、オーラで繋がれた状態で頭上5000フィート位に停止する。更に縮小は継続する。縮む度にその熱量と光量は増していき、大体直径5m位に落ち着いた頃にはまるで太陽かといわんばかりの光と熱を放っていた。

「ま、眩しい……」

 旅客機のクルーも乗客も、各戦闘機のパイロット達も、眩しさに呆気にとられながら、同じような言葉を漏らしつつ、その不思議な情景に心を奪われていた。

 その小さな太陽は、光と熱を放ちながらも、結ぶオーラを通して、中で変換精製される、何かエネルギーのようなものをマコトに還元フィードバックし始めた。するとジンの患部にかざすマコトの手のひらから無数の光、いや光ってはいないが、残像感が煌めきを見せる無色透明の見えないオーラが伸びていき、損傷部に触れるごとに内蔵組織が再生されていく。

「え?」

 そう。癒しのような自身が回復しようとする力を後押しするような受動的なものではなく、マコト自身から複製され、ジンのDNAから本来あるべき姿としての調整が施されながら、欠落する部分を強引にも能動的に生み出す、そんな力がジンの失われた部分を何事もなかったかのような状態へと、ゆっくりと補完していくのだ。

「これは一体……」

 このときのジンは実は殆ど死んでいた。……のだが、無色透明な糸は意志を持ったかのように、修復しながらもマコトの纏う電子の粒子とともに全身に優しく働きかける。心肺の機能は今はほぼ停止しているにもかかわらず、細胞レベルでの活性化がはかられる。そんな無色透明の糸の揺れ動き、弾け、降り注ぐような、そんな糸が纏う光の残滓の様相はどんな言葉をもってしても表現できないほどの美しさを呈していた。

 「すすす、すごい……きれい……ふゎゎゎぁ……」

 マコトにとっても、何か不思議な状況だと感じるが、回復の兆しが見て取れる状況と、目映さに包まれた中で起こる美しい情景に、自らの行いなのだが、感嘆の息が止まらない。

「ほぅゎ……」

 そして、ジンの身体の部位がひとつ、またひとつ、と生まれ変わっていくさまに、涙もひとつ、ひとつと流れ落ちる。次第に鼻もぐずっていく。

「よかった……ズズッ……え、でも、身体だけ治っても、まだ多分心臓が動いていない……」

 みるみるうちに体組織が修復、あと少しで傷も塞がろうとする頃、今度は漲るマコトの生体エネルギーと失われた大量の血を補完すべく、新しい血液が次々とジンの体内に注入される。

「え? これはマコの血? ギンギンに漲っていたのがすぅーっと楽になっていく感じ……」

 顔の血色は負傷以前よりもさらに良い状態まで回復していた。だが意識はまだ戻らない。

「す、すごい。これなら……でもまだ鼓動が感じられない……お願いパパ、帰ってきて……」

 そうこうしている間に、敵戦闘機は着々と準備を整え、一斉にミサイルを発射する態勢だ。

「え?! まさか! 邪魔しないで!」

 ジンの蘇生に集中しながらもソフィア達も守り誰一人失わない、そんな構えだったが、思いを逆撫でするように、無情にもミサイルが一斉発射される。各機、1発ずつの計12発だ。

「よくも発射したな! もう容赦なんて必要ないね!」

 そう実はこのとき、小さな太陽を介し、マコトは周囲のすべてを見渡せるようになっていた。

「こいつらね?」

 視覚というよりはレーダーの反射エコーを解析して画面に映すのと似ていて、小さな太陽もどきが放つ光とその反射を、その纏うオーラが光センサーのごとき機能を果たし、捉え描き出す立体空間の3Dモデリングのように、辺り一帯を俯瞰する情景がマコトの脳裏に刻まれる。

「見える見える。この力なら……」

 さらには、電気エネルギーを自身の魔力で掌握し、意のままに操れる状態でもあった。これぞまさに敵の監視役の男の能力なのかもしれないが、マコトに取り込まれた時点で遥なる進化を遂げ、何万倍もの操作力量が扱えるようになっていた。

「なんか力が届きそうなイメージが……いけるかな?」

 それを自然と知覚するマコトだが、その見える情景に驚きつつも、大切な人達を苦しめる元である戦闘機と放たれたミサイルに向けてその許せない思いから迸る電気エネルギーを放つ。ただし、無意識の流れるような所作で、まずは確かめるための弱めのエネルギーとしてだ。

「行っちゃえぇ!」

 ピシピシピシッ。

 それはまるで生きているかのように、電気エネルギーがいかずちとなって、襲いかかる龍のように戦闘機とミサイルに到達し、網でからめ取るかのように包み込み、通電させる。

「よし、掴んだ。ん? なんか潜り込めそう……だけど、あれれ? なんか流されてい……」

 自然界の意志の通わない電気エネルギーなら金属などの通電素材の中を無作為に駆け巡るが、そのための構造により、誘導されるように放電索スタティックディスチャージャーから空気中に放出される。

「ふんぬぅぅっとっとっと、危ない危ない……そっちには行かせないよ」

 しかし、マコトの放った電気エネルギーは、そんな航空機設計者の意図に逆らい、機体の隅々まで、舐め尽くすように能動的に散策する。

「なんかこの壁、邪魔じゃない?」

 当然、絶縁体などで内部とは隔絶されているが、

「ふふん、何のこれしき、えぃっ!」

 何ヶ所かに高電圧をかけて焼き切り内部に侵入する。

「ぅはぁ! 開けた! おぉぉ、何かわからないけど、張り巡らされてるねぇ」

 この瞬間、機体もミサイルも通電世界は電子オーラで埋め尽くしマコトの掌握下に落ちる。

「繋がってる先を見ればそれが何か位は何となくわかったかも? うん。大体見れたね」

 すべての電装機器は支配下におかれ、エレクトロニックジャックも可能な……のだが、そこまでの知見を備えないマコトにできることは、全電子機器への電源供給を遮断することだ。

「ひとまずシステム無効化だよね? 位置的にたぶんこれが発電機だから、っと、えい!」

 マコトはすぐさま実行し、戦闘機の無線機やFCS火器管制装置、既に放たれているミサイルの攻撃目標や制御系統機能など、一切の制御機能を失わせ、矛先は上方へと迷走させる。

「よし、うまくいったみたい。ひとまずは安心かな?」

 いったん戦闘機とミサイルの戦力を無効化し電子オーラによる侵入と制御の大まかな要領が掴めたところで、ジンが傷つけられたことへの本気の怒りを戦闘機に叩きつけようとしていた。

「今度は大切なパパを傷付けたお返しだよ? よぉぉく思い知……」

 しかし。
 トクン。

「え?」

 しんの鼓動が聞こえた気がして、マコトはふと息を止める。

 トクン。

 間違いない。ジンの心臓が、まだ小さいが濁りのない澄んだ鼓動がはっきり聞こえてきた。そう確信するマコト。ジンの確かな命の脈動に心を震わせる。と同時にジンはわずかな躍動と息吹に続いて唇も動かし始める。が、言葉にならないのか、念波で言葉を振り絞る。

 『マコト……ころしちゃ……だ…め……』

 『あ?! パパ? 意識が戻ったの?』

 『え? あ、繋がったわ! ジンは大丈夫なの?』

 少しだけ冷静さを取り戻すマコトだが、まだ油断禁物だ。状況の変化が著しく、心の整理は追い付かない……が、既に発射されてしまったミサイルを先になんとかしなくてはならない。

「パパァ! よかったぁ。ホントによかった。でもちょっと待っててね? 発射されたミサイルだけは先になんとかしないとね?」

 ジンは、唇を緩め、小さく微笑んだように見えた。

 旅客機に向けて放たれた無数のミサイルに膨大な電気エネルギーを叩き付ける……つもりのマコトだったが、先程放った電子オーラにより、その挙動を強引に制御できることに気付く。

「あ、なんかミサイルも操れるみたい。それなら、爆発させてゴミをばら撒くよりも、上の小さな太陽が何とかしてくれるんじゃないかな?」

 上方で迷走中のミサイル達を電子オーラで操り、頭上の小さな太陽もどきへといざなう。

「よっ、とこんな感じ?」

 するとミサイルは小さな太陽もどきに飲み込まれ、煮えたぎる空気層の中で熱に溶かされながら引火、爆発する。小さな太陽もどきが一瞬輝きを増すことでそうであったことがわかる。

「うん。なんかうまく残飯処理までやってくれているみたいだね。いいのかな? まいっか」

 この溶解ではエネルギー変換でも行われるのか、燃えカスや金属片などは微塵も残らない。

「ふぅーっ。パパ、ミサイルは片したよ。具合はどう?」

 まだ戦闘機12機が残るが一旦無力化できている。それよりも今はジンの様子確認が先だ。
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