Jet Black Witches - 3飛翔 -

azo

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第26話 生還

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 ジンは傷は塞がり、心肺も問題なさそうで、顔色も良い。今は体力と疲労回復のために、まだエネルギー供給中の状態だが、もう会話も普通にできるくらいまで回復していた。

「今回ばかりはさすがにもう諦めていたのに。本当にありがとう、マコト。ごっそり無くなった脇腹が生まれ変わったみたいだ。これが漆黒の真の力ってやつなんだな。マコトの血とエネルギーまで供給してくれたんだろう? オレの中でマコトの魔力が感じられるよ」
「え? そうなの? じゃあ、パパにも同じことができるってことだね?」

「そう? ならキッチリ検証しなきゃだが、それより今は戦闘機。ミサイルはダメでも、銃は撃てたり、体当たりも困るしな。あ、連絡! ソフィア達、きっと心配してるだろうから」

 『ソフィア? オレは無事だ。マコトのおかげでなんとか蘇生できたみたいだ』
 『良かったぁ。大丈夫なのね? マコちゃもありがとう。本当に』
 『ううん。マコがパパを助けるなんて、当たり前のことだもん』

 『うん。そうだね。まぁ後でお祝いしなきゃだね? パパの生還パーティー? あ、そうそう、あと残りの戦闘機だけどさっきのミサイルはマコちゃがなんとかしてくれたんだよね?』
 『うん。終わったからいったんは大丈夫だと思うよ』

 『そのせいかな? ミサイルが撃てない代わりに銃の試し撃ちしてるみたいなの。後方のシールドを掠めた程度で問題はなかったけど、本格的に何か仕掛けてきそうな気がするわ』
 『あぁ、それは今から対処する。もし今すぐ撃ってきたら、シールドで凌いでくれるか?』
 『わかったわ、任せて! こっちはゆっくりでいいわ』
 『わかった。助かるよ』

 ソフィアとの念波を終え、ジンとマコトはこれからの行動を打ち合わせる。

「そうだね。じゃあ、今から残りのパイロット達を射出させるね?」
「え? ここから? 移動しなくても大丈夫なのか? それとどれからがやりやすい?」
「あ、うん。ここからやれるし、12機全部、いっぺんにできるよ?」
「え? マジで? どうやって?」

「あ、うん。あの小さな太陽もどきの後押しもあってか、なんか力がさらにパワーアップした感覚なんだ。これまでは同時沢山の琴の目に映る状況をいっぺんに理解、掌握が難しかったけど、今のマコは小さな太陽をから視える世界で既に全機掌握済なんだ。ほら、こんな感じ?」

 マコトは、念波を介して、俯瞰イメージをジンに見せる。

「おぉぉぉ、これはスゴいな。こんなことができるのか」
「うん。そのまま操ることもできるよ? でも琴ピクシーのほうがいいんでしょう? だから、今からオーラの触手を全機に飛ばすね?」

「あ、あぁ、やってくれ……ん? あ、ちょっと待って。今操れるって言った?」
「うん。パイロットさんは、そのまま自分で操縦もできると思うよ。でも、電気? 電磁力っていうのかな? そういう力を操る能力がマコにも宿ったみたいで、なんならリモートで操縦桿を動かしたりもできそうだけど、編隊飛行だし、まだマコには操縦は難しいかな?」

「それ、オレにもできそうかな?」
「あぁ、やってみたら? パパの中にマコの魔力が感じられるって言ってたから、マコと同じ力が使えるかもしれないし、今はそれができなくても、今マコが繋がっているこの状態で、今マコと親和性が高いはずのパパの意識を介入させられれば……あ! 最悪はマコの見える映像が見えるのなら、マコが操縦桿を握って、パパはマコの手を動かして、マコはその動きをリモート戦闘機に伝えれば、パパの意のままに操縦できると思わない?」

「あぁ、考えてみたけど、1番目の直接と2番目の間接の操縦、急ぎの今は余裕がないかな? ただ3番目のマコト経由なら、もうマコトは繋がってるわけだから直ぐできそうだよね?」
「わかった。じゃあ、そうしよう。で、まずはどうすればいい?」

「あ! その前に、多過ぎる残機数を減らせるかもな思い付きなんだけど、今の一番の脅威、機銃ガンの発射を防ぐために12機全部の銃口を塞ぎたい。もしヤツらが発射したら、銃口に何か詰まっていれば暴発を起こすから脱出するしかなくなると思うんだ」
「わかった。多分これが銃口ね? オーラを被せて固めるみたいな……こんな感じでどう?」

 俯瞰イメージの敵機12機の銃口部分が、一瞬で氷結固着したかの様子が見て取れる。

「おお、上出来上出来。あ、ほら。まさに今発射して暴発したね」
「ホントだ。あぁ、脱出してる。これ、勝手に自爆しているみたいなものだね」
「そうだろ? みんな無事に緊急射出できてるみたいだし、あっという間だったな」
「あはは、残る3機は、オロオロしてるのが機体の動きに現れてるね」
「ホントだな。じゃあ放っておく訳にもいかないから、残りの3機は後方象限の一番右翼側から順番にやっていこう。マコトは右手に操縦桿、左手にスロットルを握ってくれてればいい」

「でも、なんで操縦しようと思ったの? ただ操縦したかったから?」
「バカ。こんなときにしたくはないよ。理由は2つ。できるだけ緊急射出ベイルアウトとその後の戦闘機の爆破や墜落の瞬間を旅客機の乗客の目に触れさせたくないこと。もう1つは、もう日が暮れるからパイロットの救助が難しくなるし、救助艇との距離を縮めておきたいかな、ってな?」
「なるほど。どこまでもお人好し? やっぱりパパはパパなんだね? さっきはあいつらのせいで、確かに死んでたはずなのに、死んでも治らなかったってことだね?」

「え? 治る、って、オレのは悪い癖なの?」
「ううん。とっても良い癖だよ。お人好しすぎるところ。でも、それで自分が死ぬんじゃ意味がないでしょう? 残されるマコ達はどうなるの?」
「あぁそうだな。確かに。すまないと思う。だけどやっぱりオレは誰にも死んで欲しくないからなぁ。命が失われるのが恐いだけなのかもしれないから、小心者の証と言えるのかもな?」

「あぁ、そういう意味では悪い癖だね。全ての人を助けるというのはけっこう無茶な話の場合が多いと思うよ? シャナも言ってたでしょ? できる範囲で、って。それなのに結局やってのけちゃうのも凄いと思うけど、でも、パパらしいといえばパパらしいし、小心者なんかじゃないよ。そういうのを優しさって言うんじゃない? ちょっと度を超してるケドネ。でもまぁ、マコが尊敬している部分でもあるし、今はそれでいいんじゃない? けれど、マコがいない所では助けられないから、マコがいるときだけだよ? 無茶していいのは」

 シャナとは、マコ達の遠いご先祖様であり、約800年前、生粋の魔女と、極東のとある武人との間に生まれた『漆黒の魔女』の元祖とも言える存在。どういう理屈か、800年の時を超えてソフィア達の精神に語りかけることができる。漆黒の血筋を見守り、代を重ねるごとに薄まる血脈を憂いていたが、武人の血を引くジンとの巡り合わせにより、漆黒の血は元祖を遥かに凌ぐ圧倒的な力を取り戻す。シャナは血脈の再興を喜ぶとともに、さまざまなサポートを行ってきた。ただ時折繋がるだけで、常に繋がっているわけではない。そのうちまたひょっこり語りかけてくると思われる。

「うん。わかってる。心配かけたな。よし、じゃあ、やるよ? せっかくの良い機会だから、飛行機の動きを見とくんだよ?」
「はーい。お願いしまーす」
「じゃあ、ライトハード旋回ターンナウ!」

 ジンは背後から伸ばす両手でマコトの手を握り旋回の操作をする。体感までは伴わないが、視覚で捉えるキャノピー映像は旋回のリアルな様子を伝えるから、マコトは少し興奮気味だ。

「ほら? 今60度バンクで、乗ってる人には2Gがかかっている状態で、沈もうとするから操縦桿スティックを少し後ろに引く。すると速度スピードも下がってくるから、スロットルを足していく……はい、大体、反方位に旋回ロール終了アウトね? さっきの逆の操作で、加えた分を戻すよ?」

「わー、すごいすごい。本当に座学の『フライト講座』で教えてくれた通りなんだね?」
「え? 嘘だと思ってたの?」
「いやぁ、そんなことはないけど、あまりにも座学通りだったから、びっくりしてるんだよ」

 『フライト講座』とは、魔力修練の傍らで、空を飛ぶ、魔女の特徴ともいうべき能力の修練のまえに、飛行機が空を飛ぶ理屈などを座学として教える機会を設けたときの話だ。浮揚や旋回など、力の釣り合いを円や三角形などのイメージでわかりやすく伝えていたもの。

「そっかぁ、じゃあ、このまま操縦はロックできる?」
「うん。こっちが意識を留めておけば、パイロット側は操れないと思うよ」
「なるほど。よし、じゃあ、次ね? どんどん行こう」

 そうして残る2機とも反転させ終わると、今度は琴ピクシーの出番だ。

「じゃあ次は緊急射出ね。縦に伸びたから同時じゃないほうががいいか。1機ずつ順番に頼むよ。あと小さな太陽も持ってこれる? 終わった飛行機はそれで処理したいから」
「わかった。じゃあ、やるね」

 マコトは触手を飛ばし琴ピクシーを光臨させると、可愛らしい振る舞いで『もうこんなおイタはメッだよ?』と告げ、『えぃっ!』とレバーを引く。パイロットは慌てて姿勢を整えキャノピーを突き破る。これを順次繰り返し、ポンポンポンッとパイロット達は大空に舞う。

 主を失った戦闘機はもう操縦の必要もなく、強引に小さな太陽に向けて熱で溶かす。
 すべての戦闘機の処理が終わり、ソフィアに状況を尋ねるジン。

 『ソフィア? 戦闘機は後処理まで終わった。もう他に仕掛けてくる戦闘機はいない?』

 『あ、ジン、それにマコちゃ、本当にご苦労さまでした。そうね……うん、もう他にはいないみたいよ? インド洋ももう少しで抜けるからさすがにもう来ないと思うわ。仮にそうでないとしても休息は必要よ? 帰ってらっしゃい。それと、シールドのデコイはどうし……』
 『おっと、それが残ってたね。それが終わったら戻るから、入れるように準備を頼むね?』
 『わかったわ。充分気を付けてね?』
 『わかった。じゃあ、近付いたらまた連絡するよ』

「マコト? 例のデコイは直ぐに持ってこれる?」
「うん、任せて」

 マコトは戦闘機への通電操作のときにデコイも掌握下に置いていたため直ぐに操れる状態だ。順次一斉に引き上げていく。もはや小さな太陽もどきは、都合の良いゴミ焼却場と化しているが、下に落とすのは忍びないから仕方ない。そうしてデコイも含めた後処理はすべて完了だ。

「パパ? デコイの後始末も終わったから、この小さな太陽もどきも、もういいよね?」
「あぁそうだな。便利に使わせてもらったけど、それにしてもすごいものを作ったんだな?」
「あはは、ま、まぁ、怒りの賜物なんだけどね」
「そうか。それにしてもいろいろ助けられたから消すのは忍びないけど……消してくれる?」
「うん。わかった。またね? 小さな太陽さん」

 マコトは、ゆっくりと小さな太陽もどきの構造をほどいていく。高密度を薄めるように、中の密度や熱さをゆっくりと外気と馴染ませながら、球体は膨らんでいく。光はゆっくりとその輝きを失いながら、輪郭はゆっくりとほどけていき、やがて霧散していった。

 この太陽もどきで照らされていたため気付きにくかったが、辺りは夕闇に移行しようとしていた。水平線の付近にあった本物の太陽が、もう間もなく隠れようとする直前の状況だった。水平線を結ぶ光の帯はすぅーっと細くなっていく。ふっとすべてが隠れると、夜が始まる。後方象限は海しかないから、本当に漆黒の闇だ。すると、遠くの方に救助艇と救命ボートだろうか? 光の点が連なっているのが見える。今頃は懸命に救出作業しているのかもしれない。

「終わったね。戻ろうか? パパ」
「そうだな。そうと決まったら、お腹が空いてきた。スウィーツも恋しいぞ? 急ごうか?」
「うん。急ごう! スウィーツ、スウィーッツゥッ」

 ソフィアに帰投する旨を告げる。到着すると、出るときの反対の手順で入る必要がある。その手順はこうだ。

 まずは既にシールドに包まれている搭乗口の辺りの機体表面に密着する。
 それを確認したソフィアがジン達のシールドごと、シールドで覆う。
 覆われた空間は外気が入らないよう密着したものにする必要がある。
 そして滑らかさに気を配りつつ、搭乗口の扉が充分に開けるよう、シールドを膨らませる。これはかなりの空気抵抗になるが、偏りが無いように機体の反対側も同じ形状に膨らませる。
 中ではイルが客室に気圧の変化が伝わらないように二重三重のシールドのパーティションを構築する。その上で扉から入ってくるジン達を一時的に収容する、扉に密着したパーティションボックスのシールドを作成し、スチュワーデスさんと2人で待機する。
 ここまで出来て、やっと扉が開けられる状態だ。

 イルが準備完了をジン達に伝えると、外から扉を開けたジン達が入ってくる。
 扉を閉めて、スチュワーデスさん監視の元、扉をロックする。
 機外のシールドの膨らみは両側を同時に解除する。
 シールドに僅かな隙間を開けて、ゆっくりと気圧を馴染ませ、落ち着いたところでパーティションボックスを解除し、スチュワーデスさんがロックを再確認する。
 さらに二重三重のパーティションも時間をかけて、気圧が馴染んだところで解除する。
 と、ここまでの手順を実行出来て、初めて飛行中の出入りが可能になるわけだが、ジン達でなければ実現しない話でもある。

 良い子達は絶対に真似してはいけない。さもなければ、飛行機は墜落してしまうからだ。
 こんなにも面倒な手順はコリゴリなジン達だった。

「ただいま、紗栄子さん。面倒な手順に付き合わせて申しわけない。イルもありがとう」

 イルは遠慮がちに少し涙目で無言の笑みを、うずうずしていた紗栄子は嬉しげに言葉を返す。

「いえ、そんなぁ。万事休すの状況から救っていただき心から感謝しています。そして大変お疲れさまでした。お食事とスウィーツも準備してますから、後ほどお召し上がりくださいね」

「わーい。紗栄子さん、ありがとう。それが一番の楽しみだったんだ。ねぇ、パパ?」
「そ、そうなんだ。早く食べたいところなんだ。でも、まずは報告してこなきゃだね?」
「はい、機長も心待ちにしているみたいです。では、どうぞこちらへ」

 紗栄子さんにいざなわれ、パーティションに入ると、一斉に歓声が沸き起こる。

「お帰りなさい」
「よくぞご無事で帰還されました」
「本当にありがとうございました」

 皆満面の笑でさまざまな言葉がかけられる。みんなの笑顔を守れたことを噛み締めるジンとマコト。少し照れくさそうだが、嬉しさや達成感が勝る、やや誇らしげな表情でもあった。
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