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本編

5.

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 ◆

 そろそろ卒業試験が間近に迫っていた。

 つまり、この乙女ゲームも最終パート。
 ヒロインとアルバート殿下との仲は、いまだ不明である。

「アルバート様。さっきの講義のこの部分が、よく理解出来なくって」
「ああ、ここは……」

 ___ちょっとヒロイン、アルバートに近付き過ぎじゃなくて?

 アルバートの視線は、襟ぐりが大きく開いたヒロインのささやかな胸元に釘付けである。わたくしの乳首を吸った程度では、満足出来なかったのかしら?

 そういえば、アルバートが比べていた胸って、もしやヒロインのもの!?

 なんだか気分が悪くなってきた。むかむかもやもやしていると、ヒロインと目が合った。その目はなにかを期待するようにわたくしを見つめている。

 ___う~ん……反応したら負けのような気がする。

 それにしてもヒロイン、ひとりで行動してところを見ると、本命をアルバート殿下ひとりにしぼったってところかしら? 

 ……冗談ではないわ。殿下はわたくしのものよ!

 わたくしは席から立ち上がり、ヒロインとは反対側のバートの腕をつかむ。
 ぎゅう、とわざと胸を押し付けると、アルバートの身体がかたまった。

「ヴィア、やめろっ!」
「あっ」

 しん、と静まる教室。
 周囲の目がわたくしたち3人に集中している。

 ___今、わたくしはバートになにをされたの?

 アルバートに振り払われた手を呆然と見つめた。

「あ、ヴィア……すまない。その……」
「い、いいえ。わたくしこそ、はしたない真似をいたしました。申し訳ありません」
「ヴィア!」

 わたくしはアルバートに頭を下げて、教室を飛び出した。でないと、クラスメイトの前でみっともなく泣いてしまいそうだったんだもの。

 わたくし元女王様なのに、バートに泣かされるなんてくやしい……。

「……ゼノヴィア様」

 廊下に出たわたくしにヒロインがそっと声をかけてきた。

「なにかご用?」
「ヴィア様、あれは殿下の照れ隠しですよ。ヴィア様がとてもかわいらしいから」
「わたくしと殿下のことは、あなたには関係のないことよ。教室にお戻りなさい」

 ライバルに同情されてしまうなんて、とてもみじめな気分。

 殿下はわたくしを追いかけて来てもくださらない。
 考えてみれば、もう終盤ですものね。バートはとっくにヒロインのものになっているのだわ。

 じわりと視界がにじんだ。

「……どうぞおしあわせにね」
「ヴィア様!?」

 わたくしはようやくヒロインにそれだけを告げ、その場から走り去った。

 ◆

 ヒロインの殿下ルートのエンディングが決まった今、わたくしの進退も決まった。
 つまり修道院行きである。

 ヒロインをいじめまくった悪役令嬢は、島流しよろしく北方にある規律厳しい修道院に入れられたと、エンドロールでは文字のみで説明されていた。

 わたくし、ゲームのようないじめはしていないけれど、おそらくそのようなことになるのでしょうね。
 だって、ヒロインがしあわせになるためには、悪役令嬢がいたら邪魔だもの。

 修道院は当然、女ばかり。

 ___花の盛りであるわたくしが、男を知らぬまま修道院行きって可哀想すぎない?
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