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夏休み編

2.

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 小山田くんがぼくの目の前でジャージを脱いだ。
 日に焼けているところと焼けていないところが、はっきりと分かれている。

 視線に気付いたのか、小山田くんが首をかしげる。

「なに?」
「小山田くん、部活がんばったんだなあ、って思って」

 二の腕から指先にかけて、こんがりきつね色だ。
 その努力の結果が、今日の試合だ。グラウンドを駆ける小山田くんは、ほんと輝いてたよ!

 対してぼくのこの夏の成果と言えば、アプリゲームのフレンド枠を埋めたことくらいかな? しょぼい……。

 二の腕の色分けされたラインをなぞると、小山田くんがびくりとした。

 あっと、いけないいけない。
 ぼくは手を出しちゃいけないんだった。

「風呂に行こう」
「うん」

 さっきから気になってたんだよ。
 ベッドルームから丸見えだったバスルーム。ガラスで出来た扉から中に入ると、予想通り壁や天井が鏡だった。

 特徴のないぼくの顔が、あっちにもこっちにも映ってる。
 ぼく、こんなに自分の顔を見たことないよ。うへえ、はずかしい!

 ラブホテルに入るのは初めてじゃないけど、キィちゃんと入ったところはこんなに立派じゃなかった。

 小山田くんがバスタブにお湯をため始める。

「バスタブ、ふたりでもじゅうぶん入れそうだね」
「そうだな」

 カズはここに座って、と椅子の座面を叩かれる。
 おお、うわさに聞くすけべ椅子ではないですか。ほんとに黄金色だ。

 これの用途、小山田くんは知らなさそう。
 シャワーの温度を確かめている小山田くんをちらりと見ると、首をかしげられる。

 はうう、可愛い!
 えっちなことはぼくが教えてあげるから、そのまま無垢な小山田くんでいてね!

「熱かったら言えよ?」
「うん」

 背中からぼくにシャワーをかけ始める小山田くん。

 することもないので、鏡越しに小山田くんの引き締まった身体を鑑賞しようと思ったのに、腰にタオル巻かれちゃった。ちぇっ。

 泡立ちのいいボディソープで、耳の後ろや背中を撫でるように洗われる。
 人に身体を洗ってもらうなんて、めったにないからね。気持ちがよくてうっとりしてしまう。

「小山田くん、気持ちイイよぉ」

 はふう、と息をこぼしながらそう言ったら、ヘンな声を出すな、と叱られた。

 出してないよ!?
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