ふたりの灯台ラブストーリー

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第三話 灯台に住むロマンスの神様どうもありがとうの話

§5 - 午前十一時から午後一時(その二)

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 その後も磯上くんが色々と話しかけてくれたこともあり、コミュ障のオレが恐れていた気まずい沈黙が訪れることもなく、楽しい時間を過ごせた。

 磯上くんにはお兄さんが四人もいて、そのうち一人はオレと同い年らしい。だから話しやすかったのかな?

 K市までの二時間弱のドライブでは、道すがら見かけた店の海鮮丼が美味しいって教わったり、途中の看板で案内されてた史跡の説明をしてもらった。オレは歴史に詳しくないのでうんうんと頷くことしかできなかったが、戦国武将の名前やその時代の出来事を臨場感あふれる口調で解説できる磯上くんって凄いな、と素直に思った。

 また嬉しいことに、磯上くんは英語のヒアリング対策で洋楽を聴いており、ラップよりハードロックが好きだった。音楽の趣味が似ている相手に出会ったのは初めてで、お互いに好きなアーティストを教えあったり、夏のロックフェスに行ってみたいという話で盛り上がった。

 オレにとっては、気楽な雑談をすること自体が本当に久しぶりで、とても楽しかった。こんな風に、何も考えずに喋ったり笑ったりしたのはいつ以来だろう。

 そして、昨日までのオレが諦めていた「助手席に恋人が座ってドライブする」を達成したのは嬉しい。あ、いや、恋人だなんて、磯上くんに失礼だろ。


■  ■  ■


 あっという間に時間が過ぎ、ふとカーナビに視線を送ったら、いつの間にかK市を走っていた。

「磯上くん、もう市内だけど、どこで降りたい?」
「できればK駅でお願いします。自転車おいてるんで」
「わかった。車を止められる場所はあるかな?」
「駅の両側がロータリーなんで、どっちでも平気です」

 そんな会話を交わして十分ほどで、K駅の南口に着く。平日昼間だったこともあり、停車スペースにすんなりと車を停めることができた。これでお別れか……ちょっと残念だけど、仕方ないよな。

「あの、兵頭さん……」

 あれ? 磯上くんの表情が暗い。どうしたどうした?

「おれ、兵頭さんのコート着たまま車に乗っちゃってました。すみません」

 ん? コート。ああそういえばそうだった。

「別に平気だよ。気にしてないし」
「このコート、一度クリーニングしてからお返しします!」
「ええっ? い、いや、そこまでしなくてもいいって!!」

 決意したように訴えられ、オレの方が焦ってしまった。そもそも自分で買ったものじゃないしな……そうだ。

「あ、あのさ、そのモッズコート、磯上くんにあげるよ」
「そんな、悪いです。高い服なのに」
「実はそれ、友達が買った福袋に入ってて、サイズ合わないからって押し付けられたヤツなんだよね。でも、オレにはちょっと小さくてさ」
「いや、そんな……」

 磯上くんが戸惑っている。だが、受け取ってもらいたい。別にモノを与えて手懐けるとかいうんじゃなくて、似合う人が着た方が服も喜ぶだろうし……。

「磯上くんによく似合ってるし……大事に着てもらえるとオレも嬉しい」

 受け取ってもらえるかな、と思いつつそう言うと、

「じゃあ、ありがたく頂きます。後期試験のときにも着ていきますね!」

 磯上くんが笑顔で受け取ってくれた。そして。

「あの、受験終わったら兵頭さんにお礼したいです。それで……どこか一緒に行きませんか?」

 真剣な眼差しで誘われた。どうしよう。すごく嬉しい。

「う、うん。オッケーです」
「やった!」

 助手席の磯上くんが小さくガッツポーズを取っている。これって、本当に脈があるということなのかな??

「じゃあ、おれ、家に帰って勉強します」
「うん、頑張れ。緊張しすぎないように気をつけて」
「はい! 今日はありがとうございました」

 助手席から降りた後、磯上くんは昨日と同じく一礼してから駅に向かって駆けていった。


■  ■  ■


 K駅からの帰り道、新規出店したばかりのスーパーマーケットを見つけた。普段なら通り過ぎるけれど、今日は思い切って立ち寄ってみた。

 広い店内は清潔で、新鮮な野菜や果物が目新しい。ふと自炊でもしようかと思い立ち、カゴに納豆やバナナを放り込んでいたら、スマホが震えた。

【ちゃんと家にもどりました。今日はありがとうございました】

 磯上くんからのメッセージだ。

【オレは買い物してから帰るところです】

 そう送ったら、すぐに返事が来た。

【気をつけて帰って下さいね。おれはこれから勉強します!】

 頭にハチマキしている受験生のスタンプまで届いたので、クスッと笑ってしまった。【頑張れよ】と返信した後、顔がにやけて仕方ない。もしかしたらこれっきりになるかもしれないけど、なんかちょっと……いや、すごく嬉しい。

 また連絡くれるといいな。

 また会えるといいな。

 そんな感情を抱いたのは、ものすごく久しぶりだった。
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