ふたりの灯台ラブストーリー

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第五話 ドッキドキ! 初デート♥という話

§5 - 四月第一週の土曜日、正午。(その一)

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 ほぼ一ヶ月ぶりの再会は、昼にH駅東口で待ち合わせをしていたのだが。

「お久しぶりです、兵頭さん! あれ、少し痩せましたか?」
「……磯上くんこそ、なんか疲れてるみたいだけど……」

 開口一番、兵頭睦月は絶句してしまった。

(磯上くんの顔が緑色になってる……頬もこけてるし、何があった??)

 三月のデスマーチで死んだオレの心を、磯上くんの元気はつらつな笑顔で癒やしてもらおうと密かに期待していたのに。でも、磯上くんは以前と変わらぬ明るい声で、

「お腹減ってますよね? お昼ごはんに行きましょう、兵頭さん!!」
「そ、そうだね磯上くん! なに食べようか……」

 しまった! 事前に店を調べるのを忘れていた。というか今日のデート……どこ行こうとか何しようとか全く考えていなかった!! と後悔した直後。

「少し歩くと美味しい中華料理のお店があるんです。良かったら、そこに行きませんか?」
「う、うん。いいね。そうしよう」

 磯上くん……ありがとう。中華なんて久しぶりだよ。嬉しさに震えながら、肩を並べて歩き出す。

「そういえば、兵頭さん辛いの苦手でしたか? あのお店、味付けが辛めなんですけど」
「まあまあかな。磯上くんは?」
「おれは結構いけます。でも、味がわからなくなるまで辛いのはダメですね」
「ははっ。それはオレも同じ。口の中が痛くなって無理」

 一ヶ月ぶりとは思えないほど自然に会話を交わしながら歩き出す。駅周辺は駐車場が多く、少し進むと住宅とマンションが混在していた。一人だったら迷いそうな道だが、磯上くんはスタスタと歩いていく。

 道すがら、寝転ぶ野良猫を見つけては「かわいいね」と写真を撮ったり、季節がめぐるのは早いねと笑ったり。二十分ほどの行程はあっという間で、人通りの少ない道だったこともあり、手をつなぎたいなあとちょっとだけ思った。


■  ■  ■


 磯上くんが案内してくれた中華料理店の前には五台分の駐車スペースがあり、すでに満車だった。混んでいるのかと少し焦ったけれど、カウンター席が空いていたらしく、すんなり通してもらえた。

 道路に面したカウンターの端っこの席に着くとすぐにお冷が出て、メニューを渡される。おお、種類が多くて何を選べばよいか迷うな。

「兵頭さんって、たくさん食べる人ですか?」
「いや、普通かな。デカ盛りとかは無理」
「じゃあ、半ラーメンのセットは止めた方がいいかも。けっこうボリュームがあるんで」

 磯上くんが、斜め後ろのテーブル席をちらりと見た。両親と兄妹の四人家族で食事をしており、中学生くらいに見える男の子が中華丼と半ラーメンのセットをガツガツ食べている。うん、多いな。これは無理。体育会系男子向けメニューってことか。母親と妹は麺類で、父親が定食っぽいのを食べてる。あのくらいなら平気そう。

 定食メニューを開くと、麻婆豆腐や八宝菜といった定番中華のほか、四川風ナントカと書かれた料理が並んでいた。四川風ってのが辛いのかな? せっかくだから肉と野菜も食べたいし、悩むなあ……。

「磯上くんはもう決めた?」
「はい。おれは『豚バラ肉の四川風煮込み定食』にします」
「じゃあオレは『牛ホルモンと野菜の四川風炒め定食』にしようかな」
「すいませーん。オーダーお願いします!」

 磯上くんが声を上げると、すぐに店員さんが来た。てきぱきと注文する姿をぼんやり見つめてしまった。あ、よく考えればオレの方が年上なんだから仕切らねばならなかったのでは? でも、なんか手慣れている気がする。

「磯上くんは、このお店によく行くの?」
「たまにかな。親戚が近くに住んでるんで、その帰りに家族で寄ることが多いです」

 カウンター席に二人で並んで座っているせいか、会話の途中で肩が触れた。うわ、なんだか意識してしまうな。

 すると磯上くんは、オレの顔を覗き込んで微笑みながら、

「なんか、兵頭さんの顔を見たらホッとしました」
「え?」
「いや、実は……」

 磯上くんが続けて何か言いかけた時、注文した料理が運ばれてきた。

(うう……うやむやになってしまった。後で聞いてみよう)

 気になるけれど、まずは腹ごしらえだ。そう思いながら箸をつける。隣の磯上くんは、両手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始めた。礼儀正しいな。

「あ、辛い。でも美味しい。兵頭さん、このくらいの辛さって平気ですか?」
「うん、平気。香りも良いし、すごいちゃんとした食事って感じ。旨すぎる」
「え、いつも何を食べてたんですか?」
「ゼリー飲料とエナドリと……」
「それは食事と言わないです!!」

 温かくて辛くて美味しい中華料理を、磯上くんとおしゃべりしながら頂いた。こんなに楽しい気持ちでメシを食うのは本当に久しぶりで、夢みたいだ。
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