【完結】街一番の有名人は、薬草クッキーがお好き

青空爽

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第二十話 これからの日々

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「う~。怖いよぉ~」
 
 私がグスグス泣いていたら、ゼルバが慰めるように私の頭を撫でた。

「本当、怖いよねストーカーって。でも、大丈夫だよ。レノンは俺が守るから」

 違う~。ストーカーの女性も怖かったけど……だけど、もっと怖かったのは――。

「怖いのはゼルバよぉ~」
「え!?」

 ゼルバは心底驚いた声を上げた。まさか自分が怖がられているとは思わなかったのだろう。
 だが、隣に立つキノルルも私に同意してくれた。

「俺も怖かったです……。だってゼルバさん、目が本気マジなんだもん。俺、ちびりそうになりました」
「!?」

 二人にそんなことを言われて、ゼルバは大いに動揺した。
 
「え!? 怖いって俺のこと!? ご、ごめん! レノンが虐められてるの見たら、カッとなっちゃって……!」
「……」

 私のために怒ってくれたのね。
 それは嬉しい……。でも、でも……。
 私はグスグス鼻を鳴らしながらゼルバを見つめた。

「ゼルバ……。もう少しであの女性を殺すところだったのよ? 私……。私のせいでゼルバを人殺しにしたくない」
「……!」

 ゼルバは苦しそうな表情で、泣きじゃくる私をそっと抱き締めた。

「ごめん……! ごめんね、レノン! 俺が悪かった! カッとなってやり過ぎてしまった。もうあんなことは絶対にしない!」
「ゼルバ……」

 まだ恐怖を感じるけど、私は恐る恐るゼルバを抱き返した。たくましい背中に腕を回すと、少しだけ安心した。

「ゼルバ……。約束して。もう、あんなことしちゃダメよ?」
「分かった……。分かったよ、レノン。怯えさせてごめん!」
  
 ゼルバの言葉を聞いて、私はホッとした。
 ホッとしたら、一気に体の力が抜けた。
 ふらりと倒れ込みそうになる私の体を、ゼルバが支えてくれた。

「大丈夫かい?」
「うん……」
「抱っこしてもいい? それともまだ俺のこと怖い?」

 そんなことを言いながら、ゼルバは不安げな表情で私の顔を覗き込んだ。

「……もう怖くないわ」

 さっきは本当に怖かったけど、今はだいぶ落ち着いてきた。考えてみたら、ゼルバは私のためにあんなに怒ってくれたのだ。それなのにここでゼルバを拒絶したら、可哀想よ。

「ありがとう……」

 ゼルバはホッとした表情で私を抱き上げた。
 私はゼルバの首に腕を回しギュッと密着して、もう怖がっていないことをアピールした。
 そんな私たちを見ていたキノルルも、落ち着いてきたようでいつもの明るい表情に戻った。

「へへっ! 仲直りできたようで良かったぜ!――それでさぁ、ゼルバさん。この女どうします?」

 この女とは、ゼルバが首を絞めて殺そうとした女性のことだ。女性は壁に激突した衝撃で気を失っているようだ。
 ゼルバはスゥッと冷たい表情になり、ゴミを見るような目で女性を見下ろした。

「自警団に突き出そう。自由にさせたらレノンに危害を加えるかもしれないからね」
「そうっすね。じゃあ、俺が手配しておくんでゼルバさんたちは帰っていいですよ。あとで自警団の奴らが話聞きに来ると思いますけど、それまでゆっくりしてて下さい」

 キノルルの言葉に、私はオロオロと口を開いた。

「で、でも、お仕事が……」
「レノン。ビビりまくってて仕事なんか出来ないだろ! 今日はもういいから、ゼルバさんに慰めてもらえ」

 確かに今日はもうお仕事を出来そうにないわ。キノルルには悪いけど、休ませてもらおうかな。

「……。そうね、ごめんなさい。それと、色々ありがとう」
「へへっ。いいってことよ!」

 キノルルがニカリと笑うと、それを合図にしたように周りにいたお客さんたちが集まってきた。
 実は女性が店に入ってきた時から数人のお客さんがいたのだ。みなさん、私と同じようにゼルバの怒りに震え上がっていたようだけど、今はもう大丈夫みたい。
 
「いやぁー。ゼルバさんハンパないっすね! マジで怖かったっす!」
「さすがは泣く子も黙るSランク冒険者!」
「あんな目で睨まれたら、俺なら気絶する」

 お客さんたちの言葉を聞いて、ゼルバはバツが悪そうに苦笑した。

「勘弁してくれ。さっきの俺はどうかしてたんだ」
「へへ。大好きなレノンちゃんが虐められてるの見てキレちゃったんですね。――レノンちゃん、愛されてるなぁ!」

 愛されていると言われて、私は恥ずかしくなってきた。『そ、そんなことないです……』とボソボソつぶやいてから、隠れるようにゼルバの胸に顔をうずめた。

「ゼ、ゼルバ……。もう帰ろう?」

 コソコソとゼルバに話しかけると、ゼルバはいつもの優しい笑みを浮かべた。

「ふふ……。レノンが今更ながら恥ずかしくなってきちゃったみたいだから、ここで失礼するよ」
「あらら。本当だ。レノンちゃん林檎みたいに真っ赤になってる」
「な、なってません!」

 そんな感じで、私たちはニコニコ微笑むお客さんたちに見送られながらお店を出たのだった。

※※※※

「ゼルバ。もう大丈夫。おろして」

 お店を出ると、早速私はゼルバにおろしてもらうよう頼んだ。
 だってずっとお姫様抱っこされてるんですもの! もう恥ずかしくて顔から火が出そう!

「えー。このまま家まで行こうよ」
「い、嫌よ! 恥ずかしい!」
「しょうがないなぁ……」

 ゼルバは苦笑しながら私をおろしてくれた。
 だが、すぐに手を繋がれた。
 手ぐらいだったら恥ずかしくないので、そのままにして歩いた。

「レノン。俺の家来る? それともレノンの家に行きたい?」
「んー。じゃあゼルバのお家に行きたいわ」

 実は私はゼルバのお家をとても気に入っているのだ。特にお気に入りなのは、大きなソファだ。あそこに二人で座って、色々お話をしたい。

 ゼルバは嬉しそうに微笑んだ。

「よしきた。じゃあ、俺の家でのんびりしよう」
「うん!」

 さっきまでの微妙な空気が嘘のように、私たちはニコニコ笑いながらゼルバのお家に向かったのだった。

※※※※

 お家に着くと、私はいつものソファに座った。
 ゼルバはキッチンに行き、私のためにホットミルクを作ってくれた。
 カップを私に手渡すと、隣に座る。
 お礼を言ってから一口すすると、ゼルバが申し訳なさそうな表情で私を見てきた。

「レノン。さっきは本当に怖がらせてごめんね」
「ううん。私の方こそごめんなさい。ゼルバは私のためにあんなに怒ってくれたのよね」
「……」

 ゼルバは何か言いたそうな表情でじぃっと私の顔を見つめた。

「レノン……。突然こんなこと言ったらびっくりするかもしれないけど、聞いてくれるかい?」
「なぁに?」
「あのね……」

 いつも物事をハッキリ言うゼルバにしては珍しく、言いづらそうにモゴモゴと口を動かしている。
 な、何かしら?
 なにか悪いことを言われるのかもしれないと不安になった私は、ギュッとカップを握りしめてハラハラとゼルバを見つめる。
 すると、決心がついたのかゼルバが真剣な表情で私を見つめた。

「あのね、レノン。俺たち一緒に暮らさないか?」
「え?」

 ゼルバの意外な言葉に、私は目を丸くした。
 そんな私を見ながら、ゼルバは話を続ける。

「俺、今日のことで不安になったんだ。またあの女みたいなのがレノンに接触してきたらどうしようって。だから俺、レノンには俺の手の届くところに居て欲しいって思ったんだ」
「……」

 私がキョトンとした表情で黙り込むと、ゼルバは焦ったように早口になった。

「も、もちろんレノンが嫌ならこの話はなかったことにする! レノンの気持ちを最優先にしたい!――でも、もしもレノンがいいって言ってくれるなら、これから俺は命をかけてレノンを守っていきたい」
「ゼルバ……」

 私はカップをそっとテーブルに置いた。
 
 嬉しくて、目が潤んでしまう。
 ゼルバがそんな真剣に私のことを考えてくれていたなんて……。

 居ても立ってもいられなくなった私は、突進する勢いでゼルバに抱き付いた。

「嬉しい!」

 抱き付かれたゼルバは、『わっ』と言いつつも、しっかり私を抱き止めてくれた。
 
「私もゼルバと一緒に暮らしたいわ。ゼルバともっと一緒にいたいの」
「レノン……」

 ゼルバの腕が私の腰に回される。そのまま力強くギュッと抱き締められた。

「本当に? 嫌じゃない? 俺のこと怖くない?」
「怖くない。だってゼルバのこと大好きなんですもの」
「レノン……。俺もレノンのこと大好きだ。ずっと一緒にいたいし、守ってあげたい」
「嬉しい!」

 私は嬉しさのあまり、ポロリと涙をこぼした。
 これは幸せの涙だ。
 大好きなゼルバに愛してもらえて、胸がいっぱいになり、自然に涙があふれてきたのだ。
 ゼルバはすぐに私の涙に気付いたようで、そっと指先でぬぐってくれた。
 私はゼルバを見ながら、ニコリと微笑んだ。

「えへへ。嬉し過ぎて泣いちゃった」

 ゼルバはそんな私を見て、眩しいものを見るように目を細めた。
 
「レノン……。君は泣き顔も綺麗だね……」
「そ、そんなことないわ」
「照れた顔も可愛い」
「や、やめてよ」

 私は恥ずかしくなってきてうつむいた。すると、ゼルバが私のアゴに手をのせてクイッと上を向かせた。

「愛してるよ、レノン……」

 そんな甘い言葉をささやきながらゼルバの端正な顔が近付いてきたので、私はゆっくりと目を閉じたのだった。
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