追放された『迷宮術士』の俺は、廃村を開拓してスローライフするつもりだったのだが?~元追放者のワケアリ領民たちと村を発展させます~

くま猫

文字の大きさ
14 / 105
第一章:ダンジョンを作ろう!

第14話『ユーリとユエとお月様②』

しおりを挟む
「ああ。構わない」

「その前に、少し冷めちゃいましたが、アップルサンド、いかがですか」

「おう、ありがたくいただこう」



 パンの中にカラメルで煮詰めたりんごが沢山入っている。
 カラメルの香ばしさ、酸味と甘味がほどよく調和している。
 繊細で、上品な味だった。
 
 パンを飲み込むと体の底から力が湧いてくるのを感じた。
 体内のマナの流れが良くなったのを感じた。
 強化魔法とも違う、俺の知らない能力だ。



「ボクが作った料理を食べると、体内のマナのめぐりがよくなるようです」

「なるほどな。確かに、力が底上げされたような感じはある」



 魔力適正ゼロの俺でも感じることができる。
 体の血の巡りがよくなったそんな感じが近い。


 この世界にはマナと呼ばれる物質が存在する。
 魔力の触媒として用いられる物質だ。

 難しいことは特にない。空気のようなものだ。

 火をつけるには、酸素が必要。
 魔法を使うのには、マナが必要。

 その程度の違い。

 俺を含め、この世界の人間は、体内にマナを循環させる経路を持つ。
 大ざっぱに例えるなら、毛細血管のようなものだ。


 魔法の素質はマナの経路を励起《れいき》させる素質に依るところが大きい。
 厳密には、神秘への理解とかいろいろ、学問的な要素が絡むらしいが。

 剣術しか習得していない俺がわかるのはここまでだ。



「ユーリさんは、ボクの能力を見ても特別視しないんですね」

「反応が薄かったか」

「いえ、ほっとしました」

「アップルサンドはうまかった。そっちの方には驚いた」

「ありがとうございます。この能力、それがボクがここに居る理由です」



 規格外の能力を持つものが幸せになるとは限らない。
 人さらいに目をつけられ高値で売買される危険がつきまとう。
 研究材料としてモノとして扱われることもあると聞く。



「ボクは、この能力を隠して過ごして村で暮らしてきました。両親にも厳しく言いつけられていましたので」

「…………」

「ちょうど1年ほどまえ、ボクの暮らしていた村で奇病がはやりました」

「奇病?」

「体内のマナが暴走し、マナの経路を破壊し死をもたらす。そんな病気でした」

「確かに恐ろしい病気だな」


「ボクのこの能力で、多くの村人を救うことができました。ですが、あのときにボクの能力が知れ渡ってしまいました」

「……ここまでの話を聞く限り、感謝こそされど、ユエが村をでなければいけないようになるような事態には思えないが」

「運も悪かったんです。村の領主が違法奴隷商と繋がっていて。「領民は領主の所有物」だからボクを奴隷商に売り渡す、と。両親以外、誰も反対しませんでした」


「領主ごときの権限では不可能だ。越権行為は、爵位剥奪の上、処刑されるはずだ」

「はい。中央ギルドの敷いた法ではそうなっているようです。ですが、辺境の村では、法は守られていません。それが実情です」

「王都の外の現実か」



「父と母はボクのことを、命をかけて守ってくれました。そして、両親は領主の意に逆らった咎《とが》で、村人たちに殺されました。……ボクの、目の前で」

「…………」

「無我夢中で走り、意識を失い、気がついたら魔獣にさらわれ、この村にいました」

「辛かったな」

「はい。昨日、冒険者の一人が、違法奴隷商会のキャラバンがこの辺りまで来ていると耳にしました」



 違法奴隷商は、ギルド指摘の大罪人だ。

 発見次第、無条件での殺害が許可されている。
 事前申請は不要、事後報告が認められている対象。

 それなのになぜ滅びないのか?

 一つはキャラバンで転々と移動しているから。
 そして、執念深さ、報復の残酷さが知られているからだ。

 多くの人間が関わりたくないと思うのも当然のことである。



「きっと、ボクを探しているのでしょう。これ以上、ボクのために誰かが不幸になることは……」

「意思は固いのか」

「はい」

「…………」


「誰かに生きた証を残したかったのかもしれません。確かに、ボクは居たのだと」

「…………」


「レシピ、まとめておきました。ボクの部屋の机の引き出しの二番目にあります」

「…………」


「新しく来た人に、渡してあげてください」

「…………」


「ボクの話、最後まで聞いてくれてありがとうございました。いままで、とても楽しかったです」

「…………」


「すこし、風が冷たくなってきましたね。それでは、先に部屋に戻ります。――さよなら、ユーリさん」



 俺は、左腰にぶら下げた鉄の塊に触れる。
 静まり返った闇夜に、鉄のぶつかる音が響く。



「成すべきことは一つ。――ここから先は、大人の時間だ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...