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第一章:ダンジョンを作ろう!

第14話『ユーリとユエとお月様②』

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「ああ。構わない」

「その前に、少し冷めちゃいましたが、アップルサンド、いかがですか」

「おう、ありがたくいただこう」



 パンの中にカラメルで煮詰めたりんごが沢山入っている。
 カラメルの香ばしさ、酸味と甘味がほどよく調和している。
 繊細で、上品な味だった。
 
 パンを飲み込むと体の底から力が湧いてくるのを感じた。
 体内のマナの流れが良くなったのを感じた。
 強化魔法とも違う、俺の知らない能力だ。



「ボクが作った料理を食べると、体内のマナのめぐりがよくなるようです」

「なるほどな。確かに、力が底上げされたような感じはある」



 魔力適正ゼロの俺でも感じることができる。
 体の血の巡りがよくなったそんな感じが近い。


 この世界にはマナと呼ばれる物質が存在する。
 魔力の触媒として用いられる物質だ。

 難しいことは特にない。空気のようなものだ。

 火をつけるには、酸素が必要。
 魔法を使うのには、マナが必要。

 その程度の違い。

 俺を含め、この世界の人間は、体内にマナを循環させる経路を持つ。
 大ざっぱに例えるなら、毛細血管のようなものだ。


 魔法の素質はマナの経路を励起《れいき》させる素質に依るところが大きい。
 厳密には、神秘への理解とかいろいろ、学問的な要素が絡むらしいが。

 剣術しか習得していない俺がわかるのはここまでだ。



「ユーリさんは、ボクの能力を見ても特別視しないんですね」

「反応が薄かったか」

「いえ、ほっとしました」

「アップルサンドはうまかった。そっちの方には驚いた」

「ありがとうございます。この能力、それがボクがここに居る理由です」



 規格外の能力を持つものが幸せになるとは限らない。
 人さらいに目をつけられ高値で売買される危険がつきまとう。
 研究材料としてモノとして扱われることもあると聞く。



「ボクは、この能力を隠して過ごして村で暮らしてきました。両親にも厳しく言いつけられていましたので」

「…………」

「ちょうど1年ほどまえ、ボクの暮らしていた村で奇病がはやりました」

「奇病?」

「体内のマナが暴走し、マナの経路を破壊し死をもたらす。そんな病気でした」

「確かに恐ろしい病気だな」


「ボクのこの能力で、多くの村人を救うことができました。ですが、あのときにボクの能力が知れ渡ってしまいました」

「……ここまでの話を聞く限り、感謝こそされど、ユエが村をでなければいけないようになるような事態には思えないが」

「運も悪かったんです。村の領主が違法奴隷商と繋がっていて。「領民は領主の所有物」だからボクを奴隷商に売り渡す、と。両親以外、誰も反対しませんでした」


「領主ごときの権限では不可能だ。越権行為は、爵位剥奪の上、処刑されるはずだ」

「はい。中央ギルドの敷いた法ではそうなっているようです。ですが、辺境の村では、法は守られていません。それが実情です」

「王都の外の現実か」



「父と母はボクのことを、命をかけて守ってくれました。そして、両親は領主の意に逆らった咎《とが》で、村人たちに殺されました。……ボクの、目の前で」

「…………」

「無我夢中で走り、意識を失い、気がついたら魔獣にさらわれ、この村にいました」

「辛かったな」

「はい。昨日、冒険者の一人が、違法奴隷商会のキャラバンがこの辺りまで来ていると耳にしました」



 違法奴隷商は、ギルド指摘の大罪人だ。

 発見次第、無条件での殺害が許可されている。
 事前申請は不要、事後報告が認められている対象。

 それなのになぜ滅びないのか?

 一つはキャラバンで転々と移動しているから。
 そして、執念深さ、報復の残酷さが知られているからだ。

 多くの人間が関わりたくないと思うのも当然のことである。



「きっと、ボクを探しているのでしょう。これ以上、ボクのために誰かが不幸になることは……」

「意思は固いのか」

「はい」

「…………」


「誰かに生きた証を残したかったのかもしれません。確かに、ボクは居たのだと」

「…………」


「レシピ、まとめておきました。ボクの部屋の机の引き出しの二番目にあります」

「…………」


「新しく来た人に、渡してあげてください」

「…………」


「ボクの話、最後まで聞いてくれてありがとうございました。いままで、とても楽しかったです」

「…………」


「すこし、風が冷たくなってきましたね。それでは、先に部屋に戻ります。――さよなら、ユーリさん」



 俺は、左腰にぶら下げた鉄の塊に触れる。
 静まり返った闇夜に、鉄のぶつかる音が響く。



「成すべきことは一つ。――ここから先は、大人の時間だ」
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