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第五章『黄昏の終わり月夜と漆黒』

第53話『迫りくる王の軍勢』

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 因果応報鏖殺陣《フィード・バッカー》。
 ありゃ、とんでもなくヤバい呪術だったな……。

 敵陣、閻魔様の茹で釜引っくり返したような有り様。
 ……巨岩、火球、矢の豪雨。


 さすがにあんなモンは、勘弁だ。
 敵陣が一瞬であんな壊滅的事態になるなんてな。

 まぁ、村の施設、家屋も、完全にめちゃくちゃだ。
 負傷者はいないが、被害は甚大。

 敵陣の地獄絵図と比べりゃマシだが。




「いやぁ、……すげぇ威力だったぜ。マルマロ、やるじゃん!」

「にゃりーん☆ ユーリ殿、サンキュっす! 拙者の最強の術っす」



「ははっ、さすがは、漆黒の団員だぜッ! いやぁ、豪快ッ! 痛快ッ!」

「ふひひ。拙者は初手からあそこまで、壊滅的な攻撃をしてくるとは思わなかったっす。これが、王の戦い方なんっすね。気を引き締めていかないとっす!」




「これが傭兵王の戦いってヤツかッ! 敵ながら、スゲェ、豪快な奴だぁッ!」

「油断大敵《こっからが本番だべ!》」




 燃え栄える水平線の向こうから、地鳴りの音。
 一歩一歩、村に向け歩みを進めている。

 燃えさかる大地を、踏みしめ行軍する王の軍勢。
 聞こえる足音の間隔に乱れはない、安定している。


 もう少し混乱してくれると、ありがたかったのだが。
 まだ奴らも戦う意志がある、ということか。
 



「近接部隊が来やがったぜぇッ! あんだけ死者だしても、まだ進軍を続けるっつーんだから、傭兵の王。ハッ! 敵ながらなかなかに大したタマしてやがるぜッ!」

「こりゃ、また。はは、凄い数を送ってきやがったな。マルマロ、ざっくりで構わないから、どれくらいの軍勢が送られているか分かるか?」



 魔力操作でマルマロの視力は強化されている。
 さらに自壊式で魔力と集中力が超強化されている。

 距離が離れていても敵陣の様子はある程度は把握可能。
 因果応報鏖殺陣《フィード・バッカー》に不可欠な能力だ。



「そっすねぇ……拙者の見立てでは、……ざっと、2万くらいだと思うっす」

「サンキュ」



 ――2万。
 マルマロの見立てだ。
 大きく間違ってはいないだろう。



「最終任務の対象、使い魔は確認できるか?」

「確証はないっすが、今見えている中には居なそっすねぇ。少なくとも、目立った格好や動きをしている兵は、今のところは確認できないっす」



 一騎当千には一騎当千を当てると期待したのだが。
 なかなか思いどおりには動いてくれない。
 切り札は、温存するということか。

 考えても、無駄だな。頭脳戦で傭兵王に勝てるはずない。
 俺たちゃあくまで、現場の人間だ。

 俺たちには、時間制限がある。
 過激に暴れて注意を引く、それができることだ。
 


「マルマロ、あの術はまだ、使えるか?」

「使えるっすが、拙者の因果応報鏖殺陣は、あくまで迎撃魔法っす。かなり集中力を使うっす。一分が限界っす……近接戦の使用は厳しいっす」



「マルマロ、冷静な判断ありがとう! 長距離攻撃部隊を壊滅させてくれたのはマジ助かった! 団長、エッジ、それに俺も遠距離攻撃には対応できないからな」

「ククッ! アイツらもアレにビビって、もう遠距離攻撃できねぇしなァッ!!」

「我戦友大感謝《マルマロ凄ぇべ!》」




 いや、……本当ラッキーだった。
 チクチク長距離攻撃されてたら、中々に面倒だった。

 最優先の任務は、使い魔を巻き込んでの自爆。
 俺達は、ダンジョンのあるこの村から動けない。


 無闇に敵陣に突っ込むことはできない。
 敵陣で死ねば、超広域爆発で瘴気地帯《グラウンド・ゼロ》に変わる。

 地表での死亡。
 それだけは、絶対に許されていない。
 




「まっ、もう一暴れしないと、本丸さんは現れてくれないってことかね。やれやれ、なかなか楽にはいかないもんだぜ。おっしゃ! 気合入れていこうぜ!」

「ユーリ、エッジ、俺たち近接組もマルマロにゃ負けてられねぇぜッ!」




 敵は、王の軍勢。指揮を執るは、不敗の傭兵王。
 戦術、戦略、頭脳戦で太刀打ちできる相手ではない。
 
 俺たちにできることは大暴れして本丸を引きずり出すこと。
 現場の俺にとっちゃ、その方が分かりやすくていい。

 最凶の使い魔を確認次第、誘いつつダンジョンに後退。
 あとは、ダンジョン内で相討ちに持ち込む。

 


「おっしゃぁっ!! やったろーぜ! おあつらえ向きに、俺たち近接組向きの、敵さんが歩を進めているみたいだ。漆黒流の、おもてなしをしてやろうぜ!」

「不不不不殺《フフフフフフッ……》」
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