追放された『迷宮術士』の俺は、廃村を開拓してスローライフするつもりだったのだが?~元追放者のワケアリ領民たちと村を発展させます~

くま猫

文字の大きさ
57 / 105
第五章『黄昏の終わり月夜と漆黒』

第56話『奇術師と手品』

しおりを挟む
「頼交換用鉤爪投擲我疾走予測地点《ユーリ、弾切れだべ。新しいカギ爪を、受け取れる場所に投げてくれ!》」




 躍るように戦場を駆けるエッジの動きを読め、と。
 更に、最適な場所に交換武器を投げる……。




「んなもん、楽勝にできるぜ! 受け取れ、エッジ!」




 背負った武器庫《アーセナル》からカギ爪を取り出す。
 エッジの移動速度、風向きを予測。
 落下地点を予測、空中にぶん投げる。

 
 エッジは駆けながら落下してきた楽器《タクト》を掴む。
 武器の交換は、走りながら。一瞬のことだ。




謝謝謝謝!助かったべ!」 




 このカギ爪には明確な弱点がある。
 それは使用できる弾数に上限があること。
 このカギ爪の弾数は50。


 右手は鋭利なだけの仕掛けのない鉄のカギ爪。
 その右のカギ爪で首の後ろから脛骨を抜き取る。

 カギ爪の形状は左右対象で同じ。
 だがは仕込み武器だ。



 左の爪の先端には注射器のような機構がある。



 人差し指、中指を同時に曲げると仕掛けが作動。
 爪先の先端から寄生型粘性魔獣が射出される。
 ゾンビと呼ばれる、死体を操る雑魚魔獣の本体。
 魔獣としては非常に弱い部類の魔獣だ。


 脳だけの機能しか持たない粘性の魔獣。
 触手もなく動きはナメクジ並みに遅い。
 アメーバに近い。魔獣としては非常に弱い。


 通常は動かない腐敗した死体の傷口から侵入。
 ゾンビはこの魔獣が死体を操って動かしているのだ。
 本体の粘体は靴底で踏めば殺せる雑魚魔獣。



 それも、タイミングと使い方次第だ。



 そこらに居る雑魚魔獣だから補充も容易。
 継戦能力を考慮すれば戦術的優位性《タクティカルアドバンテージ》は高い。
 弾が補充しやすというのは、強みだ。


 だが、弾丸が尽きればこの武器の優位性は損なわれる。
 多数を相手とする殺傷用武器としては明らかにリーチが短かい。
 模擬戦、趣味的な武器という位置付けの武器だ。






 *






 以前、エッジに奇術のタネを教えてもらった。
 タネは呪術的な現象と不釣り合いなほどに単純。


 奇術の手順はこのような感じだった。
 一連の所作は一瞬で完結する。



 

 目標に向かって音で注意を引きながら一気に接近。
 右のカギ爪で首の後ろからコンッと一つ脛骨を弾き出す。
 ダルマ落としを木槌で一段抜くのと似ている。


 

 
 
 切り裂かれた首の隙間から左のカギ爪を挿し込み注射。
 人差し指から、超強力な痛み止め薬剤が射出。
 中指からは粘性寄生魔獣が射出される。

 魔獣は即座に神経と癒着、身体コントロールを奪う。
 切断面の流血、傷痕も粘性魔獣がふさぐ。

 カギ爪で斬られた相手は痛み止めで麻痺している。
 だから粘性魔獣の違和感にも気づけない。



 

 注意をそらすためカギ爪の金属音を立て通り過ぎる。
 駆け抜けたあとしばらくして異変が起きる。
 粘性魔獣の完全な神経接続、身体掌握が完了したのだ。

 近づく人間を攻撃するだけの生きたゾンビと化す。 
 首から上は、元の人間のままで。
 だから、戦場に疑心暗鬼と混乱が生じるのだ。





 
 これを成功させるために様々な工夫がこらされている。




 異様なほどの痩躯。
 長腕、長脚という身体的特徴。

 カギ爪という見慣れない武器。
 左右の爪が奏でる恐怖を煽る鉄の音。

 音のしない足音。
 舞うような独特な足取り。

 奇怪な笑い声。  
 暗闇に溶ける漆黒のローブ。 



 それら全てが奇術を成功させるための演出。
 衣装、音、容姿、その全てに意味がある。


 奇怪な笑い声、鳴り響く金属音、音なき足音で。
 相手の聴覚を完全に支配する。


 異常な痩躯、長大な両手足、鉄の爪、黒いローブ。
 相手の視覚を完全に支配する。


 左右のカギ爪による斬撃は200分の1秒で完結。
 人間の目で認識できる速度は60分の1秒程度。
 その3倍の速さで完了させる。
 

 更に自壊式使用時は、10倍の速さで行われる。
 2000分の1秒で一連の所作が完結する。
 カマイタチに切られたような物だろう。



 サーカスの奇術師と似た、発想の技。
 一流の奇術師は舞台外の日常でもそれを続ける。
 それは、エッジも同じなのだ。



 この奇術の起源は、団長との出会い。
 そして、彼の半生が影響しているのであった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...