クラス転移したら俺だけ五年後の世界転生させられた件

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第16話:遥の想い

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「ごめんね、急に呼び出したりして」

 風に靡く夜色の長い髪を抑えて、遥は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
 "西宮悠河"の俺に見せるものとはまた違った顔で新鮮さを感じる。

「いいよ。それで、用件ってなにかな?」

 どうせ今日魔法をたくさん使ったことだろうが、何を言われるのか。

「まず、私たちが五年前に異世界から来たっていうのは知ってるわよね?」

「勇者だもんね」

 確認するように尋ねられたので肯定しておく。

「そう、私たちが前いた世界は地球っていうんだけど、そこでも私たちは学生をしていたのよ。そして、私たちのクラスが召喚に巻き込まれた。ある一人を除いて。そのあと私たちは紆余曲折あってここにいるんだけど」

 俺としては異世界に来るまでよりもその紆余曲折の部分が聞きたかったんだけど、普通の人は異世界の方が気になるだろう。黙っておくことにする。

「私たちが来た時と同じ年だったかな。【魔帝】アマンダが数十年ぶりに弟子を取ったって噂が流れたのは。アマンダって知ってる?」 

「ちょっとだけ?」

 知ってると答えたくない。深く掘り下げられて墓穴を掘るのは勘弁願いたい。

「じゃあ一応ざっくり説明するわ。アマンダは、世界でトップクラスに強い人なんだけど、アマンダの弟子が今年、この学園に入学できるようになったの。弟子ははどう思う?」

「そりゃあ、強いと思う」

「そうよね。誰もが入学してくると思ったし、その人の師匠で学園長でもあるアマンダも久々に顔を見せた。第1クラスに入学は確実だとも思われたわ。けど、今年の第1クラスはレベルが高いけれど、あのアマンダの弟子と思われるほどの使い手はそのクラスには・・・・・・・いなかったわ」

 遥にじっと見つめられる。
 遥は俺がアマンダの弟子だと疑っているんだと思う。もしかしたら、シアンの正体も……いや、そこまでのぼろは出していないと思いたい。

「そうなんだ。もしかしたら入学してないかもしれないよ?」

「……」

 笑ってはぐらかしてみるが、遥も微笑むだけで進展は期待できそうにない。

「えっと、聞いてる?」

「ええ。必死になってるところ可愛いわよ?」

 遥は確信を持って話している。それは長い付き合いのなかでなんとなく分かる。

「あはは……」

 しかし、五年という年月で見ない間に成長したみたいだ。話術では俺を弄ぶほどに。昔は話術で勝っていた、というわけでもないけど。
 遥はいつか魔王討伐に赴くだろう。ここで認めてしまい、それが広まれば世間が俺をそこに連行ということも考えられる。

「……もし、俺がその魔帝の弟子だったらどうするつもりだったの?」

「……どうもしないわよ? ただの好奇心」

 ここまで追い詰めておいて、ただの好奇心だと!? 予想外すぎる。

「へ、へぇ……そうだったんだ。俺、てっきりその人を引き抜くのかと思ってたよ」

 俺の言葉を聞いて、遥は遠い目をする。
  
「……違うわ。さっき、勇者召喚に、私たちのクラスメートが含まれていないって言ったでしょ。その人は、私の大好きな……愛してる人だったの。その人は誰よりも強くて、優しかった。人間関係に雑なところもあったけど、そんな彼が私は大好きなの」

 彼女の好意は、少なからず行動から伝わってきた。だが、その想いを彼女の口から聞くのは初めてで、そして盗み聞きをしているみたいで申し訳ない気持ちになる。

「……そんなに、その人のことが好きだったんだね」

 心なしか、遥の表情が涙に崩れている気がする。こんな顔を見せられたら、俺は俺のことを遥に黙っていていいのかという思いに苛まれる。

「今もっ……! 今でも好きっ……いえ、会えなくなった今の方が好きかもしれない! ……もし彼が私たちとは別々でこの世界に来ているなら、彼は強いはず。私たちと同等、いえ、それ以上の才能を持って……!」

 それは、遥の思い込みで成り立っているただの持論だ。ただの西宮悠河という男への淡い期待。そうであって欲しいという遥の願望が生み出した理想。
 だが、それは的を射ている。
 五年。五年もあれば、たくさんの出会いがある。普通は……いや、可能性として、新しい恋に芽生えることもあるだろう。しかし、遥の気持ちは揺らぐことなく俺に向かっている。
 俺は、この子を騙したままでいいのだろうか。遥にだけなら、真実を。俺が魔帝の弟子で、西宮悠河だ、と伝えても……。

「彼なら、私を支えてくれるはず。胸に空いた穴を幸せで満たしてくれるっ。彼がいれば、辛い訓練も頑張れる。恐ろしかった魔物も怖くない。悠河と結ばれるならっ……! 私はーー」

 ゾクリ、と刃物が背中に突き立てられたような悪寒が走る。
 この先を聞くと、遥をこれまで通りに見れない気がする。そんな気がして、意識せずに言葉が出た。

「そ、そんなに好きなんだっ……! いつかきっと会えるよ!」

「……そう、ね」

 感情のままに話していた遥も、少し冷静さを取り戻したようだ。

「もしかしたら、と思ったのよ。アマンダの弟子が彼なんじゃないかって。そうだったらいいなぁって。だから気になったんだけど、そう上手くはいかないものね」

 簡単に口を開くことは遥の話を聞いた以上できない。
 その時、冷たい夜風がロッジに流れた。

「くしゅん!」

「あ、ごめんなさい。身体、冷やしちゃったわね」

「うん……大丈夫」

「呼び出した私が言うのもあれだけど、夜更かしは明日に響くから、そろそろお開きにしようかしら」

「そうだね」

 俺たちはそうしてロッジから去った。
 結局、アマンダの弟子説があやふやのままお開きになったが、遥が俺について話している時のあの狂気的な目が頭に焼き付いて離れなかった。
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