クラス転移したら俺だけ五年後の世界転生させられた件

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第24話:汚れのない…

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 アイラの監禁場所である宿屋を月明かりが淡く照らしている。窓から漏れ出す光も地球に比べ断然少ないので、この世界の星々の主張は激しい。
 寝るには明るいくらいのなかで路上に眠る何人もの影がある。
 最初から寝ていたんだ。決して俺と戦った結果ではない。

「おい、お前らはなにが目的で子どもを誘拐した?」

 宿を守っていた男たちの一人を残して倒し、今質問している。

「し、知らない……俺たちは雇われただけで、なにも知らないんだ!」

 顔をぼこぼこに腫らした男は泣きそうな声で弁明し、俺に掴まれているのにも関わらず後ずさろうとするので、空いている手に炎をチラつかせると。

「……一つくらい知ってることがあるだろ? この依頼に対して知ってる情報全部話せ」

「ひゃ、ひゃい!」

 そうして、男は話し始めた。

「依頼があったのは一週間くらい前ですかね、依頼者名は確か、ジョニーでした」

「思いっきり偽名じゃん」

「ええ。内容も、今日一日この宿を護衛するだけで金貨二十枚っていう破格の依頼だったんで、受けたんですけど……旦那みたいなのに狙われてるって知ってたら受けなかったですけどね、ははは」

 いつの間にか敬語になっている男は乾いた笑いを貼り付ける。

「そいつが向かおうとしている場所は?」

「お、王都だと思います。王都は華々しいところばかりじゃないと聞きますんで」

「そっか。ありがと」

 頭を殴りつけられた男は白目をむいて道端に寝た。気絶ではない。寝たのだ。
 名前の書いてある看板すら風化した不気味な宿屋に、俺は足を踏み入れた。

「いらっしゃい。こんな子どもがどうしたんだい?」

 入り口のすぐ右手に受付があり、奥に座ったおじいさんが優しげな笑顔を見せたのが、薄暗いなかでなんとなくわかった。

「友達がここに泊まってるんだけど、おじいちゃん知ってる?」

「そうだねえ、今日のお客さんは一組だけだったから、その部屋かもねえ」

 だが、安心してはいけない。
 あれだけ店の前で大騒ぎをしておいて、俺を怪しむ様子も、騒動を止めにくることもないのは普通に考えておかしい。怯えていたのかもしれないが、ならば俺にそのことを尋ねるはずだ。

「そうなの? その部屋教えてほしいな!」

「ほっほっ。わかったわい」

 部屋を唯一照らしていたランプを手に取り、おじいさんは二階へと上がっていくため、俺もついていく。

「じゃが、子どもが夜遅くに出歩くのは感心せんわい。これからは日のあるうちにしておくんじゃぞ」

「これからがあったら、じゃがな」と続けたのを俺は聞き逃さなかった。
 こちらに振り向くと同時に、手に持っているランプを俺に叩きつけようと腕を振る。
 年寄りの腕力で放たれたとは思えない速度で俺に向かったランプは、当たる手前で氷にぶち当たり、砕け散った。

「なっ……無詠唱の魔法じゃと!? なんと規格外な!」

 おそらく、この宿は後ろ暗い客を顧客にやってきたのだろう。優しげなおじいちゃんの顔は見せかけで、本来はある程度腕の立つ裏の人間みたいな感じだと思う。
 今回も依頼者に、誰も通すなとか言われての行動だと予想できるが……やるか。

「しーっ」

 ゴンッと鈍い音を鳴らした岩とおじいさんの頭。
 おじいさんは不自然に腰を折り、そのまま倒れた。

「あっ……歳いったら骨も……許して」

 合掌した。
 魔力の反応がある部屋は一つ、そこに二つの魔力が存在していて、一つはもちろんアイラ、もう一つはアイラよりも強い反応だ。多少は強い敵だと予想される。
 ドアを蹴破った先には、両手両足を縛られたアイラと、隣の椅子に座った魔法士然とした長めの髪の男がいた。
 髪は乱れ、目を腫らしているアイラが目に入ると、自分でも信じられないほどの怒りが湧き上がった。
 だが、単純に男を倒すだけではアイラは危険かもしれない。男の任意で、アイラを殺すことができるかもしれないし、他にも魔法や魔術による仕掛けは考えられる。
 俺は今にも暴発しそうな怒気を押し殺して口を開く。

「……なにが目的でアイラを攫った?」

「依頼だ。魔法学園生を王都に運べってな」

 男も腕に自信があるのか、魔法の準備すらしようとしない。

「商会からのか?」

「……! よく知ってるな。なんでもあの商会、魔法士から魔力を搾り取って、大型兵器かなにかに使うらしいぜ? 捕まえた生徒は抵抗できないように四肢を切り落としたり、洗脳したりしてな」

「っ!?」

 衝撃の内容に言葉が出ない。
 俺の様子に気を良くしたのか、男は続ける。

「あっちで魔力搾り取られたら、もう魔力は回復しなくなるらしいぜ。魔法士生命終わりってな」

「……そんな下卑たこと、よく協力しようと思えたな!」

「どこの誰とも知らねえ奴の命、どうだっていいんだよ。お前だって、名前も知らねえ奴のために本心から怒れるか?」

「……怒れないな」

 笑みが浮かんでいた顔がさらに歪む。

「だからなんだって言うんだ。その子は俺の友達だ。……俺は顔も名前も知らない人のために怒れない。だが、その代わり、身内になにかあったときには地獄でも助けに行くし、復讐するつもりだ。言っておくが、容赦しないからな」

「俺は、お前みたいな子どもが大嫌いだよッ!」

 互いに無詠唱で発動した風魔法が衝突し、室内に風が吹き荒れる。

「はっはっ! 俺は無詠唱ができる! 詠唱で魔法を把握しようったってできないからなっ!」

 不規則に靡く風を切り裂いて第二波が俺に向かう。

「妙に自信があると思えば……」

 その風の刃を両断した俺の氷の刃は、避ける間もなく男の右腕に命中し、体を二つに分断する。

「が、ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」

 痛みに目を剥き絶叫して、ゴロゴロと床を転がるが、それで怪我が治るわけではない。
 ただ、耳障りなのでここで殺そうと拳を振り上げーー

「やめてっ!」

「……アイラ。こいつはお前を!」

「そんなシアンなんて嫌い! お姉ちゃんやめちゃうんだから!」

 アイラの怯えたその瞳は、紛うことなく俺を捉えていた。
 ……俺は、アイラを助けにきただけで犯人を始末しようなんて考えてなかったな。それをアイラに教えられるなんて、俺もまだまだだな。

「……ごめんね」

 そう言って、アイラの拘束を解こうと手を伸ばすと、彼女は体をびくっと震わせた。

「あ……大丈夫、取って」

「う、うん……」

 拘束具を取っても、アイラは立てないようだった。

「おんぶしよっか?」

「お、お願い」

 背中を向ける俺に、おずおずと乗っかるアイラの手は少し震えていた。
 この震えは、俺に対するものだ。
 帰路の道中、俺はずっといたいけな少女を怯えさせてしまったことを後悔した。

 この日から、少し俺とアイラの間には距離が生まれた。
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