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第26話:VSラーク
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結果から言うと、ルージュの試合は一瞬だった。
試合開始の合図と同時に相手に接近し、魔法を構築させるヒマを与えずに殴りまくっていた。
無詠唱を使える者が少ないこのクラスにおいては非常に有効な攻め方だろう。
それにしても彼女が強すぎるのははなはだ疑問なのだが。
その後も順調に進んだ試合だが、一つ看過できない事件があった。
アイラの模擬戦のときにそれは起きた。
「アイラちゃん。この勝負で僕が勝ったら、僕の婚約者になってくれないかい?」
ーーは?
「え……」
第20クラスに殺意が充満した。一番殺意を放っていたのは俺だった。
気まずさに目をそらしたアイラを、納得してくれたと勘違いしたのか、カルトは笑みを浮かべる。
「よし、約束だ。それじゃあ正々堂々、行くよ……!」
そう言うや否や詠唱を始める。試合を止めておいて先に行動するとは正々堂々の一文字もないな。
まあ、アイラがこのクラスでルージュやラーク以外の生徒に苦戦することはないので結果はわかりきっているのだが、あの生徒はあとで話さないといけないな。
「ごめん、無理」
アイラの唇が動いたときには、カルトは倒れていた。
そうして俺とラークの番がきた。
先生に名前を呼ばれ、指定の場所に立つとやけに緊張しているラークが見えた。
「ん? なんでそんなにガチガチなの?」
「お前知らないのか? この模擬戦はクラス内での強さを露見させることになるんだぞ。情けない負け方なんてしてみろ、一気に見下される。まして五歳になんて負けたらな……」
「ふーん」
クラスの印象なんて毛頭興味がないから関係ないな。それに、ここでわざと負けてもメリットはない。
ラークの言い分だと、評価が低くなるとクラスで過ごしにくくなるようだしな。
「始め!」
いつの間にか開始の合図が投げられていた。
ラークは魔法で範囲攻撃を仕掛けてきたが、どれも大した威力はない。本命は近接戦のようだ。
「ハァッ!」
ラークは握られた木の長剣を縦に振り下ろす。
魔法の処理に意識を割いているところを、リーチ差を活かして倒す算段のようだ。
油断がなく、理に適った作戦である。
「氷よ、剣を成せ」
適当に詠唱して氷の剣を作り、剣戟をいなす。がら空きの胴にカウンターを仕掛けようとしたところ、足が一瞬拘束され、機会を逃した。
「土魔法で動きを止めたんだね」
「初動で決めるつもりだったが……やはりただの五歳じゃないか」
ラークは苦笑いを浮かべ、距離を詰める。
「普通の五歳がこんなところにいるわけがないじゃん」
普通の五歳は今頃野山を走り回ってるよ。
肉迫してきたラークは上段に剣を振り上げていて、そこから剣を縦に振り下ろすはずだ。
俺は剣を受け止めるように頭の上で横に構えるーーが、こちらを向いていたラークの剣の柄が伸びて俺の胸を押し込む。
「ぐっ……」
ダメージはないにしろ、体勢を崩された状態でラークの剣を受けるのはまずい。
年齢によるパワーの差や、土魔法による剣の重量アップにより、なにも抵抗しないままこの攻撃を受けるとタダでは済まないだろう。言葉を発する時間もない。
だからと言って、外野に魔法の使用がわかるような派手な無詠唱は避けたい。
よって、ラークの足元の地形のみを変化させてラークの体勢も崩させる。
こうすることで外から見ればラークが勝手に体勢を崩したとしか思えない。
そして、僅かに逸れた剣を横になんとかいなし、口を動かす。
「燃やせ」
伸ばした片手から至近距離で放たれた火球は、対応する間もなくラークの肩に直撃。そのまま俺は距離を取る。
「ぐぅ……」
五歳のガキンチョに押される展開に、外野はざわざわと騒がしい。
目立ちたくないなら勝つべきではないのだろうが、彼には強い意志を感じるのだ。手を抜くのは失礼だろう。本気を出すわけでもないが。
「負けるわけにはいかない……! 駆け廻れ『全方位の礫』ッ!」
詠唱が終わると、俺の周りの石や砂、草などが宙に浮き上がる。これは、彼がルージュとのいざこざのときに使った魔法で、全方位から石や礫が飛んでくるというものだ。
短い詠唱で一方的に殴れるのが強みだが、使われるのは小石程度だ。
「吹雪け」
俺を中心に猛烈な風が吹き始め、いつしかそれは雪や霙となり、そして氷が混じる。
俺に向かって撃たれた小石も風に呑まれてその意味を失くす。そしてそれらは一直線にラークに襲いかかり、小石混じりの氷や雪が彼を飲み込んだ。
目も開けられないような吹雪が収まると、ラークは意識を失っていた。
俺の勝ちだ。
試合開始の合図と同時に相手に接近し、魔法を構築させるヒマを与えずに殴りまくっていた。
無詠唱を使える者が少ないこのクラスにおいては非常に有効な攻め方だろう。
それにしても彼女が強すぎるのははなはだ疑問なのだが。
その後も順調に進んだ試合だが、一つ看過できない事件があった。
アイラの模擬戦のときにそれは起きた。
「アイラちゃん。この勝負で僕が勝ったら、僕の婚約者になってくれないかい?」
ーーは?
「え……」
第20クラスに殺意が充満した。一番殺意を放っていたのは俺だった。
気まずさに目をそらしたアイラを、納得してくれたと勘違いしたのか、カルトは笑みを浮かべる。
「よし、約束だ。それじゃあ正々堂々、行くよ……!」
そう言うや否や詠唱を始める。試合を止めておいて先に行動するとは正々堂々の一文字もないな。
まあ、アイラがこのクラスでルージュやラーク以外の生徒に苦戦することはないので結果はわかりきっているのだが、あの生徒はあとで話さないといけないな。
「ごめん、無理」
アイラの唇が動いたときには、カルトは倒れていた。
そうして俺とラークの番がきた。
先生に名前を呼ばれ、指定の場所に立つとやけに緊張しているラークが見えた。
「ん? なんでそんなにガチガチなの?」
「お前知らないのか? この模擬戦はクラス内での強さを露見させることになるんだぞ。情けない負け方なんてしてみろ、一気に見下される。まして五歳になんて負けたらな……」
「ふーん」
クラスの印象なんて毛頭興味がないから関係ないな。それに、ここでわざと負けてもメリットはない。
ラークの言い分だと、評価が低くなるとクラスで過ごしにくくなるようだしな。
「始め!」
いつの間にか開始の合図が投げられていた。
ラークは魔法で範囲攻撃を仕掛けてきたが、どれも大した威力はない。本命は近接戦のようだ。
「ハァッ!」
ラークは握られた木の長剣を縦に振り下ろす。
魔法の処理に意識を割いているところを、リーチ差を活かして倒す算段のようだ。
油断がなく、理に適った作戦である。
「氷よ、剣を成せ」
適当に詠唱して氷の剣を作り、剣戟をいなす。がら空きの胴にカウンターを仕掛けようとしたところ、足が一瞬拘束され、機会を逃した。
「土魔法で動きを止めたんだね」
「初動で決めるつもりだったが……やはりただの五歳じゃないか」
ラークは苦笑いを浮かべ、距離を詰める。
「普通の五歳がこんなところにいるわけがないじゃん」
普通の五歳は今頃野山を走り回ってるよ。
肉迫してきたラークは上段に剣を振り上げていて、そこから剣を縦に振り下ろすはずだ。
俺は剣を受け止めるように頭の上で横に構えるーーが、こちらを向いていたラークの剣の柄が伸びて俺の胸を押し込む。
「ぐっ……」
ダメージはないにしろ、体勢を崩された状態でラークの剣を受けるのはまずい。
年齢によるパワーの差や、土魔法による剣の重量アップにより、なにも抵抗しないままこの攻撃を受けるとタダでは済まないだろう。言葉を発する時間もない。
だからと言って、外野に魔法の使用がわかるような派手な無詠唱は避けたい。
よって、ラークの足元の地形のみを変化させてラークの体勢も崩させる。
こうすることで外から見ればラークが勝手に体勢を崩したとしか思えない。
そして、僅かに逸れた剣を横になんとかいなし、口を動かす。
「燃やせ」
伸ばした片手から至近距離で放たれた火球は、対応する間もなくラークの肩に直撃。そのまま俺は距離を取る。
「ぐぅ……」
五歳のガキンチョに押される展開に、外野はざわざわと騒がしい。
目立ちたくないなら勝つべきではないのだろうが、彼には強い意志を感じるのだ。手を抜くのは失礼だろう。本気を出すわけでもないが。
「負けるわけにはいかない……! 駆け廻れ『全方位の礫』ッ!」
詠唱が終わると、俺の周りの石や砂、草などが宙に浮き上がる。これは、彼がルージュとのいざこざのときに使った魔法で、全方位から石や礫が飛んでくるというものだ。
短い詠唱で一方的に殴れるのが強みだが、使われるのは小石程度だ。
「吹雪け」
俺を中心に猛烈な風が吹き始め、いつしかそれは雪や霙となり、そして氷が混じる。
俺に向かって撃たれた小石も風に呑まれてその意味を失くす。そしてそれらは一直線にラークに襲いかかり、小石混じりの氷や雪が彼を飲み込んだ。
目も開けられないような吹雪が収まると、ラークは意識を失っていた。
俺の勝ちだ。
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