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第27話:入寮
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模擬戦を終え、そのあとの授業も消化した放課後。
授業を振り返ると、冷たいものだった。
勝ち組は自信と余裕をもって授業に向かうのに対して負けた組は悔しさを糧に真剣に授業に臨んでいた。
お互いをライバル視するのはいいことなのだが、会話までしないとなると好ましくない。
合宿では二位だったが、入学試験の時点では底辺の実力の集まりだ。なので、他クラスは、合宿で一位であり、参加したなかでも上位クラスの第10クラスを狙うより、俺たちを狙ったほうが楽に昇格できると考えて、下克上システムを俺たちに使うだろう。
そんなときに、まともにコミュニケーションも取れてない状態じゃ勝てる戦も勝てない。
仕方ない、ここはラークと協力して良いライバル関係を築けるよう仕向けてみるか。
「ラーク、ちょっといい?」
「……なんだ。俺は今から鍛錬したいんだが」
あまり反応はよろしくない。だらだら話していると切り上げられそうだから手っ取り早く話すか。
「このままじゃ、俺たちは下克上システムでやられる」
ラークの目が変わった。こいつは負けと聞くと食いつくように感じる。
「どういうことだ?」
「俺たちは試験の序列じゃ、下から六番目だ。実力で勝ると考える他のクラスから下克上を挑まれてもおかしくはないはずだ」
「むしろ、第20クラスの俺たちに勝てば、クラス序列七位になれるんだから挑まない手はないな」
「うん。一度負けてるから相手も油断はしてこないと思う。それに比べてウチはちょっと……」
「そうだな。明日、俺が声をかけてみる」
なんとかなりそうだ。ラークと別れ、初めての寮に向かおう。
教室を出ると困った様子の大人の女性に声をかけられた。
「君がシアン君かな~?」
「えっと、はい」
その容貌はブロンズの髪を柔らかくショートにした、ゆるふわ系お姉さんであり、普段、アイラやリアがお姉さんを語っているせいか、こう、本物を見ると戸惑ってしまう。
「お姉さんちょっと困っていてね。ちょっとついてきてくれないかしら?」
「どうしたんですか?」
「寮で喧嘩が起きちゃって……君が来ないと帰らないって話を聞かなくて~」
一瞬でその光景の予想ができてしまった……。
「わかりました……すみません」
「いいのよ~……騒ぎを収めてさえくれれば」
「ひっ!?」
一気に温度が下がった声音に悲鳴が漏れてしまった。女性はくすくすと笑った。
「うふふ。冗談よ、じょーだん。それじゃ、行きましょうか」
だめだ、十年以上人生経験を積んでいるが、この女性におもしろいようにからかわれている。
これからもからかわれ続けないことを祈りながら女性についていった。
一つ気になったのは、彼女が俺の頭ーー髪の毛と耳を凝視していたことなのだが、ハーフだとバレたのだろうか……。
寮は男女別々というわけではなく、同じ建物らしい。
最大三千人を収容する部屋数が必要なため、いくつも同じ形の建物がある。
「ここよ~」
案内されるままになかへ入っていくと、食堂に人が集まっていた。
「私がシアンと相部屋になるのーっ!」
「いや、私がシアン君の世話をするの!」
その中心には案の定、アイラとリアが言い争っていた。
この数日で何度か見た光景に頭が痛くなってくる。
「アイラ、リア。みんなに迷惑だろ? やめなよ」
俺の存在に気づいた二人は口を揃えて言った。
「「シアン(君)は私と相部屋がいいよね!?」」
「えっ……」
言葉に詰まる。
どっちを選んでもどちらかを悲しませる。そんな選択を迫られているのだ。まさに究極、極限の二択である。
「シアンは私とがいいよね?」
「お姉ちゃんである私の方がいいわよね?」
ジリジリと、心なしか彼我の距離までも詰められている気がしてきた。
いや、気のせいではないだろう。今、俺は群衆という壁と二人に至近距離でサンドイッチされているのだから。
「えっと……その……うぶっ!」
二人の顔が怖すぎて直視できないので顔を晒すと、頬を掴まれ二人の方を向けさせられる。
「ちょうどいいわ。ここでどっちがシアン君に必要か、白黒つけようじゃない!」
「いいよ! だったらなおさらシアンに返事を聞かないと!」
なんでだ。他所でやってくれ。
逃げたくても逃げられないのでダンマリを決め込みたいが、無言の圧力がそうさせてくれない。
「あ……え……うぅ」
ダメだ。五歳児にはこの状況は辛すぎる。
肉体に精神が引っ張られているからか涙が出てきた。
「し、シアン君!? ご、ごめんね? 泣かせる気はなかったの!」
「ごめんねシアン。お姉ちゃんなのにいじめちゃって」
途端、さっきまでの迫力は霧散し、頭を撫で、抱きしめたりする優しい女の子に一転した。
「……シアン君のルームメイトは、第20クラスからクジで決めましょうか」
ゆるふわの女性の一言でこの騒ぎは終着を迎えた。
こんなことになる前にそう言ってくれ。
女性を睨むと、彼女は口元に手を当て笑った。
む、むかつく……。
授業を振り返ると、冷たいものだった。
勝ち組は自信と余裕をもって授業に向かうのに対して負けた組は悔しさを糧に真剣に授業に臨んでいた。
お互いをライバル視するのはいいことなのだが、会話までしないとなると好ましくない。
合宿では二位だったが、入学試験の時点では底辺の実力の集まりだ。なので、他クラスは、合宿で一位であり、参加したなかでも上位クラスの第10クラスを狙うより、俺たちを狙ったほうが楽に昇格できると考えて、下克上システムを俺たちに使うだろう。
そんなときに、まともにコミュニケーションも取れてない状態じゃ勝てる戦も勝てない。
仕方ない、ここはラークと協力して良いライバル関係を築けるよう仕向けてみるか。
「ラーク、ちょっといい?」
「……なんだ。俺は今から鍛錬したいんだが」
あまり反応はよろしくない。だらだら話していると切り上げられそうだから手っ取り早く話すか。
「このままじゃ、俺たちは下克上システムでやられる」
ラークの目が変わった。こいつは負けと聞くと食いつくように感じる。
「どういうことだ?」
「俺たちは試験の序列じゃ、下から六番目だ。実力で勝ると考える他のクラスから下克上を挑まれてもおかしくはないはずだ」
「むしろ、第20クラスの俺たちに勝てば、クラス序列七位になれるんだから挑まない手はないな」
「うん。一度負けてるから相手も油断はしてこないと思う。それに比べてウチはちょっと……」
「そうだな。明日、俺が声をかけてみる」
なんとかなりそうだ。ラークと別れ、初めての寮に向かおう。
教室を出ると困った様子の大人の女性に声をかけられた。
「君がシアン君かな~?」
「えっと、はい」
その容貌はブロンズの髪を柔らかくショートにした、ゆるふわ系お姉さんであり、普段、アイラやリアがお姉さんを語っているせいか、こう、本物を見ると戸惑ってしまう。
「お姉さんちょっと困っていてね。ちょっとついてきてくれないかしら?」
「どうしたんですか?」
「寮で喧嘩が起きちゃって……君が来ないと帰らないって話を聞かなくて~」
一瞬でその光景の予想ができてしまった……。
「わかりました……すみません」
「いいのよ~……騒ぎを収めてさえくれれば」
「ひっ!?」
一気に温度が下がった声音に悲鳴が漏れてしまった。女性はくすくすと笑った。
「うふふ。冗談よ、じょーだん。それじゃ、行きましょうか」
だめだ、十年以上人生経験を積んでいるが、この女性におもしろいようにからかわれている。
これからもからかわれ続けないことを祈りながら女性についていった。
一つ気になったのは、彼女が俺の頭ーー髪の毛と耳を凝視していたことなのだが、ハーフだとバレたのだろうか……。
寮は男女別々というわけではなく、同じ建物らしい。
最大三千人を収容する部屋数が必要なため、いくつも同じ形の建物がある。
「ここよ~」
案内されるままになかへ入っていくと、食堂に人が集まっていた。
「私がシアンと相部屋になるのーっ!」
「いや、私がシアン君の世話をするの!」
その中心には案の定、アイラとリアが言い争っていた。
この数日で何度か見た光景に頭が痛くなってくる。
「アイラ、リア。みんなに迷惑だろ? やめなよ」
俺の存在に気づいた二人は口を揃えて言った。
「「シアン(君)は私と相部屋がいいよね!?」」
「えっ……」
言葉に詰まる。
どっちを選んでもどちらかを悲しませる。そんな選択を迫られているのだ。まさに究極、極限の二択である。
「シアンは私とがいいよね?」
「お姉ちゃんである私の方がいいわよね?」
ジリジリと、心なしか彼我の距離までも詰められている気がしてきた。
いや、気のせいではないだろう。今、俺は群衆という壁と二人に至近距離でサンドイッチされているのだから。
「えっと……その……うぶっ!」
二人の顔が怖すぎて直視できないので顔を晒すと、頬を掴まれ二人の方を向けさせられる。
「ちょうどいいわ。ここでどっちがシアン君に必要か、白黒つけようじゃない!」
「いいよ! だったらなおさらシアンに返事を聞かないと!」
なんでだ。他所でやってくれ。
逃げたくても逃げられないのでダンマリを決め込みたいが、無言の圧力がそうさせてくれない。
「あ……え……うぅ」
ダメだ。五歳児にはこの状況は辛すぎる。
肉体に精神が引っ張られているからか涙が出てきた。
「し、シアン君!? ご、ごめんね? 泣かせる気はなかったの!」
「ごめんねシアン。お姉ちゃんなのにいじめちゃって」
途端、さっきまでの迫力は霧散し、頭を撫で、抱きしめたりする優しい女の子に一転した。
「……シアン君のルームメイトは、第20クラスからクジで決めましょうか」
ゆるふわの女性の一言でこの騒ぎは終着を迎えた。
こんなことになる前にそう言ってくれ。
女性を睨むと、彼女は口元に手を当て笑った。
む、むかつく……。
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